その日は、朝から晴れ渡っていた。
日の出と共に目覚めたアンドレは、
気持ちよさそうにベッドから飛び起き、
気持ちよさそうに伸びを思いっ切りした。

共同の洗面所に向かう前に、エチケットとして、シャツをはおり、キュロットに着替える事を忘れなかった。
とは言え、この時間にそこを使うのは、アンドレぐらいである。

そして、ジャルジェ家の使用人として、義務化されている、冬でも水のシャワーを、気持ちよさそうに浴びて、オスカルの前に出ても・・・最近では、横だが・・・臭わないように、最大限の努力をして、身体から男臭さを拭い去った。

夏の朝、まだ気温は高くなってはいないが、冷たい水を浴びたため、身体が火照って来た。アンドレは、満足して、洗濯したてのお仕着せに手を通した。再び、自室から出ようとして、ドアの下に、メモ紙があるのに気が付いた。

『夜勤、終了。オスカルさま、無事。俺、寝る』ロジェからだった。最近は、何事も無いと、この様にロジェの覚えたてのおぼつかない文字で、覚えたての単語を駆使してやり取りを行っていた。

ああ、そうだった!昨夜は、オスカルは夜勤だったのだ。
いつもより、疲れた顔をしていたが、よく眠れただろうか?
そういえば、少し、嬉しそうな顔もしていた。
何かあったのかな?

オスカルが、嬉しそうな顔をしていたから安心して、ロジェからの伝言を確認する事なく、寝てしまったのだった。

一か月に2日しか恋人としての会話のできない、自分たちの立場を悔しく思いながらも、その間にオスカルが少しでも、気分良く過ごせたのならそれで良いと思った。

では、朝一番で、愛しい顔に会う事は出来ないのか。・・・そう思うと、アンドレの顔も少し意気消沈した。しかし、だからと言って、部屋に籠っていられるアンドレではない。

食堂に顔を出し、ちょこまかと動き回っている、ただ一人の肉親、祖母に朝の挨拶をしようとした。しかし、相変わらず、逃げられてしまった。一体いつから、話をしていないのか、アンドレにも分からなくなってしまった。

旦那さまと、奥さまがいらして、朝食を取られる。旦那さまは宮廷へと出仕なさった。アンドレは、いつもの日課の、執事ルームに行き、ジャルジェ家の帳簿調べをして、午前中を過ごした。

そんなこんなで、過ごしていると、腹の虫もそろそろ催促してくる時間になった。
オスカルも降りてくるだろう。

階段の下に待機してみる。

一向にオスカルの部屋のドアが開く様子がない。
何か嫌な予感がしてきた。そこに、オスカル付きの侍女、フォンダンが通った。
オスカルは、どうしたのだ?と聞いてみた。

すると、オスカルさまは、深酒と月のモノが重なって、少々具合が悪いので、少し遅れて出仕する予定だという。

アンドレは、思った。だから、おれが付いていないと、オスカルは、分かっているようで、己の酒量が、分かっていない。いつも、おれが深酒しないよう、オスカルに分からないように止めているのを、やはり、分かっていなかったか。

アンドレは、自分の不在で、オスカルが辛い思いをしているのを、胸を痛めたが、それ以上にオスカルには、自分が必要であるという自信を付けた。

え゛・・・月のモノ・・・ちょっと待てよ!確か・・・今じゃないはず・・・オスカルの部屋に向かおうとする、フォンダンを呼び止め、聞いてみた。

フォンダンは、シレっと、アンドレだから言うけど、最近のオスカルさまの、基礎体温は乱れ気味なの。でも、測っていらっしゃるから、いつ来るかは、分かってこちらも用意しやすくていいわ!
と言って、消えていった。

なんだってー!オスカルの月のモノが乱れているだって!
あのオスカルに、初めて訪れた12の頃から、一日たりと乱れたことの無い、月のモノが。アンドレが、こぶしを握り、身もだえていると、ガトーが通りかかった。

アンドレは、必死になって、ガトーに詰め寄り、事の真相(なんとまあ大袈裟な)を突き止めようとした。ガトーは、笑いながら、女性なら皆、ある事です。ほんのちょっとした、心身の乱れで、狂うものなのです。

オスカルさまは、今まで、男として軍務に励んでいらっしゃいました。それが、アンドレ!貴方の所為で、お心に喜びと不安が生まれて、ズレてしまっただけです。心配しなさんな!・・・と、ほっぺをチョンとやられて、子ども扱いされてしまった。

呆然としていると、アンドレのスマホが、ジジッと着信を告げた。
ユラン伍長からのLINEだった。

【困った事が起きた。隊長の体調が悪いらしいので、アンドレ!ちょっと衛兵隊迄来てくれないか?】とだけだった。

アンドレは、オスカルが心配だったが、呼ばれれば断れないオトコ。出かけるしかなかった。オスカルの任務らしいのに、自分でいいのか・・・と考えながら。

  *******************

アンドレが、衛兵隊に着き、先ず馬を厩舎に入れようとしたら、隊士が手綱を取り、彼が面倒を見ると告げられた。廻りを見渡すと、何となくざわついていて、いつもと違った雰囲気がした。嫌な予感がしてきた。

アンドレが到着したのを知らされたのか、ユラン伍長が、走って来た。ダグー大佐以下下士官が会議の為に不在である事、アランが何故だか呼ばれて、対応しているが、アンドレの助けが必要なので、至急LINEをしてくれ・・・と、伝えられた事を、話した。

しかし、それだけでは、何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。
ユラン伍長は、アランが営倉で待っている。至急行ってくれ・・・と、伝えると、自分の持ち場に戻ってしまった。

アンドレが営倉に着くと、入口に珍しく真剣に困った顔をしたアランと、超自慢げな顔をした、3班班長が立っていた。

3班班長が(相変わらず名前が無い・・・)、
「早朝、1班と夜勤交代の後、怪しい男を捕らえました。
名前を名乗りません。
かなり、酒臭いです。
あのような時刻に、あのような場所で、おかしいので、詰所に連行しました。

そして、持ち物チェックをしましたら、このような図面を持っていました。
アンドレ、見て下さい。我が衛兵隊の、夜勤時の人員配置図です。
このような物を持っているなんて、どこぞの国か、反乱分子のスパイに違いありません。

そうしたら、アラン班長を呼んでくれ、彼なら身元の保証をしてくれる。
などと、言い出しました。

ですから、アランを呼んで、名まえ、身分、を聞こうとしたところ、
アランが、このような人物は、知り合いにいない。
と言う事で、隊長にご連絡しようとしたのですが。
隊長は体調がすぐれないらしいとの事で、
それならば、アンドレを・・・と言う事で、来てもらったんだよ~」

アンドレは、一応聞いた。が、衛兵隊の夜勤時の配置図・・・んなもの、何の役に立つんだ・・・とばかりに、第3班班長から、件の地図を見せてもらった。

が~~~~~ん、オスカルの、筆跡だった。
オスカルらしい、丁寧な線で、地図も描かれていた。

誰だ?何の為に、オスカルに配置図を描かせたのだ?
朝方、帰宅した時のオスカルを思い出した。
疲れている様だったが、楽しそうで、不快な事が、あったようには感じなかった。

ふ~っと、ため息をついたアンドレに、アランが声を掛けてきた。
「兎に角、一緒に中に入ってくれないか?
おれには、手におえねえし、関わりのない事なんだが・・・」
と、ウインクして、入口の方へあごをクイッと向けた。

へ!何かこれは、訳がありそうだぞ・・・アンドレは、己の襟足がピクリと動いたのを感じた。

営倉の中に入って行った。一番奥の、独房・・・と言っても、ミラーガラスがあるだけで、こちらからは、向こうが見えるが、独房の中の者には、こちらが見えない・・・に、見知った顔が、悲壮な顔をしていた。

アンドレは、名前を呼ぼうとして、言葉を飲み込んだ。

あのような時刻に、あのような場所で、
と、言っていた。

つまり、オールでアントワネットさまと、逢引きをしていたのだろう。
逢引きだけではなく、お2人で、深夜のピクニックならぬ、大宴会をしていたのかもしれない。では、配置図は?なんなんだ!?なんで、オスカルが、描いたのだ?!

アンドレの隣には、アランが居た。
後ろには第3班班長が、手柄を独り占めしようと、嬉しそうに立っていた。

アンドレは、誰にも聞こえないように、アランに声を掛けた。
「おまえ、あの御仁を知っているのか?
なんで、おれを呼び出した?」

すると、アランも珍しくヒッソリとした声で、
「おれに、あんな服着た、大貴族なんて、知り合いがいるわきゃない!
おまえなら、宮廷に出入りしていたから、知っていると思って、呼んだ!」
至極当たり前な答えが返って来た。

兎に角、アランとアンドレで、独房の中に入ってみる事にした。第3班班長は、自分が入れないのは、どうしてだ!自分が生け捕りにしたのだ!と、駄々をこねたが、アンドレが、後程、オスカルにはきちんと話すから・・・と言う事で落ち着いた。

独房に入ると、そこはやはり、未決犯を入れる為の所、奥の房との間に柵があった。アンドレの顔を見ると、フェルゼンはやっと明るい顔をした。

しかし、アンドレはどう扱って良いか分からなかった。
此処まで、大げさになるとアンドレの采配で、無罪放免にする訳にもいかず、困ってしまった。

「アンドレ!アラン!早く、此処から出してくれ!
今宵も、アントワネットさまにお会いするのだから、
屋敷に帰って、身支度をしなければならない!」

相変わらず、アントワネットさまの事しか考えていない。
己の今の立場については、何も感じていない様子であった。

アンドレが、静かに語りだした。
「フェルゼン伯爵さま、申し訳ございませんが、私は、オスカルの単なる従卒でございます。貴方様をここからお出しする権限がございません。

もし、自力で出られるのなら、どうぞ、お名乗り下さい。
それしか、オスカルのいない今、道はないのです」

フェルゼンの顔が、アンドレがここに着いて以来一番、真っ青になった。
それはそうである。あのような時間。あのような場所で、捕らえられ、自らの、名前を名乗れば、フェルゼン伯爵はもとより、アントワネットさまの評判も落とす事になりかねない。(って、もうバレバレになっているが、本人達は、秘めやかに行動しているつもりなのである)

「う゛!」
フェルゼン伯爵は、固まってしまった。

アンドレの隣に、愉快でたまらない風で、立っているアランに気づいた。
「そうだ!アラン!君なら、第1班班長としての、権限でどうにかなるのではないか?」すがるような眼で、アランを見つめた。

すると、アンドレが、驚いてアランにそっと、耳打ちした。
「おまえ、フェルゼンを知っているのか?」
アランは、すっとぼけて、
「さっきから、言ってるじゃないか!
俺は、この様な、上等な服を着たヤツとは、知り合いはいないとな!」

そりゃあそうだ!アンドレは、納得した。
が、納得できないものが、有った。
庭園及び、衛兵の配置図を出して、フェルゼンの方に向けた。

「これは、貴方様が持っていられたと聞きました。誰が書いたものですか?」
知っていたが、本人の口からききたかった。

フェルゼンは、これこそ独房からの、大脱出の命綱とばかりに、
「オスカルだ!オスカルが、私が庭園を無事に、出る事が出来るようにと、書いてくれたのだ」

オスカルと、フェルゼン。アンドレは、思いを馳せた。
かつて、オスカルが、超しつこい程長い年月、恋焦がれた初恋の相手。
昨夜会ったのか?だから、あのように、楽しそうだったのか?

だから、楽しさのあまり、呑んでしまったのか・・・独りで・・・?
ここに、アンドレの洞察の甘さがあった。

しかし、とアンドレは、思った。オスカルの正確なあの地図を見て、どうして伯爵は見張りの少ない西門へと行かず、捕らえられたのだろうか?

アンドレは、まだ、知らなかった。フェルゼンが、途轍もなく方向音痴だという事を・・・。もうひとつ付け加えるならば、オスカルも知らなかった。

「つまり・・・貴方と、さる高貴な方との、会合の最中、オスカルに見つかり、その配置図を書かせた。・・・と言う訳ですね?」
アンドレは、よもやオスカルとフェルゼン、アランが宴会をしていたなどと思いもしなかった。

「違う!違うのだ。アンドレ、昨夜遅くに、そこにいるアラン達に見つかってしまったのだ。すると、オスカルの部下だという事で、詰所に連れていかれ、呑む事になった。な!アラン!そうだよな!?」
すがるような眼で、アランを見たが、アランは表情一つ変えずに、フェルゼンを見つめていた。

「それでだ、別れ際にオスカルが、無事庭園を抜けられるようにと、その配置図を書いてくれた。な!アラン!そうだよな!な!な!」
また、フェルゼンは、アランの手を借りようとした。

アンドレが、そうなのか?と、アランに聞いた。
「だ~から~!俺には、そんなご立派なお洋服を着ていらっしゃる方は、存じ上げませんぜ~って、さっきから、言ってるじゃねえか!ふん!
俺はずっと、隊長と夜勤の任務にいそしんでいたんだ。
酒なんて、飲んでる暇なんてぇないぞ!」

アランとしては、昨夜飲んだ時に、この会合の事は、絶対何があっても、漏らさないよう、言われていた事を守っているだけだった。
アンドレは、フェルゼン伯爵とアランを交互に見た。

フェルゼン伯爵は、確固たる出自、戯言など言う人間ではない。
だが、一方のアランも、ガラは悪いが、うそを言うような人物ではない。

「兎に角、此処から出してくれ!
今すぐにでも、屋敷に帰って、支度をしないと、高貴なお方を待たせてしまう事になる。オスカルが、あの方にLINEしてくれて、今夜の段取りをしてくれているのだ。オスカルの好意も、無駄にはしたくないのだ!」

え゛・・・アンドレの頭が、動かなくなった。
何処までが、本当で、何処からが噓八百なのか、見当がつかなくなってきた。
しかし、自分の采配で、出来る事ではない。と言う事だけは、分かっていた。

アンドレは、屋敷に連絡をしてみようか・・・と、考えた。
でも、オスカルの体調がまだ、本調子ではなかったら・・・それでも、オスカルは、駆けつけてくるだろう。・・・かつての想い人の為に・・・。

ここでも、アンドレは思い違いをしていた。オスカルは、誰の為にでも助けが必要なら、駆けつける人柄だという事を・・・恋は盲目とはこの事なのか・・・。

アンドレは、フェルゼンに、今現在、衛兵隊に貴方様を釈放する権限があるものは、在籍していない事。その為、誰かしら戻るまで、そのままで、お待ちください。それとも、ご身分を明かしますか?と告げた。

フェルゼンは、ぐうの音も出ず、営倉に大人しくつながれたままとなった。
勿論、その夜、アントワネットさまとの逢引きは、アントワネットさまをお待たせする形となるだろう。

営倉を出ると、アンドレが、アランに詰め寄った。
昨夜、何があった?・・・と。

しかし、アランは何もない。何も知らない。の一点張りで、埒が明かなかった。
が、鋭いアンドレの嗅覚が、アランの息からアルコールを検知した。

「おい!おまえ・・・呑んでいるな?誰と呑んでいたんだ?」
アンドレにしては、きつい口調で言ってきた。

が、アランは、
「夜勤明けに、厨房からくすねたワインを、一本あけただけだ。
仮眠の途中で起こされて、頭にくるったらないぜ!
部屋に戻って、もうひと眠りするから、ほっといてくれ!
兎に角、俺は関係ないぜ。部外者だ!」
と、大きなあくびをして、行ってしまった。

アンドレは、この件をどのように伝えればいいのか、考えていた。
話が、少々・・・ならぬ、多々込み合っている感がする。
取りあえず、オスカルが書いた配置図を、お仕着せの内ポケットにそっと仕舞った。

ふと、気配を感じると、第三班班長が、ニコニコと付いてくる。
あ~~、こいつをどうにか丸め込まなくてはならないな。
アランは、知らない。関係ない。を連発していたから、どう関係していたにしろ、口外する事は無さそうだった。

だが、この第三班班長は、あの人物がフェルゼンとは知らない。
知ったら大変な事になるが。

アンドレは、最近すっかりご無沙汰の衛兵隊の、指揮官達を思い浮かべた。
皆、会議に出席と言っていた。
え゛・・・そんな事があるのか?衛兵だけで、もぬけの殻なんて・・・。

いや~~~な顔が、浮かんできた。
昨年秋、図々しくも、オスカルに求婚してきた、あの男。
もしかしたら、彼が在席しているかもしれない。

本部へ向かって、後ろに第三班班長を従えて、行くと、ユラン伍長に会った。
ジェローデル少佐は、いるのか?と訊ねると。
「はい。いらっしゃいます」と、即答した。

アンドレは、めまいがしてきた。
だったら何故、ジェローデルにこの件を、片付けさせないのか?
それには、ユラン伍長は、きっぱりと、
「はい。隊長が、あまりあてにはしていらっしゃらないので、声を掛けませんでした」

アンドレにとって、気持ちの良い返事が返って来た。
だが、そんな気分でいられる場合ではなかった。

第三班班長には、これから司令官室に行って来る。おまえの、手柄はおれからオスカルに直接伝えるから、安心しろ!と言って、金魚の糞を追い払った。

後は、ジェローデルに訳を話して、何とかしてもらうしかなかった。
なかったから、そうした。

営倉から脱出したフェルゼンが、その後どうなったかは・・・。
つづく・・・。

  *******************

一方、ジャルジェ家では、オスカルが遅い朝食兼、昼食を取るために、下りてきた。しかし、肝心の、目当ての背の高い、黒髪の男が見えないので、食堂がもの凄く、広く、寒々しく感じられた。

ジョルジュが、給仕をしてくれる。
頭と、目と、身体をスッキリさせる為、オレンジを口にしながら、アンドレは、どうしたのか?と聞いてみる。

だいぶ前に、慌てて外出したようです。
何処に出かけたのかは、誰も知りません。
返ってきたのは、素っ気ない言葉だった。

でも、この屋敷の中にいない事だけは、確かだった。
オスカルは、とても心細く思った。日頃、目を合わせず、親しく会話する事も出来なかったが、存在だけは感じる事が出来た。

だが、今は、存在感がないだけではなく、何処に行ったのかも分からなかった。
アンドレに、外に行く用事など有るはずはなかった。
ばあやのお使いか?それだったら、誰かが知っているはずだし、大体、自分たちの事が発覚してからは、ばあやとアンドレは犬猿の仲である。

考えてもしょうがないので、ジョルジュが取り分けてくれる料理をモソモソと食べていた。

すると、広間の方から、愛しい足音が、バタバタと聞こえてきた。が、聞こえてきた声は、余所余所しいものだった。
でも、嬉しかった。

「オスカルさま、申し訳ありませんでした」
アンドレは、隊から戻る途中、先ほどまでの事態を、オスカルにどう告げようか、告げずにいようか、迷いながら戻って来た。

そして、
「衛兵隊のユラン伍長から、連絡があり隊の方に行ってまいりました」
アンドレの言葉は、オスカルを驚愕させた。
これは、アンドレに詳しく説明させなければならない案件だ。オスカルは、しばし、逡巡した。目と目を合わせていいのだろうか?

だが、自分が臥せっていた時の事(本当は、ほんの少しサボりたくて、ベッドの中でうだうだしていただけだった)詳しく聞かねばならないと、アンドレの方に振り返った。

「アンドレ、おまえに緊急の呼び出しがあるとは、ただ事ではない。
わたしの前に来て、詳しく話せ!」

そして、アンドレは、主従の関係を壊さぬ物言いで、衛兵隊で起こった事。
そして、その為に、己が取った措置を丁寧に報告した。
その際、懐に入れたオスカルが書いた図面をそっと渡した。

オスカルは、黙したまま聞いている。
アンドレが、話し終わるとオスカルは、ホ~っとため息をついて、
「この、図面を見ても、フェルゼンは庭園を無事に抜け出す事が出来なかったのだな?

わたしが、せっかく書いてやったのに・・・。
先ほど、今宵のアントワネットさまとの逢引きも、おぜん立てしてやったのに・・・無事行けるのだろうか?心配になって来た。」

フェルゼンは、もしかしたら、方向音痴なのだろうか・・・。
オスカルの頭の中をふと、そんな思いが横切った。
だが、そんな事には、気にも留めずに・・・。

「フェルゼンにも、わたし達と同じく、月誕生日にお会いするよう、提案したのだ。
親友なら、同じ境遇を味わってもいいだろう」
最後の方は、独り言のように言った。

アンドレは、それで、殆どを理解した。
但し、フェルゼンは、アントワネットさまとオールをした。
アランは、夜勤明けに一杯ひっかけた。
オスカルは、多分、おひとり様をした。
と、思っていた。

と、同時に、フェルゼン伯爵は、方向音痴なのだろうか・・・。
アンドレの頭の中にも、思いが横切った。

アンドレが、チョイスした朝食兼昼食を、終えると、オスカルは事後の始末をしに衛兵隊へと出仕した。

アンドレは、その後ろ姿に、主従の礼以上の愛を込めた、礼をして送った。
そしてまた、思った。
オスカルは、恋の寄り道をしただけだったかもしれない・・・と。


つづく(今度は、ホントに・・・。)


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