・・・と言う事は、わたしの場合は・・・
オスカルは、考えた。
確か、あの時、太陽が高く昇っていた。
鳩も飛んでいた。(どうでもいい事だが・・・)
つまり、アンドレよりも早い時間だ。
それより・・・・・アンドレとその時間まで、会えないのか。
オスカルは、思考を巡らしながら、トボトボと部屋に戻っていった。
唇に人差し指を当て、襖を見つめ、天井を見渡し、床の間を見て・・・頷いた。
ふん!わたしは、おまえの様に、手ぶらで行くなんて、ごめんだ。
荷造りだ。
向こうでは、皆飢えている。
それに、わたしは、二児の母親だ。
あと、20時間、荷造りだ!
こうして、オスカルは、残りの時間を荷造りに費やした。
*******************
「おい!なんだ?おまえ!こんな所に寝転んで!
此処を何処だと思っている?」
「国王ご一家が、軟禁されているテュイルリー宮だと知って、潜り込んできたのか?」
うつ伏せになって寝転んでいたオトコは、急に硬い棒のような物で突かれ、腹の下に硬い靴を入れられ、仰向けにされた。
オトコは、唖然としていた。
思考を巡らそうと、辺りをキョロキョロと見回す。
オトコを、仰向けにさせた男たちが、驚いた風に言った。
「はん!見ろよ、この男、フランス衛兵隊の軍服を着ていやがる!」
「祭りは、明日だっての、知らないのかな?」
仰向けにされたオトコ・・・アンドレは、少しずつ覚醒してきた。
「え゛・・・あれ?テュイルリー宮広場の攻撃は?
フランス衛兵隊は、何処に行ったんだ?
あ・・・違う、祝言が終わって、妻が怒り出して・・・」
「なんだ?まっ昼間から、酔っ払いか?
とにかく、こんな所まで入って来るとは、怪しい奴だ。
詰め所に来てもらおうか!」
アンドレが見た事のない軍服を着た2人の男が、連行しようと、立たせようとした時、ひときわ大きく、高びーな声がした。
「おい!どうした?何かあったのか?」
2人の男は、慌てて振り向き、敬礼をする。
「中尉、怪しい奴が、紛れ込んでいました。
これから詰め所に連行します。」
中尉と呼ばれたオトコは、この不審者と言われている男をよく見た。
そして、
「おれが、取り調べを行う。おまえらは、任務を続けろ!」
と、言うと、不審者・・・アンドレを助け起こし、
「おい!アンドレか?おまえ・・・今まで、本物か?」
アランが、驚きを隠せないまま囁いた。
「あ・・・アラン!」
シッ!大きな声を出すな、兎に角、此処を出る迄、不審者のふりをしていろ!と言いながら、アランはアンドレをさも、連行しているように、テュイルリー宮の敷地から、外に連れ出した。
通りに出ると、真っ先にアンドレが、
「おい!アラン、衛兵隊はどうしたのだ?オスカルは、何処にいる?」・・・その他ぐちゃぐちゃと聞きだした。
「おい!そんなにいっぺんに聞くな!こっちこそ聞きたいぞ!
おまえ・・・生きていたのか?
棺桶からどうやって、生き返った?
一年も何処に行っていたんだ?
隊長は、どうした?
まさか、ヴァンパイアじゃああるまいな?」
アランも、アンドレに負けず、なぞ解きをしようとしている。
お互い混乱したまま、興奮状態、質問攻め、話が進むわけはない。
そんな2人を、通りすがりの者たちが、物珍しそうに指差して見ている。
それを先に察したのは、アランだった。
「アンドレ、その軍服は・・・マズイぜ!取り敢えず、上着だけ脱げ!」
と、言いながら、アンドレの軍服を脱がした。
ここで、一息ついた、2人は漸く、ほんの少しだけ冷静になってきた。
「アラン、おまえこそ、その軍服はなんだ?誰かのをぶんどったのか?」
アンドレは、アランが新品のしかし、衛兵隊で着ていた中尉の軍服よりは、安物に見えるものを着ているのに、気が付いた。
「なあにを言っている。これは、れっきとした、国民衛兵隊の軍服さ!
司令官は、あのラファイエット将軍だ!
おまえ?そんな事も知らないのか?」
「え゛・・・国民衛兵隊って、なんだ?
テュイルリー宮広場での戦闘はどうなったんだ?
覚えているぞ!おれが撃たれて、オスカルが担いでくれて、戦場を離れた・・・。
そして・・・」
「そして・・・どうしたんだ?
おまえは、死んで、棺桶に入れられた。
隊長は、どうしたらいいのか分からないほど、嘆き悲しんでいた。」
アランが、言うと、アンドレが、
「やっぱり、おれ・・・死んだんだよなぁ?
じゃあ、オスカルは?オスカルは、どうした?」
「どうしたって?・・・大体、死んだおまえが、どうして1年後に現れるんだ!
あの後、っつーか一年前の、翌日だ!バスティーユを攻撃している時に、隊長も撃たれて亡くなったから、せめて、おまえの隣に寝かせて差し上げようとしたんだ。
そしたら、おまえの棺桶を覗いたら、おまえの遺体が無くなっていた。仕方がないから、棺桶も不足していたしで、隊長をおまえの棺桶に寝かせたんだ。
それからだ、翌日、ロザリーが花を持って、隊長の所に行ったら、隊長の遺体もなくなってしまっていた」
ここまで、聞いていたアンドレは、顎に指を当て、眉間に指をあてて、考え始めた。
そんなアンドレを見て、アランは、声を掛けようとしたが、黙って隣を歩きながら、アンドレをアランの自宅の方へと導いた。
「アラン、今日は、何年の何月何日だ?
・・・で、おれが死んだのは、何時頃だ?」
「はあ!?何を聞いているんだ!?
今日は1790年7月13日だ。おまえが死んだのは、戦闘中だから、良く分からないが、今頃だろうな!それが、どうした?」
アランの返答を聞くと、アンドレはまた眉間に指を当て考え始めた。
考え始めながら、突然また聞いた。
「アラン、何処に向かっているんだ?」
「おいおいおいおい!聞いている事に答えろよ!
おれの家だ。正体の分からないおまえが、そこら辺をウロウロしていたら、ホントにしょっ引かれるぜ」
アンドレが、やっと、顔を上げて語り始めた。
「アラン・・・よくは、覚えていないが、今が本当に1790年なら・・・この空白の一年間、オスカルとおれは、幸せに暮らしていたような気がする」
ゆっくり、話すアンドレにイライラした、アランが、
「何処でだ!どうして、死んだ2人が幸せに暮らしていたんだ!?」
サッサと話せとばかりに、まくし立てた。
「それが・・・思い出せないんだ。ずっと、オスカルは、おれの側で、おれを見つめていた気はするのだが。・・・それが、何処でだか、全く思い出せない。
オスカルの遺体も消えたと言っていたな?
オスカルが、死んだのは翌日だと・・・
戦闘があったと言っていたな。オスカルが、おれが居なくて、どうしていたか、教えてくれないか?」
アンドレが、いつもの落ち着いたオトコに戻ったのをアランは見て、7月14日のバスティーユでの出来事を、話し始めた。
かくかくしかじか、かくかくしかじか、
かくかくしかじか、かくかくしかじか、
「そうか・・・オスカルらしいな・・・」聞いたアンドレがぼそりと言った。
その間も、背のひときわ高い、黒髪の男が二人、パリの町中を闊歩していくのを、道行く人は、振り返ってみていた。
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いっぽうで、ジャポンにいるオスカルは、道場の中を走り回っていた。
走り回っているうちに、三頭身になってしまったが、スタイル抜群のオスカルでは、このような事は出来ないので、都合がいいと、そのままでいた。
厨に走り、米蔵に行き。酒蔵で、吟味し、裏庭をひと回りして。
一通り、揃えるともの凄い荷物になった。
これでは、独りでは、持てない・・・。
しばし、悩んだ。
ちょっとやそっとでは、諦める三頭身オスカルではない。
あ!と、言うと、納屋に走った。
背負いかごを、有るだけ持って来た。
それに、荷物をどんどん詰めていった。
しかし、独りで、何個もかごを背負う事は出来ない。
また、悩んだ。
悩んだが、腹が減ったので、朝食へと向かった。
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なんだと!隊長と一緒だったていう以外、覚えていないだと?!
アランの、自宅に着き、落ち着いたアンドレに、アランは、怒鳴りつけた。
「オスカルが、居たのは覚えているんだが、その背景は全く覚えていないんだ。
だが、・・・おれが、1年前の今日のあの時間に死んだのなら・・・
アラン・・・明日、オスカルの死んだ時間に、その場所におれを連れて行ってくれ」
アランは、胡散臭い顔をしたが、隊長の事では、ノンとも言えず、渋々首を縦に振った。
アランは、アンドレを2階の2人部屋に連れて行った。
隊長も来るのなら、此処を使えと言った。
随分と部屋があるのだなぁ。
これなら、下宿屋でもできそうだな!と、アンドレが、感心して言う。
すると、この家の主は、ああ、そうさ、下宿屋をやっている。
勿論、お袋が、ほとんどやってくれている。
それに、住んでいるのは、殆どが、元衛兵隊のしかも第一班だがな。
まったく、あいつら、下宿代殆ど払わないかわりに・・・食うだけはしっかりと、食って。その内、下宿代踏み倒して、出て行くんじゃないかと、目を光らせているんだ。
言いたい事を言うと。
アンドレからは、もうこれ以上話を聞き出せないと、夕食の時間を告げると、出て行った。
つづく
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