翌日は、快晴で、気温がやや高めだった。
「ああ、暑くてやってられねえな!」
「え゛・・・乾燥していて、快適じゃないか!?」
「はあ!?おまえ何言ってやがる!?」
「だって、普段は、もっと暑くて、ジメジメしている・・・」
アンドレは、澄み切った夏の青空を見上げた。
まるで、秋の空のように澄みきっている。と、呟いた。
それを地獄耳で聞いていた、アランは、
「おまえ・・・何処にいたんだ?」と、聞かずにはいられなかったが、当のアンドレは、
「さあ・・・全く、覚えていない・・・。
それより、アラン・・・おまえの家、何処にあったんだ?
昨日は後をついてきただけだから、分からなかったが、
こんな丘、パリにはないし、だいぶ歩いたぞ!」
「フン!パリは、相変わらず物価が高くてな。
家の賃料も高いから、モンマルトルに移ったんだ。
こっちは、パリ市内じゃあないから、ちょいとばかり不便だが、
税金も賃料も安くて、快適なのさ」
「ふ〜ん、そんなもんか。
モンマルトルからじゃ、バスティーユまで、かなりあるな!
急ぐぞ、アラン!」
程なく、バスティーユに着くと、アンドレが、驚いて言った。
「おい!?バスティーユが無いじゃないか!
道を間違えたんじゃあないだろうな!
それに、何だこれは?市民が、歓喜して騒いでいるじゃないか?」
「あゝ、話さなかったか?
1年前に、バスティーユは、ぶっ壊された。
そして、今日が『革命記念日』になったのさ!隊長の功績だな!」
それを聞いたアンドレは、複雑な顔をしていた。
そんなアンドレに構わず、アランは、オスカルが凶弾に倒れた場所へと、アンドレを案内した。
が、しかし、人混みでなかなかオスカルを、見つけることができない。
目立つ軍服を着ている、はずなのだから、すぐに、見つかると2人とも思っていた。
いないぞ!ってか、現れないぞ!アランが、アンドレに攻め寄った。
おまえだけが、何処からか、幽霊になって戻ってきたのか!
必死になってオスカルを探していたアンドレが、『幽霊』に反応した。
が、この際、『幽霊』は、隅に置いておいた。
そして、アンドレは、癖になっている、目頭に親指と人差し指を当てて、考え込んだ。
すると突然、来た方向に猛ダッシュした。
「おい!?アンドレ?どこに行く?」アランが慌てて追いかけながら、叫んだ。
「おまえの家だ!オスカルは、向こうに現れる!」
「なんだって!?隊長は、バスティーユで逝っちまったんだぞ!」
走りながらなので、アランの息が、かなり上がってきていた。
「オスカルの事は、おれが1番よく理解している!
あいつは、絶対に向こうだ!」
アンドレが、確信を持って言った。
そして、速度を上げた。
「ケッ!じゃあ、なんでバスティーユまで来たんだ?
時間と体力と食った飯が無駄になったじゃないか?!」
息が上がったアランが、途切れ途切れに、文句を言って、
アンドレに追いつこうと速度を上げた。
「悪い、悪い。まだ、あちこち完全じゃないんだ」
と、言いながらアンドレは、さらにスピードを上げた。
それを見ながら、アランは、
なんだ?
アイツ!スッゲー速さで行っちまった。
おれだって、日頃鍛えてるんだが、追いつけない。
くっそー!
それになんだ、アイツこの人混みを、クネクネと、器用に避けて、突っ走っていく。
アイツそんなに、身体能力あったっけ?
それに隻眼だっただろう?!
え゛・・・両目あったような気がしてきた。・・・おれ・・・熱があるのかな?
兎に角、追いつかねば。
ワッチ!ダメだ。人が多くて、走れない!
なんなんだ!あいつ・・・。
まあ、元々隊長の事になると、常識はずれになったっけ!
程なく、息も切らさず、アンドレは、モンマルトルの丘の向こうにあるソワソン家に着いた。1階の台所に、アランの母親がいて、のんびりと、あら、アンドレさんお帰りなさい。・・・と、言っているのを無視して、2階に割り当てられた自室に飛び込んだ。
飛び込んだアンドレが、目にしたのは、もの凄い数の背負いかごだった。
その中から、ちょこちょこと、アンドレの身長の3分の一位の人間が、そばに寄ってきた。
アンドレが、思わず後退りすると、小さな人間がにこにこしながら顔を上げた。
「え゛?!おまえ・・・オスカルか?
なんで、そんなに小さくなってしまったんだ?
それに、顔も丸っこくなっているじゃないか?」
すると、三頭身のオスカルは、アニメ声で、
「寝ぼけた事を言うな!アンドレ!
この方が、移動するのに具合がいいんだ!
だいたい、おまえが手ぶらでこっちに戻って行ってしまったからいけないんだ!
わたしがあちこち骨を折って、準備をしなくちゃならなくなっってしまった。
だから、三頭身なんだ。
なんて世話の焼ける夫だ!ばあやの苦労が、やっと分かったようだ。」
言いたい事を、言うとまた、オスカルは背負いかごの方へちょこちょこと、向かった。
「おい、三頭身のオスカル!
それで、その〜、元には、戻れるのだろうな?」
アンドレが、恐々聞く。
すると、三頭身のオスカルが、またちょこちょこと戻って来て嬉しそうに、アンドレ!目が治ったのだな!良かった!向こうでは、両眼とも有ったから、もしかして・・・と思っていたんだ!良かった、良かった。と、言って背負いかごの方へと行ってしまった。
そして、
「アンドレ!何やってるんだ!元の姿に戻る前に、持ってきた物を説明するから、早くこっちに来い!この姿でないと、分からないものばかりなんだ!」と、言う言い方は、八頭身の時と変わらなかった。
「そうか・・・戻れるのか・・・それは良かった。
で、その着ているものは、何なのだ?見た事のない、服だけど?」
「・・・・・・・・・覚えていないのか?
まあ、しょっぱなから、おまえは、忘れていたようだが、・・・
ジャポンの着物だ。動きやすいように、袴もはいてきた!」
それを聞いて、アンドレがあ〜んぐりと口を開けた。
「ジャポン・・・おれたちは、ジャポンに行っていたのか?」
三頭身のオスカルは、イライラと、
「そんな事、後でたっぷりと聞かせてやる!
先ずは、荷物だ!
こっちは、食糧難だと思ったから・・・
この籠は、野菜だ。瞬間移動だから、新鮮なはずだ。
それから、アレには、ニワトリが詰まっている。
捌いて食べても良いし、飼って卵を食べてもどちらでも出来る。」
それに、これは、・・・と三頭身のオスカルと同じ高さ位の樽を叩きながら・・・酒・・・ジャポンの酒だ。
一斗樽だ。
おまえとの再会を祝って呑もうと思って、金箔入りだ。
最大級の笑みを浮かべて、オスカルは言った。
アンドレは、相変わらず口を開けたままだったが、
その内、自分も三頭身になっている事に気付いた。
「ふん!この方が、話しやすいな」
あくまでも、冷静な、三頭身オスカルである。
一方のアンドレは、慌てふためいて、
「オスカル、どうやったら戻れるのか?
おれは、戻り方を知らないぞ!一生このままか?」
冷たい目線で、アンドレをチラリと見ると、
「相変わらず、心配性なんだなぁ。
兎に角、今はこの荷物だ!」
背負いかごをやっと、覗ける背丈になった2人は、かごの中を一つ一つ見て廻る。
全て見終わると、アンドレが、
「おまえ、良くこれだけ揃えたなぁ!
おまえには、縁のないものばかりだぞ!」
「だから、三頭身なのだ!って言っただろう!
スタイル抜群の准将のわたしでは、
訳の分からんものばかりだからな!」
そう言うものか・・・アンドレは、ただただ感心するしかなかった。
そこへ、ドスドスと靴音を響かせて階段を上ってくる音がした。
「オスカル!不味いぞ、アランが戻ってきた!
元に戻るか、隠れないと!」アンドレが、あたふたし始めた。
ノックも無く、ドアが開けられた。
「あ、隊長!こちらに戻ってこられたのですね!」
と、言うなりアランは、敬礼する。
アンドレが、隣を見ると、衛兵隊の軍服を着て、八頭身になったオスカルが、
いた。
己を見てみると、やはり八頭身に戻っていた。
「ソワソン中尉、心配をかけたな!
これまでの事は、おいおい話すとして、此処にある食料をアンドレと一緒に、しかるべき場所に持って行ってくれ」
オスカルしか目に入らなかったアランが、部屋を埋め尽くしている、かごを見た。
「隊長、何ですか?コレ?
スッゲー、食べ物じゃないですか〜
何処から、分捕ってきたんですか?
ワォ!ニワトリまで、いらぁ!」
見た事のない、食料の多さにアランは歓喜した。
オスカルは、相変わらず冷静に、
「人聞きが悪いぞ!
盗んできたのではない。向こうから・・・失敬してきたのだ!」
失敬したのと、盗んだの違いが分からず、アランはキョトンとした。
それにも構わず、オスカルは、
「ニワトリは、しばらくは、飼って卵を手に入れよう。
何処か、放し飼いに出来るところはあるか?」
「う〜ん、裏庭があるが、そんな所に置いといちゃ!
明日の朝には、一羽もいなくなるだろう!
そこらのヤツらが、持っていくに違いない」
「そうか・・・では、おまえの部屋に持って行け!
この部屋は、わたしが、アンドレと静かに休みたい。
たのむな!?アラン?」
と、オスカルは、最上級の微笑みとともに告げた。
アランは、衛兵隊時代の、隊長の命令に素直に聞いていた癖で、了解してしまった。
それが、これからの彼の生き方を変えてしまうとも、この時は知りもしなかった。
アンドレとアランが、ニワトリを向かいにあるアランの部屋へと運び終わった頃、フランソワとラサールが戻ってきた。
「わあ!隊長も、戻ってこられたのですねぇ!
昨日、アンドレが、ゾンビのように、戻ってきたから、
不思議でしたけど・・・おれたち・・・嬉しいです~」
素直な、フランソワとラサールが、泣いて喜んだ。
「ああ、ああ、泣くな。泣くな。
今夜は、宴会だから、ここの食料を、この2人と一緒に運んでくれないか?
腹いっぱい、食べて、呑めるからな!」
オスカルも嬉しそうに言った。
つづく
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