夏の陽は、まだ高かったが、涼しい風が吹いてきた。
そろそろ、今夜の宿を決めなければならない。
アンドレは、行く先に見える村に、宿があったら、そこに泊まろう!
と、隣に座る妻に告げた。

ああ、いい村だと良いな!オスカルは、この様な旅は初めてなので、楽しくなってきた。
ついでに、後ろの荷台にいるオンナの事は、すっかり忘れていた。

が、アンドレは、頓着せず、宿での部屋割りだが・・・
ツインルームと、シングルルームでイイよな?と聞いてきた。

それを聞くとオスカルは、得意のブーたれで、

「なんで、ツインなんだ?!
昨夜も言ったじゃないか!
夫婦は一つベッドに寝るものだ!だから、ダブルとシングルだ!」
これを聞いて、アンドレの目が点になった。

「オスカル。ここは、おまえの泊まる様な、安全な宿とは限らないのだ。
だから、おれが、1人部屋で、女2人で、一部屋を使ってくれ!分かるな?」

珍しくオスカルが、頑固に言った。
「分からない!あの女と同じ部屋で、寝るのは、い・や・だ!」

昨日からのオスカルの、ジェルメーヌへの態度が気になって、アンドレはため息をつきながら、妻に聞いた。
「どうしてそうなったんだ?
あんなに仲が良かったのに・・・。」

「ふん!一年も経てばお互い、考え方も違ってくるのも知らないのか?!
それに・・・」
「それに・・・なんだ?」いつになく、歯切れの悪いオスカルの返答に、アンドレが、後を続けさせようとした。しかし、オスカルは、その後を・・・おまえが、原因だ!・・・と、言いたかったが、口に出せなかった・・・何故だか。

オスカルが、だんまりを決め込んだのを、察したアンドレは、それ以上聞く事が出来なかった。
「でも、一年会わなかったが、アランは変わりなかったぞ!」
「ふん!あいつは、単純だからな!まだ、『一生分に恋』とやらに、しがみ付いているのか?」オスカルは、相変わらず、頓着なく聞いた。

アンドレは、呆れながら、
「おまえ、アランをからかい過ぎだぞ!
昨夜は、ひやひやしたぜ!」

「そっかぁ!まだ、思っているのか?」と、言ったところで、ふと、オスカルは思った。
「アンドレ!?男は、他に思っているオンナがいても、違うオンナと暮らす事が、出来るのか?」オスカルにとっては、素朴な疑問だった。

アンドレは、しばし思案し、
「ヴェルサイユの貴族たちは、皆そうだったじゃないか?」
と、ここは、アランの問題から離れようと、焦点を他に持って行こうとした。

「腐れ貴族は、くそくらえ!だ!
一般的にだ!おまえの周りの、カップルはどうなのだ?」

「おれ?!おれには、そんなに親しくしている者はいないが、バーに来ていた気のいい親父たちは皆、奥さんと喧嘩するほど仲良かったな!

それに・・・アランとジェルメーヌにしたって、初めは想い合っていたんじゃないかと思うが・・・。」
これを聞くと、オスカルは・・・おまえは、シンプルにできているんだな・・・と、アンドレの顔を見上げた。

自分を見上げたオスカルの顔に、笑みがあったので満足した、シンプルなアンドレは、村の入口まで来ると、馬車を止めた。

宿を探してくるから、ここで待ってろ。銃はいつでも、使えるようにしておけ!ただし、賊に向かって撃つのは、二発目にしろ!一発目は空に向かって撃て、そうしたら、おれも戻って来る。・・・と、言って村への一本道を走って行った。

オスカルの後ろから、ゴソゴソと音がした。
疲れたため息とともに、オスカルが、とっくに忘れていた人間が現れた。

「何処かに、着いたの?
酷いわ、一日中ニワトリと一緒にさせて・・・途中で変わってくれるのかと思っていたのに・・・」

「ふん!にわとりが、おまえと一緒にいたいと鳴いていたから、そうしてやった。随分と、手なずけたモノだな。相手は、ニワトリとは言え、メスだぞ!」
オスカルは、心から憎々し気に言った。自分でもこんなに、思っているとは思いもしなかった。

そんな、オスカルの言葉を無視して、
「ねえ!そっちに行ってイイかしら?体中が痛くて・・・」
「じゃあ、馬車から降りて、ストレッチでもするのだな!」

意地でも、一緒に並んで座りたくない、オスカルであった。
しかし、ジェルメーヌにストレッチを勧めたはいいが、自分も朝から同じ姿勢、同じ体勢・・・思いっ切り伸びをして、思いっ切りストレッチをしたくなった。

したくなったら、実行に移すのがオスカルである。
アンドレから、周囲に気を配るのを忘れないよう言われていたが、のんびりとしたこの場所に賊が現れる様子も無いと踏んで、荷台から、ヨガマットを出してきた。

ストレッチを始めようとしたが、ジェルメーヌと並んでは嫌だった。馬を挟んで、あっちとこっちになるようにした。でこぼこした、舗装されていない道にヨガマットを敷いてみた。

何となく、昔やった覚えがあるのをやってみる。
すると、自然と三等身になって、マタニティヨガを始めていた。
初めてなのに、とても懐かしい優しい気持ちになった。

オスカルは身体がほぐれてくると、夫の事が心配になって来た。村の方には、人っ子一人いない。それはそうだ!三等身だから、見渡せないのである。
ふと気づいて、元に戻ると、また馭者台に乗ってみた。

すると、遠くからアンドレが走って来るのが、見えた。
馭者台から、軽々と飛び降りると、夫に向かって走って行った。目の隅に、ジェルメーヌが、走り出そうとしたのを、一歩先に行った。

オスカルはニヤリとした。

アンドレ!どうだった?と言いながら、横目で恨めしそうにしているジェルメーヌを見ながら、オスカルが、夫に訊ねながら、首に抱きついた。

おいおい!さっき出かけたばかりだろう?大袈裟だなぁ?アンドレが、驚きながら答えた。

そして、
あの村には、宿屋は有ったのだが、みな満室だった。と、告げるとオスカルががっかりした風に、頷いた。

そんな、妻の様子を見ながら、
だがな、オスカル。一軒だけ、納屋の軒先に、馬車を止めて、そこに寝泊まりするなら構わない。ついでに、今夜の食事も提供しようと、言ってくれた。

こんな交渉しか、出来なかったが、許してくれるかな?愛しい奥さま。
オスカルは、破顔一笑、馬車の中で眠るなんて、初めての体験だ!寒く無ければ、星空の下で眠りたい。寝袋は持って来ているのか?

と、またまた、大喜びで、もう1人、同行者がいる事をすっかり忘れていた。

思い出してくれたのは、皮肉にも愛する夫だった。
そういう事だ。ジェルメーヌも勘弁してくれ!

あ!もう一人いたのか・・・オスカルの脳裏に似たような顔をした、以前は唯一の女友達だった、女が蘇った。

彼女は、納得できないと言った、顔をしていた。どうして、この私が、馬車の中で一夜を過ごさなければならないのよ~メイドが付いた。バスルームがある、スイートルームしか、泊った事が無いのよ!

ジェルメーヌが、俯いたまま、唇をかみしめて、恨めしそうにアンドレを見た。
シンプルなアンドレにも、これは通じたようで、背筋に何か走ったが、やはりシンプルな男。兎に角、行ってみよう。それから、判断してくれ!

男らしいのか、シンプルなのかわからない決断をして、女2人を馬車に乗せ、件の村へと向かった。

宿屋は、オスカルが想像していたのより、ナイス!であった。
しかし、ジェルメーヌにとっては、想像以上にひどかった。

そんな二人の感情を余所に、シンプルなアンドレは、腹が減った。飯にしよう!と、女2人を誘ったが、ジェルメーヌは、食堂を一目見るなり、馬車に戻ってしまった。

オスカルとアンドレは、向かい合って、宿の主人の作る、彼としては、ご馳走を食べていた。

「おい!アンドレ、衛兵隊の食事もすごかったが、此処のも、負けていないな!?」
アンドレも、野菜の切れ端と、出汁を取ったのか、何かの油が浮いたスープを口にしながら、渋い顔をしていた。

すると、突然馬車でのたわいがないが、また、アランの前で、ぶり返されては困る問題を思い出した。
「オスカル、昼間の話だけど、本気で考えてるのか?」

「あゝ、もしそれで、アランが幸せになってくれるのならな!」
オスカルは、相変わらず恋愛の達人らしく、腕組みをしながら、天井を向いて言った。

「そうか・・・だが、その夫は、夫人が他の男に走ったら、生きていけない程、妻を愛しているそうだよ❣️」
アンドレは、心からの言葉をオスカルに告げた。
とても誇らしく、オスカルも心から感銘してくれると、思った。

オスカルは、ふ~んと聞きながら、
「では、奥方は、そんなにウザイ夫で我慢しているのか。」
と、アンドレの、ハートに矢をブスリと射った。

アンドレは、立ち直れないまま、震える声で言った。
「おまえが、おれを愛しているくらい、夫を愛しているらしい」

すると、オスカルが
「では、ダメだな。わたしは、おまえが不幸になったら、わたしもこの世で一番不幸な人間になってしまう」

アンドレは、口をぽか~んと開けたまま、何も言えなかった。
そして、嬉しさのあまり、涙が出そうになるのを、耐えていた。

オスカルは、更に続けた。
「アランには、気の毒だが・・・おお、アンドレ!もしかしたら、アラスにお似合いの娘さんがいるかもしれないぞ!
ディアンヌ嬢も母上もしっかり者だから、あまりに頼って来るような娘さんでは、似合わないな。

アランと素手でやり合えるくらいじゃないとダメだな!

その相手の女性は、おしとやかなんだろう?
アランには、合わないな!

アランには、もっとこう〜、外に出て働いて、ウチでは、アランを顎で使う様な、強いタイプがあっている。

うん、嫁に行くのをうっかりしていた、年上のマドモアゼルがお似合いだ。

うん、うん、強いてゆうなら、わたしの様な女だ。アランにはそう言っとけ!
ただし、わたしはもう、アンドレがいるから、ダメだけどな!

どう思う?アンドレ?」
と、話をアンドレに振って来た。
アンドレは、そこまで察しているのなら、もう少しは察してくれよ~
ああ、察したら、不味いものなぁ!

コーヒーを注文すると、アンドレは、話を変えた。
ジェルメーヌの様子を見てくる・・・と、言い出した。
またまた、オスカルが焦った。

「わたしが、見てくる。おまえは、コーヒーを飲んでろ!」


暫くして、オスカルに伴われて、ジェルメーヌが現れた。
テーブルの上に置いてある、コーヒーを見ると、顔をしかめた。

宿の女将さんが、持ってきた時、同じ顔をしようとしたアンドレは、まあまあ、イケるぞ!と、声を掛けたが、このコーヒー、色はコーヒー色をしているが、泥か、散々使った、カップに着いた汚れの色か、甚だ疑問であった。

そんなコーヒーを、ちびりちびりと飲んでいる、アンドレを見て、ジェルメーヌは驚きと共に、ガッカリ感がわいてきた。

そんなジェルメーヌの様子を察したのか、オスカルが宿の中を見てくると、席を立った。

1階にある食堂にある階段を上ってみた。粗末な宿にしては、食堂が吹き抜けになっていて、料理場からの奇妙な匂いがここまで登って来る。アンドレを、見るとまだ、コーヒーカップを持ったまま、しかし、飲んでいない。

目の前に、横を向いて座っているジェルメーヌが、全く眼中にないようである。きっと、明日からの算段でもしているのだろう。今まで以上に、アンドレを頼もしく思う、オスカルであった。

オスカルは、ふと長椅子の上に置き忘れてあった、『男装の麗人』と言う週刊誌を手に取った。パラパラと、めくってみた。ゴシップばかりである。庶民はこのようなものを好むのか、と不思議に思いながら、めくっていくと、恋愛相談コーナーという文字に釘付けになった。

この様な読み物は初めてであった。2ー3の悩みが載っていて、それに対する解答も2ー3人の恋愛の達人とみられるものからだった。

ある悩みがオスカルの目を引いた。1人目の解答を読んでみた。そんなものか、と思い。次の解答を読んでみた。ん⊂((・x・))⊃、え゛!そうなのか?!そんな?!バカな・・・では、アンドレは・・・

その瞬間、背後と頭上に気配を感じた。慌てて本を閉じ、後ろ手に隠したまま、振り返った。思った通り、アンドレが居た。

「な・・・なんだ?アンドレ、もう、コーヒーは、飲み終わったのか?馬車に戻る時間か?」普段はアンドレが、言うことを全て言ってしまった。

が、アンドレは、良い知らせを早く伝えたくて、気に留めなかった。
「オスカル、良かった。部屋が1つキャンセルになって空いたから、使える事になった。

おまえとジェルメーヌで、使うといい。昨夜は寝ていないのだから、ゆっくり休むといい」
オスカルが、ベッドで寝られる。ゆっくりさせてやれる。と、アンドレは、嬉しかった。

しかし、オスカルも、アンドレのことを心配するのを忘れてはいなかった。
おまえは、どうするのだ?わたしだけ(ジェルメーヌの事はスルーした)ベッドに寝て、おまえは、馬車か?

取れたのは、一部屋だけだ。おれは、雑魚寝部屋に泊めてもらえることになった。

雑魚寝部屋?何だそれ?
魚を、干物にする部屋か?
臭くないのか?

オスカルの頭の中には、ジャポンでみた、くさやの倉庫、浜でのアジの開きが並んでいた風景が、うかんだ。

アンドレは、クスクス笑いながら、当たらぬとも遠からず。ってところだな!
くさやはは美味いけど、こっちでは、食べられない。
まあ、簡単に言えば、衛兵隊の宿舎みたいなものだ。2段ベッドが、ぎっしり並んでいる。それだけの部屋だ。

そうか、一応ベッドには、寝られるのだな。
え゛・・・くさや・・・って言ったな?覚えているのか?
オスカルは、雑魚寝部屋の事は、ちょっとそっちに置いて、『くさや』に飛びついた。

すると、アンドレが、ああ、よく食ったよなぁ。おまえが焼いてくれる、くさやは最高だった・・・って、どこで、食ったんだっけ?

アンドレの、ジャポンでの記憶は、まだ、まだらの様だった。
そんな様子の、夫にため息を漏らして、オスカルは、現実問題に戻った。

では、この箱は、わたしが持っていよう。そんな、誰がいるか分からない所では、盗難だってあるのだろう。

オスカルは、アンドレが持っている重たい箱を受け取ろうとした。が、アンドレは、
大丈夫だ、枕代わりにするから、盗られる心配はない!と、オスカルが引っ張っている箱を取り返そうとした。

こうして、2人が、あゝでもない、こうでもないと、箱を取り合っているのを、離れた所から、ジェルメーヌは、見ていた。

  *******************

夜中、粗末なベッドから、ジェルメーヌが起き上がった。
オスカル・・・眠ったかしら?さっき、アンドレと話しながら、渡したり、受け取ったりして、最後にオスカルが持つ事になった、いつも2人が大事そうにしている、2つの箱。

今は、オスカルの枕元にある。一体何が入っているのかしら?株券かしら?それとも、万馬券?あゝ、もしかしたら、年末ジャンボの当り券!

そうよ!きっと、そうだわ!
頂いてしまおうかしら!1枚くらいなら、イイわよね!10億よね。そのくらいあれば、楽して、暮らせるわ。

そーっと、そーっと、息を殺して、
そーっと、そーっと、痛い!

ジェルメーヌは、腹の辺りに、チクリと痛みを感じた。そっと見ると、腹に短剣の先が当たっていた。だが、オスカルは、目を閉じている。

目を閉じている、オスカルの口が開いた。
「動くなよ!動いたら、心臓に、グサリだ。
ふふふ・・・その体勢では、キツイだろう!
腹筋と背筋を使って、辛うじてたもっているのだからな!

わたしを、ナンだと思っているのだ?
退役したとはいえ、軍人だ。
寝てはいても、まわりには、気を配っている。
おまえの、動きは、ヘッドから起き上がる所から、お見通しだ。

ん!この箱が、気になるのか?
ならば、見せてやろう!
だが、見た事は、誰にも内緒だぞ!」

ジェルメーヌは、固唾を飲んだ。
2人とも、重そうにしていたから、金塊かもしれない。
宝くじの当選券なら、1枚くらいくれるかしら。
あ!ダメだわ!一等前後賞で、3枚じゃなくちゃ、10億にならないわ!
期待に胸を膨らませた。

一方のオスカルは、楽しそうに箱を膝の上に乗せて、ベッドサイドに腰掛けた。
そして、愛おしそうに、箱を開けた。

石が、入っていた。
もう一つには、
レンガが、入っていた。

ジェルメーヌが、後退りした。
なんなの?何よこれ?普通ゴミにもならないじゃない。週一の不燃ゴミの日にしか出せないじゃないの!
え゛・・・不燃ごみにも・・・ならないわ!

しかしながら、オスカルは、その中の一塊りを取り出して、愛おしそうに、両手で包んだ。
そして、ジャルジェ家の、石だ。玄関にあった。と言った。

こちらは、門柱にあったレンガだ。と言ってまた、愛おしそうに、両手で包み込み、唇を当てた。

父上と母上にお見せしようと、持ってきた。
・・・と、ここまでは、穏やかに言ったが、

「物品に、手を出すのは構わない。
また、調達すればいい。
だけど、生きている者に手を出すな!」
ハッキリとオスカルが、断言した。

「どういう事かしら?」
微笑みながら、ジェルメーヌは、言った。

「わたしのアンドレの事だ!」
オスカルは、先ほどまで、愛おしそうにレンガや、石を持っていた時とは、変わって、きつい言葉と、オスカル最大の目力で訴えた。

「誰が決めたの?そんな事。私のアンドレになるかもしれないわ」
少しタジタジになりながらも、ジェルメーヌは言い返した。

「だから、そうならないのだ。『わたしのアンドレ』は、固有名詞なのだ!この、ベルばらの世界では、」

「それが、私のアンドレになるかもしれないわ」
オスカルは、人差し指をチャッチャッとして、
「そこが違うのだ!よく聞け!『わたしのアンドレ』と『私のアンドレ』違うだろう?」

「なにそれ!変わらないじゃないの!
それにこだわるなら、私のアンドレにしてみせるわ」

「だから〜原作では、『わたし』だろう?
それに、このブログでも、わたしだけが、『わたし』と言う。だから、『わたしのアンドレ』なのだ」

「ふん!言い方なんて、どうでもいいわ。アンドレの気持ちよ!私の方を向かせて見せるわ。」
「好きにするがイイ。アンドレは、決して、撃沈出来ないぞ」

「アンドレは、わたしが守るって言いたいの?」
「イヤ、アンドレは、自分の事は、自分で守れる。また、彼の心は変わらない!

おまえが傷つかないように言っているだけだ!」

オスカルの宣言に、ジェルメーヌは、一瞬たじろいだが、それならそれで、やってやろうじゃないのと、拳を握りしめた。

ジェルメーヌは、髪を背後に払うと、上から目線で、
「オトコもオンナも、最初の相手は、決して忘れない・・・って知ってるでしょ?」
オスカルは、なんのことか分からず、ボーッとしていた。

「あらまぁ!ホントに、ねんねちゃんねー。
貴女、アンドレが、初めて身体を許したオトコでしょ?
だから、アンドレの事を、忘れられなくなっているのよ!」

オスカルは、やっと自分を取り戻し、当然の事だと、思った。ので、
「忘れられなくなっているんじゃない。
忘れないのだ!」

ジェルメーヌが、続けた。
「じゃあ、アンドレは、どうなのか、考えてみて。」

オスカルは、おやっと、顔を上げた。
ジェルメーヌが、勝ち誇ったように、
「分かった?
アンドレにとって、初めてのオンナは私だから、彼は私の事を忘れる事はないわ。

私も、彼が初めてのオトコだから、一生忘れないわ。
そう言う事、分かったら。私とアンドレは、明日パリに戻るから、貴女は1人で、パパとママがいる、アラスに行きなさい。あゝ、子供たちも、いたのね。」

それだけ言うと、ジェルメーヌは、嬉しそうに、自分のベッドの方へ戻って行った。
密かに、ガッツポーズをして。

オスカルは、ベッドサイドに腰掛けたまま、考え込んでいた。
いくら考えても、納得がいかない。
何処か違うと思った。

顔を上げると、2つの箱を持って、スタスタとドアに向かって歩いて行こうとした。が、ジェルメーヌの方を見て、ニヤリとした。

そして、腕に顔を埋めて、ダッと走って廊下へ出た。
オスカル・・・渾身の演技だった。
その姿を見て、ジェルメーヌの心は、勝利の喜びに沸いた。

   *******************

オスカルは、男性用の雑魚寝部屋の前に立っていた。
中から、イビキとは思えないような、スゴイ音が廊下まで、鳴り響いていた。

しばし躊躇った後、思い切って、ドアを押し開けた。
もの凄い音と共に、音以上に凄い、悪臭が襲ってきた。
オスカルは、耐え切れず後退りした。
ドアを閉めて、逃げ出したくなった。

しかし、この中に、探し人は、鼻をつまんで寝ているはずである。
よく見てみると、アンドレが言っていたように、二段ベッドが所狭しと置いてあった。しかも、一つのベッドに、2-3人が折り重なるように寝ているのが、廊下の明かりで見えた。

奥の方は、真っ暗だ。だけど、アンドレを探さなければならない。話したい事もあったが、この様な劣悪な環境に、アンドレを置いておくわけにはいかない。
衛兵隊の宿舎の方が、マシだったぞ・・・オスカルは、最大限の勇気と、鼻にエアキャップをして、匂いを最低限にすると、一歩入ろうとした。

すると、背後から、
「オスカル?オスカルじゃないか?何をしているのだ?
こんな時間に、こんな所で・・・?」
雑魚寝部屋を見つかってしまった、申し訳なさと、この様な時間に会えた喜びが、混ぜ合わさった、クシャっとした笑顔で、アンドレが話しかけた。

オスカルは、耳障り、鼻ざわりな、部屋のドアを思いっ切り締めた。そして、アンドレに会えた喜びと共に、会いに来た目的を思い出して、これまた、複雑な顔をした。

おまえに話があって、来た。・・・ぼそり、とオスカルが言った。
アンドレが、こんな時間に、何だ?と、首を傾げた。
オスカルの戦意が、失われそうな笑顔があった。

アンドレ、おまえこそこんな所で何をしている?
気を取り直そうと、オスカルが聞いた。

アンドレは、しまったなぁ!と頭をぽりぽり(^^ゞと掻きながら、
トイレに行ったんだが、この部屋の酷さに、戻るに戻れなくて・・・
廊下に寝ようかと、寝袋を持ってきた。と、肩に担いだモノを指差した。

おお!アンドレ!わたしが、今、助けてやるからな!・・・と、言いそうになるのを、必死の思いで、押しとどめて、オスカルは、いきなり、本題に入った。

アンドレ!オトコは、初めてのオンナが忘れられず、オンナも、初めてのオトコを忘れられる事は出来ない。って言うのは、本当か?
オスカルは、超ド真剣に、いきなり、直球で来た。

つづく
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