♪My Melancholy Blues
ジャルジェ家は、今日もたいへんな人ですこと!
三部会が始まった。
アンドレもわたしも、朝早くから出かけ、しかし、夜には屋敷で子どもたちに囲まれて、まったりと(*´ω`)過ごす予定だった。予定とは、大抵その通りにはいかないもの。とはわかっていたが、此処まで脱線するとは、わたしたちは、思ってもいなかった。
会議が終わって、それぞれの議員が、各々の滞在場所と決めている宿に帰り、翌日の準備を進めるもの。だと思っていたが、このジャルジェ家には、夜中まで議員がうろうろして白熱した議論を戦わせ、吞んで、食って、それぞれの与えられた部屋に引きあげていく。
そう。こともあろうか、この屋敷の主である、わたしの父上、ジャルジェ将軍は宿代が払えないだろうと、パ・ド・カレ出身の議員たちに屋敷を開放してしまったのである。
しかし、そのおかげで、屋敷でくつろぎながら、議会の様子を聞く事が出来るようになった。フランソワのケチな情報に10スウ払うより貴重だ。新聞が出る前ならわたしの情報は30スウで売れるかもしれない。しかも、議論に加わり、論戦を交わすこともでき、充実した日々を送れた。
その中でも、顔を真っ赤にしてどういう立場で話しているのか、全く分からないのが一人いた。わたしの父である。元々、王党派の堅物の軍人のはずなのであるが、この所、その立ち位置がどうも怪しくなってきている。不可解な人物である。
その夜も、わたしは子どもたちを寝かしつけてから、参戦しようと目論んでいたが、アリエノールが、目をぱっちりと開けていて全然寝てくれない。仕方がないので、抱きあげて広間へと入っていった。
わたしの娘のアリエノールだ。と、紹介し、アンドレが、アリエノールを受け取ってくれ、彼女が「ママン」「パパ」と呼ぶと、・・・・・・・・ロベスピエールら旧知の者以外、さーーーーーーーっとまるで、【まっくろくろすけ】のように、部屋の隅に固まってしまった。
そして、何やらひそひそと話し出した。
そして言った「女性には、政治を語る権利はない。出て行って欲しい!」と、
わたしは、『またか』と、思った。
士官学校の時も、近衛隊に入った時も、そして、衛兵隊でも、女と言うだけで、差別される。うんざりだった。
「しかし、君たちは人間の平等な権利を求めて、戦っているのではないのか?」
わたしは、出来るだけ静かに話した。
しかし彼らは、
「それには、女の権利は含まれていない」と答える。
「第一!男を産むのは、『オンナ』だぞ!」と言うと、
「そのオトコを育てるのは『オトコ』である。」
もう、ああ言えばこう言う。・・・で、話にならなかった。
アンドレも加勢してくれたが、結局、部屋にいる事は承諾してくれたが、発言権は失った。
その日から、わたしは、部屋の隅でもっぱら聞き役になってしまった。こんな時にジェルメーヌなら、どう対処しただろうか、・・・彼女に援護射撃をして欲しかった。
勿論、その晩、アンドレに思いっ切り不満をぶちまけた。が、ぶちまけられたアンドレも傷を負っているのが分かって、悲しかった。その夜は、お互い疲れていたが、お互いを求め合わずにいられず、わたしもやるせない思いを忘れるほどにアンドレを求めた。
アンドレと何回こうして抱き合ったか分からないが、こんな風な気持ちで、抱き合うのは初めてだった。アンドレの身体は、わたしの気持ちをまるごと受け止めてくれた。それは、言葉にするより雄弁に語ることが出来たし、言葉で表現されるよりずっと心に響いた。
こんな事が有るとは、知らなかった。
わたしが、毎晩こうして大人しく部屋の隅で単なる傍聴人に徹していられるのも、アンドレがいてくれたからだ。
それでも、傍聴者に徹している事にストレスを感じたり、子どもたちが寝付かないで、広間になかなか行く事が出来ず、つい怒鳴りたくなってしまうのを、抑える事が出来るのも、アンドレがわたしの全てを受け止めてくれるからである。
わたしの精神安定剤はアンドレの様だ。
では、アンドレの精神安定剤は、わたしなのだろうか?ベッドに入る5秒前まで激論していたはずなのに、アンドレはストンと寝てしまう。不思議でしょうがない!
おまえ、良く直ぐに眠れるなぁ!と聞いたら、ベッドに入って、わたしを抱きしめて、わたしの匂いを嗅ぐと(わたしの匂いってどんなんだ?)昼間からのストレスも、何もかも忘れて眠れるんだ!と言う。
では、それでもやっぱり眠れない時は?と聞いてやったら、おまえを抱く!なんてキッパリと言った。ふん!じゃあ!もしわたしが、その気じゃなかったり、月の物の時はどうするのだ?と意地悪く聞いてやったら、
わたしを抱きしめて、天蓋を見詰めながら『オスカルが1人、オスカルが2人、オスカルが3人・・・』と数えて行くと、天蓋の中が金髪で溢れて眩しくて目を開けていられなくなって、眠れるのさ!だと❣️
悪い気はしないが、・・・デタラメだろう。
でも、そんなアンドレだから、愛しているのだろう( ◠‿◠ )。
しかし、議会が過熱してくると、議員たちはもちろん、アンドレも日付が変わってからの帰宅はまだましな方で、帰ってこない事が多くなってきた。
衛兵隊も上方部から無理難題を突き付けられているようで、父上がそれまでの功績を理由に挙げて退けているようであるが、それが何処まで続くかわからない状態になってきている。
BGM Little Broken Heart
By Norah Jones
スポンサードリンク