その夜、第一班の面々は、隊長権限で、外出許可届けを免除され、他の班に見つからないように、三々五々とある場所へと向かった。

一方、謎の多いオトコ、ロジャーは、始めヴェルサイユの下宿屋に住むことを希望した。この申し入れを告げられた時、オスカルは暫し、1分30分くらい考えたが、従卒としてやっていける目途が付いたら、許可しようと答えた。

こうして、訳の分からない、メンツがフランソワの予約した酒場に揃った。

当初何の為の会合だか分からなかった、第一班のイレブンは、タダで呑める、食える、その上美人の隊長も同席する・・・。というだけの理由で集まっていた。

それが今、ロジャーが参加する事によって、新入りの歓迎会となった。

オスカルは、日頃、アンドレを共に、衛兵隊の面々とこの手の酒場には、訪れていたので、何とも思わなかった。

しかし、意味不明に、所在なげに座っている高貴で、今夜の大蔵大臣である男が、不自然だった。

彼は、尻をもぞもぞさせ、酒を恐る恐る、一口二口飲み、食べても大丈夫そうなものを、そっと口にすると、そそくさと出て行った。

もちろん、アントワネットさまに会う為である。
その後ろ姿を、オスカルは、寂しげにではなく、羨ましそうに、また、今夜は、無事に行く事が出来るのだろうか・・・と心配そうに見ていた。
もしまた、今夜も衛兵たちに見つかったら、オスカルにでも、もう、救いようはなかった。

が、どうしても、この宴席に馴染めない、一人の男は、オスカルの視線の先を見つめて、また、まだ24時間も経っていない未明、3人で酒を酌み交わした時のオスカルの様子を思い浮かべながら、ニヤリとした。

また、隊長をからかうネタが出来た。
アランは思った。
同時に、オスカルが想う相手は、大貴族か、平民でも貴族のような立ち居振る舞いが出来る男かと、思い知らされた。

そして、アランは、静かにその場を去った。

宴席では、当然のように、ロジャーがオスカルの隣を陣取った。オスカルは、昼間ロジャーとの会話にタジタジだったが、ひと回りも(ってフランスでも言うのか分からないが・・・)違う男相手と、認識して余裕の様子だった。

「ロジャー、おまえは、何処の出身だ?
名前から推測すると、イギリスのようだが?」
オスカルは、グラスを手に気軽に聞いた。

すると、ロジャーは、ここに来るまでの話をし出した。

生まれは、ロンドン。家は代々歯科医である。家業は、代々継ぐのが慣しだった為、彼も当然のように、歯科大学へと進学した。しかし、神経やら、血管だのの勉強に、うんざりして故国を飛び出した。と、語った。

オスカルは、相槌を打ちながら聞いていたが、何も国を捨てなくても良かったのではないか?と聞いた。

すると、ロジャーは、国に居たら、歯医者になるか、路上生活者になるしか道はなかった。隊長もそうだったんではないですか?と、言われてしまった。

オスカルは、初めて気が付いた。自分の運命は、生まれる前から決まっていたのだと。ロジャーは、その道に馴染めなかったが、自分は、なんの疑いもなく、剣を持ち、銃を撃ち、士官学校に通い、近衛に入隊した。

あゝ、それからだ。近衛にいることに、違和感を覚え、また、外の世界を見たくて、今、衛兵隊の隊長としてやっているのだ。もし、わたしが、武官の道に、相応しくなかったら・・・もし、この様な、性格ではなかったら・・・わたしは、どうしていたのだろうか?

男として、途中まで育てられ、世間を少しだけ知ってしまって、女にも戻れず・・・そうしたら、アンドレは、どうなるのだ?

うん、あいつの事だ。屋敷の中で、あいつに合った仕事を見つけて・・・見つけたら、どうするのだ、アンドレ?わたしの、護衛兼遊び相手は、取り消しになるのか?

オスカルの妄想が止まらなくなって来た時、隣から「・・・で、マルセイユに着いたんです。」ロジャーの声が聞こえて来た。

どうやら、話はだいぶ進んでいた様だが、自分の考えに夢中になっていた事をすっかり忘れて、オスカルは、
「え゛・・・マルセイユが、どうして急に出てくるのだ?話を飛ばすな!時系列をしっかり守れ!」な〜んて、言ってしまった。(てんねんだから・・・)

ロジャーは、微笑みながら、聞いていなかったんですか~さては愛しい男の事でも考えていたんじゃないんですか~。

俺といる時はおれの事だけ考えて下さい。

だがな、おまえは未だ試用期間だ。ド・ギランドにも使い物にならなかったら、返品期限の一週間以内に帰すとLINEしといた。と、オスカルは、答えた。

参ったなぁ・・・と、しかし、楽し気にロジャーは、笑った。

フランスに行けば、面白い事がありそうな気がして、港で雇ってもらって、商船に乗った事。しかし、突然の嵐で船が流され、ドーバー海峡を渡るはずが、スペイン沖を回り込んで、地中海に出てしまった。

仕方がないので、一旦マルセイユに行き、水や食糧を調達することになった。しかし、臨時雇いのロジャーは、そこで、船を降ろされてしまった。

根っから明るいロジャーは、まあ、フランスだからいいか!と、マルセイユに落ち着こうとして、アパルトマン持ちの、ボインのギャルと仲良くなって、寝ぐらを先ず確保した。

それから、力だけはあったので、港で荷揚げの仕事をしながら、夜は、ライブハウスで、太鼓をぶっ叩いていた。

ロジャーは、彼なりの言葉で話したが、オスカルには、何故、暮らすところを探すのに『ギャル』とやらと仲良くならなければならないのか?太鼓をぶっ叩く・・・とは、どう言うことなのか、分からなかったが、この新入り相手に聞くのも、憚られたので、後日アンドレに聞こうと決めた。

ロジャーは、そんなこんなで働いている時に、ド・ギランドに会って、船に乗る事になった・・・と、話を締めくくった。

気がつくと、宴も当初のように、なんの集まりかわからない様子になっていた。隣には、今度は、フランソワが来て、ニコニコとしていた。

「わたしなんかと、呑んでていいのか?
店には、可愛い子が沢山いるぞ!」オスカルが、隊長らしく、また、年上の女性らしく、ささやいた。

「良いんです!隊長と呑めるなんて、しかも、アンドレ無しなんて、初めてですから!」嬉しそうに言った。
オスカルが、見渡すと第1班のイレブンが、ニコニコとこちらを向いて笑っていた。

フランソワの反対側には、やや緊張した、ロジェがいた。
ジョルジュは、明日の朝の仕込みがあるとかで、隊から屋敷に戻っていた。

それに・・・と、フランソワが、口を尖らせて、不満そうに言った。
「店の女の子は、みんなアイツが持っていっちゃっています~」

オスカルが、店の中を見渡すと、すぐ側に女の子の山が出来ていた。ギョッとした。

オスカルは、潮時だろうと、そっと、ロジェを連れて店を出ようと思っていたが、留まるしかない事を知った。

昨夜も夜勤で遅く、アンドレを待たせてしまった。
アイツの事だ、ずっと起きて待っていたのだろう。今朝も寝ていればいいものを、きっと、早くから起きて、動き回っていたはずだ。
今夜は、早々に帰るつまりだった。

でも、アンドレ無しで、隊員達と話していると、新鮮な喜びもあった。
しかし、昼間、アンドレから、あまりオスカルに酒を飲ませないよう、注意されていた、ロジェは、気が気でなかった。オスカルが、白ワインに変えて、そろそろとみられた頃に、そっとミネラルウォーターに変えたが、オスカルは気が付かなかった。(ホントかいな)

その内、しびれを切らした・・・ある意味では、アンドレが怖かった・・・ロジェは、オスカルに恐々と、帰宅を促したが、こちらは、すんなりと受け入れてもらって、ホッとした。

その後も、第1班のイレブンは、呑んでいたが、本日の幹事である、フランソワが、そろそろお開きにしよう!と立ち上がった。他、10名も、すんなり同意した。

ジュールが、おい!アイツ、そうする?・・・と、女の子に押し倒されているロジャーを顎で示した。ピエールが、ほっとけ!勝手にやってれば、いいんだ!と、やけくそに言った。

しかし、ジャンが、ア・・・アイツは、お・・・俺たちと同じ部屋だ。も・・・門限に遅れれば同罪になる・・・と、酔った頭で必死に考えた。

「おーし!みんなで、女の子を引っ剥がそう!」フランソワも、酔って回らない頭をフル回転して言った。

11人で、女の子の山を1人1人、引き離していった。
やっと、ロジャーが、現れた。

「何をするんですか!?」
ロジャーがブンむくれで、文句を言った。

この作業で、かなり酔いがさめたフランソワが、もっともらしく、
「新入り!門限だ。帰るぞ!」

「え゛・・・まだ、12時前じゃないですかぁ!
俺は、まだ、遊んでいますから、先に帰っていていいですよ~」
呂律が廻らない口調で、ロジャーが答えた。

しかし、フランソワは、
「おまえひとりが、罰則を食らうのなら、構わないが、おまえは、俺たち第1班と同室だ。連帯責任になる!
罰則は、トイレ掃除一か月だ!おまえ!そのキレイな顔で、トイレ掃除をやる気があるのか?」

これを聞いて、ロジャーは、直ぐに立ち上がったが、
「じゃあ、女の子をお持ち帰りにしよう!
俺だけじゃない、みんなもお持ち帰りにすれば、問題ないだろう!?」

第一班イレブンの、口が開いたままになった。
口が開いたままの間に、ロジャーは、一人一人に女の子をあてがっていった。
女の子に、すり寄られれば、開いたままの口が、だらりとなってしまうのは、世の常。

24人の、男女が、ヴェルサイユの端から、ヴェルサイユ宮殿近くの、衛兵隊へとワイワイと向かった。

しかし、門を護る当番兵が、衛兵隊は、女人禁制と言い出して、入れてくれない。
夜風に吹かれて、歩いてきた第一班イレブンは、それもそうだ。と納得した。
ロジャーも、トイレ掃除を考えると、納得せずにはいられなかったが、納得しないのは、女の子たちだった。

お店から、トボトボとここまで歩いてきたのに、又帰らなくては、ならないの?当然のことを口々にした。

ここまで、付き合った分、お金を払ってよ・・・これには、名前を知らない今夜の、大蔵大臣に、助けを願う事で解決した。

もう、足が痛くて、歩けないわ。馬車を用意してよ!・・・これには、ほとほと困ってしまった。ヴェルサイユ宮殿に近いこの場所。辻馬車なんて、走っていない。

第一班イレブンは、自分にしなだれかかって来る女の子を、ロジャーに押し付けた。が、ロジャーは何食わぬ顔で、女の子一人一人に、何かを囁くと、女の子たちは投げキッスをして、来た道を戻っていった。第一班イレブンは、またまた、口をポカンと開けて、見ていた。

ジャンが、今後の為になるかと思い、聞きだした。
「ど・・・どうやったら、あ・・・あんなに、直ぐに、お・・・女の子が、か・・・か、帰って行ったんだ?」

ロジャーは、何食わぬ顔で、女の子には、甘い言葉を囁いて、キッスすればこっちの言う通りになるのさ!今度あの店に行ったら、今度は向こうから寄って来て、次は絶対、お持ち帰りさ!ふふふ( *´艸`)

ラサールが、口を挟んできた。
「おい!ロジャー、顔がキレイだからって、図に乗るんじゃないぞ!
一応、大部屋なんだし・・・。それに、隊長の周りを、ちょろちょろするな。俺たち第一班が、護っているんだからな!」ラサールにしては、かなり強く言ったつもりであった。

が、ロジャーも黙っていない。
「悪いが、試用期間の一週間が済んだら、町の下宿屋に引っ越すから、門限とも、おさらばさ!悪いな!」

第一班イレブンは、呆れかえって、黙ってしまった。

そこへ、第一班で、一番度胸があるフランソワが、割って入って来た。
「さっき、おまえが、女の子たちとイチャイチャしている時、隊長が、ド・ギランド艦長にLINEしていたぞ。
『試用期間は、1週間だが、返品・交換期間は、UNIQLO対応で、三か月にして欲しい!』とな!つまり、三か月間は、いつでもクビになる可能性があるって事だ。
覚えておけよ!新入り!」

言うだけ言うと、第一班イレブンは、サッサと宿舎に向かって行った。

ロジャーは、ポツンと残されたが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

   *******************

アンドレが、オスカルの軍靴を脱がせて、侍女の手にオスカルを任せて、階段を降りて行くと、一番下の段にロジェが座って待っていた。
いつもなら、この様な時間なら、寝てしまうし、オスカルも気分良さそうだった。どうしたのか、不思議に思った。

アンドレが降りてくる足音を聞いて、ロジェが立ち上がった。
待っていた。ロジェがぼそりと言った。

「何かあったのか?」アンドレが、不安そうに聞いた。

ロジェは、何もなかった。でも、・・・これから、起きるかもしれない。と、伝えた。
アンドレが、聞くと、ロジェは、
「立ち入った事を聞くけど、アンドレは、オスカルさまを、口説いたのか?」

え゛・・・アンドレは、たじろいでしまった。あの事件は、オスカルとおれしか知らないのに・・・ロジェも知っているのか?そんなはずないよな!?オスカルが言う訳ない!アンドレが、ギョッとしている間に、ロジェが、続けた。

「やっぱり、2人は、幼なじみで、親友で、自然とこうなったんだよね!
だから、オスカルさまは、オトコに口説かれたり、愛を囁かれたりすることに慣れていないよね?」

何を言い出すんだ。ロジェは・・・。まあ、オスカルは、恋に焦がれる乙女たちから、ラブレターを貰ったりする事はあったし、誕生日には、何を期待しているのか分からない、貴人、婦人から、プレゼントをもらう事は多々あった。

でも、出会った頃から、オスカルはおれからのプレゼントを、いつも楽しみにしていてくれた。それに・・・オスカルとおれの仲は、国王陛下も認めてくれる、公然のものとなった。今更なんだというのだ!

「まずいヤツが、入隊してきたんだ」
ロジェは、ロジャーが入ってきた経緯を伝えた。
そして、もしかしたら、ジェローデル少佐と、入れ違いになるかもしれないとも・・・。

ジェローデル少佐が、衛兵隊から去るというのは、アンドレにとって、嬉しい事だった。

それに対して、ロジェは、そのロジャーが、くせ者なんだ。
第一に、女癖が悪い。
今日も、オスカルさまに秋波を送っていた。オスカルさまは、タジタジになっていた。

アンドレは、超不安になって来た。
その男は、幾つくらいなんだ?見た目は?
兎に角、アンドレにとって、会ったことの無い、危ない男を、具現化しようと、必死にロジェに聞きだした。

ロジェも、この夜は、眠いとか言わずに、アンドレの問いに、一つ一つ丁寧に答えていった。

金髪碧眼・・・。童顔で、笑うと子供のように無邪気だが、時折、眉間にしわを寄せて、哲学的な事を言い出す。実際、オスカルと、ロジェには分からない、難しい本の話を楽しそうにしていた。つまり、ちゃらちゃらした、インテリ・・・と言う事らしい。

  *******************

話し終わっても、アンドレはそこから動くことが出来なかった。

ロジェが、言っていた通り、オスカルは、男性から本気で口説かれた事は無い。しかも、長年の付き合いでも、その様な事が起こった場合、オスカルが、どう対応するのか、アンドレには想像できなかった。

出来なかったが、想像してみた。もしかしたら、オスカルは、・・・愛の言葉と気づかず、口説き文句だとも気づかず・・・単に、話を合わせるだけで、敵が参ってしまうかもしれない。(天然だから・・・)少しホッとした。

(アンドレは、知らなかった。昨秋、ジェローデルに口説かれて、トロトロになって、一瞬の口づけをしてしまった事を・・・)

それよりも、気がかりなのはそのオトコが、知識人だという事だった。フェルゼンが、いい例だった。仮面舞踏会で、アントワネットさまを、畏れ多くもナンパして、不興をかった。しかし、オスカルは、付き合ってみると、知識もあり、教養深いフェルゼンをすっかり気に入ってしまった。

勤務が終わると、どちらかの屋敷を訪れて夜が更けるのも忘れて、語り合っていた。そこには、尊敬と友情・・・そして、淡い想いがあった。
そして、オスカルは、フェルゼンを、愛するようになった。・・・と、自分では思っているらしいが、アンドレから見たら、恋に恋する乙女が、異国の騎士に、憧れているようなものだった。

もし、本当に愛しているのであれば、アントワネットさまになぞ、目を向けていないで、こちらを向け!目を覚ませ!と、あの、情熱の塊であるオスカルが、そっと見つめているだけなんて、考えられなかった。

あの頃は、オスカルは本当に、『愛する』とは、どういうことか知らなかった。だが、知ってしまった今、毎月2日しか会えない恋人より、側にいて、愛を囁いてくれる、イケメンの方に心が動いてしまうかもしれない。

アンドレは、ヨッコラショと、重い腰を上げ、トボトボと自室に向かった。
頭の中には、会ったことの無い、まだ若造のシルエットが出来ていた。オスカルに会いたい。と、心から思った。
会って、助言できればいいのに・・・。
オトコへの、対応の仕方を・・・って、おれがどうやって、教えればいいんだ!?

考えているうちに、部屋の前まで来てしまった。
すると、キッチリと閉めたはずの、ドアが少し開いていた。

アンドレは、誰か、入ったのか?
ジャルジェ家で、そんな事をする奴はいないはずだが・・・。

そっと、ドアを開けて、室内に入ってみた。
会いたかった・・・の声と共に、柔らかいものが、ふわりと腕の中に飛び込んできた。
洗いたての、ふわふわした長い髪から、バラの香りがした。

え゛・・・。
アンドレは、素早くドアを閉めた。

そして、アンドレもその柔らかいものを、抱きしめていた。
柔らかいものも、アンドレを強く抱きしめていた。

そして、柔らかいものの顔が、上を向いた。
アンドレは、すかさずその唇をふさいだ。

アンドレの頭の中の冷静な部分が、やめろ!離れろ!
と、声を掛けたが、その情熱を止める事は出来なかった。
しばらく、唇を合わせていた2人は、やっと、お互いが見える距離を取った。

どうしたんだ?・・・アンドレが、問うた。
会いたかっただけだ!・・・オスカルが、答えた。

(。´・ω・)ん?・・・おまえ、夜着のまま、来たのか?
え゛・・・裸足じゃないか?!

だって、部屋を出たら、階段の下に、誰かがいたんだ。
部屋履きだと、ペタペタ音がするから、戻って、置いてきた。
だから、誰にも見られずに、ここまで来られた。

寒い・・・何か、着るものを貸してくれないか?
オスカルが、言った。

アンドレは、部屋の中を見渡して、
此処に入ろう。そうすれば、2人とも温かくなる。
と言って、ベッドを指差した。

オスカルが、とても女らしく、後ずさりした。
今日は・・・ダメなんだ。

知っている。一緒にベッドの中で、抱き合うだけだ。
アンドレが、答える。

ベッドに入ろうとするオスカルから、アンドレは、夜着を取り去った。
そして、アンドレも、来ているものを脱ぎ去った。

たった、10日・・・しかし、2人にとっては、果てしなく長く感じられた日々だった。
オスカルが、言い訳のように告げた。
今日は、フェルゼンの月誕生日なんだ。
だから、アントワネットさまとお会いしていると思ったら、堪らなく、おまえに会いたくなった。

会話は、それだけだった。
アンドレは、会ったら伝えたいと思っていた、新入りの事もすっかり忘れてしまった。
それに、オスカルに会ったら、そんな事どうでもいい事に思えてきた。
突然オスカルが、抑揚もなく、感情も込めずに、ドキッとする言葉を口にした。

「いゃ〜ん、あーん
アンドレの、バカー
あーん、そこは、ダメ〜ん」

「・・・なんだソレ?」
アンドレが、ギョッと半分、呆れたの半分の声で聞いた。

オスカルは、
「この間、読んだ本に書いてあった。
意味がわからないから、おまえに聞こうと思ってた。

いやーん、あーん・・・って、なんだ?」

「おまえ、××している時、そんな感じにならないか?」

「え゛・・・だって××の時って、○○じゃないのか?
わたしは、おかしいのか?
うーん、じゃあ、アンドレのバカー・・・も、
わたしは、××の時も、いつだっておまえのことをバカなんて思ったことないぞ!
コレだけは、わたしは、自信を持って言えるぞ!

それじゃあ、そこは、ダメ〜・・・の、ソコって、何処だ?」

今度こそ、アンドレは、超真面目に、
「うーん、おまえ、おれに触られて、ダメなところあるか?」

すると、オスカルも至って真面目に答えた。
えー、おまえは、わたしが嫌がることは、していないと思う。それとも、まだ、おまえが触れていないところがあるのか?

それを聞くと、アンドレはまた、ため息をついて、
ふふふ・・・例えば、こういう所とか?
アンドレが、そっとオスカルのある部分に触れた。

すると、オスカルは慌てて、身体をアンドレから離して、叫んだ。
「わぁ〜何するんだ!そんなところ!
え゛・・・そういうことか?
耳なのか?」

アンドレは、面白くて、楽しくて、ますます、オスカルが愛おしく感じられた。
「ふふふ・・・おまえ、かわいいなぁ!
いじめがある…これから、楽しみだ!」

オスカルは、さらに、超真面目になってきた。
「アンドレ・・・おまえの言っている意味も分からなくなってきた。
わたし達は、意志の疎通も出来なくなってしまったのか?」

心配するな、オスカル。
「こういうことに関しては、おまえが初心者って事だ。
剣の稽古では、おまえが先生だが、ベッドの上では、おれの方が、上級者って事だ」
って、アンドレは、嬉しそうに囁いた。
(こういうものと、剣の稽古を比較するものだろうか?)

「・・・なんか、面白くないなぁ!わたしは、なんでも1番でないと、イヤなんだ!手っ取り早く、飛び級する方法は、ないのか?」
ますます、真面目に対処しようとする、オスカルだった。

(でも、あなた達、告白してから、7月14日まで、籠っていたんでしょ?
その間、何していたの?・・・すみません。無粋な事を聞いてしまいました。)

アンドレは、オスカルに負けないくらい、超マジな顔で、
「んー、経験するしかないんじゃないかな?
当分は、月誕生日の48時間だ。」

超マジなアンドレに対して、さらに、マジになったオスカルは、
「それだけじゃ、足りない!
今夜のが成功したら、ちょくちょくおまえの部屋に忍び込んでくる。
もちろん、月の物じゃない時にな!」

「え゛・・・あ〜〜ん、アンドレ、何をしているんだ?
そんな所に、口づけしたら、あとがのこってしまうじゃないか!侍女たちに、バレてしまう。
それでなくとも、この間、あちこちに残すから、風呂の中で恥ずかしかったぞ!」
オスカルは、今度こそ本気で、アンドレを己の身体から、引き離そうとしながら言った。

すると、何故か、余裕のアンドレは、
「おれのことを思い出して、嬉しかったんじゃないか?
ここじゃダメなら、何処か侍女たちに見えない所がいいなぁ!
何処なら、大丈夫だ?」

何処をどう押したら、そんな事を聞いてくるんだ!とオスカルは、
「へ!・・・侍女たちに見えて、わたしに見えない所は沢山あるが・・・」

「例えば?」
アンドレが、楽しそうに聞いてきた。

「背中!耳の後ろ!それから・・・尻、脚の後ろ・・・!
ほう、結構、自分じゃ見えない所ってあるもんだなぁ!
あ!頭のてっぺんも見えないぞ!」
何に対しても、真面目にとらえるオスカルが、真面目に答えた。
が、それを面白がっているアンドレは、

「じゃあ、手のひらはどうだ?
そこなら、敢えて侍女に、洗ってもらう所じゃないよな?」

「うーん、」
と言って、オスカルは、腕を伸ばしてみた。そして、腕を捻ってみて、

「ダメだ、腕の内側を洗う時、見えてしまう。」
相変わらず、超真面目なオスカルに対して、これまた、今夜の密会の余韻をオスカルに残したくなってムキになって来たアンドレが、
「そうか、でも、手をグーにしていれば大丈夫だろう?」

それに対して、何の話か段々、分からなくなってきたオスカルが答える。
「オッ!それいいなぁ!でも、不自然じゃないか?
それに、勤務中にもグーにしているのか?
目敏い奴に、気付かれそうだ。」

アンドレは、アランの顔を思い出した。絶対気づく・・・と確信した。

「おお!いい所を見つけた!
足の裏だ!
どうだ?」
アンドレの方も、何の話か分からなくなったまま、提案した。

「足を洗う時は、湯船に入れたままだ。見られない。昼間も靴の中だから、大丈夫だ。
だけど、わたしも風呂上がりと、ベッドの上でしか見られないぞ!」
もうもう、オスカルには何が見えないのか、何故見せてはいけないのかも、分からなくなっていた。

もう一人の分からなくなっている、アンドレも、話の方向が見えなくなっていたので、突如、こう言った。

「あ!もう一つ、自分では見られないのがあるぞ?
オスカル、おまえのは、可愛いぞ!
なんだと思う?」

オスカルが、目を閉じて考えていると、アンドレが、
「その顔だよ。寝顔だ!いつも可愛くて食べてしまいたくなる。」

「ふん、おまえだって、8歳の時この屋敷に来た時のままの顔をしてるぞ。
その内、ママンって寝言を言いそうだ!そうしたら、蹴飛ばしてやるから、楽しみにしてろ!」

「なんで、お袋のことを呼んだらいけないんだ?」

「わたし達のベッドの中に、例えおまえの母上だろうと、他の女にいて欲しくない。
わたしは、絶対に、父上とは、言わないから安心しろ!」
オスカルは、胸を張って告げた。

「あゝ、おまえが旦那さまを寝言で呼ぶはずはないが・・・」
アンドレは、確信をもって答えたが・・・

え゛・・・

2人同時に、ある人物を思い浮かべた。

アンドレが、不機嫌に、
誰のことだ?
と聞いた。

オスカルは、慌てて、
ド・ギランドだ。

と答えたが、気不味い空気が流れた。

その時、ドアをノックする音がした。


つづく

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