アンドレ!オトコは、初めてのオンナが忘れられず、オンナも、初めてのオトコを忘れる事は出来ない。って言うのは、本当か?
オスカルは、超ド真剣に、いきなり、直球で来た。
何だ?それ?
アンドレは、思った。
こんな時間に、一体お嬢さまは、何を言いにきたんだ。
だが、こう言うときは、さからわないほうがいいと、長年の経験が告げた。
そして、
「それは、人それぞれなんじゃないのかな?いつまでも覚えているヤツもいれば、直ぐに忘れてしまうヤツも、いるだろう」当たり障りのない、返答をした。
それを聞くと、オスカルは、ため息をついて、
一般的な話しじゃない!おまえの場合を聞きたいんだ!・・・と、こぶしを握り締めて、力を込めて聞いてきた。
アンドレは、コレは何か裏があるぞ。と思ったが、さして後ろめたく思う様な事ではないので、サラリと言った。
「おれの場合は、忘れてしまったよ。
ずっと前の事だしな!」
すると、オスカルは、驚いて、
「え゛・・・そんな前の話しじゃないじゃないか?」
今度、驚いたのは、アンドレだった。
「え゛・・・何で、おまえが知っているんだ?」
夜中に、お屋敷を抜け出していたのを、知っていたのかなぁ?
アンドレは、遠い昔に頭を巡らした。
アンドレが、遠い昔に郷愁を感じていると、ガツンとオスカルの声が、頭上から降って来た。
「なんだって?
あの時、どんなにわたしが、辛く、悲しんだか、知らなかったなんて、言わせないぞ!」
アンドレは、オスカルの言っている事の意味が、とんと分からなかった。
「はあ!?あの頃、おまえは、おれのことなんて、眼中になかったじゃないか?」
アンドレは、オスカルを見て、ギョッとした。
顔中涙でいっぱいだった。
「なんで、そんな事が言えるんだ?
わたしは、おまえのことしか見えていなかったぞ!」
アンドレには、オスカルが、自分の事をからかっているとは、思えない。
だが、どうしても分からなかった。
分からなかったから、正直に答えた。
「ウソだ!あの頃は、初めからおまえは、あの北欧の騎士しか、見ていなかったじゃないか?そんな時に、おれが何しようと、勝手じゃないか?」
アンドレも、ムキになりそうな所を、彼の優しさと、オスカルへの愛で押しとどめた。
オスカルの顔つきが変わった。
ぽか~んとして、恐る恐る聞いてみた。
「え゛・・・北欧って・・・おまえ・・・いつの話をしているのだ?
ジェルメーヌが初めてのオンナじゃないのか?」
アンドレは、ため息をつき、参ったなぁと、言いながら、オスカルの涙を拭いた。
「彼女に、担がれたんだよ。
彼女の初めてのオトコも、おれじゃない。
多分、亡くなった侯爵か、誰かだろう」
これで、この話は済んだと、アンドレは、ホッと一息ついた。
しかし、お嬢さまの方では、新たな疑問が生まれてきた。
「じゃあ、誰なんだ?おまえの初めての、オンナは?」
ヘッ!まだ、聞いてくるのか?
おれは、一人の男として、至極当たり前に生きてきたつもりだ。それなのに、どうして、そこを攻められねばならないんだ?
それも、こんな田舎の夜半過ぎの、安宿の廊下で、・・・
ふと、アンドレは、気が付いた。先ほどから、お互い、一歩も動いていなかった。相変わらず、雑魚寝部屋からは、イビキだかの凄い音が聞こえていた。そして、もの凄い、臭気も漂ってきている。
オスカルに、向こうのベンチの傍に行こう。と、勧めて、あらためて、第2ラウンドが、始まろうとしていた。
オスカル・・・優しさを込めて、アンドレは最愛の妻に問いかけた。
彼女は、顔を見上げて、夫の言う事を、一言も漏らさない覚悟を見せた。
アンドレは、これはただ事じゃないな・・・さっきからだが・・・。
そう思い、話をする決意をした。
おれが、18の頃だ。
あの頃から、ジャックや、使用人仲間と、つるんでいたんだ。そして、エネルギーが余っていたんだな。仕事が終わると、あちこちに遊びに行っていた。ほとんどが、パレ・ロワイヤルだった。
オスカルが、口を挟んだ。女子会ならぬ、男子会か?
でも、あそこは、高級なカフェか、ブティックしかないぞ!
おまえたち、使用人がちょくちょく行けるような所じゃないぞ!
ステラ・マッカートニとか・・・。
アンドレは、笑いながら・・・。
オスカル・・・おまえが知っている、パレ・ロワイヤルは、表だけだ。
おれたちは、裏側に、たむろしていた。
そして、始めはね、男子会だった。
呑んでいると、その店の女の子たちが、寄って来て、一緒に呑む事になる。
ふ~ん。合コンになるのか・・・。
オスカルが、また、口を挟んだ。
アンドレは、吹き出しそうになった。相変わらず、オトコとオンナの、キレイな所しか見ていない。こんな、純真なオスカルに、これ以上話してもいいのかな。アンドレは、ためらったが、オスカルの目は真剣で、少しでも、辻褄が合わなければ、殺されるだろうと、思った。
田舎の、安宿、未明、妻が夫を刺殺・・・明日の新聞の一面を、アンドレは妄想した。おれは、殺されても構わない。だが、愛しい妻を、殺人者にしてはいけない。アンドレは、全てを、オスカルに話す決意をした。
アンドレは続けた。
その内、お互い気が合うもので、寄り添って行って、一組ずつ消えていくんだ。
オスカルが、また、口を挟んだ。オスカルの中の、恋愛の達人・・・が、目を覚ました。
ほう、それで、おまえも、どちらかのマドモアゼルと意気投合して、お付き合いが始まったのか?
初めにデートしたのは、何処だったのだ?
初めて、手をつないだ時は、ドキドキしたか?
口付けは、やはり、三回目のデートなのか?
オスカルにしては、下町にいた頃、女将さんたちと話していた時仕入れた、知識を総動員して、若かりしアンドレの、恋バナに聞き入ろうと、彼女なりに頑張っているようにみえる。しかし、心の中では、ニヤリと笑った。
え゛・・・アンドレは、先ほどの決意が翻りそうになった。
だが、オスカルは、真剣な眼差しで、自分を見つめている。
ここは、いっちょ、笑いを取るつもりで行くしかないだろう。
アンドレは、再び決意を新たにした。
恋愛なんかになるはずないだろう~。
オスカルが、固まってしまった。
アンドレが、話している事が、分からないようにみえる。
いつも、同じ相手だとは限らないんだ。・・・アンドレとしては、思い切って言った。やはり、笑いを取る事は出来なかった。
・・・?・・・
理解できない・・・
毎回、違う女の子と、意気投合するのか?
オスカルは、信じられないと、ポッカ~ンとしてみた。
(アンドレには、分からないように・・・)
アンドレとしては、早い所、核心に触れる前にこの話から、逃れたかった。
ああ、
まあ、そんなところだ!
これで、アンドレは、話が終わる予定だった。
多分、オスカルには、何の事だか分かっていないだろうが、人間分からなくていいものもあるんだ。アンドレは、そう思い、話が終わる事を期待した。
しかし、アンドレは、お嬢さまの知りたい事は、徹底的に追及する!と言う、性格をうっかり忘れていた。
アンドレ、おまえは、そんなに気が多かったのか?
確か、わたしだけを、いつの頃からだかずっと思っていた。そう言っていたよな?
それなのに、飲みに行くたびに、違う女の子とお近づきになって、失礼だと思わなかったのか?
オスカル!オスカル!
おまえ、勘違いしている。
彼女達に気があったわけではない!
ひと夜の、アバンチュールだ!
おまえだって、知っているだろう?
ボカン!!
オスカルが、アンドレにパンチを、食らわせた。
フン!
で、どの位その、パレ・ロワイヤルの裏側とかに行ったんだ?
ん?週何回行って、何年通ったんだ?
何人のオンナと関係があったのだ?
アンドレは、頭を抱えた。このお嬢さまは、知っていたんだ。知っていて、言わせたんだ。オンナは怖い・・・とは、この事か。
せめて、初めての子くらい、覚えているだろうに・・・。
はん!わたしが、気が付いていないと、思っているんだろう?
娼婦相手であることなんて、お見通しだ!
だが、娼婦といえども、女性・・・顔も覚えてもらえず、オトコの欲望の相手になるしか、生計を立てる事が出来ずにいる事を、何とも思わないのか?
そして、オスカルは、先ほど見た週刊誌の一節を、思い返して言った。
オンナにとって、生涯を決めた、オトコの最後の女性になりたい。オトコにとっては、彼女の最初のオトコでありたい・・・。と、俗世間では、言うらしいな?
違うのか?アンドレ君?!
アンドレは、いつの間にオスカルがそのような知識を仕入れたのか・・・ショックを受けた。が、それは、真っ当な男が、誰でも考える事ではないかとも、思った。しかし、いま、それをオスカルに告げる事は出来なかった。アンドレにとって、オスカルは、何にも代えがたい、唯一無二の存在であり、無垢な、理想の女性だった。
オスカルは、続けた。
偶然とはいえ、わたしたちは、俗世間で言う所の、理想的な夫婦なわけだ!
オトコというもの・・・イヤ、おまえと言う人間が、分からなくなってきた。
アンドレは、逃げ出したくなった。臭くて、うるさいが、雑魚寝部屋の方が、マシな気がしてきた。
すると、何を思ったか、オスカルがアンドレの手首を掴んできた。
あの部屋で寝させるのは、忍びない。廊下で寝袋も、胸糞悪い。
ブツブツ言いながら、スタスタとオスカルは、自分の部屋に向かった。
アンドレの手首をつかんだまま。
アンドレは、どう声を掛けていいのか分からず、手首を引っ張られるまま付いて行くしかなかった。寝袋を持って・・・。
部屋の前に着くと、オスカルは、振り向き、
ずっと、娼婦を相手に、名も知らず、顔も覚えずに来たのなら、そのままでいればいいものを・・・寂しいからと言って、手近なオンナに手を出したのが、悪かったな!あの時は、おまえ恋しさに、許してしまったが、今になって、相手はむしかえしてきている。
おまえの気持ちを、疑う気ではないが、わたしの気持ちの整理がつくまで、話をしたくない。今夜は、わたしのベッドの半分を貸す。狭いから、体が触れるが、それだけだ。
と、言って、部屋の中に入ると、ベッドを指差し、入る様に促した。オスカルも隣に、黙って入ると、背中を向けて、目を閉じてしまった。
もう一つのベッドから、ジェルメーヌが、何が起こっているのか分からず、半身を起こして見ていた。
え゛・・・な、何よ?なんで、2人で仲良く一緒のベッドに入るの?
アンドレは、大部屋って言っていたじゃない。
それよりも、こっちの部屋で寝るのなら、私のベッドに入るべきだわ。
それに、オスカルは・・・そうよ!私が一撃喰らわしたのよ。
それで、出て行ったのに・・・。
まあ、そうね。あの年まで、アンドレが経験してないなんて、思わないわね。
でも、相手はあの潔癖なオスカルよ。では、誰が最初の相手か?くらい、聞くわよね。
ふふふ・・・アンドレ・・・ほにゃららだったから、結構遊んできたわよね〜
オスカル・・・納得したのかしら?
分からないわ。あの2人。
そういえば、パリを出る時、アランがあの2人は、ちょっとやそっとのもんじゃあないから、ちょっかい出すな!って言ってたわね。
しばらく、様子をみようかしら?
でも、アンドレの生活力は、魅力的よね。
それに、やっぱりあの物腰も・・・。
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アンドレは、窓から差し込む星明りに煌めく、世界で一番美しいと心底思っている、むせかえる様なブロンドの頭の上に、顎を置いて考えていた。熱い胸板には、ブロンドの髪と共に、愛する女性の背中が、向けられ、温かさが伝わってきた。
最近、オスカルとジェルメーヌの関係がおかしいと思っていたが・・・、まさか、己が原因だとは気づかずにいた。それでも、オスカルは、おれを捨てずに、こうして寄り添って眠る事を、許してくれる。
そう思うと、彼女が、ベッドから落ちないように、そっと、後ろから抱きしめている手に、力が入った。
おい!なんだ?その手は?
眠っていたと思った、オスカルがそっと囁いた。
許している訳ではないぞ!
オトコが、そういう生き物であることなんか、ずっと知っていた。
だがな、わたしのアンドレは、違っていると何処かで思っていたんだ。わたしにとって、おまえは、オトコの中でも、神聖な、理想のオトコだと思っていたんだな。
だから、人間としてのおまえと、わたしが勝手に神格化してしまったおまえとの、距離感を、どうとっていいのか?ああ、同じ人間なのだから、わたしの中で、2人になってしまった、おまえが、ひとつになったら。それを受け入れられるまで、待ってくれ。
そう言うと、オスカルは、アンドレに背を向けたまま、直ぐに、寝息を立ててしまった。
アンドレは、目が点になった。神である・・・女神であるのは、オスカル、おまえではないか・・・。そのおまえが、何でおれの様な、人間を神格化するのだ。
どうか、頼む、オスカル・・・おれをただの人間に戻してくれ・・・。
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翌朝、アンドレは、いつもよりずっとずっとずっと・・・早く起きた。
眠ったのか、何かを考えつつウトウトしていたのか、分からなかった。
彼としては、生涯初めて、寝ざめの悪い朝だった。
彼は壁側に寝ていたので、ベッドから起き上がる事ができない。
仕方ないので、もう一度寝ようかとしたが、生来の早起きの為、ダメだった。
どうしていいか分からず、モソモソしていた。
下手に動いて、昨夜立腹されたお嬢さまを起こしてはいけない。
しかし、腕の中で背中を見せている、黄金の髪もモソモソしだした。
そして、言った。
起きたいんだろう?遠慮せずに、跨いで行け!
怒ってもいなく、穏やかな物言いだった。
拍子抜けしたアンドレは、着替えながら、卵を産んでいないか、見てくる。有ったら、踏まれないように、取り上げておく。
頃合いを見て、降りてきてくれ。
と、言って、オスカルを振り向くと、壁の方を向いて、毛布を被ってしまっていた。
やれやれ、とアンドレは部屋を出て行った。
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ジェルメーヌは、起きると、洗面をして、化粧をし、髪をとかして、馬車の方へ向かおうとした。すると、オスカルが、アンドレの荷物と自分の分を、旅行鞄に詰め込み、当然とばかりに、持って出て行ってしまった。
ジェルメーヌは、しょうがないので、自分の荷物を旅行鞄に詰め込み始めた。パリを出る時も、自分で荷物を用意した。こんな事は、生まれて初めてだった。今までは、侍女が何人もかかって、山のような荷物を、ヴィトンのスーツケースに詰めてくれる。
それに、不思議な事に、パリを出た時は、あんなに簡単に入ったモノが、一晩で膨らんでしまったのか、パンパンになった。それだけではなく、2人分持っていたオスカルは、軽々と持っていたのに、彼女の鞄は、かなり重かった。
オスカルとアンドレの鞄には、最低必要源の物しか入っていなかった。一方のジェルメーヌの鞄には、パリで何とか手に入れた、化粧品、洗面道具、替えの下着、替えの靴、バスタオルにフェイスタオル、その他いろいろ・・・何処でそんなに手に入れたのか分からないものが、入っていた。しかし、それは、彼女にとって全財産だった。
オスカルが、馬車に向かって行くと、アンドレが出来たての茹で卵を持って、やって来た。
ほう!茹で卵か?オスカルが、懐かしいと声を上げたが、しまった!と直ぐに、口をつぐんでしまった。
その辺の石に、微妙な距離を保って、アンドレと座ると、2人は黙々と食べ始めた。そこに、重たい荷物を持った、ジェルメーヌが、ふうふう言いながら、やって来た。
「あら!まあ!茹で卵をそのまま食べているの?始めてみたわ!
アンドレ!私には、バターたっぷりのオムレツに、ケチャップでハートを書いてね!」当然の事のように、言った。
オスカルとアンドレが、冗談言っているんだろ!って、見上げた。
慌てたのは、ジェルメーヌだった。
「いやあねぇ!そんなに見ないでよ~
オスカルが、急に部屋を出るから、お化粧もしていないし、髪もまだ梳かしていないのよ。
アンドレが、オムレツを作ってくれている間に、チョッチョッとしちゃうから、
アンドレは、お料理に専念して頂戴ね!」
アンドレは、オスカルに、目で、おまえ・・・化粧したのか?と聞いた。
いくら、気まずい仲とはいえ、長年の付き合い。口に出さなくても、相手の考え位、分かってしまう。オスカルは、茹で卵を口にしながら、首を振った。
そして、一言、そんな物、持って来ていない。と答えた。
そして、後は、おまえ、頼むな。
と言って、また、ゆで卵に専念した。
アンドレは、覚悟を決めつつ・・・って、昨夜から、なんでおればかり、こう頭の痛い事ばかり、廻って来るんだ。大殺界かなぁ!?と、ぼやいた。
「ジェルメーヌ、此処には、フライパンもない、フライ返しもない、果ては、バターは勿論の事、ケチャップもないし、皿も、フォークも、ナイフもない。加えて、玉子は全て、茹でてしまった」
ジェルメールが、口を開けたまま、固まってしまった。
手から、旅行バッグが、ドスンと落ちた。
茹でた・・・って、どういう意味?
やっとの事で、一言言った。
「茹でたって・・・茹で卵にしたんだ。
宿のオヤジさんに、鍋とかまどを借りて・・・
そうしておけば、昼も食べられるからな!」
当然の事だと、アンドレは言った。
オスカルは、下を向いて、クックックックと、肩を震わせて、笑っていた。
彼女も、アンドレの元に行くまで、玉子を茹でたものを、そのまま食べる事を知らなかった。
勿論、ジャルジェ家でも朝食には、半熟の卵が提供された。だが、自分で剥いて、手掴みで、ソースも何も付けずに、食べる事は無かった。
だから、ジェルメーヌが今、何を、慌てているのか、良く知っていた。
でも、オスカルが、驚いた時は、アンドレが優しく教えてくれた。
今回は、アンドレがどうするのか、見ものだ。
じゃあ、アンドレ!
ジェルメーヌが、続けた。
その、ゆで卵とか言うのを、オムレツにしてよ!
この申し出に、オスカルは、大爆笑してしまった。
「なによ!オスカル!?
玉子は、玉子なんだから、オムレツにもなるでしょ?」
「ほら!ジェルメーヌ!」
オスカルが、ジェルメーヌに卵を投げて渡した。
割ってみろ!
オスカルが、言う。
その辺の、石にでもそっと、ぶつけて、割るんだぞ。
アンドレが言った。
ジェルメーヌが、それでも、戸惑っていると、アンドレが助けようと立ち上がりかけたが、オスカルが割って入って、ジェルメーヌの手を持って割った。
ほら!見てみろ、これでは、オムレツにならないだろう?
オスカルが、言ったが、ジェルメーヌには、訳が分からないようだった。
当たり前である。料理をした事も無いのは勿論だが、料理をしている所さえ見る機会など無い暮らしをしてきたのであるから。
オスカルは、懐から短刀をだし、ゆで卵を、貴族の屋敷でも出てくるような形にカットし、ジェルメーヌに見せた。ジェルメーヌは、まあまあ、と言いながら、後退りした。
じゃあ。マヨネーズをかけてよ。このままじゃぁ。ぼそぼそして、食べられないわ!
ジェルメーヌは、相変わらず貴族のお嬢さまだった。
そこへ、それまで、黙っていたアンドレが、ムッとして言った。
パリを出る時から言ってあっただろう。
旅の途中も、アラスに行っても、望みの暮らしが待っているとは、限らないと・・・!
食べられないなら、食べないで結構。
もともと、貴族とはストイックなんだろう!
言い終わると、オスカルの元に戻り、何となく、先ほどより、2人より沿って、食べ始めていた。
アンドレは、先ほどまでの尖っていた、心が次第にほぐれてくるのを感じた。だが、妻が完全に己を許していない事は、十分に承知していた。
と、同時に、オンナの恐ろしさと、ねちっこさを初めて知った。
そして、アンドレの中では、オスカルは相変わらず、聖なる存在であり、そのほかのオンナとは、全く違う存在だった。
つづく
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