Calling All Girls

フランス衛兵隊はそれまで任期制で、ある程度勤めると、ほとんどの隊員が辞めていった。短期間の小遣い稼ぎと、考えているものもいたが、辞めた後の職が無く困窮するものも多くいた。

また、指揮をする方にとっては、軍隊における何の知識も無いものに、すなわち、まったくの一から・・・剣の持ち方から銃の扱い、乗馬・・・と折角教えたのに、任期が終わって辞めてしまうのは、残念であると同時に士気の高揚にもかかわる問題であった。

オスカルは、この点を改善しようと考えていた。
やる気のある者、見込みのある者は半永久的に勤続させようと思った。副官のダグー大佐に相談を持ち掛けてみた。いい考えですが、果たして上層部が何と言ってくるでしょうか?とのことだった。

次に最近入隊したばかりだが、兵士たちに兄貴分として信頼が厚い、ソワソン少尉に話してみた。職が無い平民にとって安定した収入源になるのはいいが、やる気のある者=出来る者とは限らないですぜ。それをどう、区別するんですか?と、言ってきた。

そこで、ダグー大佐、ソワソン少尉、オスカルで週一回、三者会談を持つことにした。

「この、くそ忙しい時に・・・」と言うソワソン少尉に「週一回、1時間だ」とオスカルは告げた。「1時間ですか?」「そうだ!1時間やって結論が出ない会議をそれ以上ダラダラやっても時間の無駄だ。

良い案が出なければ、それぞれ持ち帰って、また改めて議論した方が良い案が出てくるというものだ」オスカルがそう告げると、ニヤリと笑って、
それなら従いましょう・・・と、ソワソン少尉は言った。

こうして三者会談が持たれるようになり、衛兵隊の隊としてのレベルアップを図る事も出来る運びとなり、またその会談を通じてソワソン少尉と親睦を図る事が出来、完璧なとはいえないがある程度の信頼関係を築く事に成功した。

屋敷に帰ると相変わらずレヴェが元気に走り寄って来るし、最近はヴィーも後ろからちょこちょこついてくるようになった。

「ママン!もう直ぐ、クリスマスだよ~サンタさんにお手紙書いてくれた~?!」
「何を言っているんだ!いい加減自分で書けるだろう?ヴィーの分も書いてやれ!」
「・・・ん~~~・・・」
「abc・・・は覚えたのだろう?」
「覚えたけど、・・・たまに順番が分からなくなっちゃうんだ!」
「どこがわからないんだ?」

「ん~とね・・・『nとm』と『pとq』・・・似ているでしょ?」

「bとdは大丈夫なのか?」
「うん!だって、僕の『Cadeauのc』を挟んで、ママンとアンドレが向かい合っているでしょ?だから、好きなんだ!」

(何でこの息子は、毎度、毎度、アンドレを引き合いに出してくるのだ!・・・
うれしくなってしまうではないか・・・え゛・・・?!)

「・・・pとqも向かい合っているじゃないか?」
「間に僕もヴィーもいないもん」
「ママン・・・サンタさんとお友達・・・。」ヴィーが口をはさんできた。
「わたしは、サンタさんに会ったことはないぞ!」

突然、レヴェとヴィーが歌い始めた・・・
(^^♪ 恋人がサンタクロース~~背の高いサンタクロース~~~

え゛!ええええええ!この子達は知っているのか?アンドレが恋人だって、
・・・イヤ!恋人がアンドレじゃなくて!・・・アンドレがサンタクロース!!!!
わ~~~~どうしたんだ!ドキドキしてきた。
なんかこの部屋熱いな~パタパタパタ・・・

レヴェとヴィーのクリスマスプレゼントはアンドレが屋敷を出て行ってから、多分ジャック経由で毎年二人の枕元に置かれるようになっていた。オスカルも知っていた。

が、詮索もしていなかった・・・が、わたしも届くのを楽しみにするようになっていた。それにしても何で、わたしにはプレゼントが来ないのか・・・とも思ってしまう。


そして、クリスマスの朝、レヴェの枕元には『トランプ』が、ヴィーには『マイクロショベルカー』が届けられた。二人共朝から大騒ぎである。・・・ヴィーは着替えをそっちのけでショベルカーに乗り、レヴェはトランプをやろうと、オスカルを追いかけ始めた。
ヴィー三歳ショベルカー

「分かった、分かった、今日はクリスマスだから、早く帰って来る。晩餐の後に一緒に遊ぼうな!レヴェは、お兄ちゃんだからサンタさんにお礼の手紙を書いていろ!」
「うん!分かった、ママン!」と、二人そろって答えた。

  **************************

衛兵隊では今日はクリスマスなので特別に面会日となった。

兵舎も面会室も大騒ぎである。・・・オスカルもジャックを伴って面会室へと行ってみた。兵士たちはそれぞれプレゼント交換をしたり『パンが無ければ・・・』の通りケーキを囲んでいる人々もいた。

楽しそうであった。

そんな中、独りつまらなそうにしている隊員がいた。ソワソン少尉だった。オスカルが近寄ろうとすると、ジャックが「近寄らない方がいいですよ」と、止めたが構わず声を掛けた。

「アラン!今日は、ディアンヌ嬢は未だ、来ないのか?」
「ああ、隊長には関係ない事だろう!?」と、素っ気ない。・・・
オスカルが返事に窮していると

突然アランが話しかけてきた。
「そうだ!隊長の幼馴染みで親友のアンドレですが、・・・」

・・・え゛!なんで、こいつが、あ・・・あいつを知っているんだ!?
ドキドキしたぞ!落ち着け!オスカル!落ち着くんだ!みんなが見ているぞ!

「なぜ、アンドレを知っている?」
冷静に言えたよな・・・わたし・・・

「ああ、隊長は知らないんですね!衛兵隊員はほとんどあいつの店の常連ですぜ!」

・・・店?・・・店ってなんだ?アンドレは・・・何処で、何をしているんだ!?
・・・取り敢えず、知っているふりをしておこう!・・・

「そ、・・・そうか、・・・で、アンドレがどうした?」
「・・・ディアンヌを嫁に貰ってくれないかと・・・思ったもんで、・・・」

「はあ!?」

「ディアンヌもそろそろ年頃なんでね!」と言いながらアランはニヤッと笑った。
「わ・・・わたしは・・・ディアンヌ嬢をよく知らないから何とも言えんが、・・・お・・・おまえの妹なら、年が離れすぎているんじゃないのか?」

・・・と、わたしが答えると、しばらくアランは考え込んでから、
「まあ、こういう事はお互いの気持ち次第ですからね。
それより、隊長、今日も会議やるんですか?」

「勿論だ!」

と答えて、わたしは・・・その場に居るのが苦しくなって足早に司令官室に戻った。


司令官室の椅子に深く座ったまま、オスカルはしばらく固まったままだった。
その様子を見て心配したジャックは珍しくコーヒーを入れそっと机の上に置くと、オスカルは、ハッとしたようにカップを手に取ったが、・・・

またそのまま固まってしまった。のろのろとコーヒーを飲み干す頃にジャックが恐る恐る、会議の開始時刻だと告げた。

オスカルは、ボケ~~~~~~~~~っと会議室に向かい、上座に着席した。
既に、ダグー大佐、ソワソン少尉は着席している。

ダグー大佐が今日は議事進行を受け持ち、着々と会議は進んでいた。だが、現在所属している隊員の中から長期雇用とする隊員を選別した名簿を読み上げ隊長の同意を得ようとした時、・・・オスカルから返答が無かった。

「隊長!?・・・」「隊長!!」2人の部下がそれぞれ呼びかけるが、・・・
オスカルの心はそこになかった・・・。
イライラしてきたアランが、怒鳴った!

「隊長!!聞いているのですか!!!」

ハッと我に返ったオスカルが突然立ち上がり、周りを見渡し、・・・
脱力して椅子に座った。
「すまなかった。・・・ちょっと、・・・考え事をしていたもので、・・・」
たどたどしくオスカルが言い訳をする。

「早くも更年期障害ですか・・・」アランがあきれたように言う。
「こ・・・更年期!」

ダグー大佐がアランを睨みながら優しく告げた。
「隊長、お加減が悪いのなら、今日の会議はこの辺にして、お帰りになったら如何ですか?今日はクリスマスですし、お子様方もお待ちでしょう?」

「あ~そうしろ!そうしろ!ぼけ~っとしたのにいられちゃあ、隊の士気も下がるというものだ!帰った方がいい!」

オスカルは、このまま続けよう。・・・もう大丈夫だ。・・・と告げたが、
2人の部下に促され、帰途に就くこととなった。


帰りの馬車の中、ジャックがそれとなく、アンドレの様子を話してくれた。・・・
もともとジャックとは幼い頃、オスカルとアンドレがヴェルサイユに来てから一緒に遊んだ仲だった。アンドレのように呼び捨てにすることはなかったが、昔なじみの気安さがあった。・・・

そして、ジャックはいつ書いたのかアンドレの店の地図を懐から出してオスカルに渡した。オスカルの顔に微笑みが浮かんだのを、ジャックは気がつかなかった。

しかし、それでもなおオスカルは心の中に何か、しこりのような物があるのをとても苦しく感じていた。

BGM Sign Of The Times
By Harry Styles
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