フィレンツェを見渡すミケランジェロ広場に立つ、オスカルとアンドレをダビデ像が、見守っていた。

ここに来るのも、久しぶりだな。

あゝ、初めてこの街に来た時、マザコンアンドレが大喜びしていたな。
ドゥオーモにやっと、出会えたと・・・。

  *******************

長男アンドレは、フィレンツェに着くとすぐに、近所に住む、ひとつ年下の女の子と仲良くなった。彼女は不思議なことに、男性の名前を持ち、更に男言葉を使っていた。

そして、彼女も絵を描いていた。ある日、アンドレが、描いている絵を見て「アンドレ、貴方何処で絵を学んだのだ?良い絵を描くけど、少し時代遅れの技法のようだな!」

アンドレ、胸をはって、お婆さまが、若い頃描いていたのを、教えてもらったんだ。と、答えた。

女の子は、うーんと言いながら、おまえの技法を活かしながら、最新の技法を学んだら素晴らしいものになるのではないか!そう言った。アンドレは、とても嬉しく、彼女に好感を持つようになった。

その後、2人はいつも一緒にいて、街では有名なカップルになった。遂には、絵画を巡る旅に、何処ともなく2人で出かけてしまった。

帰ってくると、アンドレの影響か、2人は古の芸術に魅せられ、修復師の道を歩むと、それぞれの両親に告げた。

しばらく、フィレンツェでも評判の工房で腕を磨いていたが、自立心旺盛で、積極的な彼女は、己の工房を持とうと思い始めた。彼女から、そう打ち明けられるとアンドレは、それを助けることに決めた。

ただ、世間では、父親と同じで、女の尻に敷かれて・・・と言う者もいたし、女だてらに、と言う者もいたが、2人とも気にも留めなかった。

そして、遂に彼女は、工房を持った。そして、見守っていたアンドレに、プロポーズした。アンドレは、即、承諾し、マザコンアンドレから卒業した。


一方で、アリエノールは、幼い頃、塗り絵として親しんだ、医学書の為か、医学の道に進んだ。

しかし、医学生時代、カエルの卵の解剖実習の時だった。クラスメイトが、あの男の子が好きなの。そう告げた。そして、「アリエノールは?好きな男の子は誰?」と聞いてきた。

アリエノールは、自信たっぷりに、「私は、パパと結婚するのよ!小さいころから決まっているの!」自信たっぷりに答えた。

クラスメイトは、「パパとは、結婚できないのよ!もしかして、貴女、ファザコンなの?」その会話を聞いていた、クラス中が大騒ぎになった。

アリエノールは、メスの先にカエルの卵を刺して、見つめた。だが、自宅に着くと、持ち前の大声で、歩き回りながら泣き叫んだ。すると、父が優しく話してくれた。

「パパは、ママンと結婚しているのだ。オスカルを心から愛している。だから、おまえとは結婚できない。おまえは、おまえを心から愛してくれる男性と、結婚しなさい」そう言われてしまった。

アリエノールは、絶望のどん底に落ちてしまった。
母を恨もうかと思ったが、心のどこかに、そのような予感があったので、諦めた。それに、アリエノールは、母の事も、とても愛していた。

学部一の美人、アリエノールが、フリーになった。
そうすると、それまで、フィアンセがいるそぶりを見せていたアリエールから遠ざかっていた、男子学生が群がってきた。

次から次へと、デートの誘いが舞い込んでくる。アリエノールは、半ばヤケになって、卒業と同時に、アンドレと正反対の男と、勢いだけで結婚した。

しかし、その様な結婚がうまく行くはずもなく、成田離婚した。

次に、実習生で、黒髪でくせ毛、たまに、口ひげを伸ばしたり、剃ってみたりと、パパに似ていたので、結婚した。

これも、口ひげだけでは、結婚生活が長く続くはずもなく、破局を迎えた。

そんなこんなしているうちに、外科医師として、頭角を現してきた頃。アリエノールは、手術中、メスやカンシを手際よくパッシと渡してくる、手に気づいた。

パパの手に似ていた。
パパもママンの、補佐をしてしたわ♡♡
だけど、今までの結婚を反省して、しばらく付き合ってみた。

しかし、アリエノールは、デートの最中も、彼の手ばかりを見つめては、うっとりしていた。

初めての口づけでは、アリエノールは、頬にかかる彼の指にまたまたうっとりして、目を閉じてしまった。

そんなこんなで、結婚して初めて、顔をよく見た。
タイプではなかった。手指だけでは、結婚生活は長く続かなかった。

そうして、アリエノール・ダキテンヌは、名前以上に、3度の結婚と3度の離婚をした。

アリエノールが、手にしたのは、祖母譲りなのか6人の娘と、スイス医学会の会長の地位と、大学の医学部長の地位。

得意は、母親譲りの(?)剣ならぬ、メスを持つ事だ。
母、オスカルは、良くやったと娘を褒めたたえた。
父、アンドレは、天を仰いだ。


次男の、フランソワは、長男アンドレより、体格がよく、上腕二頭筋は、盛り上がり、腹はくっきりと割れていた。でも、両親譲りの美形の持ち主だった。

ある日、バチカンを訪れた時に見た、兵士の衣装を着たくなり、父母に聞いた。
すると、スイス傭兵だと告げられた。

そして、スイスの士官学校に入り、見事バチカンに、立つ事になった。

そんな、末っ子を見ようと、家族そろって、バチカンに出掛けた。

三男は、無表情な顔をして、しかし、背筋を上して、銃を片手に、凛々しく立っていた。アンドレは、いにしえのオスカルを想った。アンドレは、すっかり感慨に浸っていた。しかし、オスカルは、そうではなかった。

三男の前を、行ったり来たりした。始めは、三男と同じ様、軍人らしく歩いてみた。三男の目を見ながら。そして、目の前にパシッと止まると、敬礼をした。

次は、やはり、目を見ながら、ムーンウォークをして、ニヤリとしながら、手を振ってみた。

しかし、三男は全く、微動だにしない。オスカルは、つまらなくなってきた。長男のアンドレは、相変わらず、スケッチブックに弟の勇士を、描いていた。

オスカルは、それならばと、アリエノールに声を掛け、協定を結んだ。
アリエノールが、立っている所へ、オスカルが近づいて行った。大袈裟に礼をし、手を取ると、口づけた。アリエノールが、膝を曲げて、応えると、2人はメヌエットを踊りだした。

それも、オスカルが男性を務めたかと思うと、次には、アリエールが、男性の踊りを披露し、遂には、2人で男性の踊りを見事にした。しかし、音楽がない・・・と、思ったら、2人が口ずさみだした。それも、音程を、滅茶苦茶にして・・・。

見ていたアンドレが、爆笑しだした。見られている、フランソワも笑い出しそうな、口元を必死に堪えていた。そして、この様な家族を持ったことに、泣きたくなると同時に、愛情をいっぱい告げたくなった。だが、彼は任務中なので、それは禁止されていた。

だもんで、オスカルは、ダブル・アンドレにも声を掛けた。四人で、フランソワの周りで、手をつないで、(^^♪『かごめ、かごめ』を歌い、スキップしながら回り始めた。

そして、歌い終わると、四人が一斉にしゃがんだ。フランソワの前には、オスカルが座っていて、フランソワを見上げながら、ニヤリと笑った。

フランソワは、限界だった。笑いの渦は、腹を超えて、喉元まで達し、堪え過ぎたので、あと一歩という所で、口から大爆笑が出るところだったが・・・

そこに助けの船がやってきた。衛兵交代の時間である。フランソワは、定められた、儀式を行い、肩を震わせ、笑い、頬を膨らませ、奥へと猛ダッシュで消えていった。

その晩、ローマのカフェに、グランディエ一家が集まった。先ほどまで、笑う事が出来なかったフランソワが、一番笑い転げて、遂には、椅子から転げ落ちた。

  *******************

子ども達も、巣だったな。

あゝ、我々は、用無しだ。

では、如何しようか?

ふふふ・・・。

行くか?

もう、帰るか。では、無くなったのだな。

そうだな。でも、故郷だ。

パリ、ヴェルサイユ、アラス・・・

変わっている・・・よな!

・・・。

アラン、いるかな?

まだ、一生分の片想いとやらに、しがみついているのだろうか?

多分な!

相手も生きているのだろうか?

生きているぞ!

なんで、知ってるのだ?

ふふ・・・、今、おれの隣にいる。

オスカルは、隣に立っているアンドレの向こう側を見た。

誰もいないぞ!
え゛・・・わたしなのか?

気がつかなかった?

全然。
では、わたしは、アランに酷いことをしてしまったかもしれないのだな。

まあな、傷口に塩をすり込む様な事をしていた。

会ったら・・・もう一度、すり込んでやろう。
それが、せめてものお詫びだ。

さて、西を目指して、行くか、

あゝ、フランスが、如何変わっているか、見てみたいな。

こうして、オスカルとアンドレは、フランスに帰郷の、旅に出た。


だが、会いたかったアランは、もうこの世には居なかった。

  FIN

ミケランジェロ広場は、1865年に出来ました。
時代考証無視の拙ブログ、お許しください。
どうしても、フィレンツェを見渡せる、この広場に立って欲しかったのです。
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