Love Me Like There’re No Tomorrow

すっかり冷え切った体でベッドに潜り込んだオスカルに、レヴェが優しく声を掛けた。
「ママン、ご用はすんだの?」

「起きていたのか?悪かったな。」
ヴィーを起こさないようそっと話しかけると、レヴェがそっと手をつないできて、
「ううん、ママン、とても幸せそうだったから・・・ぼくもうれしくなったんだ」と、答えた。

ふと、反対側からも手が伸びてきた。
振り向くとヴィーが大きな目を開けて見つめていた。
「ママン、しあわせ・・・ヴィーもしあわせ」と言って、また眠ってしまった。

「レヴェ、今夜は用事を済ませる事が出来なかったんだよ
明日また、出かけて来るが・・・いいか?」
「いいよ!ママン、とっても嬉しそうだね?いい事あったの?」

オスカルは、とてもとてもこの2人の息子が愛おしくて抱きしめずにいられなかった。この未だ、8歳になったばかりだというのに何もかも見通しているような、愛しい男の息子と、幼いながら母親の幸せを喜ぶもう1人の息子。

オスカルは、クリスマスの晩に二人きりで留守番させた事を、申し訳なく思いながらも、自分は今夜、アンドレの元へ行かなければ狂っていたかもしれない、と思った。

明日は何があろうと、アンドレの腕の中に抱かれようと・・・抱かれる夢を見て、オスカルは、愛しい男の子どもと、もう一人の息子に挟まれて眠りについた。

  *************************

翌日、オスカルは、午前中時間がノロノロと過ぎるのをイライラと待っていた。

時計の針が全く進まないのである。暖炉の上の時計が止まっているのかと、懐中時計と見比べてみるのだが、・・・壊れている訳ではないようだった。それでもなお、進まないのである。

両方とも止まっているのではと、広間にある大時計を見に行った。・・・同じ時間を示している。ブチ切れる寸前にアニェスがお昼を告げに来た。・・・

おもちゃにしがみつくレヴェとヴィーを無理やり引っ剥がした!・・・普段は駄々をこねればもう少し遊ばしてくれるのに、今日は情け容赦無かった。
レヴェもヴィーも「鬼ママン!」と、叫んだ。


食堂に入ると、使用人がいつもより、スローモーションで動いているように見えた。
席についても、一向に皿が運ばれてこない。
同席している夫人を見ると、いつもの通りおっとりと孫たちに話しかけ、微笑んでいる。

やっと一皿目が運ばれてきた。
オスカルは、ほとんど掻っ込んで食べた。
周りを見渡すと夫人はレヴェと談笑しながら、ゆっくりと食事を楽しんでいる。

ヴィーは皿の上の食べ物と格闘しているが、進んでいない。この緊急事態にこの三人はなんでゆっくりと食べていられるのだ!

オスカルがじれていると、夫人が、
「あら!オスカル、昨夜は食が進まないようだったのに、今日は戻ったようで良かったわ」
これまたおっとりと話しかけた。

・・・みんなとっとと食べてくれ!!!!!

と叫びたかったが、理由が理由だけに、叫ぶわけにもいかず。イライラ、掻っ込んで食事を済ませ。子どもたちが終わると、普段は親子三代でお茶などを楽しむのだが、独りさっさと二階に消えた。

部屋に戻ると、そのまま上着とマントを羽織り、出かけようとして、足が止まった。

こんな格好でいいのだろうか?

昨夜は、激情に襲われその辺にあった服を身に付け出かけたが、今日は昼までの時間を待たされた分、オスカルの中に余裕が生まれた。(イライラしたが・・・)

クローゼットの側に戻り鏡を見る。午前中、子どもたちと遊び、時計が進まなくてあちこちの時計を見て回り、・・・自慢のブロンドがぐしゃぐしゃだった。服も・・・味気ない普段着のブラウス・・・。

これでは駄目だ!先ずは髪を直した。
そして、服だ!余りにも、
「おまえに会いたくて、会いたくて、・・・これを選んだ!」
が、見え見えはダメだ!
クローゼットの中を探して、探して、これと言う物を選んだ。

薄いピンクのカシュクールのブラウス・・・着てみる。・・・胸が開きすぎていないだろうか?・・・ささやかなバストはコルセットでペッタンコだった。・・・残念ながら・・・。

誰かが言っていた。女は男に会う前夜から○○する事を考えて、下着や洋服を選ぶのだと、・・・妙に納得してしまった。・・・わたしは、今日・・・きっとアンドレと、・・・

こんな気持ちで着るものを選んだのは初めてであった。以前、北欧の貴人の為にドレスを纏った事があったが、こんなに激しい気持ちはなかった。こんなに、一人の男の、身も心も欲しいと思ったのは初めてであった。

上着は深緑色のベルベットで共布のスタンドカラーがあり、同系色のグラデーションで花柄の刺繡をあしらってあるものと、ローズピンクのシルクで、やはり同系色の花柄の中に小さな白い花があしらってあるアビアラフランセーズがあった。どちらにしようかと散々迷った末にシルクの上着に決めた。

ズボンは・・・キュロットでは、下町では目立ちすぎる、と思い足が隠れる長さの物を選び、靴も黒にした。マントを脱げば、決して華美ではないけれど、上品なアンドレが知っているけど、少しだけ成長したオスカルが現れるはずである。

髪を・・・アンドレと下町に行く時は必ず目立たない様に、とリボンで結ばれたが、・・・自慢のブロンドを隠したくなかった。このままでいい事にした。

そっと部屋を出る。子どもたちは未だ、食堂で夫人とおしゃべりを楽しんでいる。ジャックを探して子どもたちの事を頼もうかと思ったが、彼ならきっと大丈夫だろうと、昨夜のように使用人棟を抜け、裏庭の柵塀を抜けて、愛する男の元へ向かった。

周りの邸宅が輝いて見えた。足が独りでに早くなるのが分かる。しかし、なんとなく気恥ずかしさから平静を装って、・・・わたしは今、散歩をしています~・・・と見えるように、自然に歩いてみるが、直ぐに早足になってしまう。

昼と夜ではこんなに街の様子が違うものなのか?それとも私の心が、そう見せているのだろうか?お屋敷街を抜けてしばらく行くと、アンドレの店が見えた。猛ダッシュしたい気分だったが、・・・敢えてゆっくりと足を進めた。

遂に店の前に立った。“Shot Bar ANDRE”と看板が掛かっていた。昨夜は暗くて見えなかった・・・(。´・ω・)ん?夜、営業中に見えなくていいのか?・・・あいつはちょっと抜けている所があったが、変わらないんだな。と、思い、ちょっとホッとした。

昨夜覗いた窓があった、ピョンと飛んでみた。真っ暗だ。扉を押してみる。・・・閉まっている。確か裏口があったな。・・・ジャックが店の左手が路地だと言っていた。右手を通ると大変な事が起こるとも言っていた。

路地を進んで行くと、急に視界が開けた。畑だ。アンドレが世話をしているのかな?何か黒い物が動いている!・・・アンドレだ!・・・ドキドキしてきた!・・・あいつ、真っ黒だな!・・・

あ!こっち向いた!

「やあ!よく来たな!もう少し収穫してしまうから、
そこの裏口から入って中で待っていてくれ」


BGM Crazy For You
By Madonna
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