4人がかりで、食料を運び終わると、かごがひとつだけ残った。

オスカルと2人きりになった部屋で、アンドレがかごの中を覗いて言った。
「この中には、何が入っているんだ?」

フランソワが、気を利かせて持ってきた、ほとんどお湯に近いお茶を飲みながら、
オスカルは、笑いながら答えた。

「ふふふ・・・懐かしいものばかりだぞ!」と言いながら、中の物を取り出していった。

「先ず、これは、おまえと修行した時の、『忍者ハットリくん』の、衣装だ。
おまえのは、1番似合っていたから、空色を・・・
わたしは、わたしが一番早く走れて、おまえが褒めてくれた時の、
コーラルピンクを持ってきた」
オスカルが、嬉しそうに広げて見せた。
が、アンドレは、不思議そうに見るだけだった。

オスカルは、つまらなさそうに、
「本当に、何も覚えていないのか?」
忍者ハットリくんの衣装を、投げ捨てて、聞いた。
アンドレは、すまなそうに、頷くだけだった。

オスカルは、次にアンドレ愛用の短刀を出して、アンドレに渡した。
すると、アンドレは、物凄い速さで、短刀を抜き、収めた。

オスカルが、固まった。

しばらく、2人とも黙ったまま、アンドレの手にある短刀を、見つめていた。

やっと、オスカルが、
「アンドレ、おまえ・・・居合い・・・覚えているのか・・・」
「え゛!何のことだ?おれは、今、何をしたんだ?」
どんぐり眼を、更に大きくして、アンドレが、呟いた。

「もう一度、やってみろ!」
オスカルに言われて、アンドレは、スッと刀を抜いた。しかし、今度は、慎重に収めた。

それを見て、オスカルは、ため息をつく。
やはり、アンドレは、ジャポンでの事を覚えていないのか、と思い、ガッカリした。
そして、向こうでの1年間の思い出の品を次々と出す事に専念する事にした。

アンドレと、夏の夜、舟に乗ったときの、浴衣が出てきた。
あの夜は、辛かったが、今思うと懐かしさで、鼻の奥がツーンとしてくる。

愛しいアンドレ・・・何をしているのか、見てみる。

!!!!????

ナント!アンドレが、忍者ハットリくんになっている。

「な・・・なんで、その衣装を着る事が出来たんだ!」
オスカルが、叫んだ。

アンドレは、平然と、
「さっき、無意識にやったら、短刀で何かしたから・・・今度も、無意識にこの衣装に触ったら、どうにかなるかとやってみたら、こうなった」

「なんなんだ!おまえ?
二重人格か?」

2人が、ああでもない、こうでもない!と、もめていると、また、ドスドスと階段を上ってくる靴音が聞こえてきた。

「アンドレ!早く着替えろ!
まだ、この衣装を見せるには、刺激が強すぎる」
オスカルが、珍しくアンドレの洋服を手にして、促した。

「ダメだ!脱ぎ方が、分からない。」
「早く、無意識になれ!」
「言われてなれるものじゃあない」

「仕方がない、忍者ハットリくんは、わたしが脱がせるから、洋服は自分で着ろよ!動かないで、突っ立っていろ!この、木偶の坊!」
と、言いつつも、オスカルの顔は、ドンドンと赤くなっていった。

「なんだ、おまえ、赤くなって、結婚してから何年経っているか、忘れたのか?それとも、おまえは、こっちでの事を忘れたのか?」アンドレが、やっと自分を取り戻して、オスカルをからかう。

その時、入るぞ〜と、言ってアンドレと、同じくらいデカク、更に態度もデカイ男が入ってきた。

丁度、オスカルが、思い出の品をひっくるめて、かごに入れ、アンドレの横に並んだのと、同時だった。

入ってきた男は、オスカルとアンドレが並んで、直立不動なのに、驚き、一歩下がる。そして、訳も分からず、敬礼した。

オスカルが、隊長の威厳を取り戻し、何の用かとアランに尋ねた。
「あゝ、アンドレに聞きたくてな。
おまえ、さっき、バスティーユから戻ってきた時、人混みを見事かかき分け、右・左に器用に走っていたな?アレはなんなんだ?」

それを聞き、オスカルは、隣に立つアンドレを見上げた。

ボーっとしていた。
おまえは、一体何者なんだ?わたしが知っているアンドレでは、ないのか?

でも、体はジャポンでの事を覚えているようだ。
しかし、知識としては、忘れている。
体が忘れるのが先か。それとも、徐々に思い出してくるのか。

面白い!わたしのアンドレが、どう変化するか見届けてやろう!

オスカルは、ニマニマしたいのを、アランがいたので、どうにか真顔で通した。

また、2人きりになった。24時間ぶりの再会である。それも、ジャポンからフランスに瞬間移動して・・・アンドレは、覚えていないが、・・・

でも、アンドレも感覚で、・・・しばらく、と言っても、24時間だけだが、・・・この2人にとっては、そんなに長い時間会わなかったことは、出会ってから初めてである事だけは分かっていた。

顔を見合わせた。
ハグをした。
口付けをする。
そしてまた、ハグをする。

と、また、ドスドスと靴音を響かせて階段を上ってくる音がした。
そしてまたもや、ノックもせずに、入ってきた。

入ってきたアランに、気づきもせず、相変わらず、ハグをしている2人を、アランは、複雑な思いで見ていた。

最初に気づいたのはアンドレだった。
不機嫌そうに、何か用でも?と、腕を組んで言う。
(暖炉を背にしたかったが、生憎この部屋には暖炉が無かった)

そして、夫婦の部屋に入る時は、ノックぐらいしろ!と、言いながら、さらに強くオスカルを抱きしめた。

「この部屋は、ソワソン家で貸しているんだ。
おまえは未だ、賃料を払っていない。
だから、正式におまえの部屋にはなっていないんだ!
勝手にイチャイチャするな!」
アランが、タカビーに告げると、それまでアンドレの腕の中で、うっとりしていたオスカルが、頭を上げて、

「ふん!食料を此処では、手に入れられない程持ってきただろう!
アレで、半年は住めるはずだ!
それに、夫婦なんだ!イチャイチャしたってかまわないだろう!」
と、こちらも更に、タカビーに言った。

元々、アランの上官であり、衛兵隊の隊長であり、准将である。
アランは、アンドレに気を取られていて、すっかり忘れていて、慌てて敬礼した。

そして、今日一番の(オスカルが、戻った時もそうだったから、2番かな?)キビキビした声で、
宴会の準備が整いました。狭い食堂ですが、下に降りてきてください!と、告げ、回れ右して、踵を鳴らすと、出て行った。

  *******************

文字通り、食堂は狭く、また、アンドレだけではなく、隊長がしかも、最近口にする事が出来なかった、食料を持って帰ってきた(どこからかは、分からないが)。

兎に角、腹を満たせる。
酒が飲める。
隊長がいる。
隣にはアンドレもいる。

その普通の事が嬉しくて、何処をどう巡って知ったのか、元衛兵隊第1班のみならず、パリ近郊にいる、元衛兵隊の者がわんさと集まって来ていた。

みんな、オスカルとアンドレが、どうしていたのか、知りたがった。しかし、オスカルは、だんまりを決め込み、頼りの兄貴分のアンドレは、ホントに知らないから、言うべき言葉が無かった。

宴はたけなわとなり、その内、家族がいるからと帰るもの。そこら辺の土間をベッド代わりに眠るもの。親しい者と、円陣を組んで、語り合う者。
宴席の輪が、崩れだしてきた。

そんな中、食堂の片隅に、金箔入りの一斗樽で、どうにか姿を隠して、三人が真剣に話し込んでいた。

「じゃあ、マジで、隊長とアンドレは、ジャポンにいたのですか?」
アランが、信じられないと、はたして自分は隊長の仰ることを聞き間違えるほど、酒を飲んだのだろうか?と思いながら、聞き返した。

「ああ、どういう経緯で、あの東の果ての国に飛ばされたのか、分からないが、ジャポンだった」

オスカルは、向こうで、アンドレに恋している自分に気づいた事。
アンドレを振り向かせようと、必死だった事。
そして、花嫁争奪戦で、見事、アンドレが勝った事。

そして、めでたく祝言を上げた事。
あ!そして・・・その席で、アンドレが、己をほったらかしにして、あちこちと飲み歩いた事。

・・・で、足がしびれて、無様にもぶっ倒れて・・・アンドレと、喧嘩をしたのだった。

余計な事まで、思い出してしまった。
オスカルは、あの時の怒りが、じわじわと戻って来るのを感じながら、隣に座る夫を見た。
すると、視線を感じたのか、アンドレもこちらを向き、穏やかに笑った。

戦意喪失・・・であった。
なんて、外柔内剛なヤツなんだ。

ジャポンでのアンドレは、こちらに居た時のアンドレと、ひと味違っていた。
今度の、アンドレ・・・わたしにとっては、同じアンドレだが、2味も3味も楽しめるのか!これは楽しみだぞ!
オスカルは、肩で笑った。

そんな中、マジになっているのは、アランだった。
「いったい!どうやって行って、どうやって戻ってきた・・・のかは、分からないのですね!?
では、どうして、死んだはずの、隊長と、こいつが生きているのですか?」

アラン・・・オスカルが諭すように、話し始めた。
過去の事をとやかく言っても、しょうがない。
我々はこれからの事を考えたいのだ。な、アンドレ?

すると、これまで、話の輪に入れなかったアンドレが、心得たとばかりに身を乗り出してきた。

「ああ、オスカル、先ずは、あっちに行ってみよう。
どうなっているのか、見てみたい」

「ああ、わたしもそう思っていた。
多分、思っている通りだろうけど、実際に行ってみたい」
オスカルも同意した。

が、アランにはさっぱり分からない。
「隊長、アンドレ、あんたら、あっちとか、思っている通りだとか・・・何を言っているのか、分かって言っているんですか?また、どこかほかの国へでも、行くのですか?」

「まさか、なあ!アンドレ?」
「ああ、そうだ。オスカル」

アランが、一層イライラと、じゃあ、一緒に、場所を言ってみろ!と、怒鳴った。

それには、全く頓着せず、2人は、示し合わせたように、
「ジャルジェ家」
「ヴェルサイユ」
と、答えた。

これには、開いた口が塞がらない・・・と、アランは、
「本気で言っているのか?
向こうは、あの後、略奪が凄くて、殆どの貴族は領地に戻るか、亡命しちまってますぜ!
それを、のこのこと、見に行くなんざ、時間の無駄ってもんですぜ!」

「ふふふ・・・でもなぁ、アラン。自分の育った家が、どうなったのか気になるモノなんだよ。
それに、宮殿もどうなっているのか、この目で確かめて来たい」

「もしかしたら、おばあちゃんが、頑張っているかもしれないしな」
「それは、あるかもしれないな。
明日の朝、早くにこちらを発とう」

こうして、翌朝、日の出と共に、オスカルとアンドレは、ヴェルサイユに向かっていった。

つづく


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