テーブルに着くと、アンドレがいつものように給仕をしてくれた。
勿論、先ほど見た、オスカルの顔色から、彼女が、今朝、食べたくなるような物を見繕ってくれている。
だが、そっと皿を置き、・・・どうぞ・・・とだけ、声が頭の上から聞こえた。
オスカルは寂しさを感じた。
プレートが置かれる度に、顔を上げて、愛しい男の顔を見たいと思ったが、
視線を合わせてしまう事を恐れて、
アンドレの無駄のない動きをする手指しか見る事が出来なかった。
ふと、優しい視線を感じ、恐る恐る顔を上げると、いつも優しい母の微笑みに出合った。
オスカルは、アンドレに夢中で気付かなかったが、愛娘が朝食室に入ってきた時から、
ジャルママは嬉しそうにオスカルを見ていた。
慌てて、オスカルが、
「母上、おはようございます」声を掛けた。
「ほほほほ・・・おはよう、オスカル。
貴女ったら、アンドレしか目に見入らないようですね」
と、ジャルママは言うと、楽しそうにまた、笑った。
「いえ・・・そのような事は・・・」
と、オスカルは、せっせと食べる事に専念してみた。
アンドレが、皿に載せてくれる料理は、食欲の無い朝でも食べやすいものばかりだった。
「いいのですよ。貴女が、貴女に相応しい殿方をやっと見つけてくれて。
私は、母親として嬉しいのですよ。
貴女ったら、軍務に夢中で、ご自分の幸せには目を向けないのかと、
心配していたのです。
そう・・・このままでは、行かず後家になってしまうかと思っていました。
ルイ15世の三姉妹のようにね」
オスカルは、アンドレが置いてくれたクロワッサンにかぶりつきながら、
「母上、母上は宜しいのですか？
このオスカルの愛する男性が、アンドレで？」
口を、(´～｀)ﾓｸﾞﾓｸﾞとさせながら、言った。
「ほほほほ・・・これ以上の組合せは考えられないじゃあないの。
アンドレなら、幼い頃から良く知っているし、
貴女に、これ以上相応しい殿方は、この世にはいないわね！」
オスカルが、ほっと溜息をつくと、オスカルの頭の上でもため息が聞こえた。
が、そこに、
「私は大反対でございますよ！奥さまが何と仰ろうと！
身の程をわきまえるように、馬鹿孫息子にこれから、
きつ～～～～～～く、ヤキを入れておきますから・・・、
お嬢さまも、眼をお覚まし下さいませ！
どうせ、この、たらしで、こましの馬鹿孫息子にそそのかされたのでございましょう！
早く熱を冷まして、お嬢さまに相応しい、殿方を見つけて下さいませ。
それが、ばあやの一生のお願いでございます」
アンドレが、銀のトレーを落とし、
カ～～～～～～ン
という音が朝食室に鳴り響いた。
それまで、いつもより、食欲全開で朝食と格闘していた、オスカルの手が止まった。
オレンジを手にしていたジャルママは、思いっ切りオレンジに親指を突き刺した。
「で・・・でも、ばあや、旦那さまも、とても喜ばられて、
打ち合わせにと、もう、宮廷にいらっしゃっているのですよ。
それと、『たらし』と『こまし』って、なんですの？
旦那さまも『たらしでこまし』なのかしら？」
ジャルママが、冷静さを戻しながら言った。
ばあやが、慌てて、奥さまがお使いになる様な言葉ではありません！と告げた。
が、気が気でない、オスカルが一気に話し出した。
「そうだ、ばあや！国王陛下もお認め下さって、
こうして、わたし達は、輝かしい未来に向かって、
暮らしていくのだから。
わたしのアンドレに、ヤキなど入れないでくれ！
もう、出仕の時刻だから、これ以上は話をできないが、
帰ってきたら、ゆっくり話を聞いてくれ！
それと、わたしにも、『たらしで、こまし』の意味を教えてくれ！
アンドレを形容する言葉なら、ぜひ知りたいものだ！
いいね！ばあや！？」
マロン・グラッセは眼鏡の奥から、ばつが悪そうにオスカルを見て、そそくさと、厨房に消えていった。
オスカルは、今度こそアンドレの目を見て、安心し、また、アンドレを安心させたかったが、出来なかった。
ジャルママを見ると、ため息をつきながらも、おっとりと微笑んでいて、オスカルも少しホッとできた。
そして、ジャルママは、オスカルに、
「オスカル、意味を知るまでは、『たらし』と『こまし』は、
使わないでおいた方が宜しいようです。
そうですね、アンドレ？」
と、先ほどから、ハラハラと見守っていたアンドレに、確認した。
アンドレは、目を閉じて、畏まって礼をした。
出仕の為、オスカルが玄関ホールに向かうと、使用人たちが見送りの為一列に並び、
そのなかに一際背の高いアンドレの姿もあった。
アンドレの隣に並ぶ、ばあやに、もう一度、ヤキを入れないよう、約束を取り付けた。
オスカルが振り向くと、オスカルの知らない使用人がいた。
ロジェと名乗った。
オスカルの護衛には、ロジェが付くことになったのである。
アンドレとは会話が出来ないので、ロジェから聞くところによると、宮廷から帰って来て直ぐアンドレがロジェに訳を話し、護衛を頼み、衛兵隊のあらましを申し送りしたようだった。
*************************
オスカルが衛兵隊に到着すると、門には横断幕が掛かり、不細工な花飾りも付いていて、手の空いている隊員たちが大勢集まっていた。
横断幕には『隊長！アンドレ！おめでとうございます！』と、書いてある。
それを見ただけで、オスカルは目頭が熱くなり、長い１年をどうにか耐えよう！
耐えてみせるとも！と、決意した。
ロジェを伴い、司令官室に向かう。
既に到着していると思っていた、新しい秘書はいなかった。
続いて入ってきた、ダグー大佐が告げた。
「新しい秘書は10時頃、今までの職務の引継ぎを終えてから到着すると、連絡がございました。」
「そうか・・・では、それまで、訓練を見て来る。
到着したら知らせてくれ！」
と、オスカルは練兵場へと向かった。
もちろん、ロジェも後に続いた。
*************************
しばらくすると、秘書が到着したと知らせが来た。
司令官室に通すように告げると、オスカルも戻った。
どんな奴が来たのだ！
その度胸に免じて、面だけでも、おがんどいてやるぞ！
役に立たなかったら、即座にクビにしてやる！
どんどんどんどん、クビにして、アンドレにしか務まらない事を示してやろう！
オスカルは、ニヤリと笑いながら、アンドレの笑顔を青い空に思い描いた。
（けど、その顔は、おぼろげにしか思い浮かばなかった）
司令官室のドアの前に見慣れない、雅やかなイケメンが立っていた。
オスカルが、
「おまえは、誰だ？何の用でここに立っている？」
まさか、この男が秘書じゃあないだろうな？と、思いながら声を掛けた。
「少佐の共でございます。ジャルジェ准将。」
男は丁寧に頭を下げた。
ほう！では、秘書は軍人か、・・・まあ、軍務を預かる書類を扱うのだ、国王陛下もお考え下さったのかな？
・・・と、オスカルは、勢いよく司令官室のドアを開けた。
オスカルが、ハッとすると同時に、おおらかに直立不動の男が、声を発した。
「隊長・・・おひさしゅうございます」
オスカルは、(・_・)目が点になってしまった。が、かろうじて尋ねた。
「こっ・・・これはなんの、冗談だ。ジェローデル少佐」
ジェローデル少佐は、慌てることなく、オスカルの手をうやうやしく取ると、
「この幸せを、分かって頂けるでしょうか？
美しいあなたの、秘書として、国王陛下にこの衛兵隊への出入りをゆるされました」
「え゛～～～～～～～！！！
おまえに、秘書が務まるのか？」
「陛下のご命令には逆らえませんぞ！
それに、私が貴女の側にあれば、
この私にも、再度のチャンスが巡って来るとの、・・・・・・
いえいえ、あなたとアンドレの不正を見破れるとの、
陛下のご配慮です。ご覚悟ください。美しい方」
う～～～ん！オスカルの頭の中はとぐろを巻き始めた。
腕組みをして、考える。
果たして、これでいいのだろうか？
昨年、結婚の申し込みを蹴ったばかりの男である。
あの時、どんなにアンドレが荒れたかと思うと、彼の心中を思って考えてしまう。
しかし、長年にわたり、近衛で付き合ってきたこの男なら、秘書として適任なのかもしれない。
しばらく、様子を見るとするか・・・。
覚悟を決めると、オスカルは、
「では、ジェローデル少佐、早速仕事にかかってくれ！
そこの、アンドレの机の上に山になっている書類の仕分けから始めてくれ！」
オスカルは、この数週間余り、己が、職務をサボり続けていた証拠ともいうべき、机の表面がみえないほどに、つもりに積もった書類の山を指さした。
それは、それは、見事に積まれていて、よくも落ちてこないものだと、感心さえしたくなるものだった。この国が、地震大国でなくて、良かったという事だろうか・・・。
今度は、ジェローデルの目がテン(・.・;)になった。が、この伊達男、一部の隙をも見せず、机の前に立つと、
「区分した書類は、いかがいたしましょうか？」
と、声を掛けてきた。
書類の山を見て、逃げ出すかと思っていたオスカルは、床に座り込みたくなった。
それでも、気を取り直すと、
「その山の中に、木箱があるはずだ！それにアンドレはいつも、『未読のままサインして良いもの』、『一読の上、サインすべきもの』、『返信すべきもの』、そして『早急に返事すべきもの（判断がつかないもの）』に分けてくれていた。おまえならものの5分で片付くだろう！」
と、言って『ふん！』と笑ってやった。
「畏まりました。
その前に、私の従者をご紹介しても宜しいでしょうか？」
オスカルが頷くと、ジェローデルは指を鳴らした。すると、ドアの外に立っていた、いかにも近衛といった見目麗しい男が礼儀正しく、入ってきた。
「コルミエ少尉です。次の近衛連隊長の副官に相応しいと思い、傍に付けています。マドモアゼルも、ご自由にお使いください。」
「マドモアゼルは、やめろ！ここは、職場だ！」
こうして、『秘書官ジェローデル』の奮闘は始まった。
つづく
勿論、先ほど見た、オスカルの顔色から、彼女が、今朝、食べたくなるような物を見繕ってくれている。
だが、そっと皿を置き、・・・どうぞ・・・とだけ、声が頭の上から聞こえた。
オスカルは寂しさを感じた。
プレートが置かれる度に、顔を上げて、愛しい男の顔を見たいと思ったが、
視線を合わせてしまう事を恐れて、
アンドレの無駄のない動きをする手指しか見る事が出来なかった。
ふと、優しい視線を感じ、恐る恐る顔を上げると、いつも優しい母の微笑みに出合った。
オスカルは、アンドレに夢中で気付かなかったが、愛娘が朝食室に入ってきた時から、
ジャルママは嬉しそうにオスカルを見ていた。
慌てて、オスカルが、
「母上、おはようございます」声を掛けた。
「ほほほほ・・・おはよう、オスカル。
貴女ったら、アンドレしか目に見入らないようですね」
と、ジャルママは言うと、楽しそうにまた、笑った。
「いえ・・・そのような事は・・・」
と、オスカルは、せっせと食べる事に専念してみた。
アンドレが、皿に載せてくれる料理は、食欲の無い朝でも食べやすいものばかりだった。
「いいのですよ。貴女が、貴女に相応しい殿方をやっと見つけてくれて。
私は、母親として嬉しいのですよ。
貴女ったら、軍務に夢中で、ご自分の幸せには目を向けないのかと、
心配していたのです。
そう・・・このままでは、行かず後家になってしまうかと思っていました。
ルイ15世の三姉妹のようにね」
オスカルは、アンドレが置いてくれたクロワッサンにかぶりつきながら、
「母上、母上は宜しいのですか？
このオスカルの愛する男性が、アンドレで？」
口を、(´～｀)ﾓｸﾞﾓｸﾞとさせながら、言った。
「ほほほほ・・・これ以上の組合せは考えられないじゃあないの。
アンドレなら、幼い頃から良く知っているし、
貴女に、これ以上相応しい殿方は、この世にはいないわね！」
オスカルが、ほっと溜息をつくと、オスカルの頭の上でもため息が聞こえた。
が、そこに、
「私は大反対でございますよ！奥さまが何と仰ろうと！
身の程をわきまえるように、馬鹿孫息子にこれから、
きつ～～～～～～く、ヤキを入れておきますから・・・、
お嬢さまも、眼をお覚まし下さいませ！
どうせ、この、たらしで、こましの馬鹿孫息子にそそのかされたのでございましょう！
早く熱を冷まして、お嬢さまに相応しい、殿方を見つけて下さいませ。
それが、ばあやの一生のお願いでございます」
アンドレが、銀のトレーを落とし、
カ～～～～～～ン
という音が朝食室に鳴り響いた。
それまで、いつもより、食欲全開で朝食と格闘していた、オスカルの手が止まった。
オレンジを手にしていたジャルママは、思いっ切りオレンジに親指を突き刺した。
「で・・・でも、ばあや、旦那さまも、とても喜ばられて、
打ち合わせにと、もう、宮廷にいらっしゃっているのですよ。
それと、『たらし』と『こまし』って、なんですの？
旦那さまも『たらしでこまし』なのかしら？」
ジャルママが、冷静さを戻しながら言った。
ばあやが、慌てて、奥さまがお使いになる様な言葉ではありません！と告げた。
が、気が気でない、オスカルが一気に話し出した。
「そうだ、ばあや！国王陛下もお認め下さって、
こうして、わたし達は、輝かしい未来に向かって、
暮らしていくのだから。
わたしのアンドレに、ヤキなど入れないでくれ！
もう、出仕の時刻だから、これ以上は話をできないが、
帰ってきたら、ゆっくり話を聞いてくれ！
それと、わたしにも、『たらしで、こまし』の意味を教えてくれ！
アンドレを形容する言葉なら、ぜひ知りたいものだ！
いいね！ばあや！？」
マロン・グラッセは眼鏡の奥から、ばつが悪そうにオスカルを見て、そそくさと、厨房に消えていった。
オスカルは、今度こそアンドレの目を見て、安心し、また、アンドレを安心させたかったが、出来なかった。
ジャルママを見ると、ため息をつきながらも、おっとりと微笑んでいて、オスカルも少しホッとできた。
そして、ジャルママは、オスカルに、
「オスカル、意味を知るまでは、『たらし』と『こまし』は、
使わないでおいた方が宜しいようです。
そうですね、アンドレ？」
と、先ほどから、ハラハラと見守っていたアンドレに、確認した。
アンドレは、目を閉じて、畏まって礼をした。
出仕の為、オスカルが玄関ホールに向かうと、使用人たちが見送りの為一列に並び、
そのなかに一際背の高いアンドレの姿もあった。
アンドレの隣に並ぶ、ばあやに、もう一度、ヤキを入れないよう、約束を取り付けた。
オスカルが振り向くと、オスカルの知らない使用人がいた。
ロジェと名乗った。
オスカルの護衛には、ロジェが付くことになったのである。
アンドレとは会話が出来ないので、ロジェから聞くところによると、宮廷から帰って来て直ぐアンドレがロジェに訳を話し、護衛を頼み、衛兵隊のあらましを申し送りしたようだった。
*************************
オスカルが衛兵隊に到着すると、門には横断幕が掛かり、不細工な花飾りも付いていて、手の空いている隊員たちが大勢集まっていた。
横断幕には『隊長！アンドレ！おめでとうございます！』と、書いてある。
それを見ただけで、オスカルは目頭が熱くなり、長い１年をどうにか耐えよう！
耐えてみせるとも！と、決意した。
ロジェを伴い、司令官室に向かう。
既に到着していると思っていた、新しい秘書はいなかった。
続いて入ってきた、ダグー大佐が告げた。
「新しい秘書は10時頃、今までの職務の引継ぎを終えてから到着すると、連絡がございました。」
「そうか・・・では、それまで、訓練を見て来る。
到着したら知らせてくれ！」
と、オスカルは練兵場へと向かった。
もちろん、ロジェも後に続いた。
*************************
しばらくすると、秘書が到着したと知らせが来た。
司令官室に通すように告げると、オスカルも戻った。
どんな奴が来たのだ！
その度胸に免じて、面だけでも、おがんどいてやるぞ！
役に立たなかったら、即座にクビにしてやる！
どんどんどんどん、クビにして、アンドレにしか務まらない事を示してやろう！
オスカルは、ニヤリと笑いながら、アンドレの笑顔を青い空に思い描いた。
（けど、その顔は、おぼろげにしか思い浮かばなかった）
司令官室のドアの前に見慣れない、雅やかなイケメンが立っていた。
オスカルが、
「おまえは、誰だ？何の用でここに立っている？」
まさか、この男が秘書じゃあないだろうな？と、思いながら声を掛けた。
「少佐の共でございます。ジャルジェ准将。」
男は丁寧に頭を下げた。
ほう！では、秘書は軍人か、・・・まあ、軍務を預かる書類を扱うのだ、国王陛下もお考え下さったのかな？
・・・と、オスカルは、勢いよく司令官室のドアを開けた。
オスカルが、ハッとすると同時に、おおらかに直立不動の男が、声を発した。
「隊長・・・おひさしゅうございます」
オスカルは、(・_・)目が点になってしまった。が、かろうじて尋ねた。
「こっ・・・これはなんの、冗談だ。ジェローデル少佐」
ジェローデル少佐は、慌てることなく、オスカルの手をうやうやしく取ると、
「この幸せを、分かって頂けるでしょうか？
美しいあなたの、秘書として、国王陛下にこの衛兵隊への出入りをゆるされました」
「え゛～～～～～～～！！！
おまえに、秘書が務まるのか？」
「陛下のご命令には逆らえませんぞ！
それに、私が貴女の側にあれば、
この私にも、再度のチャンスが巡って来るとの、・・・・・・
いえいえ、あなたとアンドレの不正を見破れるとの、
陛下のご配慮です。ご覚悟ください。美しい方」
う～～～ん！オスカルの頭の中はとぐろを巻き始めた。
腕組みをして、考える。
果たして、これでいいのだろうか？
昨年、結婚の申し込みを蹴ったばかりの男である。
あの時、どんなにアンドレが荒れたかと思うと、彼の心中を思って考えてしまう。
しかし、長年にわたり、近衛で付き合ってきたこの男なら、秘書として適任なのかもしれない。
しばらく、様子を見るとするか・・・。
覚悟を決めると、オスカルは、
「では、ジェローデル少佐、早速仕事にかかってくれ！
そこの、アンドレの机の上に山になっている書類の仕分けから始めてくれ！」
オスカルは、この数週間余り、己が、職務をサボり続けていた証拠ともいうべき、机の表面がみえないほどに、つもりに積もった書類の山を指さした。
それは、それは、見事に積まれていて、よくも落ちてこないものだと、感心さえしたくなるものだった。この国が、地震大国でなくて、良かったという事だろうか・・・。
今度は、ジェローデルの目がテン(・.・;)になった。が、この伊達男、一部の隙をも見せず、机の前に立つと、
「区分した書類は、いかがいたしましょうか？」
と、声を掛けてきた。
書類の山を見て、逃げ出すかと思っていたオスカルは、床に座り込みたくなった。
それでも、気を取り直すと、
「その山の中に、木箱があるはずだ！それにアンドレはいつも、『未読のままサインして良いもの』、『一読の上、サインすべきもの』、『返信すべきもの』、そして『早急に返事すべきもの（判断がつかないもの）』に分けてくれていた。おまえならものの5分で片付くだろう！」
と、言って『ふん！』と笑ってやった。
「畏まりました。
その前に、私の従者をご紹介しても宜しいでしょうか？」
オスカルが頷くと、ジェローデルは指を鳴らした。すると、ドアの外に立っていた、いかにも近衛といった見目麗しい男が礼儀正しく、入ってきた。
「コルミエ少尉です。次の近衛連隊長の副官に相応しいと思い、傍に付けています。マドモアゼルも、ご自由にお使いください。」
「マドモアゼルは、やめろ！ここは、職場だ！」
こうして、『秘書官ジェローデル』の奮闘は始まった。
つづく
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