深夜、オスカルはそっと足音を消して、使用人階を歩いていた。
アンドレと、家督相続について、話し合うつもりだった。

しかし、アンドレの部屋を通り過ぎ、ロジャーの部屋のドアを開けた。
この時間なら、ロジャーは不在だろうと思ったのに、居た。

ロジャーは、オスカルを見ると、ニコニコした。
アンドレなら、出かけたぞ!
それに、オレも、夜遊びに行くところだ。
残念だったな。

このロジャーのニコニコ顔は、例え、嘘をついていても、見破ることが出来ない。ロジャー必殺の技だった。

オスカルは、どうしようか…。
一端、部屋に戻ろうか。
それとも、出かけるというロジャーの部屋で、アンドレを待つか…。

オスカルは、決めかねて、
じゃあ、わたしは、此処で、1人漫才している。
そう言った。

ロジャーは、呆れ顔で、
バカか?そんな事したら、隠密に見つかるぞ!
また、1ヶ月延びるぞ!

一緒に、遊びに行こう。
帰ってくる頃には、アンドレも帰ってきているだろう。

オスカルは、断ろうかとも思った。しかし、ロジャーの『遊び』というのにも、興味があった。それに、1人で部屋にいるのも、退屈なので着いて行くことにした。

その頃、アンドレは、そろそろオスカルが、例の件で、訪れるのではないかと、ベッドに寝転がり、真っ暗な天井を見上げていた。

(なんで、耳が鋭くなったアンドレに、廊下の話し声が、聞こえなかったのだろうか…なんて、聞かないでね!)

それからも、何回かそのような事があった。
オスカルは、アンドレの遊び癖を、思い出し、ヴェルサイユ4剣士隊と、出歩くようにもなった。

だが、オスカルは、そこまで、アンドレといえども、遊び歩いては、いないだろう。そう思いながら、ロジャーが、出掛けたのを見計らって、使用人階へ行った。

まず、ロジャーの部屋に入った。(とっとと、アンドレのドアをノックすればいいのに…)ロジャーのベッドの定位置に座ると、かなり長い、錐を出した。

クリクリクリクリ、補強した所に穴を開けていった。しかし、錐である。小さな穴だ。すると、オスカルは、ドライバーを出し、穴を広げた。

覗いてみる。アンドレ側は、まだ、錐でしか達していない。そこで、ドライバーの穴から、また、錐を入れ、キリキリキリキリと、5箇所開けた。

これで、向こうの光が見える筈だ。オスカルは、覗いてみた。真っ暗だ。仕方がないので、アンドレ側の壁にも、ドライバーで、穴を開けようと試みたが、届かない。

結局、壁を、1回叩いてみた。
シーン…。
もう一度、今度は、トトンと、叩いた。
シーン…。

痺れを切らしたオスカルは、初めからそうすれば良いのに、工具を持って、ロジャーの部屋を出た。そして、アンドレ部屋のドアをノックした。

シーン…。

オスカルの顔が、青くなった。
きっと、ちょっとだけ、遠慮気味だったかな?
今度は、ドンドンドンと、した。

シーン…。

オスカルは、ドアを見つめたまま、項垂れた。
やはり、アンドレは、遊び歩いているのだ。

胸の大きな女が、好きなのだ。
オスカルは、肩を落とし、使用人階を後にした。

暫くすると、アンドレが、肩に手拭いをかけ、手には、マルセイユ石鹸。
それに、脱いだ服、タオルを持って、シャワー室から戻って来た。

部屋に入ると、顔にローションをパパッとした。
そして、ベッドに入ると、0.1秒で、眠りの底に落ちた。

その時、物陰から、素早く動く人影が、見えた。
誰にも、見えず、誰にも、知られずに…。

一方のオスカルは、暖房設備の無い使用人階へ行って、すっかり、冷えてしまった。
このまま寝ても、暫くすれば、温まるだろう。

しかし、今夜は、人の手で温まりたかった。
すなわち、侍女達を呼ぶ紐を思いっきり、引っ張った。

そして、風呂の用意。
それに関わる、一連の手入れを頼む事にした。

最近の、女主の夜遊びに、ほとほと疲れていた3ショコラは、爆睡中だった。今夜は、オスカルは、普通に帰宅した。そして、普通に過ごし、風呂に入り、肌の手入れをした。なので、侍女達は、おやすみなさいの、ご挨拶をして、部屋を辞した。

そして、侍女達の仕事が終われば、女主人は、彼女らを労わって、その後、呼び出すような事は、無かった。

その、女主人が、今までなかった程、弾き紐を、引っ張った。急いで、駆けつけなければならない。

そして、頼まれた事は、やらなくてはならない。動くのは、侍女達だけではなかった。現代ならば、お風呂を沸かすには、ボタンひとつ押して、15分から20分待つ。それだけだ。

だが、当時は、全てが人の手で行われた。すなわち、お湯を沸かすものは、必死だった。今夜使う湯は、昼間用意しておいた。しかしながら、もう使ってしまった。

井戸から汲んでくるが、井戸水とは、いえ、冷たい。
しかも、女主が、珍しく、眉を逆立てて待っていると言う。

彼方此方が、大車輪で動いていた。
オスカルは、日頃のオスカルではないので、そこまで、気が回らなかった。

数日後、アンドレが歩数を数えながら、屋敷内を歩いていると、邪魔が入った。しかし、相手にとっては、アンドレがただ、何処かに向かって歩いているとしか見えないので、全く悪気は無い。

ガトーだ。
ガトーの後ろに、何故か、遊び歩くオスカルの姿が見えた。
アンドレは、いやーーーーな予感がした。

ガトーが、訴えるには、オスカルの生活についてだった。
特に、此処の所、就寝、入浴時間が不規則なのに、朝は、いつも通りなので、身が持たない。

だいたい、始めから、アンドレからの『帰るコール』が、無くなった時点で、崩壊気味だった。それが、更に…ガトーは、悪化…と言いたかったが、それを、将来夫となり、今は、恋人のアンドレにいう事は、出来なかった。

あと3人くらい、オスカルさま付きの侍女が居ないと、シフトも回せない。そうとしか、ガトーは、言えなかった。

アンドレは、オスカルの侍女は、オスカルの性格・日常を知らない者が、直ぐに務まるわけじゃない。そう思いながらも、女性の使用人を、1人ずつ思い浮かべてみた。

その時、ヴェルサイユの貴族たちのスマホが鳴り響いた。
Vアラートの発令だった。

すなわち、
『アンドレを、ジャルジェ家の跡取りとする為、期限を1年間延長する事とする!byルイ16世(笑)』

と、あった。

オスカルは、衛兵隊の練兵場で、アランと真剣勝負をしていた。
止められたアランは、がっかりした。

アンドレの奴、何時、宮廷に行ったんだ!
夜遊びを続けたくなったか!
オスカルは、苦々しく思った。

アンドレは、オスカル付の侍女の選定をしていた。
オスカルの心が、遠のいていく姿が見えた。
と、同時に、右目が、また、視力を失った。

アンドレは、まだ、思いが通わなく、見つめていた頃を懐かしく思った。
あの頃は、オスカルの心は、誰にも向いていなかった。

それよりも、オスカルは、思いがかなわず、傍に付いているアンドレを、悲しい目で見ていてくれた。その思いも…消えてしまった。アンドレは、文字通り、目の前が、真っ暗だった。

   つづく
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