Keep Yourself Alive

バタバタと晩餐が終わり、オスカルは子どもを寝かしつけて、(疲れているはずなのに昼間の川遊びとシャワー遊びで、すっかり大興奮の二人は、なかなか寝てくれず、オスカルの方が寝てしまいそうだったが、)どうにか自室に戻って来た。

が、・・・手持ち無沙汰だった。

いつもなら今頃、ワインか、ショコラを楽しみながら、アンドレと楽しいひと時を過ごしている時間だった。

独りで『頑張る!』決心をしていたオスカルは、侍女達に頼らずにワインを飲もうと決心した!先ずはワインを手に入れようと、ワイン倉庫に降りて行ってみる。随分と昔にアンドレと探検して以来だった。

ずらりと並ぶワイン!ラベルを見ていくだけでも楽しい。
こんなワクワクすることを、アンドレは独り占めしていたのかと、ブーたれてみる。ブーたれても相方が居ないとやはり寂しい。気を取り直して、これと思う一本を選んで部屋に戻った。

ワインの栓を開けるのも、初めてである。キャビネットからグラスを出して、確かこの辺りからアンドレは栓抜きを出してた、ぞ・・・と、引き出しを見てみる。ワインの栓抜きを発見し、嬉々として、ソファに戻る。コルクの中心と思われるところに、栓抜きの先端を合わせ、・・・アンドレはくるっくるっとしてたな!・・・と、クルクル回して、栓を引き抜く!

おかしいぞ!?
抜けない!えい!
・・・抜けた!アレ?!コルクが残っている?!
栓抜きの方を見てみると、モロモロになったコルクが付着している。

もっと深くやらないとダメなのか・・・
クルクル・・・クルクル・・・クルクル・・・クルクル・・・
この位でいいだろう。
えい!ポン!!抜けた!お!良い感じだぞ!
オスカルはグラスに注ぐ。

ん?!何か浮いているぞ?
ワインが腐っていたのか?
匂いを嗅いでみる・・・良い香りだ・・・。

グラスに顔を近づけてみる・・・?・・・
栓抜きを見てみる・・・。

わ~!コルクを突き抜けている・・・!
コルクがモロモロだ!するとこの浮いているのは、・・・
この位かまわん!・・・ゴクリ!・・・
うわ~ペッペッ・・・ダメだ・・・

上澄みを捨ててみるか、・・・

何処に捨てていいのかわからないから・・・
ボトルを持って、・・・
バルコニーから捨ててみた・・・。
ドボドボドボ・・・・・

まだ、残っている・・・
これだけ出たのだから、もう一杯注げば大丈夫だろう!・・・
と、新しいワイングラスを出してくる。・・・注いでみる。・・・

さっきより少なくなったが、・・・ダメだ!・・・

ワインボトルを覗いてみる。・・・
ほんのりと透ける、グリーンのボトルの上の方に、白い点々が見えた・・・。
オスカルは、再び、ボトルを持って、バルコニーに向かった・・・。
ドボドボドボ・・・ボトルから直接ワインを庭にまいた・・・。

もう良いだろうと、新しいグラスにまた、ワインを注ぐ・・・。

ん~~~、まあまあだが、・・・もう一杯と、グラスを出して注ぐ・・・。

疲れてきた。・・・これで我慢しよう・・・。
美味しい、美味しいが、・・・
モロモロが・・・モロモロなんて、小さいものに泣かされるとは、・・・
ワイン、一杯飲むのにもこんなに苦労するなんて、・・・
アンドレが居ないと、こんなに何にも出来ないなんて、・・・

・・・前途多難・・・か、・・・それでもやらねばならないことがある。・・・

片付けだ!

オスカルは、おもむろに立ち上がると、両手にグラスを持って、
バルコニーに行きワインを捨て始めた。ドボドボドボ・・・
そして、あちこちの引き出しを開け、レースのハンカチーフを出した。

またソファに座り、ワイングラスを、オスカルとしてはキレイに拭いて、満足して、キャビネットに元通りにしまった。

ワインボトルはテーブルの隅に置いておく。
気が付くと、テーブルの上にコルクのモロモロが散らばっていた。

集めてみる。・・・さて、何処に捨てようか?
暖炉を見てみる。・・・この季節暖炉は使っていない・・・。

まあいいやと、火かき棒で穴を掘ってそこにモロモロを埋めた。
ワインカラーに染まったハンカチーフがあった。畳んでボトルのわきに置いた。
ついでにコルクの付いた栓抜きも・・・。
オスカルにしてみれば、これで完璧だった。

さて、寝ようかな・・・。
と、マルゴとアニェスを呼ぼうかと思ったが、・・・
『独りで・・・』を思い出して、衣装箱から夜着をだして着替え、・・・
ろうそくの明かりを最低限にして寝た!完璧である!

ベッドに入り、明日する事、しなければならない事を考えて・・・
アンドレの面影におやすみと言って、眠りに落ちた。

  **************************

翌朝、早く目が覚めるとオスカルは、昨夜脱ぎ散らかした服を着始めた・・・。
そこへ、マルゴとアニェスが入ってきた。
何をしていらっしゃるんですか、オスカルさま!・・・
え!独りでやろうと、・・・

わたしたちの仕事を取らないでください!
オスカルさまは何でも、『される側』の人間です。
わたしたちは『お仕えする』ことで仕事を得て、暮らしているのです・・・。
それに、昨日着た服は洗濯に出してくださいませ。洗濯係の仕事がなくなります・・・。

しかし、わたしはアンドレが居なくなったから、これからは一人でも出来るようになろうと、・・・アンドレの役目はどうなるかは、存じ上げませんが、私たちの生活まで脅かさないでくださいまし。


こうして、オスカルの独立戦争は、あえなく終わった。
が、精神的独立は捨てていなかった。


昼過ぎにオスカルはレヴェを連れて、ペイラック伯爵邸へ向かった。アンジェリクは快く迎えてくれた。さらに家庭教師協会の担当者も呼んでいてくれたので、話はとんとん拍子に決まった。ついでに、レヴェの剣の先生と、ヴィーの子守も決ってしまった。3日後から来ることになった。

次は・・・フランス衛兵隊だ!・・・資料で分からなければ実際に見るしかない!
と、こっそりと見に行くことにした。

なるべく目立たないブラウスを着て、その上に、以前アンドレが下町に連れて行ってくれた時のジャケットを着てみる。・・・そして、髪をまとめて、・・・帽子をかぶる。・・・鏡の前に立ってみる。・・・完璧だ!どこから見ても『平民だ!』と、オスカルは思った。

なるべく猫背にして歩いて、・・・衛兵隊の門の前に着いた。・・・物陰からそっと見てみる。・・・門番が暇そ~~~に、だらしなく立っている。・・・あちゃ~・・・

すると、一般市民がぞろぞろと入っていく。・・・女と子供が多い。・・・不思議に思いながら、しばらく観察してみる。・・・面会日のようだ・・・!!!・・・オスカルも入ってみようと思った。・・・ら、風が吹いて金髪をなびかせた。・・・これを見られちゃまずい!と、帽子の中に髪を入れ込んで、さらに帽子を目深にかぶりなおし、・・・

今度は堂々と衛兵隊の門をくぐる。・・・第一関門突破!・・・続いて女たちが向かう方に行ってみる。・・・面会室のようだ。・・・面会人を待っている風に立ちながら様子を伺う。・・・今まで、オスカルが接したことのないような人物ばかりだったが、家族を前にして、皆、優しそうだった。・・・これなら、何とかやっていけるな!・・・と、オスカルは衛兵隊を後にした。


それから数日は何事もなく過ぎた。

昼間は子どもたちの相手をし、夜はワインを選び、慎重にコルクを抜いてワインを楽しんだ。ある晩、草木も眠る丑三つ時、オスカルは寝室のドアをノックする音に起こされた。あんな事のあった後である、ガウンをしっかりと着て、ドアを開けてみると、レヴェの手を引いて、ヴィーを抱いた、ジャックだった。


「レヴェさまが、怖い夢を見て眠れないと、仰るもので、・・・」
「・・・わかった!わたしが寝かそう
おまえは自分の部屋に戻っていいぞ」

「あ!それから、・・・オスカルさま。・・・これを、・・・なるべく早く渡してくれと頼まれたので、・・・」
ジャックは、懐からかなり分厚い茶封筒を取り出した。

「・・・誰からだ?」
「さあ?お屋敷を出た所で、知らない男から、・・・」
「わかった。ご苦労だった。おやすみ。・・・」


オスカルは、ジャックから受け取った茶封筒をテーブルの上にポン!と放り投げると、レヴェとヴィーをベッドに連れて行った。左右に子どもを寝かせ、間に入った。レヴェを見ると、泣いたのか目の周りが赤い。

「ママン・・・手をつないで・・・」
レヴェがおねだりする。まだまだ子どもだなと、手をつないでやる。

が、しばらくすると、先ほどの封筒が気になり始めた。・・・レヴェに直ぐに戻るからと言って、封筒を開けてみる・・・。

ドキ~~~~~~~ン、懐かしい文字が飛び込んできた!

アンドレだった。・・・ろうそくの明かりの方へと移動する。・・・
タイトルに『フランス衛兵隊の現状・但し、私的洞察含む』とあった。

が、動揺して見ることが良くできなかった。・・・ドキドキしてきた。・・・どうしたというのだろう?わたしは、・・・なぜ、こんなに体中が熱くなるのだ・・・?とけてしまいそうに、・・・なぜ・・・・・・?このあまいうずきはなんだ・・・・・・?

レヴェがオスカルの想いを破った。
「ママン・・・眠れないよ~」
仕方なく、報告書を封筒に入れると枕の下に置いた。

再びレヴェと手をつないで眠りについた。頭の下から懐かしい香りがしてくる。心が温かくなってくる。レヴェとつないでいる手が温かかった。隣からスヤスヤと寝息が聞こえてきた。

そっと横を見る。・・・幼いアンドレがいた。・・・横顔を見つめる。・・・いつまで見ていても見飽きなかった。・・・見ているうちにいつの間にかオスカルも夢の中へ入っていった。

  **************************

翌日オスカルが目にした報告書は厳しいものだった。かなり貴族に対する嫌悪感があるようだ。ましてや女隊長となればどうなるか分からない。と言うようなことが書かれていた。

特に第1班には気を付けること、必ず護衛にジャックを連れて独りで行動することは禁物、子連れで出仕などもっての外などなど、・・・

何処で仕入れたのだか、かなり個人情報まで含まれていた。・・・最後に・・・今まで、おまえが会った平民とは生活レベルも、感覚も、全てが違う隊員ばかりだ。・・・どこまでやれるか!心して頑張れよ!・・・と、あった。

こんなにも短時間で、これだけの情報をあいつは何処で手に入れたのだろうか?・・・それよりも彼を拒んだ、女の為に未だに動いてくれている、男にオスカルは、心から感謝した。が、それが愛なのか未だわからなかった。


BGM The Empty Chair
By Sting
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