♪Let Me Entertain You

馬車はヴェルサイユ宮殿の門を通り過ぎた。
オスカルとアンドレにとって3年ぶり、
感慨深いものがあった。

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その日、オスカルとアンドレが、ジャルジェ家に到着すると、
突貫工事で進められた部屋に通された。
アンドレは黒に金糸の模様の入ったアビアラフランセーズに着替えた。

オスカルはアニェスが顔と髪の手入れを始め・・・
半年間ほったらかしの、お肌と髪にため息をついた。

「オスカルさま、今まで、どの様なお手入れをなさっていたのですか?」
「そこら辺にあるものを、適当に顔に塗りたくっていただけだ!
だいたい、わたしは軍人だ!見てくれには、・・・興味ない!」

「まあ、そんな事をおっしゃらずに、・・・他の誰かの為ではなく、・・・
愛する人の為に、お手入れをなさってください。
これからは、私にお任せ下さい。」

愛する人の為。・・・・・・・・・その言葉がオスカルの胸に響いた。
他の誰かの目にどう映ろうと構わない。
しかし、アンドレの前ではいつまでも、美しくいたいものだと思った。

と、同時に変われない自分もあるが、変わっていく自分もあるのだと実感した。

髪に櫛を入れ、オイルを浸みこませ、肌にはたっぷりと水分と油分を補い、豪華な金髪は今までの輝きを取り戻し、潤った肌はばら色に染まってオスカルをグッと美しくみせた。

そして、オスカルが、淡いばら色のゆったりとしたアビアラフランセーズを纏うと、
アニェスは再びため息をついた。
今度はオスカルの美しさの為であった。

オスカルも鏡の中の自分に驚いた。
日頃、見た目で人を判断する事はない。と思っていたが、装いでこんなにも印象が違うとは、ましてや、この度は、久方ぶりの国王陛下との対面であった。相手にとって失礼のないよう、敬意を払った装い。

そして、下町では、そこに住まう人々に溶け合う装い。・・・・・・・・・それらが出来る自分の環境に感謝した。

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謁見の間に通され、ジャルジェ将軍が一歩前で跪いた。
その斜め後ろに腹が膨らんで跪けないため、両ひざをついてオスカルが控えた。・・・

アンドレは、そのまた後ろに控えようとしたが、オスカルの体勢が不安定なので、横に並んで何時でも手を貸せるようにして、国王陛下を待った。

見慣れていたはずなのに、こんなにも煌びやかで、絢爛豪華な宮殿だったかと、オスカルは目を見張った。貧しい人々が知ったら、・・・想像はしているものの、多分想定外の無駄な豪華さに眉をひそめるだろう。

父上は黙って、従っていろ!とおっしゃられた。

オスカルは、何かお考えがあるのだろうか、・・・あれから父とは細かなことは何一つ話してはいない。国王陛下を待つ間、段々と不安になってきた。傍らを見ると、いつも通り穏やかな眼差しをしたアンドレが居て、それだけで安心する。

国王陛下が侍従を従えて、ゆったりと、そして、穏やかな微笑みを浮かべながら入ってきた。ジャルジェ将軍が、丁重に挨拶を述べる。三人同時に頭を下げようとした時、オスカルがぐらついた。

慌ててアンドレが手を貸す。・・・と、国王陛下がオスカルに椅子に座るよう勧めたが、ジャルジェ将軍が、これも身重の身とはいえ、軍人でございます。心配には及びませんと、固辞した。

臣下が、ジャルジェ将軍の昨日の、親書について述べ始めた。
「将軍よりの親書によると、・・・ジャルジェ准将の産休届が、訳あって届け忘れた。との事のようだが・・・」

「は、申し訳ありません。ここにいる娘より、陛下のお手元にお届けする、算段になっておりましたが、わたくしめの落ち度で、・・・妻の具合が思わしくなく、急ぎアラスの領地で保養せねばならなくなり、・・・書類が紛れてしまい、お届けする事がかなわず、今に至ってしまいました。申し訳ございません。」

再び、三人は頭を下げた。・・・オスカルとアンドレは、目を白黒していた。

臣下が何か異を唱えようとすると、国王陛下が
「なんだ?取るに足らない事ではないか。・・・あの隊は、・・・隊長のなり手がなくて困っていたところだ。

産休後、ジャルジェ准将が再び就いてくれるなら、
こちらとしても、ありがたい事であるぞ。
して、いつ頃、戻れるのであるかな?」

「は、・・・来月半ばには生まれますので・・・」
「それなら、よいよい!ゆっくり休んで、それからはしっかりと頼んだぞ!」

「恐れながら、陛下・・・」臣下がまた口を挟んだ。
「恐れながら、

衛兵隊の司令長官のブイエ将軍は、あまりジャルジェ将軍をよく思っていないようですので、・・・産休明けのジャルジェ准将に、パワハラ、若しくはセクハラが、あるのではないかと心配ですが・・・」

「う~む、それは、どうしたものかな?ジャルジェ将軍、如何したものかな?」
「は、それにつきましては、・・・
私が、衛兵隊に転属し、私の職にブイエ将軍に就いていただこうかと思っております。」

今度は、オスカルとアンドレはぶったまげた!

「ふ~む、そういう手もあるのか」
国王陛下が思案しているとすかさず、ジャルジェ将軍は続けた。
「その代わりと申し上げますか、・・・
ここに居る、アンドレ・グランディエをオスカルの夫とお認め下さり、
生まれてくる子どもが、男児ならば、
ジャルジェ家の家督相続をお認め下さいますよう、お願い致します。」

「ほお!確か2人は既に教会で式を挙げたと聞いておる。
夫と言う件は認めざるを得ないだろう。・・・が、

・・・ジャルジェ家の婿となると、それ相応の身分のものではないと、示しがつかないのではないかのう?どうであろう?諸君?」
重臣たちと、国王が、ひそひそと相談しだした。

オスカルとアンドレは、お互いの心臓が聞こえるほど、ドキドキと息をつめて、
成り行きを見守った。
国王陛下が穏やかな顔で、こちらを向いて、語りだした。

「本来なら、国王である私の許可を得て、教会で式を挙げるのが筋だが、・・・
原作での今までのアンドレの行い、

また、高島屋ヴァレンタインのウエブサイトでの王妃との親密さに免じて、
アンドレをジャルジェ家の娘婿と認めよう。
ついては、アンドレには一代限りの、伯爵の地位を授ける事とする!」

「え゛!陛下!・・・・それはあまりに過分な、ご配慮と・・・・・」
今度は、ジャルジェ将軍が、焦って声を上げた。
「よいよい!ほら!隣りの英国でも、エリザベス2世がやっておるじゃろ?

ポール・マッカートニーとリンゴ・スターに一代限りの『サー』の称号を与えておる。
フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイそれに、・・・ロジャー・テイラーに授けないのは、
何故なのか、・・・・・気になっておるのじゃが・・・・・、

まあ、わたしも、一度やってみたかったのじゃ!
あとは、家督相続だな、オスカルの家督の件はよいのか?」

「は、娘は平民の男と結婚した身、家督など恐れおおございます。
・・・が、もし、陛下のご慈悲で認めていただければ、娘の励みにもなると存じます。」
「そうか・・・生まれてくる子どもの家督の件は承知した。
オスカルの家督の件は追って沙汰する。

アンドレ、そちはこれから、
アンドレ・グランディエ・ド・ジャルジェと名乗るがよかろう!」

ついには、オスカルとアンドレは吹き出しそうになった!

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屋敷に帰ると、アンドレがいつもの通り、
オスカルに紅茶を淹れて持って来た ^^) _旦~~
「いい香りだなぁ!ショコラとキャラメルのフレーバーか?」
「ああ、マリアージュのだ。おまえが帰って来るから慌てて買ってきたのだろう。」

「みんなに世話をかけるな!」
「ん、それに・・・これからは、立場も難しくなる。
陛下の御前ではおとなしくしていたが、旦那さまのお立場も、・・・
おまえも以前とは違う立場で軍務につくのだろう?」

「そうだな・・・もっと、隊員たちの立場に寄り添いたい。
父上はどうお考えなのだろうか?
帰宅して直ぐに、現場監督に戻ってしまわれた。・・・」

「まあ、兎に角ここしばらくは、生まれてくる子どものことを一番に考えるのだな。
おれは、そろそろ帰るよ!」
「え゛!帰るって、ここがおまえの家じゃないのか?」
オスカルは、この日初めて、心から焦った。

「いや、向こうの家、・・・あのままじゃ不味いだろう?
片付けて、整理して、売りに出せるようにしないといけない。

今年中には戻って来るから、いい子にして待っていてくれ。」
「そうか・・・そのまま、ほったらかしにしてはいけないのか、
知らなかった(*´Д`)わたしは、まだまだだなぁ」

アンドレは、礼服から、いつもの普段着に着替えて下町に帰っていった。
着るものによって人の見かけは変わるけど、・・・
その人となりを知ってしまえば何を着ていても一緒だな。

と感じた。が、それは、アンドレだからなのかなぁ、とも思った。

下町に行って、平民側から何かをしようと思った。
しかし、わたしに生まれた時から染みついた、軍人の血が何かを告げた。
やはり、わたしはこの位置から動いた方が、わたしらしい。

わたしは、わたしには何かを成し遂げる使命があると感じている。
今はまだ、おぼろげにしかその姿は見えないけれど、
アンドレと一緒なら恐れずに、それに向かっていけると信じている。

一年前の今日がとても懐かしく感じる。
と、ともに、とても遠くになってしまったとも感じる。
明日は何が起きるかわからない。
でも、前を向いて歩いて生きたい。

オスカルは、紅茶のカップを口に運び、その気高い香りを飲み込んだ。

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「ねえ、レヴェ兄ちゃん!僕たち、ちょっと間違えちゃったかなぁ?」

「うん、アンドレ父さんをこっちに呼ばなければいけなかったみたいだね。
でも、ママン、遠回りしたけど、無駄じゃないって言っていたから、いいんだよ」

「そだね~、僕たちまだ子どもだから、これが限界だったものね~
早く僕たちの弟に会いたいね~」
「そだね~!楽しみだね!ヴィー、こっちから見守っていようね!」

BGM Let Me Go
By Avril Lavigne

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