ヴェルサイユから、パリへ。
オスカルとアンドレは次の目的の為、邪念を捨てて黙々と歩いてきた。
手をつなぎながら・・・。
もうすぐ、パリへと入る頃、アンドレが言った。
「これから、おれは、必要な物を買って帰る。
おまえは、アランの家に先に帰っていてくれないか?
おまえにも、やらなければならない事があるだろう。
金貨の箱はおれが持って行く。おまえは、宝飾品の方を頼むな」
至極まっとうな事を言った。とアンドレは思っていた。
だが、オスカルが、反対した。
「こんな金貨がずっしりと入った箱を持って、
店でドサッと中を見せながら買い物するのか?
危険すぎる。必要なだけにしろ!」
衛兵隊隊長当時の、鋭い声で訴えた。
アンドレは、しばらく考え込んで、
「ああ、そうじゃなくて、先ずは金貨を両替屋に行って、使える額面の金に換えるんだ。
それから、あちこちの店で買い物をする・・・。なら、問題ないだろう?奥さま?」
オスカルは、ますます怖い顔をして、
「両替屋なんて、得体のしれない店に、おまえなんかが大金を持って行ってみろ!
身ぐるみはがされるのがオチだ!
必要なだけにしろ!2-3枚でいいか?」
言いながら、オスカルは、しっかり者の妻の顔になった。
「分かったけど、もう少し持たせてくれ、足りなくて出直すなんて厄介だ。
だが、そうするとおまえが、金貨の箱と、宝飾品の箱、両方持って行く事になる。
心配だ!」
アンドレは、最後を強調して言った。
それには、オスカルは得意のドヤ顔で、
「わたしを誰だと思っている!
オスカルさまだぞ!
こんなカッコしていても・・・」
最後の一言は、消え入りそうな声で言った。
そう、オスカルは、女物のしかもかなりくたびれた、安物のドレスを着ていた。
しかし、オスカルの身なりを見ると、アンドレは安心して、パリの町中へと消えていった。
一方のオスカルは、どの道を通ったら、安全にしかも迅速にモンマルトルの裏手に帰れるのか、検討した。
この時代、グーグルマップもカーナビもないので、頭の中の地図が頼りだった。
後ろを振り返ってみる。
新凱旋門が見えた。(って、すっごい時代錯誤、いいのかね?)
ガッテンした。
外環道を一気に走って、モンマルトルで降りればいい。
決まれば、行動に移すのが早いオスカルは、外環道を猛ダッシュで走り出した。
勿論、知らず知らずのうちに、三等身になったのは、言うまでもない。
程なくして、オスカルは、ソワソン家の戸口に立った。
スタイル抜群で。
中をそっと、覗いてみる。
アランの母上が、かまどに向かっていたが、オスカルに気づき、声をかけてきた。
「まあまあ、お帰りなさい。アンドレさんは一緒じゃないのですか?」
世話になっているのに、歓迎されてオスカルは、頬をすりすりしながら、
アンドレが、買い出しに行っている事、チョット荷物があるのだが、・・・何処に置いたらいいのか、困っている事を伝えた。
アランの母が答えようとした時、鍋から、ぐつぐつとあふれ出しので、かまどの方へ向き直りながら、
「荷物だったら、そこの食堂にでも置いておいてくれれば、あとでアランが帰ってきたら、どうにかしてくれるでしょう!」
と、向こうを向きながら、言ってくれた。
言ってくれたので、オスカルは、荷物・・・先ずは、小さい方を玄関から入れた。
トントンと叩いてやると、大人しくなった。
次に、大きい方を入れようとした。
上部がつかえたので、チョット下げさせた。
両幅も、つかえたので,接続部を離して、まず、軽いのから自分で運んだ。
この位、朝飯前だった。
実際、この日は朝食を取っていなかった。
そして、なんとか、大きいのも食堂に入れて、トントンしてやっていた。
そこに、アランが帰って来て、叫んだ!
「わお!なんで、食堂に馬が、しかも2頭もいるんだ!
隊長ですか!なんなんですか?
また、盗んできたのですか!
いくら、何も自分でやらない、お貴族様だって、食堂に馬を入れるなんて、考えられないんじゃないですか!」
一気にまくし立てた。
オスカルは、至って冷静に、
「アラン、おまえの母上に、どうしたらいいかお聞きしたところ、
食堂に・・・とおっしゃられたので、そうしたのだ。
それと、この馬は、盗んだのではない。
それに、わたしとアンドレは、盗人ではないからな。
これは、ジャルジェ家の馬小屋にいた。
だから、ジャルジェ家のモノだ。
放置しておくと死んでしまうから、連れてきた」
人は、相手が冷静になるほど、自分を見失う事が多々ある。
アランも、普段からそうだが、さらに頭に血を昇らせて、
「放っといたら、死んでしまうが、
こっちに連れてきたって、エサはないし、
早かれ遅かれ同じ運命をたどるしかないじゃないですか?」
ふん!とばかりに、馬よりも、鼻息荒くまくし立てた。
オスカルは、母馬に手をかけて、なだめさせながら、
相変わらず、冷静に答えた。
「アラン、おまえ、両目がちゃんとあるのに、見えていないな?
馬が、ちゃんと自分の食料を持っているではないか?」
オスカルとアランのやり取りを、お玉で灰汁を掬いながら、アランの母上が微笑みながら見ている。それに気づいたオスカルが、そっと会釈をすると、母親は、ドンドンおやりなさい、と、合図を送った。
その一瞬の間に、少しばかり落ち着いたアランは、肩で息をして、正気に戻った。
って、自分の家の、食堂に馬が居たら、誰でも慌てるのが普通だが、・・・
アランは、この家にも、使われていないが、馬小屋がある。
裏にあるからそこを使えばいいと、オスカルに勧めた。
分かった。と、オスカルは、二頭の馬を引いて、食堂をさらに奥に入り、その奥の裏口に向かおうとした。
これにまた、アランが頭に血を昇らせた。
「だから~、普通だったら、外を回るんじゃないですかっ!
隊長、ジャルジェ家では、お屋敷の中で、馬を走らせるんですかっ!」
相変わらず、冷静なオスカルは、
「ハハハハハ・・・ちょっと、試しただけだ。
馬小屋には、ブラシとかあるのだろうな?
むこうには、何もなかったから、ブラシもかけてやれなかった。
それと、バケツもあれば、身体を洗ってやる事も出来る」
ムッとしながら、アランは馬小屋まで一緒に行って、バケツだの、ブラシ、果ては井戸の場所まで教えて、用事があるからと、消えてしまった。
オスカルは、馬の世話をしながら、アランとのやり取りを思い出しながら肩を震わせて笑っていた。
そう言えば、オスカルが、アランをからかう度に、アンドレに止めておけ。と、とがめられたことを思い出した。なんでなんだろうか?
また、アランには叶わない恋の相手がいる事も思い出した。これも、聞くんじゃない!と、アンドレにしつこく言われた。結婚している相手だと言っていた。誰なんだろう?
もしかしたら、ご亭主と上手くいかなくて、離婚しているかもしれない。
そうしたら、自分がキューピッドになってやろう。
そうだ、わたしは、恋愛の達人だ。あのアンドレから、二回も愛されたのだぞ。ここフランスで、そして、ジャポンでは振り向かせたのだ。でもって、今もなお、ラブラブだ。こんなに相応しいオンナはいないな。今度アンドレに聞いてみよう!
その前に、馬の世話だ!
オスカルは、こちら、フランスでも暮らしもまた、楽しいものになるに違いないと、嬉しくなってきた。
嬉しくなってきたので、三等身になっていた。
*******************
オスカルが、馬の世話を終わり、宝物の二つの箱を前にして、食堂でコーヒーを楽しんでいると、アンドレが裏口から入ってきた。
必要な物は、全て揃った。馬小屋と納屋に勝手に入れさせてもらった。と告げた。
そして、馬たちも、ブラッシングされて気持ちよさそうだ。と、オスカルの仕事を讃えるのを忘れなかった。
オスカルは、大した事ではないと、言いつつ、実はもの凄く嬉しかった。
お疲れ様、おまえもコーヒーでも、どうだ?とオスカルがニコニコと聞くと、部屋に行って飲もう。これからの事も話したい。という事で、それぞれ、重たい箱と、マグカップ持って、二階へと上がっていった。
ら、
アランの怒声が響いた。
「何をしていやがるんだ!
スーツケースに、荷物を詰め込んで・・・出て行く気なのか?おまえ!?
行く当てなんかあるのか?」
「おまえ・・・なんて、気やすく呼ばないで!
私を、こんな所にいつまで、住まわすつもり?
鶏小屋じゃないの?
だいたい、貴方は私に、不自由はさせない。ちゃんと食べさせる。って言っておいて、
私が今、不自由なく、まともな食事を食べていると思っているの?
こんな、あばら家に住まわせて、
粗末な食事しか、それも偶にしか食べられなくて、
そんな、最低限の暮らししかさせてくれないじゃないの!
着るものだって何よ!
こんな、人が着た、古着ばかり気持ち悪いったらないわ!
知っているの?
私は生まれた時から、貴族の・・・それも特別上流の家系の貴族の人間なのよ。
そんな私を、こんな所に住まわせて、どう思っているのよ!?」
オスカルとアンドレは、顔を見合わせた。
どう聞いても、ジェルメーヌの声だった。
え゛・・・なんで、ここに居るんだ?
それも、アランの部屋にいるのか?
疑問符が、だんだん湧いてくるが、2人の・・・たぶん・・・きっと・・・アランとジェルメーヌ、・・・の、言い合いが激しくて、オスカルとアンドレは、息を殺して盗み聞き・・・と言うには、派手なケンカだったので、・・・ハッキリと聞こえていた。
「はあ!?何をいまさら言っているんだ!
俺と一緒になるからには、それなりの覚悟ってのがあったんじゃないのか?
ここの暮らしが、イヤなら出て行けばいい。
俺は止めないぞ!」
「ふん!出て行くわ!」
その途端、ドアがバタンと開いて、サムソナイトのスーツケースを持ったジェルメーヌが目を真っ赤にして出てきた。
呆然と立っている、オスカルとアンドレを見ると、
「しばらく、貴方たちの部屋に住ませて!
迷惑は、かけないわ」
「おい!夫婦の部屋に居候すること自体が、迷惑だと思わないのか、このアマ!」
「それは、当事者に聞くわ!」
「おれ達は、構わないけど、・・・明朝、出て行く予定なのだが・・・」
廊下でバッタリと会ったジェルメーヌに、アンドレが、淡々と告げた。
「え゛・・・あら!まあ、又行ってしまうの?
でも、本当に本物?・・・みたいね!
嬉しいわ。
とりあえず、今夜は泊めて下さるのね。
一晩でも、ニワトリもいないし、床でも、ソファーでも構わないわ。
この男と一緒じゃなければね!」
「ああ、おれは、構わないさ。
貴族待遇なのだろ?
ベッドは二個あるから、使えばいい。
おれは、床で、寝るから・・・」
アンドレが、男らしく言った。
オスカルは、むっつりと黙って聞いていた。
そして、ジェルメーヌに向き合うと、2人で話そう。
部屋に入ってくれ、とオスカルは、与えられた部屋に、ジェルメーヌを入れた。
マグカップと、金貨が入った、玉手箱ならぬ、アンドレの箱を持ったアンドレは、呆然と廊下に取り残された。
見ると、頭から湯気を出している、アランも突っ立っていた。
アランに、悪かったな。
同居人がいるとは思わなかったんだ。
アンドレが、本当に済まなそうに言うと、ふん!どうせ、余り者がくっついただけ。厄介者は出て行って、また、気楽な独りモンに戻るだけさ!と言って、階段をドカドカと降りて行ってしまった。
アンドレは、ふーっとため息をついた。
部屋の中では、オスカルとジェルメーヌが、小さなテーブルを挟んで、話をしていた。
「ニワトリの事は悪かった。わたしが、ジェルメーヌが同居しているとは知らずに、アランの部屋に押し込んだんだ。
ニワトリがそもそもの原因ならば、今夜アランの母上に料理してもらって、平らげてしまおう。そうしたら、アランとの仲は戻るのか?」
オスカルは、恋愛の達人として、アランとジェルメーヌの、復縁を図ってみた。
しかし、ジェルメーヌは、
「ニワトリは、ほんのきっかけよ。
それまでも、不満は鬱積していたの。
私は、やはり貴族としか生きられないの」
「アランの事を愛していないのか?」オスカルは、いきなり急所を付いてきた。恋愛の達人なのに・・・。
「はん!愛した事なんかないわ。利用させてもらっていたのよ」
ジェルメーヌも、的確に答えた。そして、
「あのバスティーユの後、行くところがなくなって、知り合いの貴族の屋敷を転々として来たわ。でも、皆んな、次々と亡命し始めて、行くところが無くなったの。」
「よくそんな時に、迎えてくれた人がいたな。良かったな」
相変わらずオスカルは、オスカルの宝箱(別名、パンドラの箱)を両手で包み、その上にマグカップを載せて、ふむふむと、達人らしく頷いた。
「本気でそう思っているの?
私に与えられた部屋はねぇ、客間ではなく、その屋敷の主人の寝室よ!
どういう意味か、分かるわよね?」
オスカルは、衝撃を受けた。
貴族、貴族と言っているから、それなりに気位も誇りもあるはずなのに、・・・
あの頃はなんとも思わなかったが、あの時、取り立ててアンドレに気がある風でもなかった。愛してもいない男の寝室に、平気で入っていくのか?
一応、ジャルジェ家の血をひいているのだろうに・・・。
でも、それ以上に、目の前にいるオンナに、今まで感じたことのない嫌悪感を抱いた。
昔、自分はアンドレの事を思っていなかった時期だが、彼女はアンドレと関係があった。
これは、絶対にアランと復縁させねばならない。
オスカルは、硬く決心した。
「本当に、アランと別れてしまっていいのか?」
心の中では、頼むからくっ付いてくれ!と願いながらオスカルは言った。
もう、アランの気持ちもジェルメーヌの気持ちも、どうでもよかった。
「あんな、汚いオトコ!ごめんだわ!」
「え゛・・・アランは、ガサツだが、仕事はきっちりやるし、
人情はあるし、義理堅い・・・。
汚いオトコじゃないぞ!
それに今は、中尉だが、その内、時代が変わればきっと、将軍にでもなるだろう」
オスカルは、必要以上にアランの肩を持って、アランのいい所を多分に評価良く伝えた。
「そんなの事じゃないのよ。
知っている?
アランは、歯も磨かないのよ。
それに、お風呂にも入らなないの」
ジェルメーヌは、見も毛もよだつと、身震いしながら言った。
オスカルは、オスカルの玉手箱を抱きしめ、コーヒーをちびりちびり飲みながら、
「え゛・・・風呂はともかく、歯を磨かないのか?
それは・・・・・・」
オスカルには、『歯を磨かない』と言う事が信じられなかったので、かなりの痛手を受けた。が、形勢を立て直して、
「オトコはみんな、風呂には入らないのじゃないか?」と、ふんぞり返って言った。
現に、アンドレは、歯磨きはするが、風呂には入らない。まあ、ジャポンに居た時は、気持ちよさそうに、湯船に浸かっていたが、それを言うとややこしくなる。と、オスカルは、黙っていた。
ただ、男は総じて、シャワーを浴びるが、風呂には入らないと、アンドレ基準に決めつけていた。
ジェルメーヌは、意を得たりと、
「そうなのよ~、歯磨きしないどころか、お風呂に入らないのよ!」
え゛・・・、男は皆、風呂には、入らないだろう?と、ジェルメールに諭すように言った。
すると、ジェルメールは、オスカルの事を、なんて、ねんねちゃんなの!って感じに言った。
「兎に角、お風呂に入らないのよ!!
貴女知っている?男の人が、お風呂に入らないと、どうなるのか?」
オスカルは、カチンときたが、冷静に考えた。
が、分からなかった。アンドレは、風呂には入っていないが、別にどうと言う事もない。というより、アンドレの匂いが好きだと、オスカルは、うっとりした。
うっとりしたついでに、こう言った。
「アンドレも、風呂には、入らないぞ!」
お子ちゃまに見られて、気分を害したオスカルは、これで形勢を立て直したと思った。
しかし、ジェルメールは、
「あら!知らないの?
アンドレは、私の部屋に来ると必ず、お風呂に入って行ったのよ。
最初は遠慮していたけど、その内、すっかり気に入ったらしくて、
お風呂で、身体を清めてから、ベッドに入ったわ」
ジェルメーヌのこの言葉は、オスカルを傷つけた。
ア・・・アンドレが、わたしのアンドレが、わたしが知らなかったときとは言え、女の部屋で、お風呂デビューしたなんて!なんたる、不覚。
それに・・・アンドレが風呂好きだったなんて、今まで知らなかった。
わたしの知らない、アンドレがいた。それも、このオンナは知っている。
アンドレとは、生まれた時からずっと一緒だった。だから、彼の事は、誰よりもよく知っているし、知らない事など無いと思っていた。
天然のオスカルの胸にも、ズッキーンとかなり響いた。
(意味が違うようであるが・・・。)
頭上からたらいが落ちてきた気分だった。
下町で、新婚カップルのような生活をしていた頃、アンドレは、湯を沸かしてくれ、オスカルの為にシャワーが使えるようにしてくれた。オスカルも、身重の身体が言う事を聞く限り、アンドレが、シャワーを使えるように手伝っていた。
それが、また、楽しかったし幸せだった。
でも、風呂に入りたいなんて、一言も言わなかった。
その幸せな時代に、ブリザードが降ってきた気分だった。
オスカルが、打ちひしがれていると、ここぞとばかりにジェルメールの報酬が降り注いできた。ジェルメーヌも、アランとくっ付けられたら、大変と本気だった。
「だから~、アランは、お風呂どころか、シャワーさえも浴びないのよ!
そんな事も、知らないの?」
「だいたい普通の男が、身体を洗わなかったらどんなに臭うか知っているの?」
本気で、虫唾が走ると言った風に、ジェルメーヌに言われたが、
体を洗わない人間が居ること自体、知らなかった。が、考えてみる。衛兵隊にいた頃・・・・・・ムンムンと臭ってくる、男臭さに、当初は眩暈がするほどだった。だが、多忙の為、単に身体を洗うチャンスが少ないだけだと思っていた。
オスカルには、ジェルメーヌとアランのよりを戻すのは、かなり難しいと感じた。
だが、どうにかして、この腹違いの姉を遠ざけたいと思った。
「それで、明日からはどうするつもりなのだ?」
相談相手になっている風を装って、なるべく優しく言ってみた。
わからないわ・・・と、かなり、投げやりに言われてしまった。
そこで、やはり、此処に留まるよう・・・わたし達は、明朝出て行くから、この部屋を使えるようにアランに頼んでみたらどうか?と言ったが、思わぬ反撃にあってしまうとは、予想もしていなかった。
「イヤよ!もう、借りを作りたくないわ
あなた達こそ、どこに行くのよ?」
「無論、アラスだ。
子供たちが、いる。
会いに行くのだ。」
「まあ!じゃあ、私も連れて行ってくれないかしら?」
オスカルは、何処をどう押せばそうなるのか、と、
「なんで、連れて行かなければ、な・・・ら・・・・・・」
オスカルの話の途中で、ドアが勢いよく開いた。
「おい!いつまで、おれを廊下に立たせておくんだ!?
アランが、面白がってバケツを持って来ちまったじゃないか!
また、女2人で良からぬことを企んでいたのか?」
アンドレが、両手にバケツを持って入ってきた。
オスカルが、パンドラの箱を抱えながら、アンドレに歩み寄ろうとした時、ジェルメーヌが、
「アンドレ(はあと)アラスに行くのですって?
私も連れて行ってくれないかしら?」
今までのジェルメーヌらしくなく、すっかり女を出して、アンドレの胸に手を当てた。
これを見て、オスカルはアンドレを睨みつけた。他の女の反応には鈍いが、オスカルの動きには、敏感なアンドレは、一歩退いたが、出てきた言葉は、オスカルを裏切るものだった。
「構わないけど・・・そうだな!向こうなら少しは、貴族らしい生活が出来るかもしれない。
しかし、ジャルジェ家だ。少なくとも、オスカルの承諾が必要だな!」
と、言って、この事態から逃げようとした。
すると、オスカルが、口を開こうとした時、また、ジェルメーヌが、
「だって、貴方のご両親もいらっしゃるのでしょ?そちらで暮らしても構わないのよ」
いつになく積極的なジェルメーヌに、たじたじになりながらアンドレが、オスカルを見ると、そっぽを向いていた。
こういう時のオスカルは、危険信号だ。
アンドレは、覚悟した。
「ジェルメーヌ、おれの家は、少しは裕福だったが、平民だ。それに、今はどうなっているか、全く分からない。
それより、公爵家は、どうしたのだ?
そちらを頼っては、どうなのだ?」
アンドレは、ジェルメーヌに話しかけながら、オスカルを見ていた。
少し機嫌が直ってきたようだ。アンドレは、ホッとした。
が、
今度は、ジェルメーヌの機嫌が悪くなった。
「あの夫婦はとっくに亡命したわ。
それも、ベネツィア!
今頃は、カーニバルで、楽しんでいるわ。結局は、似たもの夫婦だったのね」
アンドレは、相変わらず、オスカルの様子を片目で見ながら、もう一方の目でジェルメーヌを見ながら、
「やはり、そちらに行った方が、望みの生活が出来るのじゃないか?
フランスは、この先どうなるか、分からないぞ!」
アンドレの話を聞きながら、オスカルは、心の中で盛大に拍手喝采していた。
「行くって、簡単に言うけど、どうやって行けって言うの?一文無しなのよ!
ヒッチハイクでもして行けって言うの?」
ジェルメーヌも必死で、本気で涙を流し始めた。
オスカルは、おまえならその辺の男をたらし込んで、無事に付けるさ!片腹痛いわ!笑笑、とニマニマしていた。
可哀想に思ったアンドレは、
「金なら、用意しよう。
どの位必要だ?
ただし、ベネツィアに着いたら、返してくれよな!
コッチも、苦しいんだ!」
「なんで、そうやって私を追いやろうとするの?
アラスに連れて行ってよ!
迷惑はかけないわ!」
これには、アンドレも程々困ってしまった。
オスカル以外の、女性の扱い方を実は全く知らなかったのである。
困ったので、先ほどから、黙って睨みつけている妻に判決を委ねようと(別名…逃げようと)決めた。
「オスカル、ジャルジェ家としては、どうなんだ?」
「わたし一人では、判断できない、行ってみるしかないだろう」
と、オスカルは自分の口から出た、言葉に驚いた。
着いてくるな!
アンドレに引っ付くな!
ベネツィアに行ってしまえ!
と言いたかったのに・・・わたしは無力だ。と、思った。
「分かった。じゃあ、ニワトリをもう一羽返して貰いに、アランに言ってくる。」
アンドレは、早くここから逃げたいと、ドアに向かおうとすると、
「私も行くわ。」
また、厄介者がついて来ようとした。
これには、アンドレもキッパリと対応した。
「いや、揃えたものを、見て欲しいから、オスカル来てくれないかな?
ジェルメーヌは、荷物の整理でもしていてくれ。」
こうして、オスカルは、パンドラの箱。
アンドレは、玉手箱を持って、裏庭に消えた。
つづく
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