♪Don’t Try Suicide

世の中が音を立てずに動いていく。・・・ミシミシと軋みを生み出し、その軋みがどんどんと大きくなっていくようだ。いつか大きな楔となって、亀裂が入り裂ける日が来るのだろうか、・・・多分、大方の人間がその日が来ることを知っていて、ある者は怯えて暮らし、ある者は希望を持って暮らしているのだろう。

おれは、下町にいたころから始めた、ベルナールの新聞への寄稿を相変わらず続けている。オスカルもお屋敷に戻ったばかりの頃は書いていたが、隊の仕事、子どもの世話が忙しくなると断念したようだ。その代わり、おれを相手に議論を戦わせている。

お互い、胸の内をぶちまける相手がいる事と、子どもの相手をすることで、世の中のやるせない状態から身を守っている様だ。多分、ぶちまける相手がいても、子どもが居なければ二人共、酒に逃げていたかもしれない。

子どもと言うのは大きな存在だ。
この子達の為にも、明るい未来を期待せずにはいられない。

変わらない所もある。・・・・・・・・司令官室のロンパールーム化だ。

間もなく6歳になるジュニアは最近では、家庭教師につき勉強の為お屋敷にいる。とは言っても、勉強の時間はほんの何時間かで、ほとんどの時間を屋敷の使用人の子供たちと遊びまわっている。オスカルも承知で、同じ年頃の遊び相手が出来た事を喜んでいるくらいだ。

従って、ロンパールームの主は、アリエノールだ。この夏に2歳になった彼女は、誰に似たのかお転婆で、早くもおもちゃの剣に夢中である。

その日は、休暇を2日後に控え、衛兵隊内も幾分そわそわとした空気が漂い、オスカルも溜まった書類仕事が一段落していてのんびりとしている。

そんな時に限って、何か起きるんだよなぁ~と、おれが考えていると、・・・・・・・・待っていました。と、ばかりに隣室のソワソン中尉の怒声が響いてきた。オスカルを見ると、またか!と、言った顔をしたが、直ぐに飛び出すべくおれに、うなずいた。

  *************************

ソワソン中尉の部屋には、身なりの良い男性が、今まさに帰ろうとしていた。飛び掛かろうとするソワソン中尉をアンドレが、止め、急ぎ用件を聞きだしたところ。・・・・・・・・男はディアンヌ嬢の婚約者だが、訳があって婚約の破棄を言いに来た。との事だった。

「金持ちの、商人の娘と結婚したいんだと!金に目がくらんだんだ!」
アランが吐き捨てた。

わたしは、ディアンヌ嬢は、この事を知っているのか?大丈夫なのか?と、アランに聞いた。すると、今ごろ、パリの自宅に婚約者の母親が行っているはずだと、アランが答えた。

わたしは、非常に嫌な予感がした。アランとアンドレを急かし、アリエノールを片手に馬上の人となりパリに向かった。この時ばかりは、アンドレも、・・・・・・・・治安がどうの。・・・とか、子連れでどうのこうの。・・・とは、言わなかった。

アランの自宅は、パリの下町の一軒家や集合住宅が集まった、ごみごみした場所にあった。家に入ると、母親と思しき女性が、テーブルに突っ伏して泣いていた。アランは迷わず二階へと上がっていった。その後をわたしとアンドレが続く、ある扉を開けると、今まさにディアンヌ嬢が首を吊ろうと、ロープに手をかけ、踏み台にしていたスツールを足で蹴とばそうとしていた。

アランが「ディアンヌ~!!!」と叫んだ。

間に合わない!!!・・・・・・・・と、わたしが、目をつぶろうとした瞬間、後ろから黒い物が飛んできて、梁から下がっているロープを切り裂き、ディアンヌ嬢は床に倒れた。

一命をとりとめたディアンヌ嬢をアランが抱きしめ、わたしたちが取り囲んだ。しかし、ディアンヌ嬢は、「何故、死なせてくれなかったのか・・・」と、言うのみで、生きる気力を全く失ってしまっている。アランが言葉を尽くして説得しても、気力は戻ってこない。

無理もない、以前ヴィザビエ中佐の件があり、そして、今回である。人生に、男に対する不信感でいっぱいになってしまうだろう。そこに、階段をゆっくりと上がってくる力強い音を聞いた。その男は、わたしとアンドレの間を搔き分けそっと言った・・・。

「ディアンヌさん。・・・・・・・・可哀想に、・・・・・・・・」と、

すると、それまで自力で座る事もしなかったディアンヌ嬢が、起き上がりその男の方に、顔を向けた。腕に手をかけると大声で泣き始めた。その男を見ると、クロード=アシルだった。

クロード=アシルは、静かに訥々とディアンヌ嬢に語り始めた。ディアンヌ嬢も頷きながら聞いている。アランとアンドレと・・・・・・・・わたし、の三人は、何が何やらさっぱりわからず。そしてまた、かなりのおじゃま虫の様なので、顔を見合わせながら下に降りて行った。

「おい!なんで、あいつがでてくるんだ?!」
「おれが、知るわけないじゃないか!」
「だって、おまえ、あいつに店を譲った仲だろう?」
「それだけだ!客と店主の立場が変わっただけで、それ以上の付き合いはない!」

2人の男は、目を吊り上げて、睨み合っていた。

ディアンヌ嬢の母上がアリエノールをあやしながら、お茶を淹れて言った。
「クロード=アシルさんは、たまに野菜を持って来てくれるのよ」

アランが目を見開いて、口をパクパクさせた。

わたしは、アンドレにさっき投げた黒いのは何だったのか?と聞いた。
するとアンドレは、「何かないかと、ポケットに手を入れたらあったから投げたんだが、・・・・・・・・何だか分からない・・・」

  *************************

「レヴェ兄ちゃん!僕もすごいでしょう!アンドレ父さんのポケットにジャストミート!」
「うん!でも、ヴィー!なんで、手裏剣なんだ?ここはフランスだよ!」
「まあ、いいじゃない、ディアンヌお姉ちゃんが助かったんだから・・・笑笑」

  *************************

しばらくすると、階段を下りて来る2人の足音が聞こえてきた。
ディアンヌが、まだ目に涙をためて、・・・しかしその涙は悲しみの涙ではなく、キラキラと輝いて見えた。そして、ディアンヌが話し出した。

「お兄さん、お母さん、そして、オスカルさま、アンドレ、
あんなことをしてしまってごめんなさい。
もう二度と死のうとなんてしません。」と、言って頭を下げた。

アランはホッとしたように、ディアンヌに腕を伸ばしながら立ち上がろうとしたが、ディアンヌが続けた。

「それで、あの・・・来週の結婚式ですが、・・・予定通り行いたいと思います。」
「え゛!」三人異口同音に声を上げた。
「あの、・・・こちらの、・・・クロード=アシルさんと、・・・・・・・・ヴェルサイユの教会で結婚します!」

ガッタ~~~~~~~ン

アランが椅子ごとひっくり返った。
再起不能に見えたが・・・健気にも起ちあがり、
クロード=アシルと向かい合った。

すると、クロード=アシルは・・・
「ソワソン中尉、お母さん、
ディアンヌさんとの結婚をお許し下さい。
必ず幸せにします。」
と、言った。

「おまえの所で、大事なディアンヌが暮らせるのか?
ショットバー、ってカッコつけてるけど、酔っ払い相手の店だぞ!

それに・・・爺さんと、親父さん、おふくろさんがいるんだろ!?
嫁姑問題が起きるんじゃないか!?
そんな所に大事なディアンヌをやるわけにはいかん!」

(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪そうだそうだ!
酔っ払いをあしらうのは、普通の女性では無理だろう。
酔っ払いのケンカは、普通の女性は見ていられないだろう。
わたしが、あそこでやっていられたのも、軍隊経験があったからだ。
わたしは、みょーに納得してしまった。

「ディアンヌさんには、店には出てもらいません。
畑の管理と家事をお願いしたいと思います。
祖父はもう亡くなりました。
母は温厚ですから、ディアンヌさんを大切にすると思いますが、
万が一嫁姑問題が勃発したら、両親には家を出ていって貰います。」

「大丈夫よ、兄さん。
クロード=アシルさんのお母様とは
何度もお会いしているから、
私、上手くやっていけるわ。」

「ディアンヌ!
だったらどうして、始めからこいつにしなかったんだ?」
「だってだってだって、・・・・・・そんな難しい事、・・・・・・・・今ごろ聞かないで~・・・」

わたしは、身の置き場がなくて、アンドレを見た。
アンドレも、ティーカップを持ったまま、固まってしまっている。

・・・・・・・・と、アンドレは、カップを置くと
「まあまあ、二人共、イヤ、アランも、
今日の今日の事だから、・・・少し時間を置いて、・・・
結婚は一生の事だから、少し冷静になって考えた方が良い。

なにも急いで来週と期限を決めずに、ゆっくり考えるんだな!
それでも考えが変わらないなら、行動すればいい」
と、言った。
さすが!わたしのアンドレだ!惚れ直したぞ!

わたしは、アランに特別に今日から休暇を与え、
アンドレとアリエノールを抱えてヴェルサイユに戻った。


その晩のピロートーク・・・・・・・・
「アランのところも、これで落ち着くといいな!」
「ああ!しかし、意外だったな!クロード=アシルとディアンヌが知り合いだったとはな!」

「後は、アランが落ち着くといいのだが・・・」
「アランは、ダメだな!もう、一生分の片思いをしている」

「え゛!そうなのか?打ち明けないのか?」
「ああ、相手の女性は、もう結婚して子どももいる。」

「へえ~そうなのか、せめて相手の女性はアランの気持ちを知っているんだろうな?」
「ハハハハハ・・・それがな!もの凄い天然で、全然知らないんだ!」

「そうか・・・随分とにぶいオンナもいるんだな!
顔を見てみたいもんだ!」
「(´Д`)ハァ…おまえがそれを言うのか?
毎日、鏡を見ているだろうに、・・・・・」

「え゛!なんか言った?」
「イヤ、愛しているよ!」


BGM Into Me You See
By Katy Perry
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