♪We Are The Champions
その日、下町は朝から賑わっていた。
3年近く前、ひょっこりと現れた、人付き合いの良い、
ショットバーアンドレの主、アンドレがなんと!
伯爵将軍のご令嬢をかっさらって、手に手を取り合って、
この下町に凱旋してくるというのである。
しかも、アンドレは、ご令嬢の婚約者に左目を鞭うたれて視力を失い、カッとなったご令嬢はその婚約者である、近衛連隊長の右手指を撃ち砕いた!
・・・というので、下町の人たちは、見上げた花嫁がやって来る!
とやんや、やんや、の大騒ぎである!!
なんでも、そのご令嬢と言うのは、小さい頃から男の格好をして、田舎でアンドレとガキ大将どもと野山を走り回っていたそうだよ!そうそう、木の上に秘密基地を作ったり、アンドレと喧嘩をする時は、取っ組み合いだそうだよ!
こっちに来てからは、士官学校なんかに入って、・・・近衛連隊長をしたかと思うと、・・・最後は衛兵隊隊長だったんだってねぇ。そうなんだよ、それも衛兵隊の荒くれどもを見事に束ねたっていうから、すごいもんだねぇ。
相変わらず、男のなりをしているから、女には見えないそうだよ!( ;^_^A
だいたい!この間も、アンドレがお屋敷に忍び込んでイチャイチャしている時に、その婚約者が部屋に踏み込んできたので、ご令嬢は婚約者を回し蹴りして、アンドレを逃がしたって話だよ。
あ~あ~!あの時だね、夜明け前にアンドレが、ストリーキングしていた時だね。
あん時はたまげたよねぇ!
アンドレが、すっぽんぽんで走って来るんだもの・・・レディ・ゴダイバかと思ったよ!
・・・・・・・・・・・・・・・・凄い、嫁さんが来るんだねぇ・・・・・・・・・
二人を待つ間、おかみさんたちは、まだ見ぬアンドレのお嫁さんの話題をしている間に、噂が噂を呼んで、とんでもない『オスカル像』が出来上がっていった。すなわち!
ドラえもんに出てくる、『ジャイ子』が大人になった姿であった。
一方で、胸の前に両手を握りしめて、涙目になりながら二人を待つ集団が後ろの方にあった・・・。アンドレに秘かに恋をしていた町娘たちである。一目、恋敵の伯爵令嬢を見ようと集まって来ていた。
子どもたちの声が聞こえてきた。
待ちきれず、オスカルとアンドレを迎えに行っていたのである。
わいわいがやがや、とても楽しそうな声が聞こえてくる。
おかみさんたちは果たして、どんなジャイ子が来るのかと、首を伸ばして通りの向こうを眺めた。
遠くに、子どもたちより、一段高い所にキラキラと光るものが見えた。近づいてくると、白馬にまたがり、顔の周りに金の輝きをまとった、美しい人が現れた。優しく微笑んでいる。
おかみさんたちは、あ~んぐり口を開いた。
金色の人は、隣の黒髪の男に微笑むと、そっと口づけを交わした。
なんだい!なんだい!言っていた人と全然違うじゃないかい!
女神さまの様にきれいで優しそうな人じゃないかい!
それに、見たかい!うっとりとアンドレを見て愛おしそうに接吻したよ!
こりゃあ、たまげたねぇ。
恋する娘たちも、がっくりときた、あんなにきれいな人が、アンドレの恋人・・・。
黒と金でとてもお似合い。・・・とそっと目頭を抑えながら、家路についた。
そうこう言っているうちに、二人はおかみさん、旦那さんたちが集まっている所に到着した。オスカルが、軽々と馬から飛び降りた。
その途端、アンドレが、
「こら!おまえ!駄目じゃないか!」
勿論、お腹の赤ちゃんを気遣ってであるが、その他大勢はこれを知らない。
当のオスカルは、アンドレに向かって、肩をすくめてペロッと舌を出した。
これがまた、おかみさんたちには可愛くて、可愛くて、すっかりオスカルに魅せられてしまった。
が、ただ一人、ここら辺を取り仕切っているおかみさんは、首を振った(*ノωノ)。
アンドレも馬から降り、オスカルの肩を抱き、みんなの前に立った。
「みなさん、ご心配おかけしました、ようやく、戻ってきました。こちらは・・・」
と、オスカルを紹介しようとすると・・・。
オスカルが、
「オスカル・フランソワです。これからどうぞよろしくお願いします」
と、・・・ヴェルサイユ式に丁寧に腰を折り、挨拶した。
女将さんたちの半分が、モンゼット夫人になり、
残りの半分が、シッシーナ夫人になってしまった。
女衆はオスカルを取り囲み、次々と質問していった。
本当に男として育ったのか?
アンドレとは本当に生まれた時から一緒だったのか?
アンドレが、鞭打たれた仕返しに、元婚約者の手指を撃ち砕いたってのは本当かい?
・・・イヤ・・・それは・・・・・・・・・、オスカルに全く答える隙を与えない。
質問の一斉砲撃である。
ふと、オスカルがアンドレを探すと・・・、こちらもまた、男衆に囲まれて質問攻めにあっている。アンドレの背中・・・・・・・・・、とオスカルは心配しだした・・・。
「申し訳ないが、アンドレは、傷が癒えたばかりなので、少し休ませてやりたいと思います。ここら辺で我々は、今日は一旦家に入りたいと思います。」
すると、件のおかみさんが、ずいっと前に出てきて、オスカルに言った。
「オスカルさん、見ていると、随分と亭主を立てているようだけど・・・、
亭主関白はダメだよ!
家庭の安泰を望むなら、かかあ天下じゃないとね!
それも亭主がわからないように上手く牛耳るんだよ。
おまえさん、馬の手綱を捌くのは上手いようだが、
亭主の手綱の捌き方はまだまだ未熟の様だ!
これから、私たちがじっくりと教えてやるから待っていなさいな!」
これを聞いて、アンドレは背筋に悪寒が走った・・・。
今でもオスカルに頭が上がらないのに、
これ以上『かかあ天下』の手引きを教えられたら・・・。
・・・前途多難・・・
そんな青くなっている、アンドレを見て、オスカルは心配そうに声をかけた。
「アンドレ、随分と疲れているようだな、早く家に入って休んでくれ・・・」
「・・・・・あ、ああ・・・・・・」
その様子を見ていた、おかみさんたちは、これは教え甲斐があると納得した。
BGM Love Me Tender
By Norah Jones
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