そこへ、ジェローデルが、普段の優雅さとは打って変わって、髪を振り乱し、勢いよく入って来た途端、口を開いた。
実は、司令官室の3歩手前から、勢いをつけて、髪を乱してみたのである。
彼としては、馬車の中で、散々どの様に、オスカル嬢の手を取ろうか、
ああでもないこうでもない・・・と考え、この行動に達したのである。
勢いをつけて入ってきたにもかかわらず、全く息が切れた様子も見せずに、
「マドモアゼル・・・Vアラートを聞きました。
これでやっと、お分かりになったことでしょう。
思っていた通り、あんな奴は、マドモアゼルには、不釣り合いなのです。
今宵は、このジェローデルが、お相手致します。
もう、あのような下劣な男の事など忘れて、
私と2人の未来を語り合いましょう」
馬車の中で、何度も諳んじてきたセリフを、歌うように告げた。
その間にも、コルミエがジェローデルの髪を整えていた。
「ふん!残念だな!一時間も遅刻だ。その間に、フェルゼンと食事をすることになったんだ。おまえと、ご一緒する順番は、永遠にこないぞ」
ジェローデルは、オスカルに差し出した手を引っ込めるタイミングを失って、袖から覗くレースを直すふりをしてみた。
そして、当のフェルゼン伯爵は、ごく普通の貴族であり、昨夜マジで、アントワネットさまとオールをしたので、まだ夢の中であった。
ロジャーが、立ち上がった。彼としては、オスカルのスマホがVアラートを発したのを聞いたが、それが何かを知ることは出来なかった。だが、オスカルの顔色が変わり、スマホをずっと離さずに・・・あちらこちらと連絡を取っていた。それも執務時間なのに。
喉から手が出るほど知りたい情報だった。だが、そうと知られては、また、身分不相応、もしくは、まだ着任したばかりなのに・・・と言われそうで、うずうずしながら、黙っていた。オスカルの慌てた顔をみつめながら。
すると、ご丁寧な事に、ジェローデルが、しゃしゃり出てくれた。
この私が何もかもお話しします。
マドモアゼルの悲しい運命を・・・
と言って、昨夜、マドモアゼル・オスカルが、下賤な使用人階を歩き回り、平民アンドレの部屋を訪れた為、国王陛下が、2人の仲をお許しになるのを、一か月お延ばしになされたのですぞ。
さも、大惨事と言った風にジェローデルは言った。
しかし、当のオスカルは、その程度しか漏れていないのか。
と、がっかりした。(するな!)
「それでしたら、アンドレ・・・という方が、待っていらっしゃるから、お早めにお帰りになった方が、宜しいのではないですか?」
ロジャーは、これは面白くなったと、思いながらも、隊長を心配する部下の姿勢を崩さず述べた。
「胸を突くようなことを言うな、ロジャー。
だが、アンドレは、いつまでもわたしを待っていてくれるよ」
オスカルは、素直に心から感謝しながら、アンドレの顔を思い浮かべながら答えた。
すると、ロジャーが、首をかしげながら聞いてきた。
「そう言えば、隊長。
フェルゼン伯爵って、あの王妃様とナニのフェルゼン伯爵ですよね?
よく、国王は王妃の浮気を許しいらっしゃいますね。
私だったら、大砲をぶっ放してやりますよ」
オスカルが、書類をトントンと揃えながら、ぶっきらぼうに、言い換えれば、興味もなさそうに、何処からぶっ放すんだ?と聞いた。
「海の上からなら何処からでも。
私の大砲の腕前は、ヴェルサイユのこの場所にも、1ミリも狂わずに着弾させて見せます」
勇ましい事だ。
オスカルは、ほとんど相手にせずに言った。
そして、
「国王陛下のご趣味は、存じ上げているのか?
狩猟・・・これは、かなりの腕前だ。
それに、錠前作り。これもなかなかなものだと、お聞きしている。
そして、読書。このフランスにある本は、殆ど読破したとお聞きしている」
オスカルは、恐れ入ったか!とばかりに伝えたが、ロジャーは、
「え゛・・・国王陛下は、ゲイっすか!?」
ロジャーの言葉遣いに、オスカルは眉をひそめた。
すると、ロジャーは、すみません。余りにも驚いたもので・・・。
マジにそういいながら。
「国王陛下は、あのようなお綺麗な王后陛下に、関心がおありじゃないのかと、思いましたので・・・。
陛下は、我艦長と同じく、ゲイなのかと思ってしまいました」
相変わらず、彼には似つかわしくない言葉遣いを続けている。
だが、オスカルには、公私を見事に分けている・・・。と感心させた。
「まさか、現に陛下には、お子さまもいらっしゃる。
おまえのように、女好きではない。一般的な男性だ!」
オスカルは、当然のように答えると、ロジャーも真面目に、
「でも、途中で目覚める方もいますよ。
例えば、艦長も。ある日突然、目覚めたと仰っていました」
「フ~ム・・・。」
オスカルが、考え込んでいると、LINEの着信音がした。
オスカルは、スマホを持ち、
今、話し中なのに邪魔をするな!の顔で、顔認証した。
ラ・トゥールからだった。なので、笑顔に戻した。
『オスカル、久し振りだな!
ここの所、音沙汰無しで、悪かった。
お詫びと言っちゃなんだが、今夜、吞みに行かないか?
最近評判の炉端焼き『権八』だ。
ロドリゲも来る。残念ながら、ド・ギランドは海の上だがな・・・。
8時に予約しておいたから、待っているぞ!』
ラ・トゥールとロドリゲは、多分、きっと、あのVアラートを聞いて、心配して誘ってきたのだろう。そんな事をおくびにも出さずに、通常の飲み会のように誘ってくる。オスカルは、旧知の親友たちに感謝し、心の中で十字を切った。
と共に、誰が、ジャルジェ家の屋敷を我が物顔で歩き回って、己とアンドレの、行動をチクっているのだろうか?オスカルは、ここに至って、初めて、昨夜、すれ違った、使用人たちの顔を思い浮かべてみた。
しかし、誰にも会っていないぞ!オスカルは、相変わらず、そう思った。
見知ったものも居た。だが、下働きの者もいたのだろう。顔を見た事も無いものも、かなりいた。探ってみても、分からない。
やはり、会った者はいないので、柱の陰からでも見ていたのだと思った。
次は、見つからないように、アンドレの部屋に行こう!と、ちょっと違った方向にオスカルの思考は向かって行った。
現実に戻ったオスカルは、ラ・トゥールに承諾のスタンプを送ろうとして、ふと、思い出した。そう言えば、フェルゼンと先約があったのだ。
フェルゼン!何をしている!?の顔で、顔認証した。
だが、彼からは、まだ返信が来ていない。LINEをチェックしてみる。既読マークが付いていなかった。まあその内、気づくだろう。オスカルは、天然だから、気楽に考えた。
(相変わらず、フェルゼン伯爵は、夢の中だった。彼も、謎の員数外とは言え、陸軍に所属しているのである。職務怠慢である)
しかしやはり、オスカルは、どうしようかと、スマホを見て考え込んでしまった。
そこへ、ロジャーが、チャンスとばかりに、
「隊長、どうなさったのですか?」
心配そうに聞いてきた。
女性は、困った時に、助けてくれる男に弱いものだ。
ロジャーの、哲学書に書いてあった。
オスカルは、この際誰でもいいから(ジェローデル以外なら)、助け舟が欲しかったので、友人たちからも、誘いが入って来た。
今夜の、同じ時間だ。どうしたらいいか・・・困っている。
普通、貴族達は、間に従者が入って、手配をするので、この様な事は起こらない。オスカルの場合も、今までは、アンドレが手配し、日程の調整を行っていたので、オスカルが、この様な場面に出くわしたのは、初めてであった。
すると、ロジャーが、
「う~ん、掛け持ちするか、合体させるかですね」
彼にすれば、当たり前のことだった。
ロジャーは、少しばかり、ガッカリした。
一人の女の子をデートに誘ったら、他の子から誘いが入る。そんな時、ロジャーは、一人を駐馬場に待たせて、もう一人とイチャイチャする。そんな事は、稀な事ではなかった。
「ふ~ん、そんな手があるのか!ありがとう。ロジャー」
と、オスカルは、素直に答え、ラ・トゥールに返事をした。
『フェルゼン伯爵も、一緒でもいいか?』
直ぐに、ラ・トゥールから、OKのスタンプが届いた。
これで、完璧だ。やっと、仕事に戻れる。
と、オスカルは、かなり冷めたコーヒーを一口飲んだ。
つづく
実は、司令官室の3歩手前から、勢いをつけて、髪を乱してみたのである。
彼としては、馬車の中で、散々どの様に、オスカル嬢の手を取ろうか、
ああでもないこうでもない・・・と考え、この行動に達したのである。
勢いをつけて入ってきたにもかかわらず、全く息が切れた様子も見せずに、
「マドモアゼル・・・Vアラートを聞きました。
これでやっと、お分かりになったことでしょう。
思っていた通り、あんな奴は、マドモアゼルには、不釣り合いなのです。
今宵は、このジェローデルが、お相手致します。
もう、あのような下劣な男の事など忘れて、
私と2人の未来を語り合いましょう」
馬車の中で、何度も諳んじてきたセリフを、歌うように告げた。
その間にも、コルミエがジェローデルの髪を整えていた。
「ふん!残念だな!一時間も遅刻だ。その間に、フェルゼンと食事をすることになったんだ。おまえと、ご一緒する順番は、永遠にこないぞ」
ジェローデルは、オスカルに差し出した手を引っ込めるタイミングを失って、袖から覗くレースを直すふりをしてみた。
そして、当のフェルゼン伯爵は、ごく普通の貴族であり、昨夜マジで、アントワネットさまとオールをしたので、まだ夢の中であった。
ロジャーが、立ち上がった。彼としては、オスカルのスマホがVアラートを発したのを聞いたが、それが何かを知ることは出来なかった。だが、オスカルの顔色が変わり、スマホをずっと離さずに・・・あちらこちらと連絡を取っていた。それも執務時間なのに。
喉から手が出るほど知りたい情報だった。だが、そうと知られては、また、身分不相応、もしくは、まだ着任したばかりなのに・・・と言われそうで、うずうずしながら、黙っていた。オスカルの慌てた顔をみつめながら。
すると、ご丁寧な事に、ジェローデルが、しゃしゃり出てくれた。
この私が何もかもお話しします。
マドモアゼルの悲しい運命を・・・
と言って、昨夜、マドモアゼル・オスカルが、下賤な使用人階を歩き回り、平民アンドレの部屋を訪れた為、国王陛下が、2人の仲をお許しになるのを、一か月お延ばしになされたのですぞ。
さも、大惨事と言った風にジェローデルは言った。
しかし、当のオスカルは、その程度しか漏れていないのか。
と、がっかりした。(するな!)
「それでしたら、アンドレ・・・という方が、待っていらっしゃるから、お早めにお帰りになった方が、宜しいのではないですか?」
ロジャーは、これは面白くなったと、思いながらも、隊長を心配する部下の姿勢を崩さず述べた。
「胸を突くようなことを言うな、ロジャー。
だが、アンドレは、いつまでもわたしを待っていてくれるよ」
オスカルは、素直に心から感謝しながら、アンドレの顔を思い浮かべながら答えた。
すると、ロジャーが、首をかしげながら聞いてきた。
「そう言えば、隊長。
フェルゼン伯爵って、あの王妃様とナニのフェルゼン伯爵ですよね?
よく、国王は王妃の浮気を許しいらっしゃいますね。
私だったら、大砲をぶっ放してやりますよ」
オスカルが、書類をトントンと揃えながら、ぶっきらぼうに、言い換えれば、興味もなさそうに、何処からぶっ放すんだ?と聞いた。
「海の上からなら何処からでも。
私の大砲の腕前は、ヴェルサイユのこの場所にも、1ミリも狂わずに着弾させて見せます」
勇ましい事だ。
オスカルは、ほとんど相手にせずに言った。
そして、
「国王陛下のご趣味は、存じ上げているのか?
狩猟・・・これは、かなりの腕前だ。
それに、錠前作り。これもなかなかなものだと、お聞きしている。
そして、読書。このフランスにある本は、殆ど読破したとお聞きしている」
オスカルは、恐れ入ったか!とばかりに伝えたが、ロジャーは、
「え゛・・・国王陛下は、ゲイっすか!?」
ロジャーの言葉遣いに、オスカルは眉をひそめた。
すると、ロジャーは、すみません。余りにも驚いたもので・・・。
マジにそういいながら。
「国王陛下は、あのようなお綺麗な王后陛下に、関心がおありじゃないのかと、思いましたので・・・。
陛下は、我艦長と同じく、ゲイなのかと思ってしまいました」
相変わらず、彼には似つかわしくない言葉遣いを続けている。
だが、オスカルには、公私を見事に分けている・・・。と感心させた。
「まさか、現に陛下には、お子さまもいらっしゃる。
おまえのように、女好きではない。一般的な男性だ!」
オスカルは、当然のように答えると、ロジャーも真面目に、
「でも、途中で目覚める方もいますよ。
例えば、艦長も。ある日突然、目覚めたと仰っていました」
「フ~ム・・・。」
オスカルが、考え込んでいると、LINEの着信音がした。
オスカルは、スマホを持ち、
今、話し中なのに邪魔をするな!の顔で、顔認証した。
ラ・トゥールからだった。なので、笑顔に戻した。
『オスカル、久し振りだな!
ここの所、音沙汰無しで、悪かった。
お詫びと言っちゃなんだが、今夜、吞みに行かないか?
最近評判の炉端焼き『権八』だ。
ロドリゲも来る。残念ながら、ド・ギランドは海の上だがな・・・。
8時に予約しておいたから、待っているぞ!』
ラ・トゥールとロドリゲは、多分、きっと、あのVアラートを聞いて、心配して誘ってきたのだろう。そんな事をおくびにも出さずに、通常の飲み会のように誘ってくる。オスカルは、旧知の親友たちに感謝し、心の中で十字を切った。
と共に、誰が、ジャルジェ家の屋敷を我が物顔で歩き回って、己とアンドレの、行動をチクっているのだろうか?オスカルは、ここに至って、初めて、昨夜、すれ違った、使用人たちの顔を思い浮かべてみた。
しかし、誰にも会っていないぞ!オスカルは、相変わらず、そう思った。
見知ったものも居た。だが、下働きの者もいたのだろう。顔を見た事も無いものも、かなりいた。探ってみても、分からない。
やはり、会った者はいないので、柱の陰からでも見ていたのだと思った。
次は、見つからないように、アンドレの部屋に行こう!と、ちょっと違った方向にオスカルの思考は向かって行った。
現実に戻ったオスカルは、ラ・トゥールに承諾のスタンプを送ろうとして、ふと、思い出した。そう言えば、フェルゼンと先約があったのだ。
フェルゼン!何をしている!?の顔で、顔認証した。
だが、彼からは、まだ返信が来ていない。LINEをチェックしてみる。既読マークが付いていなかった。まあその内、気づくだろう。オスカルは、天然だから、気楽に考えた。
(相変わらず、フェルゼン伯爵は、夢の中だった。彼も、謎の員数外とは言え、陸軍に所属しているのである。職務怠慢である)
しかしやはり、オスカルは、どうしようかと、スマホを見て考え込んでしまった。
そこへ、ロジャーが、チャンスとばかりに、
「隊長、どうなさったのですか?」
心配そうに聞いてきた。
女性は、困った時に、助けてくれる男に弱いものだ。
ロジャーの、哲学書に書いてあった。
オスカルは、この際誰でもいいから(ジェローデル以外なら)、助け舟が欲しかったので、友人たちからも、誘いが入って来た。
今夜の、同じ時間だ。どうしたらいいか・・・困っている。
普通、貴族達は、間に従者が入って、手配をするので、この様な事は起こらない。オスカルの場合も、今までは、アンドレが手配し、日程の調整を行っていたので、オスカルが、この様な場面に出くわしたのは、初めてであった。
すると、ロジャーが、
「う~ん、掛け持ちするか、合体させるかですね」
彼にすれば、当たり前のことだった。
ロジャーは、少しばかり、ガッカリした。
一人の女の子をデートに誘ったら、他の子から誘いが入る。そんな時、ロジャーは、一人を駐馬場に待たせて、もう一人とイチャイチャする。そんな事は、稀な事ではなかった。
「ふ~ん、そんな手があるのか!ありがとう。ロジャー」
と、オスカルは、素直に答え、ラ・トゥールに返事をした。
『フェルゼン伯爵も、一緒でもいいか?』
直ぐに、ラ・トゥールから、OKのスタンプが届いた。
これで、完璧だ。やっと、仕事に戻れる。
と、オスカルは、かなり冷めたコーヒーを一口飲んだ。
つづく
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