♪Somebody To Love


クリスマス間近の休日におれは、1人でパリにやってきている。
昨夜、パリに行って来る。・・・とオスカルに告げたら、一緒に行きたい。と彼女はかなりしつこく頑張ったが、・・・おれは、オスカルが、身重でもういつ生まれるかわからないのと、パリの治安が今のおまえには悪すぎる。と言って、かなり強引に押し切ってしまった。

治安が悪いのも、出産が近いのも、正当な理由だったが、それよりもおれが優先したかったのは、今回のパリ行は、オスカルへのクリスマスと誕生日プレゼントを探すことが、最大の目的だったからだ。

そんな事を全く、感知していないオスカルは、頬をぱんぱんに膨らませて、上目遣いで俺を睨み、果ては口も利かなくなってしまった。

今年の夏、オスカルはおれの誕生日にソムリエナイフをプレゼントしてくれた。そんな物を使ったこともないオスカルだったが、流石刃物の扱いに関してはプロだ。使い始めた途端、手にしっくりと馴染み、長年使いなれていたような感触だった。
勿論、そんなおれを見て、オスカルは、ドヤ顔していたが・・・。

きっと、オスカルの事だ、クリスマスにもおれのプレゼントを用意しているだろう。

おれはと言えば、今までオスカルの『誕生日プレゼント』は欠かさなかったが、・・・おれがジャルジェ家を出てからはさすがに渡していなかったものの。・・・『クリスマスのプレゼント』と言うものを改めてしたことがなかった。だいたい、クリスマスと誕生日が一緒と言うのも彼女の幸福と言うか、不幸と言うしかないが・・・。

第二の目的。・・・ベルナールの所に新聞の原稿を持って行く。・・・というのも、一緒に行きたがった理由の一つだった。

オスカルも最近は原稿を書き始めている。ペンネームはどこをどう押したら、そうなるのか『ヨルゴス・キリコアス・バナイオトゥー』と言うギリシャ系だ。おれも一度では覚えられなかった。

彼女の書くものはやはり、軍人目線からの論評が多く、評判もなかなか良い。新聞記者ベルナール・シャトレの家を見たいのと、ロザリーに会いたかったらしい。

おれは、オスカルがジャルジェ家から連れて来たキタサンブラックに乗り、先ずは、フォーブルサントノレ通りに向かった。ヴェルサイユに残してきたオスカルが気になったが、幸い出かけにジェルメーヌが来てくれたので、2人でまた、よからぬ話をして楽しんでいるだろう。

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「え?侯爵邸に一緒に住むのか?」
「そこが問題なのよねぇ~あの2人でしょ!?死ぬまであの暮らしはやめられないと思うのよ。で、今度やって来る、従兄弟夫妻は全くのストレート!子どももいるらしいし・・・」
「ふ~ん、どこでも大変なんだな。」

「取りあえずは敷地の中に別邸でも、建てるんじゃないかしら。それよりね、義父が生きている間はいいんだけど、・・・亡くなってしまったら、わたし、・・・完璧に、居候よ。・・・悪く言えば『小姑』!」
「ハハハハハ・・・」
「笑い事じゃないわ!こっちは真剣なのよ!」

ジェルメーヌが今、ぶち当たっている問題は、ボーフォール公爵家の家督相続だ。公爵夫妻に子供がいないので、跡継ぎに弟の息子・・・つまりジェルメーヌの従兄弟夫妻を迎える事となったのだ。

公爵の弟は領地でのんびりと暮らしていて、そちらの暮らしの方が気に入っているとかで、こちらに出てこない。公爵の甥夫妻がヴェルサイユに来るからと言って、公爵夫妻は領地への引退は考えていないようだ。

「でね、この際だから、公爵家からの独立も考えたんだけど、・・・仕事がね~今の時代、女にそれ相応な賃金を払ってくれる仕事ってあるかしら?」
「家庭教師とかはどうだ?知識も家柄も問題ないんじゃないか?」
「それがね、貴族の子弟に教えるとなると、・・・私・・・言ってみれば『私生児』じゃない?雇ってくれないのよ。いっそのこと、修道院で教師をしようと、・・・」

「ハハハハハ・・・それは無理だ!
一体修道院で何を教えようというんだ?
人間の自由?女の権利?女の自由な生き方?
直ぐに追い出されるぞ!」
「やっぱりそうよねぇ。追いだされるか、耐えられなくなって逃げだすか・・・」

「ところで、私生児って・・・実の父親には会ったことはないのか?」
「う~~~ん、ヴェルサイユで見かけた事はあるんだけど・・・」
「向こうは、知らんぷりか?ひどいなぁ!」

「知らないのよ。母とその人との関係が終わってから、私がお腹にいる事に気づいたらしいし、向こうは幸せな家庭を持った、妻子持ちだったし・・・」
「恨まなかったのか?」
「父親のいる家庭っていうのを知らないから、恨みようもないわ」

「ちょっと待てよ!ヴェルサイユで『幸せな家庭持ち』なんて、そういないぞ!
(。´・ω・)ん?それに、アンドレが、言っていたな・・・」

「・・・・・・・・・な・・・なによ・・・・・・・・・・・・」
「ジェルメーヌ、貴女の中に、わたしの面影を見た。・・・とアンドレが、言っていた。・・・アンドレの目は確かだ!・・・もしかして・・・?・・・?・・・・・・・・・?????」
「・・・・・・降参よ、悪かったわ。・・・ずっと隠していて、・・・でも、隠すつもりじゃなかったのよ。」

「分かっている、アンドレと・・・あの・・・イヤ・・・貴女がこの店に来たのも、・・・わたしが、アンドレと結びついていたのも、全て偶然と言う必然だったのだ。

だから、アンドレとあんな事が有った貴女なのに、わたしは・・・どこか惹かれてしまったんだ」
「そう言ってくれて、助かるわ。私もオスカル、貴女がここに来たらもう会わない様にしようと思ったんだけど、・・・ついつい来てしまったの。貴女に甘えていたのかもしれないわね。」

「父上に知らせなくていいのか?」
「それは勘弁して、・・・ジェローデルと結婚させられるわ」
「それはないと思う。あれは、アントワネットさまがわたしに愛してもいない男と結婚して子供を産まそうと言う、いやがらせだ!」

「世の中、汚いわね。
ねえ、この事は、私と貴女だけの秘密にしてくれる?勿論、アンドレにも・・・」
「う~~~ん、いいけど・・・アンドレとは秘密は持たない約束だけど、・・・
まあ、いいか!ふ~ん、姉上か・・・」

「なによ!?」
「(。´・ω・)ん?・・・好きになるオトコも同じなんだな・・・と思ってな!」
「何言っているの!アンドレの事は別に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ふふふ( *´艸`)アンドレの事じゃないぞ!・・・婚約者どのだ!」
「え?彼?」
「うん!まあ、士官学校に来ていただろう?」
「ああ!そうだったわ。剣の講師に行っているって言っていた。

え!まあ!オスカル、貴女!好きだったの?」
「まあ、幼かったから、愛だの恋だのって言うレベルではないけどな」
「ふ~ん、強力なライバルがいたのね。何処で人と人が出会っているかわからないものね」

「ああ、不思議だったんだ。アンドレとあんな事があったオンナなのにどうして親しくしていられるのか?・・・って。今やっと少し判りかけてきたような気がする。だからって、公爵家を出てここに住んだら良い。・・・なんて、絶対に言わないからな!」
「分かっているわよ~自分の事は自分で面倒見るわよ」

「ところで、貴女何なのこの古ぼけた雑誌・・・『たまごクラブ』『ひよこクラブ』?」
「ああ!持ってきた、スーツケースの中から出てきたんだ。
来た時にスーツケースの中身は全部空けたはずなんだが、・・・

時々、スーツケースが使わないベッドの上にあって、
その時、必要な物が出てくる・・・。

アンドレは、ドラえもんのポケット、と呼んでいる。
このワイドパンツも一緒に入っていた。
この雑誌は、妊婦用と子育てのハウツー本だ!なかなか役に立つ情報が書いてあるぞ」

「そうなの。そうよねぇ。実家も遠いし、・・・
教えてくれる人いないものね。使用人がいるわけじゃないし・・・」
「ああ、だけど・・・年末には以前侍女をしていてくれた、アニェスが来てくれることになったし、

それにな!ジェローデルがあの屋敷から逃げ出したみたいなんだ!だから、両親も春になったらこっちに戻って来るらしい。まあ、戻って来ても、行き来することは出来ないがな。」
「でも、結婚式には、ご両親とも出席されたのでしょう?」
「ああ、あれは、変装してだ!見るからに可笑しな変装だったけど・・・」

「そう言えば、ジェルメーヌは誰か、恋人はいないのか?」
「ハッキリ聞くわね!う~~~ん、何となく思っている人はいるけど・・・、
一生涯この人!と言う程じゃないし、

・・・彼、貴族なのよ。」
「貴族じゃ。まずいのか?」
「だって、貴族の御曹司と結婚したら、・・・お屋敷に住んで、お屋敷を取り仕切って、夜会を開いたり、・・・それに、後継ぎを産まなくちゃならないのよ!」
「ハハハハハ・・・そうか・・・貴族の奥方は無理そうだな。

わたしは・・・アンドレが平民で良かったのだな!」
「そうねぇ。二人共、貴族だったら結婚できないわね」
「・・・う~む、どうなんだろう。・・・でも、愛しているからって、自分の生き方を変えてまで一緒になるって、・・・難しいな!」


「おれが、どうしたって・・・!?また、女二人でおれの悪口を言っていたな!」
「アンドレ!帰ってきたのか!なんだ!すごい荷物だな!?」

「ああ、これは布団屋に頼んでおいた、アニェスの掛け布団。・・・前を通りかかったら届いたってオヤジさんが言うから、もらってきた。」
「わたしが、持とう・・・」

「ああ、だめよ、オスカル、私が引き受けるわ!何処に置いたらいいの?」
「ああ、ジェルメーヌ頼むよ、オスカルは、足元がもう見えないから、大人しくいていてくれ。そこの空いているベッドの上に置いてくれ。」

「OK!ホント、オスカル、もしかして、自分の足も見えないんじゃないの?」
「そうなんだ!足元が全く見えないから、階段下りるのも、手探りならぬ、足探りだ!」

「だから、一人では絶対に階段の昇り降りはしないでおくれ!
あと、こっちは夕食だ!パリの成城石井とグリーングルメで買ってきた。」
「アンドレ、脇に抱えているのはなんだ?」

「見つかったか!?1人で飲むのは気が引けるけど、ジェルメーヌがいるから少しくらいいいかと思って、ワインを見繕ってきた・・・」

「ふん!勝手に飲んでろ!わたしも飲めるようになったら、底なしに飲んでやる!!!」

「ハハハハハ・・・おまえには、ハーブティーを淹れてやろう!」
「ハーブティーなんて、さっきからずっと飲み続けて飽き飽きした!
酒好きの、ジェルメーヌとわたしが、ハーブティーを飲みながらおしゃべり三昧だぞ!」

「じゃあ、ガス入りミネラルウォーターだ!冷え冷えだぞ!」
「単に店の床に転がっていただけだろう!」

「ほらほら、そんな憎まれ口ばかり叩いてないで、ジェルメーヌが呆れているぞ!」
「あなた達、いつもこんななの?あてられるわね。独り身には身に染みるわ~」
「そんな事言わずに、一緒に食事していってくれ!」
「ええ、喜んで!1人で食事するのは寂しいわ」

「わたしが、皿を出す。アンドレは、買ってきた物を並べてくれ!」
「了解!ジェルメーヌ、好きなところに座ってくれ!」
「オスカルが、飲めない割には、酒の肴ばかりね!(笑))
「二人共、飲むのが好きだから、こんなものばかり食べているよ!」
「わたしは、・・・炭酸水をお供にな!」

「ところで、アンドレ、パリはどうだった?変わっていたか?」
「ああ、表通りは店が変わったりした程度だったが・・・裏通りは・・・浮浪者や乞食が一層増えた感じがするなぁ。それから・・・・・・・・・」

「それから、・・・・・どうした?アンドレ?」
「うん、貴族の馬車が襲われていた・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・そうか、・・・・・・・・・・・・」
「どうなるのかしらね、このフランスは・・・・・・・・・」

「ベルナールとロザリーは?」
「元気だったよ!ああ!そうだ!ロザリーもお目出度だそうだ。」
「そうか・・・ふ~ん、ロザリーも母親か・・・」
「ああ、それを聞いて、お祝いをして、・・・少し遅くなってしまった・・・・・・・・・」
「それだけじゃないだろ?」

「・・・な・・・なんだ?・・・・・・・・・(;^_^A」
「ふん!
パレ・ロワイヤルにでも行っていたんじゃないのか?」
「なんだ?それ?」
「分からない・・・口が勝手に動いた・・・・・・・・・」

BGM Girlfriend
By Avril Lavigne
ヨルゴス・キリコアス・バナイオトゥーはジョージ・マイケルの本名です。
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