Seaside Rendezvous

船は穏やかな海原を順調に、航行していた。

フェルゼンは、ひとまず、与えられた船室に落ち着いた。
少々狭いが、調度品も豪華であり、必要最低限のものが、使い易く配置されている。船室に満足すると、船内も見に行きたくなった。

従者を従えて、(迷わないように、・・・)見て廻る。
甲板に、出てみる。
大砲が、並んでいた。
少し様子が違う。と、船尾の方に行ってみる。やはり、大砲が並んでいる。

首をかしげながら、・・・最上階から見学してみる。
兵士たちの、食堂のような広間が、あった。
その隣に士官用の、もう少し、豪華な部屋もあった。

ちょっと、ワクワクして、先を覗いてみる。
こぢんまりとしたバーがあった。
だが、それだけであった。・・・

あとは、武器を保管しておく部屋、だの、戦争用具しか見当たらない。

何故、・・・甲板にプールが無いのか?・・・
映画館は?・・・パーティー用の広間は?・・・
ジャグジーに、スパ、・・・ショッピングモール、・・・何も無いではないか!!

それよりも、女が乗船していないではないか!!

そんな時、当番兵が甲板に集まるよう伝えてきた。

乗り遅れた、女たちが到着したかと、ワクワクと、甲板に出てみると、・・・

ラファイエット候以下将校、兵士が集まり、結団式を執り行う準備をしていた。従者がフェルゼンに、「伯爵、軍服に着替えた方が良さそうです。急いで船室に戻りましょう」と告げた。

フェルゼン伯爵が、身なりを整え列に加わると、式が始まった。
戦争に対する心構え、船旅の間の軍事訓練について、戦地での行動など説明を受けた。特に、フェルゼン伯爵は実戦経験がない上に副官であるから、気を引き締めて訓練に励むよう申し渡された。

アメリカ大陸までどの位かかるのか、わからないが、兎に角、初心に帰って、甲板掃除から始めるよう、告げられた。
フェルゼンは、「ひえ~~~~~~~!」と、めまいがしてきた。

ダイニングテーブルに落としたパンくずも、拾ったことがないのに!
この広大な甲板を、亀の子たわしで、磨けと言うのか!?
また、野戦に対応できるように、当分の間、大部屋の三段ベッドの一番下で、寝起きするよう、言い渡された。

In the Navy と、「愛と青春の旅立ち」の世界である。
乗船一日目で、フェルゼンは、もう船を降りたくなった。

しかしながら、大義名分を持って、戦争に参加したのである。・・・大陸に着けば、先駆者達が街を作っているだろう、社交界もあるだろう。・・・と、はかない望みを胸に、フェルゼンは、メイフラワー号に乗って大陸を夢見た、人々とは違った夢を追って、船の人となった。

  **************************

一方、ヴェルサイユでは、一見穏やかな日々が、過ぎていた。

オスカルのお腹も、ほんの少しずつ大きくなり、
時折り、お腹を愛おしそうにさする姿が、見られるようになった。

アントワネットにとって、この仕草が、如何にも、気に食わないのである。・・・
アントワネット自身も、初めての子どもを、身ごもったのであるが、・・・
オスカルの子は、・・・愛する、フェルゼンが父親、である。

まさか、代々の由緒ある近衛を務める、伯爵家の血筋である、オスカルを、ヴェルサイユから追い出すわけにもいかず、アントワネットは、悶々と考えた。

悶々と考えて、・・・オスカルを、遠ざける事が出来ないなら、自分が遠ざかろうと、プチ・トリアノンへ、引っ越しすることにした。

そして、この際宮廷での、面倒くさいエチケットから離れて、お気に入りの人達だけで、過ごし、自分好みのくつろげる場所に、改装することにした。
勿論、オスカルは、立ち入り禁止にした。

オスカルは、・・・閑職になってしまった。・・・

一応、近衛連隊長であるが、・・・
近衛兵の訓練は、ジェローデルが、受け持っている。
国王陛下には、専属の近衛兵が付いている。
司令官室から、指令を飛ばすだけで用は足りた。

だからと言って、じっと、司令官室に閉じこもるような、オスカルではない!

アンドレを伴って宮廷、庭園を見回ることにした。
レヴェを妊娠した時のように、誰はばかることもなく、運動できた。

その内、宮殿内は安全だからと、レヴェも連れて来るようになった。レヴェは、広大な庭園と、噴水に大はしゃぎである。

おまけに、大好きなアンドレと、大好きなママン、両方と手をつなぎながら歩けるのが、嬉しくて仕方がない。

2人に、それぞれ手を握ってもらい、ブ~~~~~ンと、階段を、飛ぶように、一足飛びに降りる。まるで、鳥になったようで、気持ちが良くて、カッコイイ気分で、最高だった。

思いつくと、アンドレの前に回り、肩車をしてもらう。
アンドレは、背が高いので、とてもとても遠くまで見渡せて、レヴェはとっても幸せな気分になっていた。
オスカルも、そんなレヴェを見て、幸せを感じ、アンドレに微笑みかけていた。

宮廷に出てくる数少ない、貴人、貴婦人達が、遠くからそんな様子を眺めていた。まるで幸せな親子のようですわね。アンドレも平民ながら、品があるから貴族ならば、お似合いのご夫婦ですわね。

・・・あら!奥様、レヴェの父親はアンドレって噂ですわよ!・・・
でも、レヴェは金髪ですわよ!・・・
あら!奥様、アンドレの両親の、どちらかが金髪なら、生まれるそうですわよ。・・・

グランディエ氏は、アンドレによく似た黒髪ですわね。・・・・・・
宮廷に出てくる、数少ない貴族たちも、暇なので、話題に困っているようである。

オスカルもレヴェも、幸せそうである、勿論、アンドレもニコニコしていることはしているが、心の中は悶々としていた。

昨夜、オスカルが告げたのだ。
「寝室の隣の部屋を、使えるようにしてくれ。」

アンドレは、今回こそは侍女が、入るものだと思った。
何と言っても、前回は、自分の子どもだったから世話をしたが、今回は、フェルゼンの子どもだ。

関係ない、と思っていた。
それに、おれには、レヴェの養育係として、子ども部屋の隣に寝る必要が、ある。・・・

それなのに、オスカルは、また、言った。
「出産が近くなったら、アンドレ、こちらに移ってくれ。」
「・・・え゛!?・・・レヴェはどうするのだ?」

「レヴェのベッドは、私の部屋に移す。
おお!いっその事ベッドの天蓋を大きくして、ベッドが3個収まるようにしてしまおう。
二人の子どもに挟まれて眠るなんて、夢のようだと思わないか、アンドレ?」

「じょうだんではないぞ!おれは自分の子どもだから、レヴェを育てているのだ!
・・・フェルゼンの子など、・・・」
「・・・半分はわたしの子どもだ。・・・それでも、・・・」

わ~~~~~~~!
オスカルの瞳が、青い湖面になりだした。ポロポロ、ポロポロ、涙が止まらない。おれ、オスカルの涙に弱いんだよなあ。・・・それにおれが、一番してはいけない事。・・・オスカルを悲しませる事。・・・

「わかったよ!わかったから、泣かないで、・・・オスカル。・・・
だけど、・・・わかってくれ、・・・おれだって人間だ。
酒を飲みたい夜だってある。・・・遊びに行きたい夜もあるんだ。・・・」

おれが、抱き寄せたのが先か、オスカルの方から、寄って来たのか、オスカルは、すっぽりおれの胸に収まってしまった。

「うん、・・・うん、・・・わかった。・・・そういう日は行ってくれ一人でも大丈夫だ!・・・」

大丈夫だ!って?・・・いちいち、断って出かけろ。というのか!?・・・
これから、憂さ晴らしに、飲みに行きます。・・・とか、・・・
これから、女と遊びに行きます。・・・なんて断るのか!?

しかし、しょうがない(嘆息!)チェッ!・・・そうやって泣いていろ!
オスカル・・・おまえのためでもなきゃ、だれがこんなばかなまねするもんか
 
世間では、妻が出産すると、母親に見えてしまって『女』として、見る事が出来なくなる。と、言われているらしいが、おれは、今でもオスカル、・・・おまえは、おれにとってやはり、最愛の女だ。

ころころと表情を変える瞳、それをおれにしか見せない、オスカル。・・・まだ、おまえは本当の恋を、知らない。・・・いつか、本当の恋に落ちる時。・・・それは、『おれだ』と、儚い望みを持って、そばにいる。

おれは、待つことには、慣れている。・・・でも、・・・いつまで耐えられるのだろうか。・・・

こうして、アンドレは、10月の初めに、またオスカルの寝室の隣の部屋に移った。レヴェは、ママンの隣で寝られるので、大喜びである。オスカルの広いベッドに一緒に寝たがったが、お腹を蹴とばすといけない、とアンドレに諭されると、ガッカリしながらも、生まれてくる弟か妹を楽しみに待っていた。

その月の下旬の夜明け前、アンドレが、オスカルとラブラブになる夢を見ていると、突然、邪魔が入った。
「アンドレ!アンドレ!ママンが、・・・ママン、・・・イタイ、・・・イタイ、・・・」
「レヴェ!オスカルか!?」

直ぐに飛び起き、オスカルの寝室に入る。
オスカルが、縮んでいる・・・いや、陣痛だ。

アンドレは、おばあちゃんに知らせてくる。
と、レヴェに告げ、部屋を飛び出した。

今度は二度目だ、少しは落ち着いて対処できる、と思ったが、やはり、うろたえてしまう。
相変わらず、厨房は臨戦態勢だった。
おばあちゃんを見つけ声をかけ、奥さまにも伝えた。

奥様はガウンを羽織り直ぐに2階へと上がった。
おれも二段おきに階段を上った。

奥様が、ドアノブに手をかけた時、中から元気な赤ん坊の産声が聞こえた。

奥様はおれを見て、そのまますぐに、寝室に消えた。
続いて入ろうとするおれを、おばあちゃんが蹴とばした。
(すげ~ばばあだ!)

そして、レヴェがポイ、っと部屋から追い出された。

また、産湯の為の、バケツリレーが始まって、おれも参加した。
勿論、旦那さまもいた。

おばあちゃんが、にゅっと顔を出して「男の子ですよ」と伝えた。

おれはレヴェを抱き上げて
「弟が、生まれたぞ」と告げた。
「ぼく、・・・おにいちゃん?」
「ああ、そうだ。いろいろ教えてあげて、一緒に遊ぶんだな」
「うん!・・・名前は?」
「名前は、・・・オスカルが、考えているよ」
「ふ~ん、お部屋に入っちゃいけないの?」
「もう少し、男は外だ」

しばらくすると、おばあちゃんが顔を出して、旦那様に声をかけた。そして、旦那さまの後ろに控えるおれを見て、シカトしようとしたが、レヴェを抱いているのを見て、入るよう渋々言った。

オスカルは、相変わらず嬉しそうだった。
旦那さまも、子どもを抱き上げ、嬉しそうに、
「名前はどうするのだ?オスカル?」

「ヴィゾワール・シャウデュマー。・・・です。父上」

「そうか!ヴィゾワール、・・・いい名だ。・・・わしが、・・・おまえが育てるのだな?!」
「はい!父上!レヴェを補佐する、立派な軍人に育てます!」

「レヴェ、弟はヴィゾワールだ。言えるか?」おれは、レヴェの顔を覗き込んで言った。
「ヴィ・・・ゾワー・・・ヴィーゾ・・・」
「ちょっと、難しいか・・・」

「ヴィー。・・・でいいぞ!レヴェ。アンドレもだ!」オスカルが呼びかける。
すると、レヴェは体を乗り出して、旦那さまに抱かれている、生まれたばかりの赤ん坊に、
「ヴィー。・・・ヴィー。・・・僕、おにいちゃん。・・・レヴェ。・・・」と、声をかけ始めた。

オスカルを休ませるため、他の人たちは、部屋を出ていった。
自室に戻ろうとするおれを、オスカルはまた、椅子を持ってきて、側に座るよう言った。
おれは、相変わらず、レヴェを抱っこしたままだ。

椅子に座るとレヴェが
「ママン、・・・抱っこ。・・・」と、せがみ始めた。
「レヴェ、オスカルは、疲れているから、・・・おれじゃダメか?」
「イヤ!ママン、・・・抱っこ。・・・」珍しく、むずがって聞かない。

オスカルが、起きだして、ベッドに座った。
「ほら!レヴェ、こっちに来い!」オスカルに抱かれて、レヴェは、とても満足そうだ。
「下の子が生まれると、母親が、取られてしまうと、赤ちゃんに戻るというが、ホントなのだな。しばらくは、赤ん坊が二人だぞ!」
オスカルが、困ったようだが、嬉しそうに、幸せそうに、言った。

レヴェは、オスカルに抱かれて、母親の愛情が、まだ注がれることに安心したのか、周りを見渡し、ヴィーが目に入ると、
「ヴィー。・・・ぼく、レヴェ、・・・お兄ちゃん。・・・遊ぶ。・・・」と、しきりに話しかけている。

レヴェが、好きになってくれるなら、・・・おれも、この子と、やっていけるかな。・・・と、思い始めた。

BGM My Life Has Been Saved
By QEEN
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