新緑の頃、燦々と降り注ぐ陽光の中、グランディエ家の前に、大型の馬車が停まっていた。

一見質素だが、造りも、素材も特上だった。車輪も、馭者台、馬具、背後の荷台、全てがエルメス社のものだった。しかし、それらに全くエルメスマークは、付いていなかった。特注の上の特注だった。

馬車の周りでは、アンドレ、オスカルはじめ子ども達が、近隣の者たちに、別れの挨拶をしていた。主婦たちは、隠す事もなく、自らの素性を話し、飾り気のないオスカルがすっかり気に入ってしまい、あれこれと世話を焼いてくれた。

アンドレは、仕事が休みの日には、家の修理を、快く引き受けてくれた。
また、子ども好きで、何処の誰でも喜んで遊んでくれた。

それに、ハンサムだったから、皆憧れて、もし自分が独身だったら、もう少し若かったら、アンドレも独身だったらとも、思った。しかし、オスカルとアンドレが並ぶと、自分はお呼びではないと、諦めた。

子ども達のなかには、マリー・テレーズ、シャルルもいた。
すっかり、街の子どもになっていた。

そこに、アランがやって来た。
おう!手伝いに来たぞ!何でも言ってくれ!

アンドレは、殆ど業者がやってくれる。子ども達にも挨拶をしてやってくれ。オスカルも向こうにいる。礼を言いながら、伝えた。

オスカルは、アランを見つけると、
しばらくは、会えないな!世話になった。
そう言いながら、アランの両腕をバンバンと叩いた。

と、殊勝な事を言ったかと思ったら、
おい!しばらく会えないのだ!
最後に、おまえの青いケツを見せてくれ!
そう言いながら、アランの背後に廻ろうとした。

アランは、ズボンをしっかりと押さえて、後退りした。
すると、オスカルは、
なんだ、ケチだな。
永遠の片思いの彼女には、見せたのか?

これを聞いて、アランは逃げて行ってしまった。
それを聞いていたアンドレの肩は、クックックと動いていた。

その間にも、引越し業社が荷物をどんどん運んでいる。
1メートル四方ほどの、天地無用、『精密機械扱い要注意』と書かれた木の箱が、3個あった。

引越し屋が「なんだい?これは?やけに重いな!」「あゝ、仕事で使う。コンピュータが、入ってる。向こうに着いたらネットで仕事を探すのだ。

それに、面接はZOOMだ。壊れたら、大変だ、丁寧に扱ってくれ!

あと2個は、プリンターだ、家庭用とA1でもプリント出来る業務用だ。こっちも丁寧に扱ってくれよ」アンドレは、それが出てくると、近づいて行き、置き場所を指定した。

業者が、なんだい?コレは?と、聞いてきたのだ。
無理もない荷物の、2つは、そんなに重くはないが、もう一つはやたらと、重かった。

だが、アンドレの小難しい解釈を聞くと、訳が分からないので、それ以上聞く事をしないで、作業に没頭した。

しかもその中には、オスカルの宝物になった、ドレッサーもあったので、訝しがるものもいなかった。

それぞれ、別れを済ませると、馬車の人となった。

こうして、グランディエ一家と国王一家は、パリを後にした。
馭者台には、アンドレとフランソワを抱いたオスカルが座っていた。

馬車は、のんびりと走っていた。
実際、急ぐ旅でもなかった。

馬車が、動き出すと同時に、国王が、箱の中から這い出して、
「いつ、国境を越えるのだ?わしはそれまで、生きた心地がせん!」

「陛下、お願いですから、国境を越えるまで、顔を出さないで頂きたい。
本来なら、パリのリヨン駅から、TGVに乗れば、4時間ほどで目的地の近く迄行けるのです。

しかし、それでは、目立ってしまいますので、馬車にさせて頂いたのですよ。
お願いします。生きた心地がしないのなら、箱の中に隠れていてください」

「それなら、一等の特別個室にすれば、問題なかったのではないか?」
オスカルは、頭を抱えてしまった。

そして、一年近く、同じ屋根の下で暮らしてきた気安さで、
「陛下!そんな贅沢をするのは、陛下位です。
捕まえてくださいと、言っているようなものです」
怒鳴ってしまった。

オスカルの隣で、アンドレが、くつくっくっ・・・と、肩を揺らしながら、手綱をとっていた。

国王陛下は、懲りずに言った。
「そうか・・・。でも、わしも王妃も処刑された事になっているのではないか?
もう、わしらは、此の世には存在していないのじゃないか?」

オスカルは、ウンザリしながらも、フランソワを大事そうにあやしながら、酷く真面目な声で言った。
「それは、表向きです。
本当に陛下御一家を探している、革命派たちは、動いています。

とにかく、顔を出さないで下さい!
今度、出てきたら、陛下と言えども、
箱に押し込めて、子ども達4人を上に乗せて、
二度と出てこられないようにしていただきますぞ!」

国王は、それを聞いて、コソコソと荷台にある箱の中に消えた。
すると、シャルル王子が、
「とうさまが、箱の中に入っていないと、ぼくが、寄りかかる所が無くなるから、乗り心地が悪いの。オスカルが言うように、箱の中に入っていてください」こう言った。

3個の大きな箱は、一番重いのを真ん中に、左右にやや軽いのを横に並べて置いてあった。その3個の箱は馬車の前の方に置かれていて、子ども達が寄りかかれるようになっていた。

勿論、その中には、国王一家の大人たち・・・先ほど顔を出した。国王、アントワネット、エリザベートが入っていた。そして、それぞれ窒息しないように、空気穴があけられ、また、脱水症にならないように、マイボトルが入っていた。

オスカルが、アンドレに言った。
「相変わらず、ご自分の立場が分かっていらっしゃらない。
先が、思いやられる」

「ふふふ・・・でも、近衛時代は付き合って来たんだろう?」
「あの頃は、まだ、平和だった。それに、ほとんど、狩猟のお供だったから気楽だ」
「まあ、先を急ごう。怪しまれない程度にな」

こうして、馬車は野を越え、山を越え、遂に国境を越えた。
国境に近い村をアンドレは、用心のため通り過ぎ、次の村に向かった。
そこで、国王一家は、やっと外の世界を見ることが出来た。

オスカルが、不思議そうに言う。
「あの、アントワネットさまが、駄々をこねなかったのが不思議だ。
フェルゼンが絡んでいることを、お察しなのか?女の感は鋭いからな」

「おまえだって、オンナだろう?時々、ドキッとさせられる事があるぞ」
アンドレが、笑って言った。

一行は、村でも良さそうな宿屋で食事を取り、休息した。
皆、窮屈な思いをしていたので、思いっ切り身体を伸ばした。

早速、陛下が聞いてきた。
「これからどうするのだ?
我々は、オスカル。そちを信じてここまで来たのだが、その先の事は、知るとわし達の身に危険が及ぶからと、何も知らされていない。

何処に行くのか、それに、何処の国へ行くのかさえ、分からないまま付いていくのも、不安なものだ。それより、ここは何処の国なのだ?」

オスカルは、最も妥当な事だと思ったが、宿屋で話して万が一漏れたら、ここ迄の苦労がまずの泡だ。
それにしても、陛下の、話し方も気になる。アレほど平民言葉をお教えしたのに・・・
ふう・・・オスカルは、ため息をついた。

オスカルは、
「馬車に戻ったらお話しします。
そろそろ宜しいですか?」

皆、グランディエ家で、ある程度、庶民の食事をとっていた。しかし、この宿の食事は、口に合わないようで、子ども以外は、余り食が進まなかった。
一行は馬車に戻り、子ども達は外で遊び、アンドレが見守っていた。

オスカルが、話し出した。
「ここは、スイスです。これから、ローザンヌに向かいます。途中、治安の良さそうな村があったら、泊まる予定です。

それから、モントルーに行きます」
心配性の国王は、
「そこからどうするのだ?」
不安でたまらない様子で聞いてきた。

オスカルが、チョットだけ、済まなさそうに言った。
「そこからは、わたしも分からないのです。
ある人物と、出会って、そこで、わたしたちとは、別れます。

その人物との間にも、何人かいて、その中の一人が、フェルゼンと懇意だそうです。なので、何かあった時、わたしたちも身を守りたいのです。

それに、陛下もシラを切れます。誰か知らない奴らに、拐われた。と言えるよう、今回は何人か人を介しています」

フェルゼンの名を聞いて、アントワネットは、目を潤ませた。
一方の国王陛下は、ホッとしたようだが・・・。

「そちが、知らないとは、信じられるのか?
フェルゼン伯爵との間に何人いるのか?
フェルゼン伯爵は、何処に我々を連れていこうというのだ?」
国王は、質問攻めだ。

「わたしも、何も分からないのです。
実は、わたしも、フェルゼンとは、1度だけやり取りしただけで、その後は仲介のものと、連絡を取りました。

今回は、絶対に失敗出来ないのです。ヴァレンヌの時を思い出してください。

それに、今度こそは、ギロチンだけでは、済まないですぞ!これは、決して脅しではないのです。わたしたちも、命をかけているのですから・・・。」

アントワネットが、早くフェルゼンに会いたい為か、
「あなた、オスカルを信じましょう。私達にはこれしか道はないのです。それに、1年以上も、匿ってくれて、それだけでも用意周到ではないですか」

国王は、相変わらず、優柔不断で、どうしていいのか分からず、馬車のなかで、あちこち見渡す。しかし、のんびりした村の風景が見えるだけだった。

そこへ、アンドレが、
「そろそろいいか?出かけないと、今夜の宿につけるか分からないぞ」
国王の、優柔不断さなど、無視して出発を促した。

子ども達が、馬車に乗り込み、オスカルとフランソワが、馭者台に乗り出発した。今回は、村民も誰も怪しむ者は居なかった。

馬車は、ゆっくり走った。これからは、後ろに乗っている者も、外を眺められ、スイスの山々を見上げた。

夕方、落ち着いた村に到着した。アンドレが、宿屋を探し、皆ホッとした。
また、体を伸ばした。前の村よりも伸び伸びとしていた。

村の掲示板があって、国王陛下が興味を持って眺めていたが、オスカルに後ろ襟を引っ張って、泣く泣く宿屋に入った。

夕食は、楽しいものだった。
翌朝は、ゆっくりと休んで、ゆっくり出発する予定だ。

しかし、アントワネットが、着替えが欲しい、と言い出した。

グランディエ家の荷物が多すぎた。実際、オスカル達は、フランスを捨ててきた。それなので、これから、落ち着く先を探さなければならない。よって、家財道具一式を馬車に乗せ・・・また、そうしないと、パリのアパルトマンで、怪しまれてしまう。

だから、元々持ち物のない、国王一家の荷物など、考えてもいなかった。
それに、どうせ、国王一家はフェルゼンに会ったら、いろいろ手に入るだろう。

そう思って、国王一家の荷物は最低必要源しか持って来なかった。だが、アントワネットにしてみれば、久し振りにフェルゼンに会うのである、新しいドレスを着たかった。

しかし、積んでいなかった。オスカルは、間に入っている者が、用意しているでしょう。そうとしか言えなかった。

朝食の時間になった。
朝食室にみんな集まってきた。

だが、陛下が、いなかった。

オスカルは、またか、どうして優柔不断なのに、やる事は、突拍子もないことをするんだ?と、自分の事を顧みずに、毒づいた。
そこへ、ニコニコと陛下が、スキップしながら、戻ってきた。手を後ろに組んで・・・。

オスカルが、国王相手に怒鳴った。
「いい加減にして下さい。責任を持ちませんぞ。それとも、此処に残りますか?」

国王は、相手にせず、かえって清々しい様子で答えた。
「あゝ、そうするつもりだ」

全員が、鳩が豆鉄砲を食ったようになった。
あっけらかーん!

アントワネットが、焦って聞いた。
「ど、どうされたのですか?」
(あら、この人、いじけるタイプだったかしら)

国王は、嬉しそうに言った。
「わしは、この村に住む事にした。village peopleになる。
村の鍛冶屋に、なるのだ。
もう、話もつけてきた」

皆、声が出なかった「え゛!?」としか・・・。
かろうじて、アントワネットが、気を取り直して、恐る恐る聞いた。
「陛下、どうしてまた・・・。」
アントワネットは、陛下の気が狂ったと思った。

「実はチュイルリーにいた時から、鍛冶場が恋しかったんだ。オスカルの所にいた、一年は馬車の解体ばかりだったが、それでも、自由になれると言う喜びを知った。だから、これからは日がな一日鍛冶場で、過ごしたいと夢を見ていたんだよ。

しかしな、アンドレが、働いているのを見て、収入を得るというのは、難しいとも実感したのだ。

だから、殆ど諦めていた。
その時、この掲示板を見て、これだ!と、今朝行って来た」


求む鍛冶屋

経験…ズブの素人不可
   趣味でも多少の予備知識必要
年齢…不問
性別…なるべくなら、男
腕力…ある方が良し
美醜…なるべくなら、美系
採用手順…面接及び実技試験
採用日時…気にいればその場で、採用可



国王が続けた。
「爺さんが1人でやっていて、となり村からも仕事が舞い込むから、人手が欲しいらしい。それで、求人情報を出したのだ。それに加えて、後継ぎがいないから、後を継いでくれる人ならなお良い。と言われた。

ただ、言葉遣いが、可笑しいから、おいおい直していくように・・・と注意された。そうだ、それから、上から目線で話すのも良くない。こちらは、仕事を請け負うんだ、そのつもりだな。とも、言われた」
国王は、嬉しそうに言った。

オスカルは、呆れながら、
「で、実技試験を受けて、如何でしたのですか?」
一応聞いてみた。

国王は、嬉しそうに、
「まだ、商売にはならないが、もう少し経験を積めばモノになる。ココで働きたければ、採用する」と言われたので、決めてきた。

アントワネットは、驚いたが、どうせ、政略結婚で一緒になった仲、どうでもいいのだが、一応聞いた。
「陛下。わたくしたちと、一緒に行かないのですか?子ども達を・・・」

国王としては、珍しくきっぱりと言った。
「王妃、貴女は、フェルゼンの所に行きなさい。もう、フランスの王妃はいなくなったのです。貴女は、1人の女性として、フェルゼンと仲良く暮らしなさい。

勿論、シャルルも連れて・・・子どもは、実の父親と一緒がいい。

宮廷にいた時は分からなかったが、オスカルの所にいた時、シャルルの物腰、動きのひとつひとつがフェルゼンに似ていると、実感した。血は、受け継がれていくものなのだな」

アントワネットは、ビックラポンした。
「へ、陛下・・・。も、申し訳ありません。決して、陛下を裏切ろうとしたわけではないのです。でも、フェルゼンへの想いが・・・」と、白々しく、一応言ってみた。

「責めているのではない。貴女が、普通の女としての幸せも求めて、生きてきた事を嬉しく思っているのだよ。

わしは、もう、人に傅かれて暮らすのは、懲り懲りなのだ。
これからは、人の為に生きていきたい。
(え゛・・・。国王の仕事って、人の為にあるのじゃないの?)

だが、貴女は貴族としての生活が似合っている。
行きなさい、フェルゼンの元へ・・・。」

「へ、陛下・・・。」アントワネットは、涙で、マスカラがボロボロに落ちていた。

マリー・テレーズが、2人を交互に見ながら考えていた。そして、

「お母さま、私はお父さまと一緒に残ります。
だって、お父さま、1人じゃ寂しいでしょ?
それに、私がお母さまと、行っても、フェルゼン伯爵に邪魔に扱われるかもしれないわ。

それに、オスカルの所にいた時、近所の子供たちと遊んで楽しかったの。だから、わたし、此処でお友達をいっぱいつくって楽しく暮らしたいの。お屋敷の中に閉じこもるのは、もう嫌だわ。ここの方が、きっと、ずっと楽しいわ」

エリザベートも言った。
「私も残ります。兄のお世話をする人が必要なようです」

オスカルが、アンドレの方を見て、目で話す。本気のようだな!
アンドレは、あゝ、マジだ。それに、やり遂げるだろう。そう答えた。

こうして、馬車には、グランディエ一家と、
アントワネット、シャルルを乗せて動き出した。
村に残る、3人は笑顔で見送った。

やがて、馬車はレマン湖に沿った街道を走り出した。
ルイ・シャルルが、顔を出して、
「海だ!海だ!初めて見た!」
と言うものだから、オスカルが
「シャルル殿、コレは海ではなく、湖です」

するとシャルルが、
「どう違うの?」
と、一見簡単な問いをした。だが、簡単すぎるので、答えに窮してしまった。

困ったのは、オスカルとアンドレだった。
2人も、湖を見るのは、初めてだった。オスカルが、取り敢えずの知識として、
「海は、しょっぱいですが、湖は、しょっぱくないです」と、答えた。

子ども相手には、このくらいで良いだろうと思った。
しかし、シャルルは、
「海には、波があるって聞いたけど、此処から見ると、湖にも波があるよ!」

オスカル、ピーンチ!
オスカルは懐から『オスカルの備忘録』を出して、少し調べさせてください。
そう告げると、備忘録に『海と湖の違い』と書いた。

それを見ていた、アンドレが、
「ふーん!まともな文字も書くんだな!」と感心して言った。

するとオスカルは、
「何言っているのだ!コレまでだって、ちゃんと書いてあるじゃないか。」
そう言って、パラパラマンガをめくり出した。

「ほら、ここが、ミラボー伯の死去、それからここには、フェルゼンが、我が家を訪れる項・・・。」
自慢げに、アンドレに見せた。

「え゛!ソレ、文字になってないじゃないか?
おれには、マンガにしか見えない。」

「よく見てみろ!わたしが、手綱を持つ。」
オスカルは、手綱を引き取ると、アンドレに備忘録を渡した。

アンドレは、線になっている所に文字が隠されているのかと、備忘録を近づけてみたり、離してみたが全く分からなかった。ついでに、ひっくり返してもみた。それから、透かしてみた。ダメだった。

アンドレが、
「降参!お手上げだ!」ガックリしていった。

するとオスカルが、
「ふん!おまえなんかに、見破られるようには、書かん!
今回のことは、国王御一家の命も掛かっているが、我々の命も掛かっているのだ。

いつ何処で、見られるかわからない。
おまえみたいに、律儀に文字でなんて書いていられるか!
おまえが、いつ落とすか、引ったくられるか、毎日、冷や冷やして帰りを待っていたのだぞ」

アンドレは、またまた、妻の・・・ジャルジェ准将には、一生尻に敷かれるのだと、覚悟した。

ローザンヌを抜けると、一気にのんびりとして来た。
途中、指定された宿に泊まって、いよいよ明日は、モントルーだ。

翌日、午前中にモントルーに到着した。
馬車をゆっくり走らせると、目的地に着いた。
「アンドレ、アレだ。
あの、ブロンズ像の所で止めてくれ」

なんだか分からない、奇妙なポーズを取るブロンズの周りに、子供を始め全員が集合した。

オスカルが、
「この像と同じポーズを取れば、我々と気付いて近寄って来る事になっています。アンドレ?」

オスカルは、当然と、アンドレにポーズするよう言ったが、アンドレは、
「おれは、手が塞がってる。他の人にしてくれ」と、懐の『アンドレの備忘録』を押さえながら行った。

オスカルも、フランソワを抱いているので、手が塞がってる。アントワネットが、一歩下がった。しかし、子ども達も、オスカル、アンドレもアントワネットに期待を込めて見つめた。

「私に、あのマッチョな、ヘンテコな男のマネをしろと言うのですか?
それに、私はドレスです。全く同じには、なりません」
アントワネットは、憤慨して言った。

「大丈夫です。アントワネットさま、上半身だけでも、わかるでしょう」

シャルルも「ママン、頑張って!」と、応援した。
アントワネットは、仕方なく、ブロンズ像のポーズを取った。

同じなので、アントワネットは、湖の方を向いている。
そこで、皆んなが、もっと手を高く、顔の向きが違う、などなど注文が多かった。

「この、左手に持っている物は何?」アントワネットが、聞いた。
杖じゃないですか?銅像などが出来るのです。
きっと、老人でしょう。

ただ1人、プチ・アンドレは、ブロンズ像の絵を描き、湖を描き、そしてオスカルに言った。

「母さん、ブロンズ像のバックに湖を描きたいのに、なんでこのおじさんは、湖の方を向いているんだろうか?」
「多分、湖の景色が好きだったんだろうな!」

アントワネットが、
「ねぇ、まだ来ないの?腕をあげているのが、疲れてきたわ」

「もう少し、頑張ってください。
ポーズしてないと、ダメなのです」

その時、誰にも気付かないように、アンドレ一行の馬車の隣に、ロールスロイス・シルバーシャドウが止まった。

1人の黒服の男が近寄ってきて、オスカル・フランソワさまですね?
声を掛けてきた。

マイアミ・ビーチか?
オスカルが、幾分緊張して、言う。

此処までは、全て順調です。これからも、完璧に運ぶでしょう。
マイアミ・ビーチが、言った。

オスカルが、言った。
「間にいる人間に、会いたいのだが!」

マイアミは。
「残念ながら、それはご遠慮ください。あなた方のためです。
彼の名は、フレディ。大富豪で、変わり者。
今朝も張り切って『エ〜〜〜オ』を何度もやっていました」

オスカル・・・???・・・
「フレディ・・・英語圏なのか?」

マイアミは、笑いながら言った。
「改名しています。猫が、お好きで、ご自分でも何匹飼っていらっしゃるのか、分からないようです。ですが、名前は覚えていらっしゃいます。

あゝ、オスカーと言う、マルマル太ったのもいます」

オスカルが
「そのフレディ・・・なんちゃら・・・。せめて、フルネームを知りたいが・・・。」
「フレディ・マーキュリーです。
その、ブロンズ像が、彼です」

こうして、アントワネットとルイ・シャルルは、車中の人となった。

  *******************

残った、グランディエ一家、レマン湖へと張り出したデッキプレートへ降りる、3段の階段に座っていた。

これからどうする?
オスカル、アンドレ、どちらともなく聞いた。

「おばあさまの部屋で見た、教会に行きたい」
アンドレが、言った。

どんなのだ?
オスカルとアンドレが、聞いた。

アンドレが、絵を描いた。
フィレンツェのドゥオーモだ。

行ってみるか?
道筋が分かるのか?

ちょっと待っていろ!
アンドレが、近くのキオスクに走って行った。

フィレンツェの、地球の歩き方を買ってきた。

オスカルが、ペラペラッとめくると、
わたしは、ミケランジェロのダビデ像を見たいな!

アンドレ・・・複雑・・・。
おまえ・・・どうしてだ?

オスカルが、真っ赤になって、
そう言う意味ではない、ミケランジェロの最高傑作を見たいだけだ!

アンドレは、笑いながら・・・、
おれ、サバティーニに、行きたいな。

とにかく、行ってみるか!

まあ、もう少し、モントルーで、ゆっくりしても・・いいのじゃないか?
眺めもいいし、ゆっくりできそうだ。

ところでオスカル?本当にあの銅像の姿をしていなければ、マイアミ・ビーチは、現れなかったのか?
アンドレが、オスカルの顔をのぞき込んで聞いた。

オスカルは、ドキッとして、
遠い、昔にアントワネットさまに嫌がらせを受けた、意趣返しだ。
笑いながら答えた。

アンドレは、その遠い昔に、オスカルがフェルゼンを巡って、アントワネットと自称女の戦いをした事。その夜、己を押さえきれなくなって、その末、ジャルジェ家を出た事を思いだした。苦い思い出だった。だが、遠い昔の事だった。

追伸

おまえ、ジャポンの事、まだ何か覚えているのか?

うん、雑木林を走った事、それから、毎朝おまえが、ホカホカの白い食べ物を持って来てくれた事、それから、………びしょぬれになって、何故だか悲しかった事

BGM 女性版
BGM 男性版



おまけ、

マリー・テレーズは、鍜治場に見習いに来た青年と恋に落ち、めでたく結婚。
エリザベートは、一生を、兄と、仲良く暮らした。


その後・・・。
オスカルとアンドレが、レマン湖を訊ねるが、フレディ・マーキュリーは、不治の病の為、亡くなっていた・・・。
BGM no one but you

その為、アントワネットとフェルゼンの行方は杳として知れず。


さらに、おまけに、つづく




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