気に入った指輪を、見つける事が出来たアンドレは、足取りも軽い。
アランは時間の超過に、ブツブツ言っている。

それに、アランは小腹が減ってきた。
そろそろ、三時のおやつの時間だ。

なにか、食わせろ!
アランが、上から目線で、訴えた。

アンドレも、これからの算段。そして、リングに入れるメッセージを考えなくてはならず、アランに賛同した。

地下2階ジュースバー「リニュー」がいいか?そ
れとも、地下1階の「茶の葉」がいいか、アランに聞いた。

でも、その前に、3階の婦人服売り場を、一周したい。
そうアンドレは、言った。

アランは、何で初めて来たデパートなのに、そんなによく分かるんだ?顔に、クエスチョンマークをいっぱい付けて、アンドレを見た。

おまえ、入口にあった店内案内を、見ていないのか?
あれで、このデパートの様子が、分かった。
分れば、その通りに回ればいい。
時間短縮だ。

この言葉にアランは、飛び上がった。
時間短縮~~どこがっ!
時間短縮どころか、オーバーだ!

漸く、2人は畏まらない、でも、居心地が良さそうなカフェに落ち着いた。

アランの前に、プリンアラモードとチョコレートパフェが置かれた。
初めて見るスイーツだ。

どちらから、手を付けようかと、目をキラキラ光らせている。
先程の、チョコレートとシャンパンに、やられたようだ。
だが、このカフェには、シャンパンは無かった。

が、代わりに、プリンアラモードがあった。
アンドレが、両方食ってもいいぞ…って言ってくれた。

アランは、飛び上がりたいのを、我慢しないで、全身で喜びを表した。
やはり、まだ、ケツの青いガキだ。

アンドレ、外見オスカルの前に、ショコラが置かれた。
これは、通常通りだ。

アンドレは、早速紙とペンを取り出し、考え始めた。
アランは、パフェ用の長いスプーンを持って、パフェに挑戦しようとしている。何処から手を付けても、崩れそうだ。

アンドレが、何か、書き出した。

アランが、手を止めて見た。
「I touch your lips with mine 」
(by Freddie Mercury 
Scream voice by Roger Taylor)

おいおい!長いんじゃねえか?
アランが、窘めた。

アンドレも、納得し、バッテンした。
また、アンドレが、考えに没頭した。
アランは、プリンアラモード、チョコレートパフェと、格闘中だ。

「おい!飲まねえのか?
冷めちまうぜ!」

「オスカルは、ぬるいショコラが、好きなんだ。
まだ、熱すぎる」
アンドレが、考えながら答えた。

ふ~~ん、隊長は、猫舌か…。
そういや、外側は外側の味覚や、嗅覚を持っている、って言ってたな。

うん、だから、こいつ、俺たちの食事を良くしようと奮闘してたのか。そんなに、俺たちの食事は、隊長のお口には合わないのか…。

そりゃ、悪い事をさせちまった。悪かった。って思うんだ。おまえは、仕入れ先に、交渉していたらしいが、向こうも向こうの、都合ってのが有ったようだな。

最近は、観念したか?
ああ、そうだ。おまえの事だ。俺たちの為にも、隊長の為にも、これからも、孤軍奮闘するのだな。

俺たちの事は、もういいぜ。
隊長には、ジョルジュにでも厨房に入ってもらって、美味いもん食べて貰いて~もんな。誰も、文句を言う奴はいないぜ。

おお!次が出来たか!
見せて見ろ!
俺さまが、見分してやる。

「Oへ、愛をこめてAより」
いいじゃあないか?
え゛…なんで、却下なんだ?

Aが、アランに見えてきた。
いいじゃあないか!
うんそれで、決まりだ。

じゃあ、隊長のイニシャルは、どうだ?
おお!書き出したぞ!

「Oスカル・Fランソワ・ド・ Jャルジェ」
アンドレは、気付いてしまった。

このイニシャルが、
オスカル
フェルゼン
ジェローデル
という事を。

もしかして、これが、オスカルに課せらせた運命だったのか…。
何も知らないアランは、これが一番だ。
文字数も少ない。その後に、AGって付ければ完璧だ!

さあ、次に行こう。
とは、言わずに、目の前のスイーツとの、格闘に戻った。

一方で、アンドレは、普段避けていたオスカルの唇を弄び、頬をさすり、考えに没頭している。

そして、遂にアンドレが、指を折り始めた。
アランも顔を上げた。

アンドレの顔が、輝いた。
「決まったか?」
アランが、口の周りをクリームだらけにして、聞いた。

アンドレが、頷きながら、親指を立てた。
「教えろ」
「ダメだ。これは、オスカルとおれだけが、知っていればいいんだ」

そう言うと、アンドレは、ショコラを一気飲みした。
そして、伝票を持って、立ち上がった。

格闘中のアランは、抵抗した。
アンドレは、アランをパフェとプリンから強引に引き離した。
が、アランは、サクランボ2個、咥えていた。

アンドレは、足取りも軽く、ドレス売り場へと直行する。
「どの店に行くんだ?
さっき、決めたんだろう」

「ああ、こっちだ。
この店の、シックな感じが、気に入った」

アンドレは、足取り軽く。
アランは、まだ、スイーツに未練たらたらで…。

例によって、店員が、歩み寄ってきた。
アンドレが、例のセリフを言わず、
「少し、見て構わないか?」

それなので、店員は離れた所に立って、スタンバった。

「これ、隊長に似合いそうだぜ」
「ああ、こっちも、オスカルに合いそうだ」

店員の頭の中で、
【隊長】と、【オスカル】という、人物が浮かび上がった。
だが、彼女の認識の範疇では、両方とも男性だ。

もしかしたら…いいえ、間違える筈はないわ。
だって、ここは、見るからに女物の店よ。

と、思っている店員など、気にせずに2人は片っ端から、手に取って、眺めて…キープするものを、肩にかけながら、店の中を歩き回った。

「おう!アンドレ!
此れなんて、どうだ?」

「ああ、いいなぁ。
さすが、アランだ。いいところを、責めてくる」
そう言って、アンドレは、姿見の前に立ち、自分にあててみた。

店員の目が、座った。
そこに、アランの声が、響いた。
イイ感じだなぁ。
アンドレ、試着してみろ!

そうだな、着て見なきゃわからないな!

目が座ったままの店員に、声がかけられた。
試着してもいいよな?

はっは~~い!
裏返った店員の声も、響いた。

アンドレが、ドレス2着を持って、カーテンの奥に消えた。
アランは、ウキウキして待っている。

隊長が、プロポーズされるドレスを、俺が一番に…と、違った。俺だけが、見ることが出来るんだ。これも、奴らに自慢したいけど、隊長の事だ。お口にチャック。

「お~~い、アンドレ、どうだ?
何か、手伝う事があったら、言ってくれ」

「ば~~か!おまえの手伝いなんか、
やめてくれ」

アランの耳には、カーテンの向こうから、何やらガサゴソと音が聞こえてくる。漸く、アンドレが出てきた。が、アランは、ガッカリした。何故なら、アンドレは、軍服姿で出てきた。

「ダメだ。これは、オスカルには、乙女チックすぎる。
見て見ろ」

アンドレは、再び姿見の前で、ドレスを充てて、アランに見せた。
「着ないと分からないんだが、この袖、膨らみ過ぎる。
それに、レースがわしゃわしゃしすぎている。
…と、胸が、余る。」

アンドレは、言いにくそうにアランに伝えた。
アランは、即、納得した。

そうだよなぁ!隊長、多分ぺったんこだ。
軍服着ていりゃ…って、それしか見た事無いけど…美青年…にしか、見えないものなぁ。

アンドレは、思った。
オスカル…おまえ、こんなに、ぺったんこだったのか(ため息)。
国王陛下のお許しが出たら、おれがもっとデカくしてやるぞ!
(なんのこっちゃ)

アンドレとアランが、それぞれの思いに浸っていると、やや持ち直した店員が、寄って来た。

そちらは、コルセットで、胸を寄せて上げて着用するのです。
ですから…おとこの…ここでまた、店員は、黙ってしまった。

目を座らせたまま、考えた。
仮装舞踏会用のドレスを探しに来たのだわ、そう理解考えようと、決めた。

が、近寄ったら、違うようだった。
必要最低限の、ドレスの下に身に付ける物を、出してくれないか?
その様な言葉が、店員の耳に入って来た。

店員は、我と我が耳を疑った。
聞こえない振りをしてみた。
また、同じ事を言われた。

店員は、言われるまま、目を座らせて、口を閉じ、耳を信用せずに…ただ、客の命ずるままに、動いた。

店員が、持って来たもので、山が出来た。
アンドレとアランの目が、点になった。

2人で、片っ端から、見ていった。
しかし、どれをどう身に付けるのか、さっぱりわからない。

そりゃあそうだ。アランはともかく、アンドレは、女性のドレスを脱がす。なんて事をした事はない。

まずは、仕分けから始まった。
これは、多分…上半身。
こっちは、多分…下。

やっとこさ、山が2個になった。
が、着ていく順番が分からない。

見ざる聞かざる言わざる店員に、聞く事にした。
店員は、プロだった。
見ざる聞かざる言わざるでも、的確に指示し、教えてくれた。

再び、ドレス選びをする。
アンドレが、下着と共にカーテンの奥に消えた。

どうだ~~!?
アランが、叫んだ。

すると、カーテンの中から、
「最初のドレス…明るい色のが有ったろう?
そっち、くれないか?

お!入って来るなよ!
投げ入れてくれ!」

「了解!
もう一個、似合いそうなのが有ったから、そっちも投げるぞ」

こうして、ドレスがカーテンの中に投げ入れられ、
また、カーテンの中から、投げ捨てられて行った。

そして、試着室の中にドレスハンガーを持ち込み、候補のドレスはそこに掛けられた。アンドレは、試着疲れしてきた。

だが、オスカルの為だ。そう思って、頑張った。
それに、先程、ルイ・アンドレで、予算オーバーしてしまった。
ここでは、少し抑えなければならない。

幸い、ドレスには値札が付いていた。
しかし、高価な物は、それなりに良い出来栄えだ。
アンドレは、アランに聞こえないよう、巾着の中を確認した。

アンドレが、試着してボツになったドレスが、試着室から、飛んでくる。
それをアランが、キャッチして、次のドレスを投げ入れる。

ボツにされた、ドレスは、店員がテキパキと片付けて行った。
何も考えず、いつものルーティーンで…。

こうして、店中のドレスが、出たり入ったり、飛び交った。

そうして、一着を決めると、アンドレが、嬉しそうに出てきた。
アランが、着て見せてくれないのか?
ブツブツ言った。

アンドレは、無視して、お会計をする為、ドレス一式と、下着一式をもって、店の奥へと、行ってしまった。

こうして、仲が良いのか、悪いのか謎の2人は、ドレスの大きな包みを持ち、ルイ・アンドレへと、向かった。

そして、ルイ・アンドレに着くと、アンドレはアランに、荷物番を頼んで、中に消えた。が、直ぐに出てきた。

アランが、また却下されたのか?
心配そうに、外側オスカルを覗き込んだ。

内側アンドレが、一発オッケーだ!
と、親指を立てた。

何て、名セリフにしたんだ?
アランは、興味深々。

アンドレは、それを、ぶった切った。
これは、オスカルとおれだけが、知っていればいいって言っただろう。
他の奴には、絶対に秘密だ!

アンドレは、後日、またルイ・アンドレに、刻印の入ったリングを取りに来ることとなり、2人はデパートを後にした。

「しっかし、すげえな~
ドレスって、こんなに嵩張るんだ。

こんな重いのを着て、踊るのか?
それも、一晩中。
お貴族様は、大変だな。
体力なくちゃ、やってられねえな。

おう!俺も、体力なくちゃあ、ヴェルサイユまで、帰れねえぜ!
ここら辺で、何か食わせろ!呑ませろ!ディナーだ!ディナーだ!」

暗闇の中で、外側オスカルの顔が、真っ青になった。
アランには、その様子は見えなかったが、内側アンドレに異変が起きたのには、気付いた。

「どうした?」
アランが、聞いた。

「ディナー…」
アンドレが、弱々しい声で言った。

「って、だから、ディナーに行こうぜ」
腹が減っているアランが、急かした。

「ああ、そうだ、ディナーだ!
ディナーの予約が未だだった」
アンドレは、思い出させてくれたアランに、感謝した。

「チッ!そんなの、明日でいいだろう?」
アランは、イライラしてきた。

「ダメだ。クリスマスの夜だ。
早く予約しなければ、何もかもおじゃんだ。
今、行かなくては、一歩遅れてしまうかもしれない。
そうしたら…」

アンドレが、辻馬車目がけて走り出した。
アンドレは馭者と交渉し始めた。

アランは、大きなため息をついた。
平民貴族には、辻馬車のオヤジとの交渉は無理だな。

ここは、俺に任せておけ。
アランは、大きな包みを抱えながら、辻馬車に近づいた。

「どうしたんだ?
なにを困っているんだ?」

「ああ、ダンナ、このお方が、あっちの方へ行ってくれ!
ってんだが、俺は、この辺りをもう一周したら、上がりなんだ」

そう言う事か…。
やっぱり、俺さまの出番だな。
「オヤジ、往復の賃金に、上乗せするから、頼むぜ!」
ふん!これで、大丈夫だ。

オヤジ、考えてやがる。
もっと、吹っ掛けるつもりか?
よっしゃー!

こうして、アンドレとアランと大荷物が、辻馬車に入った。
辻馬車は、北を目指した。
アランは、このオヤジ、遠回りをして、金を稼ぐ気か?

すると、アンドレが、
「こっちでいい」
そう言った。

アランは、今日、何度目かの太っ腹アンドレを見た。
パリを大回りして、ヴェルサイユへ…。

が、辻馬車は、左に回らず、ひたすらに北へと向かっている。
アランは、アンドレを見た。

こっちで、いいんだ。
アンドレが、再び言った。

そして、辻馬車は、パリからも、ヴェルサイユからも、ドンドン離れて行った。すきっ腹のアランを乗せて…。

  12月24日まで、終わり。
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