夜遅く、アンドレは、ジャルジェ家に戻った。この様に遅い時間に帰宅しても、使用人たちは待っていてくれる。そして、ズラリと並んで、気持ち良く挨拶をしてくれる。
その間を、アンドレは、もう何日も、何回も経験したはずなのに、ギクシャクと、恐縮しながら歩く。
自室に入り、侍女たちに軍靴を脱がせてもらう。
アンドレは、思った。
専用の金具を床に取れつけてくれれば、一人で脱げる。
それに、そうすれば、軍靴を鼻に近づけて、オスカルの香りを、堪能できる。アンドレが、オスカルになってからの不満は、ここにもあった。
ボケーッとしているアンドレに、侍女たちが、着替えに室に、誘った。
アンドレが、口を開こうとすると、ショーが、
「今日も、食事は済ませて来た。」
アンドレが、どんぐり目を…と言っても、外側はオスカルだったが…
次に、フォンダンが、
「今夜も、調べ物があるから、後は、自分でする。もう下がっていいぞ」
11月27日から、ずっとアンドレが、言い続けている、言葉を言った。
アンドレは、焦った。
どうしたらいいのだろう。
取り敢えず、
「最近の、衛兵隊は、忙しいのだ。
分かってくれ!」
「いいえ!分かりません!!!」
ガトー、フォンダン、ショーの3人のトーンの違った声が、頭の上から鳴り響いたように、聞こえた。
アンドレは、今、気付いた。いつもオスカル付きの侍女は、2人でシフトを組んでいるはずだ。それがどうして、今夜は、3人もいるんだ!
アンドレが、また、焦っていると、
「オスカルさま、失礼ですが、ホコリの匂いが、物凄いです」
「更に、硝煙の匂いも混ざっています。
御髪も、いつもの輝きを、失っています」
「それから、お肌。全く、お手入れさせて下さらないです。側から見ても、荒れていらっしゃるのが、分かります」
「まだまだ、有ります。
手のひら、美しかった白魚の指が、泣いています」
「さあ!今日こそ、お風呂に入ってくださいまし!」
再び、3人の声が、ハモった。
アンドレは、退いた。
しかし、背後には、いつの間にか、ショーが、居た。
「オスカルさまは、オスカルさまの美しい姿を、保とうと思わないのですか?いくら、軍人として、生きていかれるのでも、
次の月誕生日に、ボロボロのお姿で、アンドレにお会いするつもりなのですか?
少しは、ご自分の容姿にも、お時間を取ってあげてくださいませ。
それは、オスカルさま、ご自身の為でもあるのございます」
それを聞いたアンドレは、自分が、美しいオスカルの身体を、いい加減に扱ってしまった。もし、戻った時、オスカルが、ホコリと硝煙の匂いがして、髪の艶まで無くなって、美しい指が…あゝ、そうなったら、オスカルは、おれを避けてしまうかもしれない。
アンドレは、決心した。
自分ではない。
オスカルを、磨くのだ!
そう思えば、何のこともない。
それよりも、喜びになる。
アンドレは、侍女連と共に、浴室に向かった。
侍女たちに、チャカチャカと脱がされた。
アンドレは、ただ、立っているだけでよかった。
すると、ガトーが、
「オスカルさま、肘が硬くなっています。このままでは、角質になる所でした。
ちょっと、踵を拝見させてください。
まぁ!此方も、今日は、髪の先から、足の指先まで、たっぷりと洗わせて頂きます。
オスカルさまは、ゆったりと過ごしてくださいね。」
この言葉を聞いて、アンドレは、ホッとした。
なんだ!風呂に入るって言っても、ボケっとしていればいいのだな!
オスカルの事でも、考えていよう!
とは、思ったが、どうしてもバスタブの中で、オスカルの身体に手が触れてしまう。
もちろん、今までも、ベッドのなかでは、触りまくった。
でも、オスカルの外側を持った、アンドレはオスカルに触れることが出来ないでいた。
なので、手の平をバスタブにしっかりと付けて、固まった。
アンドレが、苦心して、オスカルの身体から、逃げている間に、髪を洗われ、あちらこちらを、洗われると、湯の色が変わってきてしまった。
アンドレも、こんなにもオスカルを埃まみれにしてしまったか…反省した。
ガトーが、アンドレに言った。
今夜は、この様になると思いまして、もう一つバスタブをご用意させて頂きました。
さあ、あちらに、お移りください。
アンドレは、下…つまり、オスカルの身体を見ないように、こうべを上げ、そしてやはり、両手は、身体につかないように、もうひとつのバスタブに移った。
もう一度、隅から隅まで、洗われた。
足を持ち上げられ、軽石で、踵を擦られた。
侍女たちが、ひと段落した。アンドレは、終了した事にホッとした。こんなに、簡単な事なら、これからは、毎日風呂に入ろうと、決心した。
すると、ガトーが、申し訳ございませんが、もう一度、先程のバスタブにお戻り下さい。お湯は、新しいのが入っております。
それから、オスカルさまのお好きな、バラのオイルも垂らしてありますので、どうぞ、ゆっくりお過ごし下さいませ。
ませ。って言ったって!アンドレは、今まで、湯に浸かったことが無かった。いつも、一年中、水のシャワーだ。それが、バスタブ3個を移動し、その間、湯につかっている。
のぼせてきた。
頭がクラクラしている。
でも、多分オスカルも毎晩この様にしているのだろう。
オスカルが耐えた苦しみだ。
おれも耐えて見せよう!
オスカルの香りの新しい湯に浸かり、まったりと、横になると、アンドレは、寝てしまいそうになったが、慌てて、手を裏返した。
すると、今度は、フォンダンが、小ぶりの真っ白なタオルを持ってきて、アンドレに渡した。
「オスカルさま、全てお綺麗になられました。あとは、この布で、大切なところを、ご自分で洗って下さいませ。オスカルさまの、事ですから、お綺麗ですが、今夜は、少しシャボンを含ませました。
もう、1枚用意してございますから、
どうそ、まずこちらから…」
アンドレは、手に真っ白なタオルを持った。
そして、考えた。
大切な所って…。
今まで、洗ってもらっていない所…。
つまり…だよな…。
フォンダンが、見ている。
どうしたらいいのだ!
アンドレの、意識は、そのまま真っ白になってしまった。
オスカルさま!
オスカルさま!
遠くで、オスカルを呼ぶ声が聞こえる…。
アンドレは、今、自分がオスカルである事など、忘れていた。
そして、そのままバスタブに、溺れて、昇天した。
つづく
その間を、アンドレは、もう何日も、何回も経験したはずなのに、ギクシャクと、恐縮しながら歩く。
自室に入り、侍女たちに軍靴を脱がせてもらう。
アンドレは、思った。
専用の金具を床に取れつけてくれれば、一人で脱げる。
それに、そうすれば、軍靴を鼻に近づけて、オスカルの香りを、堪能できる。アンドレが、オスカルになってからの不満は、ここにもあった。
ボケーッとしているアンドレに、侍女たちが、着替えに室に、誘った。
アンドレが、口を開こうとすると、ショーが、
「今日も、食事は済ませて来た。」
アンドレが、どんぐり目を…と言っても、外側はオスカルだったが…
次に、フォンダンが、
「今夜も、調べ物があるから、後は、自分でする。もう下がっていいぞ」
11月27日から、ずっとアンドレが、言い続けている、言葉を言った。
アンドレは、焦った。
どうしたらいいのだろう。
取り敢えず、
「最近の、衛兵隊は、忙しいのだ。
分かってくれ!」
「いいえ!分かりません!!!」
ガトー、フォンダン、ショーの3人のトーンの違った声が、頭の上から鳴り響いたように、聞こえた。
アンドレは、今、気付いた。いつもオスカル付きの侍女は、2人でシフトを組んでいるはずだ。それがどうして、今夜は、3人もいるんだ!
アンドレが、また、焦っていると、
「オスカルさま、失礼ですが、ホコリの匂いが、物凄いです」
「更に、硝煙の匂いも混ざっています。
御髪も、いつもの輝きを、失っています」
「それから、お肌。全く、お手入れさせて下さらないです。側から見ても、荒れていらっしゃるのが、分かります」
「まだまだ、有ります。
手のひら、美しかった白魚の指が、泣いています」
「さあ!今日こそ、お風呂に入ってくださいまし!」
再び、3人の声が、ハモった。
アンドレは、退いた。
しかし、背後には、いつの間にか、ショーが、居た。
「オスカルさまは、オスカルさまの美しい姿を、保とうと思わないのですか?いくら、軍人として、生きていかれるのでも、
次の月誕生日に、ボロボロのお姿で、アンドレにお会いするつもりなのですか?
少しは、ご自分の容姿にも、お時間を取ってあげてくださいませ。
それは、オスカルさま、ご自身の為でもあるのございます」
それを聞いたアンドレは、自分が、美しいオスカルの身体を、いい加減に扱ってしまった。もし、戻った時、オスカルが、ホコリと硝煙の匂いがして、髪の艶まで無くなって、美しい指が…あゝ、そうなったら、オスカルは、おれを避けてしまうかもしれない。
アンドレは、決心した。
自分ではない。
オスカルを、磨くのだ!
そう思えば、何のこともない。
それよりも、喜びになる。
アンドレは、侍女連と共に、浴室に向かった。
侍女たちに、チャカチャカと脱がされた。
アンドレは、ただ、立っているだけでよかった。
すると、ガトーが、
「オスカルさま、肘が硬くなっています。このままでは、角質になる所でした。
ちょっと、踵を拝見させてください。
まぁ!此方も、今日は、髪の先から、足の指先まで、たっぷりと洗わせて頂きます。
オスカルさまは、ゆったりと過ごしてくださいね。」
この言葉を聞いて、アンドレは、ホッとした。
なんだ!風呂に入るって言っても、ボケっとしていればいいのだな!
オスカルの事でも、考えていよう!
とは、思ったが、どうしてもバスタブの中で、オスカルの身体に手が触れてしまう。
もちろん、今までも、ベッドのなかでは、触りまくった。
でも、オスカルの外側を持った、アンドレはオスカルに触れることが出来ないでいた。
なので、手の平をバスタブにしっかりと付けて、固まった。
アンドレが、苦心して、オスカルの身体から、逃げている間に、髪を洗われ、あちらこちらを、洗われると、湯の色が変わってきてしまった。
アンドレも、こんなにもオスカルを埃まみれにしてしまったか…反省した。
ガトーが、アンドレに言った。
今夜は、この様になると思いまして、もう一つバスタブをご用意させて頂きました。
さあ、あちらに、お移りください。
アンドレは、下…つまり、オスカルの身体を見ないように、こうべを上げ、そしてやはり、両手は、身体につかないように、もうひとつのバスタブに移った。
もう一度、隅から隅まで、洗われた。
足を持ち上げられ、軽石で、踵を擦られた。
侍女たちが、ひと段落した。アンドレは、終了した事にホッとした。こんなに、簡単な事なら、これからは、毎日風呂に入ろうと、決心した。
すると、ガトーが、申し訳ございませんが、もう一度、先程のバスタブにお戻り下さい。お湯は、新しいのが入っております。
それから、オスカルさまのお好きな、バラのオイルも垂らしてありますので、どうぞ、ゆっくりお過ごし下さいませ。
ませ。って言ったって!アンドレは、今まで、湯に浸かったことが無かった。いつも、一年中、水のシャワーだ。それが、バスタブ3個を移動し、その間、湯につかっている。
のぼせてきた。
頭がクラクラしている。
でも、多分オスカルも毎晩この様にしているのだろう。
オスカルが耐えた苦しみだ。
おれも耐えて見せよう!
オスカルの香りの新しい湯に浸かり、まったりと、横になると、アンドレは、寝てしまいそうになったが、慌てて、手を裏返した。
すると、今度は、フォンダンが、小ぶりの真っ白なタオルを持ってきて、アンドレに渡した。
「オスカルさま、全てお綺麗になられました。あとは、この布で、大切なところを、ご自分で洗って下さいませ。オスカルさまの、事ですから、お綺麗ですが、今夜は、少しシャボンを含ませました。
もう、1枚用意してございますから、
どうそ、まずこちらから…」
アンドレは、手に真っ白なタオルを持った。
そして、考えた。
大切な所って…。
今まで、洗ってもらっていない所…。
つまり…だよな…。
フォンダンが、見ている。
どうしたらいいのだ!
アンドレの、意識は、そのまま真っ白になってしまった。
オスカルさま!
オスカルさま!
遠くで、オスカルを呼ぶ声が聞こえる…。
アンドレは、今、自分がオスカルである事など、忘れていた。
そして、そのままバスタブに、溺れて、昇天した。
つづく
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