月誕生日の翌日、オスカルは准将用の豪華な椅子に腰かけ、
窓の外を見つめながら、考えていた。

サロン…。
参加した事もなかった。
ああ、そう言えば、アントワネットさまのお供で、行ったが、退屈だった。
それに、警護の為だった。

サロンか…
サロン…。
それも、音楽か…
レベルは、コンセルバトワール級…

悪くないな!
無駄な事を、話す必要もない。
つまらなかったら、止めればいい。

そうしたら、アンドレは、屋敷にいるのか?
話をしたのは、いつだったのだろうか…?

わたしが、屋敷に居れば、ヤツの行動も分かるな。

やってみるか!

オスカルは、スマホを手に取った。

国王陛下から、与えられたスマホは、全ての貴族に行き渡っている。しかも、貴族の階級により、LINEで、既にお友達設定されている。しかし、階級により、そのメンバーは、制限されている。

つまり、下級貴族は、直接、国王陛下宛にLINEは、できない。
お友達ではないから…

そして、下級貴族は、上流の貴族のお友達リストも無い。
但し、お知り合いになって、両者合意の上なら、お友達になれる。

従って、仕事と、数少ない親密な仲間としか、LINEしないオスカルのトークには、上流貴族の面々は、遥か下の方で、オスカル自身、誰がお友達なのかも知らなかった。

時々、何処かのご令嬢から、ラブレターらしき物が届くが、既読スルーだ。

LINEを開いたオスカルは、手が止まった。誰を呼べばいいのか、分からない。もともと、その手の(どの手の?)貴族とは、付き合いがなかった。

LINEには、相変わらずド・ギランドが、偉そうにふんぞり返って一番上にいる。そのまま、スクロールしていく。まず、ヴェルサイユ4剣士隊のグループ、軍務関係者が、連なって、その間に、各々、フェルゼン…さらに、スクロールすると、何故か、ジェローデルがあった。

このLINEは、下の階級から、上流の階級をブロックする事は出来ない。それなので、ジェローデルからは、ブロックできなかった。(したくないので)そして、オスカルは、存在を忘れていたので、存在していた。

スクロールして、オスカルは、いったいどの位、貴族がいるのか見ていった。うんざりしてきた。4剣士隊のように、グループ送信は、出来ないのか…。

と、思った時、【上流貴族グループ】と言う、認識するのも嫌な程、貴族の名が、ぎっしり詰まったものがあった。

これか!
オスカルは、開いてみた。
かなり、LINEが、来ていたようだが、覚えがない。少し読んでみた。全く興味のない、くだらない文面ばかりだった。だが、オスカルのスマホの、LINEマークには、新着分しか、丸数字がない。多分、アンドレが、既読スルー、又は、失礼のないように、返信してくれていたのだろう。

オスカルは、アンドレの愛を感じた。

でも、いまは、それどころではない。
何か、文章を考えて、送信しなければならない。が、このLINEと言うのは、便利で、手紙のように、ご機嫌伺い、季節の言葉など、使わなくていい。

要件だけ書けばいいのだ。

まず、ジャルジェ家で、オスカル主催のサロンを開く事。
それは、音楽サロンである事。
さらに、コンセルバトワール級の腕前を持つ者のみ参加可能。

日にちは…
此処で、オスカルの手が止まった。
卓上カレンダーを見た。

判らないから、1週間後にした。
【送信】

送信したオスカルは、その日、ジャルジェ家の広間が空いているのか?
それに、どのくらいの人数が集まり、どの様な、おもてなしをするのか?
全く、考えていなかった。

アンドレが、サロンを、開けばいい。
そう言った。
アンドレが、屋敷にいる。

それしか、考えていなかった。
でも、何処かで、アンドレが全てを抜かりなく、用意してくれると、いつも通り思っていた。

オスカルのスマホが、着信を告げ続け、悲鳴を上げていた。
オスカルも、頭が痛くなってきた。と、閃いた!

アンドレと、話してはいけないが、アンドレが、オスカルのスマホを見る事は、なんとも言われていない。

オスカルは、執事を介してアンドレに、スマホを一晩貸した。
オスカルのスマホを見たアンドレも、目眩がしてきた。

人数の把握。
開始時刻等々を書き、一斉送信!
しようとした所で、手が止まった。
誘った貴族の、全員が来るのではなかった。

本来なら、来るものだけに、返信しなければならない。
つまり、【オスカルの、サロン】とか何とかと言う、グループを作らなければならない。

今回だけ、急の事だったので…。
そう書こうかと思ったが、お堅い、礼儀作法に、五月蠅い…。
というよりも、人をコケ下ろすのを、趣味としている面々である。

にわか作りの、サロンと分かってしまっては、オスカルはもとより、ジャルジェ家までが、笑いものになってしまう。

え~~~~い!オスカルの為だ!
アンドレは、出席希望の、貴族全員をグループに招待すべく、格闘した。そして、これからは、オスカルは、軍務で多忙の為、このアンドレが対応いたします。よろしくお願いいたします。と、一文付け、アンドレも、グループに入った。

これで、オスカルの、スマホを借りなくても、事を運ぶことが出来た。少々、寂しい気もするが、昼夜を問わず、LINEが、届くのである。いちいち、オスカルのスマホを借りていたら、オスカルの仕事に差し支えてしまう。

ただ、オスカルのスマホにも、頻繁にLINEが、届く。オスカルは、頭を抱えて、自分を、グループから外してくれ!そう、言った。

だが、オスカルにも、どの様に事が運んでいるのか、把握してもらわなければならない。オスカル⇔アンドレ、で、LINE出来れば、全く問題は、無かった。でも、それは、禁止されていた。

オスカルは、司令官室では、仮眠用の部屋の枕の下。そして、自室では、めったに使われない、来客用の部屋に、スマホを置いた。

ロジェの仕事が増えた。
そんな場所に、オスカルがスマホを隠すので、出かける時、帰宅時、スマホを忘れていないか、チェックしなければならなくなった。

一方、アンドレは、
それからが、大変だった。
人数から、どの広間を使うか。
料理長への、指図。
しなければならない事が、山積みだった。

だいたい、このクラスのサロンだったら、第一回目は、もう少し時間をかけ、参加する貴族の方々も、衣装を作るなり、何なりの時間が必要である。

それに、高度な技術を持った音楽。
ある程度の、練習期間が必要だろう。

だが、アンドレは、オスカルの為に、何かをするのは、それも、月誕生日の合間にするのは初めてだったので、嬉しかった。
それなので、開催される時間ギリギリまで、屋敷の中を走り回っていた。

そこへ、執事が、またオスカルからの、伝言を持ってきた。
アンドレは、ニコニコと目を通した。
すると、

ロジャーが、先日の月誕生日前から、衛兵隊を、辞職したい、と申し出てきている…。だが、次の者への、引継ぎが終わるまで、残るよう命令した。

此処まで読むと、アンドレは、フムフム、ヤツがいなくなるのか…それは、嬉しい事だ。そう思いながら、続きを読む。

ついては、求人広告を出そうかとも思ったが、何処の馬の骨か分からない者を、司令官室に勤務させるわけにもいかず、ロジェに後任となってもらう事にした。

アンドレは、ああ、ロジェなら適任だ。
これで、全てが丸く収まる。
ホッとした。

ここの所で、引継ぎも終わった。

アンドレは、万歳をしたくなった。
だが、まだ、続いていた。

ロジャーは、ここの所で、イギリスに帰国する予定だったが、この様な事になったので、予約してあった船をキャンセルした。
それと共に、借りていた倉庫の、賃貸借契約が、切れた。

アンドレは、イヤな予感がしてきた。

従って、ロジャーとその友人、フレディに、我が家の使用人室を提供する事にした。

ロジャーの部屋は、女性たちの部屋から、離すように。
また、フレディは、ゲイなので、男たちの部屋から離すよう手配を頼む。

そして、2人には、【お持ち帰り禁止】と言ってある。規則を破るような奴らではないから…多分…使用人階の風紀が乱れる事は、ないだろう。

それから、ロジャーは、ドラムセットを持っている。
屋敷内でも、練習もしたいそうなので、人があまり出入りしないホールを貸してやってくれ。

2人は、明日、引っ越してくる。
よろしく頼む。

アンドレは、便せん手に、怒りで震えていた。

つづく

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