いい加減に寝ろよ!

こういうものは、ジックリと見る物だ。

もう夜が明けるぞ!

構わない。

こっちが、構うんだ。
明るくなったって、それは、おまえにちゃんとくっついているから、
頼むから寝かせてくれ。

うん、そうだな。

そう言って、傍らの箱に、それを納めた。
しかし持ち主は、再び、起き上がった。

どうした?

侍女たちが、間違って捨てたら困る。
そう言って、箱ごと胸に抱いて、横になった。

おまえねぇ、自分が思っている程、寝相良くないんだぞ。
それこそ、明日になったら、ベッドの下や、あちこち、探す羽目になるぞ!

う~~ん
じゃあ、おまえが持っていろ…!

やっぱり、身に付けている。
おまえは、箱を持っていてくれ。

こうして、幸せな2人は、眠りについた。
筈だったが、やはり、1人は相変わらず、幸福な輝きに見入っていた。

   *********************

う~~ん、良い寝心地だ。背中が、ふかふかだ。枕もふかふかで、気持ちがいい。これで、アンドレの腕枕が有ったら申し分無い。

わたしは、なんて幸せなオンナなんだ。

おい!起きろ!寝坊した!

って、誰だ!このオスカルさまに命令する奴は!
とっちめてやる!

顔を見せろ!
え゛…わたしか・・・。
なんだ、つまらない…。

ああ、そうか、月誕生日だったな。
それでも、元に戻っていなくて、アンドレとヤケ酒したのだ。
自分の顔と呑まないよう、
お互い壁に向かって…
一言も話さず…
あ!一言位は話したな…。

頼む!アンドレ、そんなに怖い顔をして、わたしを見るな。
おまえの姿をしているけれど、わたしはおまえの恋人だぞ。

でも、わたしの顔は、そんなに怖い顔になれるのか・・・。
注意しよう。

こちらは、ゆっくりと考え事をしているんだ。
そばで、何をごちゃごちゃ言っているんだ?

おまえは、そんなに、うるさい恋人じゃなかったはずだが…。
起きろ?

相変わらず、だなぁ!
え゛…なんだって、もうそんな時間?
それで、朝食抜きで出かける。

冗談だろう!
このオスカルさま、これまでの人生で。昼食、夕食を抜いた事は、何度もある。

朝食を抜くなんて、人生初だぞ!朝飯前、なんて言葉があるが、朝食はその日のパワーの源だ。

って、そんなに、引っ張り出すな!
そうか…。
わたしは、おまえを持ち上げる位の、力は有ったんだ。
忘れていた。

おれは、ドレスを着る。…え?ああ、そうだったな。
だから時間が掛かる。ふむふむ。
で、わたしは?どうするんだ?

向こうの部屋の、服を着るのか。
で、それは、どういう意味か?
軍資金がついた?
一日の事だから、レンタル?

弾薬が底をついたのなら分かる。
おお!え゛…やはり、分からない。

それに、レンタル・・・。軍備費を?
それは、困る。
まあいいか。着替えよう。

って、いつもの事だが、わたしは、この姿になってから、真冬だというのにやけに暑い。だから、パンツ一丁で、寝ている。本来のアンドレなら、何も着ないだろう。

だけれども、わたしには、チョットだけ、入れ替わっても、身だしなみと、恥じらいが残っているんだ。夜中に脱ぎたくなるのも、我慢している。

ん?アンドレがシャワーを浴びている。
わたしも、浴びたいなぁ!
入れ替わらなかった時は、一緒に浴びたのに・・・。

わたしの身体を、見ながら浴びるのも、嫌だし・・・。
侍女たちに、もう一人分用意させるのも、怪しまれる。
だいたい、本来のわたしの身体は、そんなに寝汗をかかないんだぞ!

そんな事、知っているだろう?
それとも、この一か月で、わたしの体質も変わったのか?
汗臭いオスカルさまなんて、御免だからな。

え゛…なんだって?
シャワー室Bに、もう一人分用意してあるから、そっちを使え・・・どういう意味だ?侍女たちに、言って用意させた。もしかして、わたし達が、子供じみた喧嘩をしているとでも、思っているのか?

まあ、先月までは、子供じみた喧嘩をして、だから、この姿になっている。アンドレも、わたしの何かを見て、むかついていたようだ。わたしは、清廉潔白だ。

うん、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ准将に、かけて誓う。
兎に角、シャワーを浴びよう。汗で気持ち悪い。でも、この匂いも好きなのだ。

う~~ん、いい匂いだ。

お!この姿になってから、ジックリ嗅いでいなかったな。惜しい事をした。まじかにアンドレの匂いが有ったのだ。この匂いに包まれて、眠りについたら幸せだった。勿体ない事をしたもんだ。

ああ。この湯加減。これまで、冷水に耐えてきた身体に、染み込む。でも、アンドレの匂いも、流れていく。勿体ない。

あ!歯ブラシが、無い!
どうしよう!

どうにかしよう。
わたしは、オスカルさまだ。
ほう!どうにか出来た。
さすが、オスカルさまだ!

ふ~ん、アンドレは、この様な服を着たかったのか。
ちょっと、鏡に映してみるか。
おお!イイ男だ。

この口で言うのだな。
「オスカル、愛しているぞ」

え゛…!
「命をかけた、言葉をもう一度言えと言うのか?」

アンドレが、わたしに愛を告げている。
なんだ、なんだ。
鏡の中は、アンドレだ。

鏡を見れば、アンドレがいるのだ。
わたしは、また、勿体ない事をしたのか?
オスカル・フランソワ、一生の不覚。

暇に任せて、暇を持て余し、
アランとの、剣の負けざまに、落胆した。
おひとりさまチェスもした。
人生ゲームもした。

ただ一つ、しなかったのは、鏡を見る事だ。
鏡を見れば、いつでも愛するアンドレがそこに居たのだ。

おお!アンドレ、おまえは、誓い通り、死ぬまで、傍にいてくれるのだな。

さて、気を取り直して、アンドレの装いを見てくるか。
それからまた後で、アンドレの顔と遊ぼう。
ふふふ・・・アンドレは、気付いているのだろうか?

今回の月誕生日は、アンドレがわたしをもてなしてくれる。
そう聞いていた。
どの様になるのか、楽しみだ。
片腹痛いわ(?)

勿体ないが、アンドレの顔とは、しばらくお別れだ。
まあ、どうせ、月誕生日が明けても、この姿だ。
思いっきりアンドレに囁いてもらう事にしよう。

  つづく


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