こちらは、ブライアンとケリー・エリスが、コンビを組んで生まれた楽曲です。
PVがとてもチャーミングです。!

The Kissing Me Song

「やあ!よく来たな!もう少し収穫してしまうから、
そこの裏口から入って中で待っていてくれ」

わたしは、そのままアンドレを見ていたかったが、余りにもドキドキして、そしてなぜかアンドレの言葉に返す言葉を見つけられないままに、店の中へと入っていった。

店の中は窓があるものの、かなり暗かった。昨夜はわからなかったが、カウンターテーブルだけで、スツールが8席ある。
マントを脱いで、スツールに置いた。

そのまま座ろうか、と思ったが、カウンターの中に入ってみた。

客からは多分見えないだろう、所にあるものは、わたしには良く分からないものばかりだった。ここは、何をするところなのだろうか?こちらは何をするところなのだろうか?そっと手を触れてみる。

わからなかったが、良く使い込んで、手に馴染みやすい事は確かだった。そこここにアンドレが毎晩手を触れているのであろう。
この店全てが愛おしかった。

急に背後から光が差した。
アンドレが入って来た。

おまえは多分収穫物だろう物が、入ったかごをカウンターに置きながら、
「なんだ?座っていれば良かったのに・・・」
不思議そうに言った。

以前よりも低い、でもわたしの心を揺さぶる魅力的な声で、・・・

「うん・・・おまえがいつも見ている風景を見たくてな!・・・」
「じゃあ、おれはこっちに座ろうか!」
おまえはわたしの正面にあるスツールに腰掛けた。
なんだ、・・・抱きしめてくれないのか・・・。

と、思ったが、わたしは、おまえの日常が知りたくなった。
「で、なんて言うんだ?」と、わたしは尋ねた。

「え?何がだ?」
「だから・・・お客が来たら、おまえはここで、なんて言うんだ?」
「ああ、そうか。・・・取り敢えず、『こんばんは』かな?馴染みだったら『毎度!』久しぶりの客だったら『元気だったか?』とかだな」

「ふ~ん。・・・元気だったか?」
「おかげさまで。・・・」

「それから?」
「おまえ!お店屋さんごっこでも始めるのか?」
「いいじゃないかっ!おまえの事が知りたいだけだ!」

「そうか!いつも来る客なら『いつものでいいか?』だし、
『何にするか?』の時もあるな!」

「じゃあ・・・おまえは何を飲みたい?」
「久しぶりだ、ワインでも開けようか!」

「お!いいなあ!何処にあるのだ?わたしに選ばせてくれ!
今日はわたしがマスターだ!」
「おまえが、立っている後ろの、・・・そうそこの、右側だ。
・・・だけど、・・・おまえが飲むような、上等なのはないぞ!」

「構わない!今、選ぶから、・・・ちょっと待て!」

「相変わらず飲んでいるのか?」アンドレが聞いてきた。
「たまにな、でも忙しくてほとんど飲む暇がない!」

「衛兵隊・・・そんなに忙しいのか?」
お!心配してくれているぞ!
わたしは、嬉しくなってしまった。

「隊も忙しいが・・・子どもたちと遊ぶのが忙しい。・・・
・・・・・・・大体、おまえが毎年おもちゃを沢山送ってくるし、
父上と母上のプレゼントもあって、
わたしの部屋はロンパールームだ!」

「これでどうだ!」
「ほう!この店の特上品を選んだな!流石、鼻が利く!
よし!後はおれがやろう!」

「ダメだ!わたしがマスターだと言っただろう!
ワイン抜きはどこだ」
「そこの、引き出しだが、・・・おいおい、大丈夫か?」
「任せとけ!」

ふん!驚け!

伊達にこの2年と4か月『お一人さまワイン』をしてきたんじゃないぞ!!わたしは、慣れた手つきで、ワインの栓を抜き、目を見張っているアンドレにドヤ顔してやった。

「髪、切ったんだな?」
「ああ、毎朝手入れが面倒でね、イイ男になっただろ?」
「ふん!自分で言ってろ!」


・・・話は弾むが、ワイングラスが見当たらない!

キョロキョロしていると、(したくなかったけど・・・)仕方なく、アンドレを見ると、ニコニコしながら上を指さしている。見上げると、ワイングラスが下を向いてワイヤーにぶら下がっていた。2客取りながら・・・

「こうしておけば、洗ったままで乾くからいいな!」と、またドヤ顔で言ったら、
「ハハハハハ!普通の家庭ならそれでもいいが、ウチは客商売だからな!
丁寧に拭いてそれから、また、繊維が残らないように磨くんだぞ!」

と、反論された。

そうか!だから、わたしがハンカチでワイングラスを適当に拭いて、キャビネットにしまっておいたから、アニェスたちが怒ったんだな!今、やっと分かった。分かったけどこれは言わないでおこう!

ワインを注ぐと、アンドレがゆっくり座って飲もう!と言った。
わたしもそろそろ傍に寄りたくなったので、アンドレの隣の席についた。

「乾杯しよう!」アンドレが言った。
「何に・・・?」
「おまえの一日遅れの誕生日に!」
わたしは・・・ちょっと違う気がしたが、なぜか言い出せずにいた。

思ったよりも美味しいワインだった。どう選んでいいのか分からなかったから、いつもの通りラベルで選んだんだが、・・・当たりだったようだ!

アンドレが、子どもたちの事を聞いてきた。やはり置いてきた息子の事が気になるのだろう。子どもたちの事を話すのはわたしも好きなので、アンドレが出て行ってからの様子を語りながら、ワインを楽しんだ。

昨夜、偵察に来たことは、
    絶対に言わなかった!!!!!

粗方話し終わる頃に、ワインが無くなり、今度はアンドレが選ぶことになった。これ以上、特上品を飲まれたら堪らないからな!とおまえは笑いながら立ち上がった。

また、わたしは、・・・ちょっと違うなと、思った。
アンドレがワインと皿に何か載せて戻って来た。
皿の上には、のぺーーーーとした、黄色く平たい見たことのない物がのっていた。

これ・・・食べ物か?目で尋ねて・・・・・

・・・・・・・アンドレを見ると、楽しそうな顔をして食ってみろ!と言ったので、恐る恐る触ってみた。ベタベタしてねっとりしている。恐々とほんの一口かじってみた。・・・!上手い!美味しい。だが、何なんだかさっぱりわからない。・・・また、アンドレの顔を見てみる。

「芋を干したものだ!おれが作ったんだ」・・・ほおお!芋を干しただけでこんなに美味しくなるのか?・・・感心しながら聞くと、アンドレが嬉しそうに作り方を説明始めた。・・・知らない料理用語やら、専用の道具を自分で作った。とか、・・・アンドレの話を聞いているうちに、

・・・ちがう・・・ちがう・・・こんな話をしたいのではない・・・
こんな、はなしじゃな・・・い・・・
あ・・・もっとちがう・・・

・・・わたしは、・・・ワイングラスを置いた。・・・

おれは、オスカルがおれの作った干し芋を美味しく食べてくれた喜びで、夢中になって干し芋の作り方を話した。・・・が、・・・突然オスカルの心が他に移ったのを感じて、口を閉じた。

オスカルは、それにも気が付かず、ワイングラスを口から離し、テーブルに置いた。
そして、スワリングを始めた。

おれはビビった!

オスカルが意味もなく、スワリングをする時は決まって『爆弾発言』が飛び出すのを思い出したからだ。おれは、黙っておまえが話し出すのを待った。待ちながら、言い知れぬ不安が襲ってきた。

今日おまえは何のために、此処に来た?
おれが期待していたことと、違うのか?

さっきおまえは、路地を背に立っていた。おれにはとても眩しくて、女神のようだった。

カウンターの中で目をくりくりと動かし、表情豊かにワインを選び、手慣れた手つきでワインを開けるおまえ。・・・おれが居なくなって、・・・それでも困らずに、『おひとりさま』してきたみたいだ。

そんなおまえに、・・・おれは、まだ、必要な人間なのか?・・・それとも、・・・これからは、・・・独りで、・・・と、言い出すんじゃないだろうな?(-_-;)


オスカルが顔を上げおれを見た。

・・・何か、・・・口を開いたが、・・・言葉は出ず、・・・また、視線を戻してしまった。

どんな爆弾発言が飛び出すのだ?
これ以上、おれは、待てないぞ!・・・再び、オスカルはおれを見て、何かを決心したように、スツールから降り、・・・おれの横に立った。

これは本当にもの凄い爆弾だと覚悟し、おれもスツールを回し、
オスカルと向かい合うようにし、手を膝についた。

すると、オスカルはおれの腕に手をそっと置いて、おれの目をまっすぐ見ると、


「 Je T’aime」と言った。

おれは、オスカルを思いっ切り抱きしめた。
オスカルもおれの首に手を回してきた。

BGM Touch The Sky
By Roger Taylor
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