♪Stone Cold Crazy

「遅いぞ!アンドレ、もう先に行ってしまったのかと思った・・・・・」
夜明け前の玄関に、オスカルがいつものように待っていた。
アンドレは、言葉を失った。

「オスカル・・・・・おまえ・・・・・」
「何をぼーっとしているんだ!走るぞ!」
オスカルは、当然といった様子で、今までと変わりなく、飛び出していく。

どうしたというんだ?オスカル・・・・・。
もう、早朝の修行には来ないと思っていたのに、
何を考えているんだ?オスカル。

でも・・・・・こうして、一緒に走っていると気持ちがいいな・・・・・。
でも・・・・・おれたちに未来はないんだぞ!
それでもいいのか?オスカル?

ふふふ( *´艸`)・・・・・アンドレ、びっくりした顔をしていたな!
わたしがもう、一緒に修行しないと思っていたらしい!
そんなに簡単にあきらめないぞ!

見ていろ、アンドレ、必ずおまえの秘密を解き明かして、
おまえを、わたしの方に振り向かせて見せる!
オスカルさまの、辞書に『不可能』と言う文字はない!

こうして、二人はまた、一見何事もなかったように、夜明け前から修行をして。

アンドレは、いそいそとオスカルにホカホカのご飯を運び。・・・・・へなちょこな振りをしながら、道場での稽古に励みながら、ばあやの手伝いをして。忙しく過ごしていった。ただ、以前より無口になって、何事か考えこむことが多くなったのに気づいていたのは、ばあやとオスカルのみであった。

一方のオスカルは、道場での稽古が終わると、ばあやが止めるのも聞かず、独りで街に出かけ、書店、図書館と調べ物をして回った。全くと言っていいほど、成果は上がらなかった。元々、アンドレの空白の2年4ヶ月が、公の場で見つかるとは思っていなかった。調べていたのは20年前の件である。

いい加減、イライラとしてきたオスカルは、藩の書庫を訪ねてみた。ここなら、藩内で起きたこと全てを、保管してあるはずである。即、結果を求めるオスカルであるが、ここでは腰を据えてじっくりと資料と向き合った。

先ず、1768年1月からの資料を見ていった。特に気に留める事件もなかったが、・・・・・資料が膨大なため、かなりの時間を費やしてしまった。

続いて、1769年1月である。オスカルは、身の引き締まる思いで愛する男の秘密を探し出した。1月・・・・・何事もなかった。・・・・・しかし、2月に入ると、・・・・・中旬以降の資料に目をみはった。資料が、ホワイトで消されているもの、切り取られているもの、が、あった。

オスカルは、資料室の管理責任者に問うてみた、すると、・・・・・
「ここは、誰でも入れるから、改ざんされる事は少なくないです~。
元々、この太平の世、重大な資料があるはずもなく、我々は気にしていませ~ん」

と、・・・・・何とも無責任な言葉が返ってきた。我が道場の書庫管理責任者に聞かせたら、怒りだすだろう。彼、・・・・・アンドレの仕事ぶりは、やはり見事なものだ!と、・・・・・うっとりしてみたりしてみるが、・・・・・この、改ざんが妙に気になってしまった。

和紙に書いてあるので、裏を見ればわかるかと思ったが、丁寧に、裏までホワイトで消してある。ただ一つ、犯人が慌てたのか『火』と言う文字が残っているのをオスカルは、見逃さなかった。

その後、改ざんは3月いっぱいまで見られたが、その後は何事もなく、管理責任者の言葉通り平和な日々がつづられていた。

続いて、オスカルは、某家について調べ始めた。
ジェローデルの兄は旗本。・・・・・取り立てて、気に留めるようなこともなく、
ジェローデルは次男坊でのんびり暮らしているようである。

しかし、それにしてはジェローデルの羽振りがいいような気がするのは、オスカルの直感からなのか、・・・・・
一応、心に留める事にした。

毎朝の修行は相変わらず、幼なじみの親友という形で続いている。
時々、オスカルは、『お前に何があった!?』と、詰め寄りたい衝動に駆られたが、・・・・・
アンドレが自分を見つめている目を見ると、つい口を閉じてしまうのであった。

アンドレのまなざしの中に、少しでも愛情はないか?・・・・・と、オスカルは探してしまう。
しかし、ポーカーフェイスの得意なアンドレは、目に感情を一切込めず。

イヤ、感情が無い方がまだましだったかもしれない。
アンドレの瞳には、相変わらず、幼なじみの親友に対する眼差し、さらに悪い事には最近では、可愛い妹!の、ような慈しみが込められているのに、オスカルは失望した。
『なぜ、そんな眼で遠くを見ている!?』と怒鳴り付けたくなることもしばしばだった。

アンドレの過去の捜索は、行き詰った。

そこでオスカルは、燈台下暗し・・・と、再び道場の書庫に向かった。
奥の蜘蛛の巣だらけの部屋から探そうかとも思ったが、
手前から順にと一冊ずつ手に取って調べていった。

今度は丁寧に元の所に書物を戻すこともせず、放り投げていた。
従って、アンドレの仕事が増えたのは言うまでもない!
棚の奥も丁寧に調べていく。
すると、書棚と書棚の間に、書庫には不釣り合いな茶箱のようなものが見つかった。

ドキドキしながら、開けてみた。
果たして、・・・・・・20年前の道場主・・・レニエの日記が見つかった。

しかし、また2月頃の記述が全くない!
全くない。・・・・・というのは少し語弊があるかもしれない。
妙に簡略化して書いてあるのだ。
しかも、訳ありのように『Rien』とだけ記してある日もあった。

分からないなら、・・・・・直接、本人に聞こう!

とは思ったものの、早朝の修行中は無駄口をたたく暇もなく、わずかな休憩時間中、アンドレは、取り付く島もない。無口なのではない。・・・・・相変わらず、とりとめのない話はするのであるが、肝心の話を持ってくるタイミングが無いのである。

時だけが無情に過ぎていった・・・・・。

BGM You Need Me, I Don’t Need You
By Ed Sheeran
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