Seven Seas Of Rhye

ジャンゾン号は、大方の者にとって、順調に航海を続けていた。

間もなく大陸が、見えてくるはずである。
360度海。
大西洋を横断するのだから当たり前のことだ。

だが、それに順応出来ない乗員が、約一名いた。

見渡す限りの海と、見渡す限り男ばかり!
そちらの趣味があれば良かったかもしれないが・・・彼は女好きだった。

大陸の山影が見えると彼は、飛び上がらんばかりに喜んだ。
この航海が、途轍もなく長く感じた。
白髪が生えてこないのが、不思議なくらいだと思った。

船は夜遅く桟橋に着き錨を下した。戦地へと出航の為、夜半には戻るよう。それまでの、自由時間が許された。

ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯爵・・・大義名分を背負った男は、一番に下船し、飛び切り、上等そうな店に飛び込んだ。

従者が、慌てて付いてくる。目を離すと、この主人は何処かに消えてしまい。始末の悪いことに、信じられないほどの方向音痴の為、自力では、戻ってこられないのである。加えて本人に、その自覚がないのが最悪である。

食堂の店主は、でっぷりと太った、お腹をつついたらぴゅ~~~っとビールが出てきそうな、男である。フェルゼンは取り敢えず、ビールを注文すると、周りを見渡した。思わず目を見張った。・・・男しか居ないのである。・・・注文したビールが出てくるのも待たずに、フェルゼンは、店を出た。

慌てたのは従者である。
急いで会計を済ませ、主人の後を追う。

フェルゼンは、隣の店に入ってみる。・・・女がいない。・・・やっと、フェルゼンは、周りを見渡す余裕が出てきた。歩いているのも、男ばかりである。それも、軍人。そんなはずはない!と、今度は店に入って、女がいるか聞いて回った。

「旦那~ここは戦地ですぜ~、女なんかおりませんて、・・・」
どこに行っても、同じことの繰り返し。・・・フェルゼンは、めまいがしてきた。
それでも、懲りずに聞いて回ると、・・・・・

「奥地に行けば、居ますぜ!」と、答えが返ってきた。
「但し、戦地とは逆の方向ですだ」

フェルゼンは、考え込んだ。大義名分を背負ってここまでやってきた。

しかし、・・・わたしの大義名分とは、何だ?
アントワネットさまと、オスカルから逃れる事、ではないか!いや、違う!
オスカルはともかく、・・・アントワネットさまは、美しい。・・・
是非是非、ベッドを共にしてみたいものだ。・・・

オスカルは、・・・訳が分からん!!!いつも、いつも、記憶に残っていないのだ。・・・・・
それでも、オスカルは、平然としている。・・・・・
子供も出来たようだが、・・・・・何か、・・・・・何かが、おかしい。・・・・・

アントワネットさまに、会いたい。・・・・・

だが、・・・今すぐにでも、フランスに帰りたいが、・・・大義名分の前では、少し早すぎる。・・・奥地とやらに行ってみるか!

フェルゼンは、従者を呼び
「おまえ、・・・わたしは、あの店で酔いつぶれているから、・・・船からわたしの荷物を、そっと降ろしてこい」

「え~~~~!下船なさるのですか?」
「ふん!うるさい!言われた通りにしろ!」と、フェルゼンは、近くの店に入って、ホントに飲み始めてしまった。

ジャンゾン号は、予定通り夜半には出航していった。
ラファイエット候以下、将校ら誰ひとり、何故か、フェルゼン伯爵の不在には、気付かなかった。

翌朝、気持ち良く目覚めたフェルゼンは、気持ち良く朝食を食べて、従者に奥地に行く手配をさせると、気持ち良く旅立っていった。

のどかな道が続き、戦争がこの地で行われているとは、思えなかった。数日、同じような旅が続き、そろそろ、フェルゼンが飽きてきた頃、街が現れた。フェルゼンは、心が躍った。しかしながら、その街は周辺に住むプランターの住民の為の商店だけで、フェルゼンが望むような街ではなかった。

フェルゼンは、更に奥地へと歩を進めた。
また、街があった。女も歩いていた。しかし、善良な市民であった。

フェルゼンは、このまま奥地へと行ったら何も無いまま、太平洋に出てしまうのではないか、と不安になってきた。元々、方向音痴である、アメリカの広さなど、身をもって知る事が出来ないのである。それでも、懲りないフェルゼンは、取り敢えず、前進を決めた。

行く手に小高い丘が、見えた・・・

周りが見渡せるだろう、と登ってみる。・・・丘の上は、不思議な様子だった。
石が、不自然に円を描くように、立っていた。

従者は、近寄るのをためらったが、フェルゼンは構わず、通り抜けた。
フワッと、不思議な感じがした。が、気にしなかった。

気になるのは、ただ一つの事である。従者も続き、丘の反対側に出た。見晴らしがよく、遠くに、かなり大きな街らしきものが、見えた。フェルゼンは、喜び、転がり落ちるように馬をせかし、夕方には街に入った。

遂に歓楽街、と呼ばれる所のある、街に着いた。
瀟洒な屋敷が立ち並び、教会があり、上流階級の人々が行くであろう、店もあった。

一番高級そうな宿を押さえ、ディナーを楽しむと、夜が更けるのを楽しみに待った。夜のとばりが降りると、フェルゼンは、スキップしたい気分を抑えて、上品な物腰で高級娼館の前に立った。

やっと、やっと、フェルゼンは、アメリカに来た目的に達しようとしていた。
(何処かで、目的が違ってきている気もするが、・・・)
いかにも、慣れていますよ~って、感じで店の中に入る。

やり手の女が、寄ってくる、一目見て気に入ってしまった。
どの娘にします~?との問いかけに、恭しく手を取り、口づけながら、
「マダム、貴女にお相手お願いできますか?」と問いかけた。

すると、背後から
「残念だが、・・・その女は売約済みだ!」
と、白い麻のスーツを着て口ひげをはやした、欧州とは違ったタイプのイケメンが、面倒くさそうに応えた。

麻のスーツをシワ一つ付けずに着こなす。と、スカーレット・オハラに言われた男。レット・バトラーである。

フェルゼンは、レット・バトラーの身なりに、目を見張った。見たことのない服、見たことのない髪型、・・・そう、ストーンサークルを抜けた時、フェルゼンは、19世紀南北戦争真っ只中のアトランタに、タイムスリップしてしまった。・・・が、フェルゼンは、それに気づいていない。

「ぼうや、まだ、・・・ここに来るには、早すぎるのではないかな?」レットは、皮肉交じりにフェルゼンに歩み寄った。
「それになんだ?!この服は?随分と古風な出で立ちだな」
「アメリカの戦争に、義勇軍として、フランスから参りました。」フェルゼンは、礼儀正しく応えた。

レットは、なんとなく、フェルゼンに興味を持ち、女たちを交えて、酒を飲むことになった。フェルゼンには好みのタイプ。・・・目のすばらしく大きな、つんとした唇の気の強そうな、・・・金髪碧眼。・・・の女が、傍についた。

「君、・・・フェルゼンとか言ったな?君は、恋をしたことがあるかな?」
レット・バトラーが、興味深げに聞いてきた。
「勿論、わたしは、いつも美しい女性たちに、恋していますよ」
フェルゼンは、当然といった風に答えた。

すると、レットは、
「いや、そういうのではなく、一人の女性に、命をかけて、愛をささげた事が、あるのか?・・・と聞いたのだが・・・」

フェルゼンは、考えた、・・・
命を懸けるほど、女性を愛したかと言うと、・・・・・・・・分からなかった。

ただ、アントワネットさまと、アヴァンチュールを楽しむのは、命がけである。・・・・・・・・でも、このアメリカ人の言っているのは、そういう事ではないようだ。

「・・・・・・・・う~む、私の滞在しているフランスでは、そういう恋は、流行っていませんね。皆、楽しく、浮名を流すのが、貴族のたしなみとなっているのです。」
「それでは、人生が、楽しくないのではないかな?坊や。・・・・・・・・

以前、フランスに滞在した時、黒い瞳の男に出会ったが、・・・・・・・・
彼は、仕える、美しく凛々しい女性に、命をかけて、愛を誓っていたが、・・・
彼は、彼のその運命に感謝している。と言っていた。・・・・・・・・

おれは、彼の生き方に、途轍もない位、共感と、賛美を送りたい。と感じたものだが。・・・
フランスは、アモーレの国では、なかったのか?」


レット・バトラー船長も少し前に、タイムスリップしてヴェルサイユでアンドレに会っていたのである。
(この時の、お話はもう少し、筆者が人生経験を積んだら書きたいと思います(^_-)-☆)



「それは、庶民の話でしょう。・・・高貴な者たちは、人生を謳歌しています。
私も、人生を楽しく過ごすために、ここに来ました。・・・」
「フェルゼン、・・・おまえ、・・・けつが青いな!・・・」レットは、そっと呟いた。

フェルゼンは、忽ちこの街が、気に入ってしまい、レットに勧められるまま、近くに瀟洒な家を購入し、暮らし始めてしまった。

そして、夜な夜な、ベル・ワットリングの店に行き、好みの女性を『マリー』と、呼ぶようになった。

毎夜、愛しい女性によく似た女と過ごし、街にも慣れてきた、フェルゼンだったが、何かがしっくりとこなかった。・・・ある夜、女にフランス語で話しかけ、同じ言葉を繰り返すようにさせてみた。

『これだ!』とフェルゼンは納得した。愛の行為に言葉は要らないと言うが、・・・やはり、あの方の言葉、・・・フランス語でささやいて貰いたい、のであった。

その夜から、フェルゼンのフランス語教師が、始まった。しかし、一向に覚えてくれない。頭が悪いわけではなかった。ただ、女には必要のない事、だったので、覚える気が、なかったのである。フェルゼンは、頑張った。これだけは、本当に頑張った。が、ダメだった。

既に力尽き、ベッドに仰向けになり、天井を見つめる。・・・ふと、目に浮かぶ高貴な女性の姿。・・・絢爛豪華な宮殿。・・・帰りたくなった。・・・わたしは、ここで、・・・ここに、何をしに来たのだ?・・・フェルゼンがこの地、アトランタに住み着いてから、季節が、何回か変わっていた。

フェルゼンは、決めた。
フランスに、・・・(決めるのは、いつも即決である。)・・・帰ろう!
決めたら、行動に移すのも早い。

従者に、荷造りをさせ、翌朝には、旅立ってしまった。
アトランタの住民も、この不思議な男の事は、直ぐに、忘れてしまった。

馬を駆って、荒野を走り抜ける。・・・
例の丘に近づくと、引き付けられるように登り、・・・ストーンサークルを、くぐり抜け、・・・嗅覚が、優れているのだろうか?

それとも、従者が良いのか?

真っ直ぐに、港を目指していた。港に着くと、フランス行き!・・・プレストでも、マルセイユでも、どこでもよかった。・・・兎に角、一番早くフランスに、着く船を探し、高級な船室を押さえ、フェルゼンは、船中の人となった。

ホントに貴方は、何しに行ったのですか?アメリカに、・・・

BGM Sign of The Times
By Harry Styles


スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。