そんなこんなで、それぞれ(って誰?)の思いを抱えながら、オスカルは、『灯台』へと通うが、ブツを見つけ出す事も出来なかった。ただ、匂いのついたブランケットを収穫抱えて戻っていた。そして、日々は過ぎて行った。

9月3日、オスカルのスマホに、LINEが届いた。

オスカルは、アンドレが、翻訳(?)した、隊員からのラブレターの返事に取り掛かっていた。この、作業が、オスカルにとっては、この衛兵隊の任務の中で、最も大切で、楽しい時間だった。

それなので、楽しい仕事の邪魔をするな!で、顔認証した。
フェルゼンからだった。

明日は、フェルゼンの月誕生日だ。そんな時に、何の用だ?今頃は、パックでもしていればいいものを…。オスカルは、イヤな予感と共に、タップした。

「アントワネットさまが、私の誕生日に、
もの凄いプレゼントを下さるというのだ。
それを祝って、今夜、食事をしよう!
20時に、いつものレストランで待っているぞ!」

勝手に送り付けて、返事も求めないで、今夜のオスカルの予定を決められてしまった。こんな事は、近衛の時の、アントワネットさまの急なお供の時以来だ。

オスカルは、考えた。屋敷に帰っても、独り何もする事も無く、ボーっと時を過ごすよりは、マシだろう。今夜の24時にアントワネットさまに、お会いするフェルゼンを、からかって遊んでやろう!

そう思い、『了承』の、スタンプを返した。

オスカルは、男として准将であり、男と肩を並べて、対等にやってきた。しかしながら、オスカルは、今、自分の中に、アンドレという男への思いがある。

その為、オトコとして、准将の地位にありながら、ほんの少しだけ、女であることを自覚し始めた。そうすると、オトコとオンナの、思考回路の違いに興味を持ち始めた。

だが、やはりヴェルサイユ4剣士隊は、人間同士の付き合いで、特に、ド・ギランドは、マジで人間同士。

それ以上に、以前はアンドレと兄弟のようだった。それが、今、アンドレとは恋人同士になった。それなので、ド・ギランドとは、兄妹の様な関係にもなっていた。決して、恋だの、愛だのの間柄にはならない。

そして、衛兵隊の面々は、可愛い部下だった。
ただ衛兵隊の一人が、オスカルに叶わぬ恋心を持ち続けている事など、知る由もなかった。

だから、その夜は、愛する女性から男が、誕生日にプレゼントを貰うというものが、どのような喜びであるのか?そして、それを渡し損ねて、さぞや、落ち込んでいるだろうアンドレの、気持ちを考えてみるいいチャンスだと、思った。

オスカルが、約束のレストランに行くと、既に、珍しく場所を間違えもせずにフェルゼンが待っていた。それはそうだ。貴族御用達のレストランで、馭者が勝手に連れて行ってくれる。

オスカルは、玄関ホールから、個室へと続く廊下を眺めながら、4剣士隊と行く店とは、だいぶ違うな。あっちの方が、居心地がいい気がする。そう思った。

それは、場所なのか、それとも、気軽に話せる、仲間なのか…。

吹っ切れたと言え、やはりフェルゼンとは、心底から打ち解けて話すのは、無理なのだろうか?オスカルは、一抹の寂しさを感じた。

テーブルに着くと、オスカルは、早速訊ねてみた。
「今夜24時に、アントワネットさまにお会いするんだろう?
こんな所で、食事などしていていいのか?」

「一人でいると、待ち遠しくて時間が経つのが遅く感じられるのだ。
お前といれば、少しは、まぎれる」
フェルゼンは、嬉しくて、踊りだしそうに、言った。

それだけの為に、わたしを呼び出したのか?
オスカルは、かなり、目の前の男に呆れた。

と、同時に、やはり誕生日プレゼントというものは、この様に男性でも、女性でも、ワクワクしながら、待つものなのか…。

では、アンドレは、アレからずっと、落ち込んでいるのか…。
オスカルは、一刻も早く、『灯台』から、ブツを奪還しなければならない!そう決心した。

そして、オスカルは、思った。
わたしは、この様な男に恋していたのか?
もしかしたら、あの、長い年月、無駄に過ごしたのではないだろうか?
あの頃から、優しい瞳、温かい胸、熱い口付けに、気づいていたら…。

オスカルは、連載当時、そして、その後、マーガレットコミックス、保存版などを、読んでいたファンが、やきもきしていた事に、今頃気付いた。

オスカルが、そろそろ、このレストランを出て、もっとぶっちゃけた話ができる友人に、LINEしようかと、考えていた。だが、誰の顔を思い出しても、愛しいオトコ以外には、楽しめない。なので、ここに居る事にした。つまらないけど…。

それよりも、何とかして、『灯台』へ、『灯台守』が、居ない時刻に、行きたいと思った。
だが、オスカルの生活習慣が、許してくれなかった。

それに、行っても、ブランケットを交換してくるだけだった。
でも、それはそれで、嬉しい事だった。
オスカルにとっても、『灯台守』にとっても…。

オスカルは、気付かなかった。
あの朝、『灯台』で、『灯台守』に会わなかったのは、『灯台守』が、超早起きで、オスカルも貫徹をして、チョットした隙間時間が生まれた事を…。
やはり、恋は盲目だからである。

すると、フェルゼンが、
「で、お前の方は、どうなんだ?
誕生日プレゼント渡したんだろう?」

「う、うん…」
オスカルは、フェルゼンといる事を忘れて…『灯台』の事を、考え中だったので、適当に答えた。

「そりゃ良かった!アンドレも喜んだだろうな?」
KYのフェルゼンは、勝手に話し出した。
そして、その話は、止まるところも無く、オスカルも、席を立つ暇もないまま、11時40分まで続いた。

帰宅したオスカルが、げんなりした顔をしているのを見て、アンドレは、フェルゼンと会って、この様な表情をしているのにホッとした。

そして、翌日の、24時を過ぎると、再びオスカルのスマホが、LINEの到着を告げた。久しぶりに、まったりとワインを楽しんで、新書を楽しんでいたオスカルは、ぶしつけなLINEにムッとした。

それなので、仏頂面で、顔認証した。
やはり、フェルゼンからだった。

「オスカル!報告したい事がある。
明日また、例のレストランを予約する。
8時に来てくれ!♡♡♡」

またもや、フェルゼンから、こちらの予定も考えず、来い!との、メッセージだ。『既読』にした事に、オスカルは後悔した。

このまま、スルーしてしまおうか…。
しかし、スルーにするには、本来の優しさ、律義さが、邪魔をした。

言葉を入力する気にはなれなかった。
逡巡し、『OK』だけの、スタンプを送った。

一方、オスカルから、丁寧な返信を貰ったと、勘違いしているフェルゼンは、飛び上がって喜んだ。

その夜、オスカルを乗せた馬車が、馴染みのレストランに到着した。
だが、オスカルは、席を立って、馬車から降りるのに、かなりの気力を用いなければならなかった。

フェルゼンが、満面の笑顔で出迎えてくれた。
オスカルは、そのままUターンしたくなった。

しかしながら、オスカルに幼い頃から、躾けられた社交辞令が、それを許さなかった。

テーブルに付くと、料理長が、直々に来た。
先日は、季節のお料理を用意しました。
本日は、どうなさいますか?と、慇懃無礼に聞いてきた。

オスカルは、さっさと出来て、とっとと食べ終わることが出来る物でよかった。
前菜…それも、熱など通さずに、提供できるもの。
丸ごとトマトと、塩、だけでよかった。

だが、フェルゼンは、ゆっくりと料理を食べて、ゆっくりと話したい様子だった。

オスカルは、ヤケになって聞いた。
24時にはまた、アントワネットさまに、お会いするのだろう?
準備は、いいのか?

待っていました!フェルゼンの舌が止まらなくなった。アントワネットさまは、フェルゼンの誕生日プレゼントに、ヴェルサイユ宮殿内に、フェルゼンの部屋を用意したという事だった。

オスカルは、ジャルジェ家でも、宮殿内に専用の部屋を与えられている。それなので、何故そんな事で、喜んでいるのか、理解出来なかった。

しかし、フェルゼンは、続けた。
しかもな!オスカル!

その部屋は、アントワネットさまの寝室の真下にあるんだ。秘密の、私専用の階段があって、いつでも、行き来出来るのだ。素晴らしいと思わないか?

だから、これからは、月誕生日など、気にせずに毎日お会いすることが出来るのだ!

そして、フェルゼンは、前回の様に、独りで、留まることを知らずに、機関銃のごとく、話し続けた。

聞いていたオスカルは、ショックを受けた。
だが、ジャルジェ准将は戦闘態勢に入った。

アンドレの部屋を、自分の部屋から直通にしてしまえば、何時でも、会うことが出来る。オスカルは、自分の寝室の上に、アンドレの部屋があり、いつでも、階段を使って、会いに行くことが出来る。そうしたら、隠密なんて、怖くない。なんだったら、梯子でも構わない。脚立でも…。

オスカルは、アンドレの部屋が、どのあたりにあるのか、検討してみた。
なんと!アンドレの部屋は、父上と母上の、居室の真上にあった。

それなら、部屋替えと称して、使用人達の引っ越し作戦をしてみようか…。

オスカルは、考えた。使用人達は、それぞれの、仕事、休息に差し支えないように、部屋の配置をしてある。と、アンドレに聞いたことがあった。

それに、どんなにアンドレの部屋を移動しても、必ず隣には、ばあやの部屋が、付いてくるだろう。そして、小言ばかり言ってはいるが、可愛い、目の中に入れても痛くない孫息子の、世話を焼いているつもりで、世話を焼かれているのだ。

オスカルは、絶望した。

だが、フェルゼンの話さえ聞かなければ、このまま、月誕生日だけを待って、アンドレと旨くやっていけたのである。ペラペラと話し続けるフェルゼンに、半分嫌気を刺しながら、冷静になってきた。

この、前に座る男は、何も苦労していないのに…。
なんで、この様に、幸運を手に入れられるのか?

オスカルは、オスカルで、自分の境遇を嘆き、フェルゼンの、一生報われぬ恋を失念して、己の不幸を嘆いた。

その夜は、2人とも己を無くしていた。

それから暫く、オスカルは、勤務後、時間通り屋敷に帰ってくるようになった。アンドレは、歓迎した。ニマニマと…。
だが、オスカルは、自室で暇を持て余していた。

マジで、暇だった。
読書していても、『おい!アンドレ!コレ、知っていたか?チョット読んでみろ』などという事も出来ない。

ワインを飲んでいても、『そんなに飲むなよ!明日の任務に、差し障る』と、たしなめる、優しい声も無い。

体育会系のオスカルは、屋敷に居ても、つまらないので、毎日、LINEをあちらこちらに送って、飲み歩くようになった。

そんなオスカルを、アンドレは複雑な思いで見ていた。
アンドレには、オスカルが出かけたくなる気持ちも理解できた。
なので、ニマニマ出来なかった。

だが、オスカルが、酔って楽しそうに帰って来るものの、悲しそうな目を秘めているのを見ると、アンドレは、堪らず声を掛けたくなってしまう。

しかし、それはご法度な恋人同士だった。

つづく
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