♪Is This The World We Created?

翌週、予定通りと言っていいのか、・・・ディアンヌとクロード=アシルは、6年前わたしと、アンドレが結婚式を挙げた、ヴェルサイユの下町の教会で式を挙げる事になった。

その日は、朝から晴れ渡り、小春日和だった。
わたしは、アンドレと子どもたちを連れて式に出席した。
式は厳かに行われ、わたしは、6年前の式を思い出して感慨深かった。

ジュニアが、「ママンとパパもここで結婚式をしたの?」と聞いてきた。
「ああ、そうだよ、その時はもうおまえは、わたしの腹の中にいたから、
おまえも出席したことになるな!」と、答えるとジュニアは嬉しそうにしていた。

・・・・・・・・のに、突然、・・・・・・・・

「ぼく!できちゃった婚、なの?」
と、言い出した。

う゛!何処でそんな言葉を覚えてきたんだ!我が息子よ!
アンドレを見ると、肩を揺らして、・・・クククク・・・と笑っている!
笑っている場合か!原因はおまえだ!アンドレ!

式を終えると、教会前の広場でパーティになった。
衛兵隊が休暇に入っているので、多くの隊員達がお祝いに駆けつけていた。
ジャルジェ家からも料理やワインを運んでおいて良かった。

隅の方に、この近所のオヤジさんたちの集団が飲んでいる。やけに陽気だ。・・・誰がいるのかと目を凝らしてみると、・・・!父上が・・・今回はカツラをしたままで、いらしている。王家第一主義の父上だが、わたし達の結婚式以来、平民に興味を持ちだして、わたしの衛兵隊隊長への復帰と共に、ご自身も衛兵隊に移り、隊員達とも分け隔てなく話をしている。

突発的に、行き当たりばったり、・・・とも言うが、・・・動く父上の事、目が離せなくなった。

ジュニアが、集まってきた子供達と遊んできていいか?と訊ねてきた。
もちろんと答えて、送り出す。

アリエノールを抱きながら、ワインを飲んでいると、懐かしい、おかみさんたちに取り囲まれた。長女を紹介し、最近の暮らしぶりなどを聞いて、・・・久しぶりに楽しい時間を過ごした。

アンドレは、一班の連中と相変わらずよく飲んでいる。
上の方から「ママン~!」と、呼ぶ声がする。
見上げると教会の脇の木の上からだ。
ジュニアが登って、手を振っている。

「ママン!此処まで来られる~?来てみて~」
息子に挑戦されたら、引き下がるわけにはいかない!
アンドレにアリエノールを渡すと、わたしも登り始めた・・・。

が、ジュニアの所まで行くには枝が細すぎた。

「ジュニア!ダメだ。枝が細すぎて、そこまで行けない。・・・悔しいが・・・」
「そうか・・・残念。本当は、僕もここから上に、行けないんだ。
でも、ママン、ホントに木登りできるんだね!」
「こいつ!親を試したな!アンドレは、もっと上手いぞ!」

久しぶりに木登りをして、楽しかった。
木から下りて、アンドレの側に行くと、集団から離れた所を指さすので見ると、ジェルメーヌが来ていて、アランと話していた。
なんか・・・不思議な感じがして、アンドレを見ると、アンドレも訳が分からない。・・・って顔をしていた。

元々、今日のアランは、花嫁の父の心境で、喜び半分、寂しさ半分という感じで、・・・近寄りがたかったが、今は幾分和らいだ感じに見える。

アランの母上が、クロード=アシルの母上と話している。
多分、ディアンヌ嬢の事が心配なんだろう。

嫁姑問題なら、我が家でも、色々と勃発している。
ばあやは相変わらず、難しい顔をしている。・・・ある時、わたしが、ふざけて『おばあちゃん!』と、呼んだら怒りだしてしまった。それに・・・忙しいアンドレに野暮用を言いつけるから、注意したら、これまた怒られてしまった。

そして、『アンドレ!ちょっと手伝っておくれ!』と呼ぶと、
「何!おばあちゃん?」
「何!ひいばあちゃん?」
と、2人のアンドレが、現れるので、頭を抱えている。

父上は、アンドレに敬語を使うな、と、文句を垂れるし、・・・
アンドレはアンドレで、服を着せられたり、給仕をされることに、まだ慣れないでいる。

元々、『風変わりな貴族』だったのが、さらに変になっているのかもしれないが、・・・わたしには至極当然の事と思える。

クロード=アシルとディアンヌ嬢の結婚式が終わり、休暇も残り少なくなってくる頃、アンドレは、独り書斎に籠りっきりになる事が増えた。急にパリに出かけていく時もある。アンドレの張めぐらされたアンテナに、何かが引っかかったのだろう。

フランスが動き出すのだろうか?

その答えは、年明けにもたらされた。

三部会の召集と開会が、国王陛下によって布告された。

ある久し振りに早く帰宅した夜、アンドレが話し出した。
「オスカル、・・・おまえは、武官として、このフランスに安寧がもたらせるよう働いている。そんなおまえを、護って動きやすいようするのがおれの役目だ。

しかし、今はまだ、武人の出番ではない。
それに、・・・衛兵隊もまとまっているし、旦那さまもいる。おれは・・・」
「議員に立候補するか・・・?」
「・・・勘づいていたか・・・?」
「ふふふ( *´艸`)、わたしに隠し事はできないぞ!
では、パ・ド・カレ県、出身か・・・?」


「反対しないのか?
ああ、パ・ド・カレ県から出ようと思う。
勿論、平民議員としてだ。

それから、・・・・・議員として、・・・当選すればの話だが。
・・・議員として活動するが、衛兵隊に何かあったら、そちらを優先する。

・・・・・・・・おまえの言いたいことは分かっている。・・・議員に当選したら、そちらに専念しろ!・・・と、言いたいんだろう?だけど、・・・おれの最優先事項はおまえだ!

無論、議員としての活動を舐めている訳じゃない。・・・男として、・・・人間として、・・・フランス国民として生まれてきたからには、おれも祖国の為に働きたいと思うんだ。
おまえと、ジュニア、アリエノールの為に将来を明るくしたいと思う」

わたしは、誇れる男を夫にしたと、心から思った。

それからは、アンドレは、昼間は衛兵隊での仕事をこなし、夜は書斎に籠り、休みの日はパ・ド・カレ県に出向いて行き、・・・その合間に子ども達の相手をするという多忙な日々を送り始めた。

衛兵隊も三部会に向けて、忙しくなってきた。議員たちの警備担当を任された。アンドレが、渋い顔をしている。警備するだけだ!大丈夫だ!と言って、納得させたが、どこまで納得したのか、・・・それでも、選挙の準備は続けている。

司令官室のロンパールームは片づけられ、アリエノールには、子守りを雇った。

アンドレは、自分が不在の時のわたしの護衛として、アランを指名した。
わたしは、護衛など必要ないと言ったが、「一番危険なヤツを護衛にすれば、安心だ!」と、訳の分からない事をブツブツと言うのみだった。

わたしはと言えば、アランと二人になったら、ジェルメーヌとの事を聞いてみようかと思っている。

  *************************

日が伸びてきて、暖かくなってきたある日、わたしとアンドレは久し振りに夜勤に付いた。

ヴェルサイユの庭園をゆっくりと歩いていると、『見てみろ!月がきれいだ・・・』とアンドレが、指を差した。見上げると見事な月が、満開の桜と共に美しかった。
「寝転がって見上げたいな!」

わたしが言うと
「こんな所に寝転がっていたら、誰かに踏まれてしまう!」
・・・・・・だって、・・・・・・なんてロマンのない男なんだ!
もっと、女心が分かる男かと思っていたが、・・・

「オスカル!そこに竿船がある、あの上なら、踏まれることも、蹴とばされることもなく、思う存分月を愛でる事が出来るぞ!」
(。´・ω・)ん?と、見ると、大運河の端に確かに竿船があった。
流石!わたしのアンドレだ!

二人して嬉々として、船に乗り込み、仰向けに寝転んだ。
・・・月が綺麗だった。

ここのところずっと、お互い忙しくてすれ違いも多く、
アンドレの温もりを感じるのも久しぶりだ。
アンドレが、腕枕をしてくれた。

大きな月が、アンドレの顔に変わった。
目を閉じて、アンドレの唇を味わう。・・・
アンドレの首に腕をかける。・・・


ゴ~~~~~~~~~~ン

え!( ゚Д゚)え!え!

「随分と、平和なこって、・・・・・・・・」
頭の上から、聞きたくないオトコの声がした。
いや~な予感。
目の前のアンドレの、ドアップの上方に、ソワソン中尉の顔が見えた。

「や・・・やあ!月がキレイだったもので、・・・・・・・・」
アンドレが、珍しく、慌てて答えた。
「月ですか~?と~~~~~~っくに、
雲間に隠れて見えませんがね!」
「そ・・・そうか・・・」

見上げると、うっそうと茂る新緑の陰に月はなかった。
そして、竿船の舳先は運河の端にぶつかっていた・・・・・・・・。
いつの間にか、大運河を流されて反対側まで来てしまったようだ。

「今、舟を岸に着けるから待っていろ!」とアンドレが、艫の方に行くと、
「あ~~~!竿が流されている!!!!」と、叫んだ
「え゛!どうした!!!」わたしが立ち上がって、アンドレの方に近づく、

「わ~~~~~オスカル!立つな!バランスが!!!!」
足元がグラグラしたと思ったら・・・・・・・・、


ザッバ~~~~~ン!!!!!

見事にひっくり返ってしまった。
しかも、水泳にはまだ早い季節。・・・水の冷たい事と言ったら、・・・

また、意地悪な声がした。
「最近、衛兵隊の士気がたるんでいる、と噂されていますが、・・・
隊長がこれでは無理もないですなぁ~、ったく、やってられない!

明日から、三部会が開催されるというのに、
議員と、護衛の責任者がこれじゃあ、先が思いやられるってもんだ!」
ソワソン中尉は、ぶらぶらと庭園の中に消えていった。

わたしとアンドレは、くしゃみをしながら、
着替えるために、司令官室に向かって走っていった。
こうして、バタバタと三部会は開催された。

BGM Candle In The Moon
By Elton John
ダイアナ妃思い出バージョン Candle In The Moon
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