♪Teo Torriatte (Let Us Cling Together)
                   Live in TOKYO 1979

寒い一日だった。冷たい風が吹いていたが、このヴェルサイユでは珍しく、晴れ渡り、抜けるような青い空を見渡せた。夜になっても、雲一つ現れず、空一面、星が瞬いて、北の空には、こっちが北だ!と言うように、北極星が一際見事に輝いていた。

その北極星から少し左に目を移すとオリオン座が輝いていて、ふとある人の面影を思い出させた。男は、見上げた星にかの人の瞳を思い出し・・・しかし、首を振ると目的の場所へと急いだ。

路地を曲がると目的の場所だ・・・。
が、いつも店の扉を閉め、ひっそりと営業しているはずの、ショットバーが今夜は、どこから持ってきたのか、通りにまでテーブルを出して、その上にはふんだんのキャンドルに火が燈され、所狭しと酒ビンが並んでいる。

・・・というか、それだけ店に入らないほど、客が押し寄せている。・・・という事なのだ!

その客の中の1人が、遅れてきた男に気づいて声を掛けた。
「よう!アラン!遅かったじゃないか?今夜は、お祝いだよ!」

ふん!その『お祝い』の為に、俺様の仕事が増えちまったってのに・・・のんきなもんだぜ!この半年、隊長不在の為、ダグー大佐以下指揮官たちはじめ、下っ端の隊士まで、書類を回すのを適当に済ませやがってたのが、隊長の復帰が目に見えてきたとたん、今日になって大車輪で仕事を始め、中間管理職の俺様の所に書類が山積みになっちまった。

ふん!と言いながら、男・・・アランは、声をかけてきた隊士・・・フランソワからグラスをひったくると、ワインを一気にのどに流し込んだ。
「で?どうだったんだ?俺は忙しくて詳しく聞いてないんだが・・・」

すると、フランソワは、・・・・・・夕方、ジャックが衛兵隊に飛び込んできて、大騒ぎだったんだ。そして、今夜は、お祝いにジャルジェ家から此処に振る舞い酒をするから、非番のものは集まれって、・・・・・・隊長からの伝言だって、・・・・・・・・・と、嬉しそうに、一気にまくし立てた。

「でね!ブロンドに青い瞳だってさ!」
フランソワが、自慢げに言った。

「そりゃぁ、アンドレの子じゃないんじゃないか!?」
アランは面白そうに言う。
「俺もそう思ったんだけど、・・・
アンドレのおふくろさんが、ブロンドですみれ色の瞳なんだってー!」

「ふ~ん、そうでございますか!・・・・・・って、おい!
何で、あそこにジャルジェ将軍がいるんだ!」
「お屋敷に居づらくて、・・・出てきちゃったみたい。
西洋焼酎が気に入ったみたいだよ!」
「・・・はん?!・・・」


ブイエのオヤジが居なくなって、ホッとできるかと思ったら、・・・この隊長の親父・・・ジャルジェ将軍・・・あの、隊長とアンドレの結婚式以来、平民が気に入ったのか、やたら俺らの兵営の食堂に来ては、飲み会に無理やり入ってきやがって、・・・

そんなのは、隊長だったから、歓迎したけれど、・・・狸オヤジは、ちと迷惑な話なんだよな~

おれは・・・・あの親父がきらいだ。ただの大貴族の将軍人形みたいな、
つまらない親父だったら・・・・
そしたら、にくんで、にくんで、軽蔑して・・・・・・・・
軽蔑しぬいて、やることができるのに・・・・・・・・
ちきしょうめ!なんだってにくみきることができない・・・・・・・・?
なにを考えてやがる、あの親父!

  ***********************

その日の午後、何時ものように、アンドレはジャルジェ将軍と剣の稽古をしていた。それが見渡せるサンルームでは、オスカルと夫人がこれもまたいつも通り、ハーブティーを飲みながら眺めていた。

夫人は微笑ましく見ていたが、オスカルの方は、産み月にも拘らず、身を乗り出し、さも自分も剣を持って将軍相手に戦っているように、腰を浮かし、踏み込みが足りないアンドレに叱咤激励を飛ばしていた。

外にいるアンドレは、目の端にそんなオスカルが目に入る為、余計に応戦にまわってしまい、お互いを思うために、相手に逆の行動をとらせてしまうと言うパターンを繰り返していた。

しかし、その時、応戦していたアンドレは、
これまで見せたことのない素早さで、ジャルジェ将軍の剣を弾くと、
サンルームへと駆け込んで来た。

「どうした?オスカル!?大丈夫か?」
サンルームではオスカルが、おなかに手をやって苦しんでいた。
アンドレは、頭の中が真っ白になってオロオロした。

すると、
「だいじょうぶですよ、アンドレ。陣痛が始まったようです。
貴方も『たまごクラブ』でお勉強したでしょ?思い出してくださいな。

わたしは、使用人たちに声をかけてきます。
貴方は、オスカルの痛みが落ち着いたら、ゆっくりと、部屋に連れて行ってくださいね。」
と、夫人が落ち着いて、指図した。

ああ!そうだった、『たまごクラブ』の通りだ、落ち着け!アンドレ!と、自分に、言い聞かせた。

すると、もう一人の男・・・ジャルジェ将軍が夫人に尋ねた。
「わしは、どうしたらいいのかな?」
「貴方は、邪魔にならない処で、ウロウロしていてくださいね」
と、簡単にあしらわれてしまった。。。
この後、将軍がどうしていたのか、屋敷の者は、誰も知らなかった。

アンドレは、オスカルをそっとお姫様抱っこすると、寝室に向かい。ベッドに横たえた。
「痛むか?」
「今は、大丈夫だ。・・・手を握っていてくれ・・・」

寝室には入れ代わり立ち代わり、侍女たちが分娩に必要な物を持って現れるが、とても静かに、粛々と行われているので、ベッドに横になっているオスカルは全く気づいていない。

そこに勢い良く『バーーーーン』と入ってきた者があった。

この場に自分こそが居なくてはならない!
他の誰にもこの大役を任せる事は出来ない!
と、張り切った、ジャルジェ家の重鎮!
ジャルジェ将軍さえも口答えできない!

マロン・グラッセ・モンブランことばあやであった。

マロンは、運び込まれたものを一瞥すると満足そうに頷いた。
そして、手塩にかけたお嬢さまの方を見て、・・・目をひん剥いた!

「アンドレ!何でこんな所においでだい!
これは、女の闘いだよ!男に用はない!
さっさと出てお行き!」

アンドレは、腰を浮かそうとした・・・。
すると、オスカルが握る手に力が入った・・・。

そ・・・そばにいてくれ・・・わたしをひとりに・・・しない・・・で・・・
どこへも・・・い・・・いかないと・・・アンドレ・・・
そう、思いが伝わってきた。

「おばあちゃん、おれはオスカルに付き添うよ。これは、夫婦の闘いだ!」
アンドレが、断言すると、ばあやは何か言いたそうだったが、口をつぐんでしまった。

オスカルは頑張った・・・歯を食いしばって、でも声を上げる事もなく・・・おれの手を強く握っていたが・・・どのくらい時間がたったのだろうか、何度目かの痛みの後、おばあちゃんが、
「お嬢さま!思いっ切り!そうそう!もっともっと・・・」
と、言った瞬間、新しい命の泣き声が聞こえた。

おれは、オスカルの目を見た、オスカルもおれを見ていた。
オスカルが、微笑んだ。
とても美しかった。
どんな豪華なドレスを着ている時よりも、馬上で指揮を執っている時よりも・・・
今までで一番美しいオスカルを見た。

おばあちゃんが親指を立てて見せた。オトコか?ホントに男か?
奥さまが、
「オスカル、お疲れ様でした。
元気な男の子ですよ」とおっしゃった。
オスカルが、微笑んだ。
勝利の微笑みだ。

「アンドレ・・・アンドレ・グラニティエール・・・だ」

「え゛!?」
「アンドレ・グランディエ家の長男は、アンドレだろ?
だから・・・アンドレ・グラニティエール・・・だ」
「・・・・・・構わない、ってか、嬉しいけど、・・・・・・

パ・ド・カレに行ったら・・・
親父に、弟、それに・・・その子ども、
この子に、おれ!
アンドレが、5人揃うぞ!?」

「・・・・・・($・・)/~~~・・・・・・
でも・・・わたしは、おまえの子は、アンドレと名付けたいんだ!」


  ***********************


「どうしたの?しけた顔して?」
俺があの人のことを考えていたら、ジェルメールが寄って来て言った。

「まあな!本当に手の届かない人になっちまったと、思ってな!」
ついつい、俺は本音を吐いてしまったが、
それは彼女も同じ顔をしていたせいかもしれねーな
「お前さんは、アンドレのヤローか?」

「まさか!彼は初めて会った時から、彼女しか見てなかったわ。
そんな人に恋なんてしないわ。
それよりも、生涯を共にしても良いかと思った人が、
修道院を出たばかりの若い貴族の令嬢と婚約したのよ。
私生児は愛人にしか、出来ないって・・・」

あゝ、そうか、コイツも抱えているのは重いんだっけ・・・俺が黙っていると、
「慰め合うのは、キライよ!」と来たもんだから、
「俺は、フカフカのベッドは生憎と苦手でな!」って言っちまったら、

「私も隣の部屋の音が聞こえるような、安宿は遠慮しておくわ」と来たもんだ。
と、同時に深いグリーンの瞳で威嚇してきた!
あの人と同じ、似た意思を持った、眼差しだ。

2人とも普通の女のようには生きられないのか・・・

年下の男なんぞ、私の趣味ではない!と言うのかと思ったぜ!って言ってやったら「年齢で恋愛しないわ!」と来たもんだ!思わず口笛が出ちまった!

あの人は子どもが生まれて、ますます自信を深めて美しくなって行くのだろう。そんな姿を、これから、毎日毎日見るのは辛いが、今夜は、この瞳と一緒に酔い潰れて、独り寂しく硬いベッドに入るか、気が向いたらフカフカのベッドに行くか・・・どちらにしても、いい気分だ。

星がきれいだ・・・


  ***********************


「なぁ!オスカル、見ていて・・・飽きないなぁ~
こんなに小さい指なのに、爪がちゃんとあるんだぞ!」
「ああ!こんなにも可愛いとは思っていなかった!

それに、もんぶらん嬢が言われる実弾も、
全然気にならない。
それどころか、発射されないと、
隊長もとい、体調が悪いのかと心配になってしまう。

ふふふ( *´艸`)おむつを替えるのも楽しいものだ。・・・不思議だな(^_^*)」

「おいおい!間もなく人に任せて、軍務に着くのだぞ!大丈夫か?」
オスカルは、夫から、アンドレ・ジュニアを受け取りながら、
「(。´・ω・)ん?なあ、アンドレ!?」

「へっ!ダメだぞ!そんな事!絶対ダメだ!」
「まだ、何も言っていないぞ!
それとも、おまえには、わたしの考えていることが分かるとでも言うのか?」
「丸わかりだ!衛兵隊に連れていく!って思っているんだろう?」

オスカルは、一瞬、目を見開いたが、・・・直ぐに、したり顔に戻り、続けた。
「図星だ!さすが!わたしのアンドレだ!
誰かが言っていた。・・・准将なら准将らしく司令官室でふんぞり返っていろ!・・・ってな!
だから・・・そうしようかと思う!」

「マジか?訓練はどうするのだ?自分で鍛えたいんだろう?」
「その時は、・・・おまえが、父親なんだから見ていればいいさ!」

「じょうだんではないぞ!
おれをつれていかないなら、おまえもいかせない!
いかせないぜったい!!」

オスカルからアンドレ・ジュニアを受け取りながら、
これだけは、譲れない!・・・とアンドレが、強く言った。

「ふふふ( *´艸`)それなら、乳母ともう一人、
イヤ、最高司令官室で暇そうに、ふんぞり返っている、爺さんがいるな!
それで、どうだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
これまで、このお嬢さまには、驚かされてばかりいたが、ここに来てさらに、考えられない事を言い出す。そんな最愛の女性を、愛しく思いながらも、かなり、かなりであるアンドレだった。しかし、こうするのが当たり前の事だと思ってしまう、自分もいて、不思議な気分になっていた。
こうして、オスカルは、司令官室のロンパールーム化を計画してしまった。

それも、初めてのはずなのに、経験があるように、手際よく行われた。アンドレも、言われてもいないのに、ジュニアが初めて手にするだろう、おもちゃを手配し、司令官室の床には、毛足の長くない、カーペットが購入された。

なんででしょ!?

BGM Happy
By Pharrell Williams


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