White Queen (As It Began)


わたしはどんな顔をして、幼馴染みの親友の男を見ていたのだろうか?


すまなかった・・・。
本当は機会を見てキチンと伝えたかった・・・。
おまえを愛している。心から、・・・
誰よりも強く愛している。・・・
誰にも渡したくないほど!・・・

だから、もう、そばには居られない。・・・
側にいたら、また、求めてしまう。・・・
おまえを傷付けてしまう。・・・
だから、お屋敷を出ていくよ。・・・
もう、幼馴染みの親友の関係ではいられない。・・・
さようなら・・・。
レヴェを一人前に育ててくれ。・・・
いつまでも愛しているよ・・・。



Ne pars pas.(行くな!)と言いたかった。
言わなければ本当におまえを失ってしまう。
声にしようとするが、口を動かそうとするが、

・・・おまえの顔に浮かんだ拒絶の意思が・・・声を出させてくれない。・・・目の前が涙でぼやけておまえの姿が見えない。・・・寝室の扉が閉まる音を聞いた。・・・厚い扉で聞こえないはずのおまえの遠ざかる足音が、聞こえて来る気がする。・・・いや、わたしには確かにおまえの足音が聞こえていた。・・・

その足音が、・・・
♪An amazing feeling comin’ through・・・
I was born to love you with every single beat of my heart
I was born to take care of you every single day of my life
と、聞こえてきたのは空耳なのだろうか?・・・

わたしを愛している。と言っていたおまえ、・・・そういえば、・・・あの時のおまえ、・・・あの頃のおまえ・・・いつも、いつも、おまえはわたしを温かく包んで・・・守っていてくれた。

・・・フェルゼンとラブラブの時も苦しい顔をしながら応援してくれた。・・・涙が止まらない。・・・だけど、・・・おまえは幼馴染みの親友だ!・・・わたしにとっては・・・

あんなアンドレが・・・アンドレの中に熱い想いが秘められていた、なんて知らなかった!・・・あんなに男だったなんて、知らなかった。・・・このままじゃダメなのか?・・・このままじゃ・・・

オスカルは・・・泣き続けた・・・。
三日三晩、泣き続けた・・・。
フェルゼンとの事はすっかり忘れてしまい、アンドレを思って泣き続けたが、・・・

三日三晩泣いたら、・・・泣くのにも飽きてきて起き上がった。窓際のテーブルに置かれたままのワイングラスを手に取った。一口飲んだら、・・・・・・・・すっかり味が変わっていた・・・・・・・・。

着替えをして、子ども部屋に行くと、レヴェが、ママン病気だったの?元気になったの?・・・と言いながら走り寄ってきた。ああ!わたしはこんなに小さな子どもにも心配させて、ほったらかしにして、と抱き上げた。この重みが愛おしいと感じた。この子たちがいれば大丈夫と思った。

その時、王室からの使者が到着した、と告げられた。
オスカルは数日前の王妃の言葉を思い出し、身なりを整えさせ足取り重く、降りて行った。使いの間には父、ジャルジェ将軍も同席した。使者が告げた。

オスカル・フランソワ・・・貴殿と貴殿の二人の子どもに対する家督相続権を認めない事。フランス衛兵隊に転属の事。ヴェルサイユ常駐部隊長として一週間後に着任の事。ヴェルサイユには沙汰があるまで出仕の必要なしとの事。なお、国王陛下の温情により、大佐から准将へ昇進の事。以上・・・と、使者は告げると、帰って行った。

オスカルは・・・冷静に受け止めていた・・・。
想定内の事だった。

しかし、ジャルジェ将軍は手を震わすと、いきなりオスカルの頬を平手打ちした。
「バカ者!!一体何をやらかしたのだ?!」
「ち・・・父上・・・」
「父がどんな思いで、おまえを跡継ぎに据えたと思っているのか!?

そんな奴は『息子』とは思わん!勘当だ!出ていけ!」
「ぐ・・・」

いつの間にか入ってきたのか夫人が、おっとりと口を開いた。
「オスカルを勘当するのでしたら、わたくしも一緒に出ていきます。」
「は・・・母上!」
「貴女は黙っていらっしゃい、オスカル・・・。
貴女は何も悪くはないのですから、堂々としていらっしゃいな」

「あなた、このお屋敷を出ていきますが、取り敢えず、落ち着き先が決まるまで離れの方を使わせて頂きます」
「うむ」将軍はむっつりしたまま答えた。

「それから、身の回りの世話をしてもらうため、・・・モンブラン家の者を連れていきます。よろしいでしょうか?」
「構わぬ、皆連れていけ!」相変わらず、将軍はムッとしている。

「ありがとうございます。では、オスカル、・・・向こうに行く支度をしましょう」


廊下に出ると夫人はそっとオスカルに、
「荷物は一泊分位あれば十分です。マルゴとアニェスに支度させなさい
でも、もしかしたら晩餐までには戻れるかもしれないわね」

オスカルが不思議そうに夫人を見ると、
「わたくしに勝算があります。任せて、貴女は子どもたちを連れて、離れに行きなさい」
と、相変わらずおっとりとしていた。

レヴェの手を引いて、ヴィーを抱いてオスカルは久し振りに離れへ入っていった。

小さなパーティーが出来るような広間があり、庭園に向かって全面ガラス張りになっていた。その広間の奥まったところに人影があった。

「ひい爺だ~」レヴェが走り寄っていく。
ロッキングチェアに座り、火がついていないだろうパイプをくわえ、庭園をぼんやりと、焦点がどこにあるのかわからない目で眺めている。・・・アンリ・モンブラン・・・ばあやの夫であり、・・・かつてはジャルジェ家庭園を管理する、親方であった。

『親方』と呼ばれて屋敷の者に慕われ、必要最低限の言葉しか発しないため、仕事では厳しかったが、ひとたび仕事を離れると若い者達と飲み明かし、相談に乗ってくれ、しかも口が堅いので信頼も厚かった。・・・

オスカルとアンドレが木登りをする頃は、登りやすいようにと、枝を足がかけやすいように切ってくれたり、ツタのトンネルを作ってくれたり、・・・特に両親と離れてきたアンドレが寂しくないよう気を使ってくれた。

あまりに『親方』とばかりみんなが呼ぶので、最近では本名を知る人は少なくなってきている。ばあや自身も夫の名前を知っているのか、はたはた疑問である。引退してからは庭園を散歩する姿をたまに見かけるが、段々と頭のピントが合わなくなってきて、ぼんやりしている事が多くなってきた。

居間の一段下がった所にいるアンリ爺やの側にオスカルが行くと、爺やは、レヴェの頭をポンポンと優しくたたいていた・・・。

オスカルは懐かしい光景を見た・・・と思った。
幼いころよく爺やは、オスカルやアンドレの頭をポンポンと叩いて愛情を示した。そして、男として生きなければならないオスカルにとって、アンリ爺やの『ポンポン』は『そのままで、いいのだよ、思った通りに生きていきなさい』、と言ってくれているようで、励みにもなった。

今、爺やは、レヴェと分かってポンポンしているのだろうか?それとも、幼いアンドレと思ってしているのだろうか?そんな事を考えながらロッキングチェアの側に座ると、入り口からがやがやと大勢人が入ってきた・・・。

先頭は幼い子供たちだった。・・・「あ!ミシェルだ~」「ママン・・・ミシェル達と遊んできていい?」「ミシェルって誰だ?」「ジャックんちの子だよ」レヴェが、子どもたち目掛けて走り出した。

ほ~そうするとあの子たちは、ばあやと爺や夫婦の曾孫達か、・・・一体何人いるんだ?・・・目を細めて数えようとするが、子どもたちはこの遊び場が気に入ったようで走り回って、動き回って、一瞬たりとも一所に居ないので数えられない・・・。

それどころか、レヴェが生き生きと遊びまわる姿を見てオスカルはアンドレの配慮に感謝した。・・・ママ友の会に行かなくなったので、同じ年頃の友達がいないのを心配していたが、こんなに近くに大勢いた。

・・・レヴェが言葉をよく覚えるのも、この子どもたちと遊んでいるのか、・・・と思った。・・・時々、とんでもない言葉を使うこともあるが、

・・・腕の中にいたヴィーも動き出した。たどたどしい足取りで子どもたちの方へ向かっていく。・・・オスカルが手助けしようとすると、・・・少し年長の子どもが寄ってきてヴィーの手を引いて仲間に入れた。

・・・ああ、アンドレ!おまえはフェルゼンの子と言いながら、ヴィーもちゃんと見ていてくれたんだな。・・・わたしには到底できない。・・・恋敵の子どもを、自分の子どもと同じ様に育てるなんて、・・・オスカルはアンドレの深い愛情を再々々…認識した。

そうしている間にも広間にはどんどん人が集まって来る・・・。一体何人いるんだろうか?・・・爺や夫妻には5人の子がいた、女は2人で1人は南の方へ嫁いだらしい、もう一人はアンドレの母だ、男三人はこのジャルジェ家に居て、其々妻がいて、子供が3~5人いて(アンドレの従兄弟にあたる)それがまた其々伴侶を持ちそして、子供がいる。・・・

もしかしたら、屋敷の主だったものが、モンブランなのかもしれない!・・・
そう思うとオスカルは、可笑しくなってきた。・・・
今ごろ屋敷の中はがら~~ん、としているだろう!・・・父上は????・・・

  **************************

その屋敷では、ジャルジェ将軍が、娘の納得のいかない昇進の礼を述べるために、宮廷に参上しようとしていた。
「おい!誰か・・・宮廷に出仕するから、馬車の支度と、身支度をしてくれ・・・」
「し~~~~~~~ん」
「誰かいないのか!?」
すると、奥の方から、やや体格の良い黒人の女が出てきた。

「はい!旦那さま・・・」
「おまえは誰だ?」
「マミーですだ、『風と共に去りぬ』の・・・特別出演だ」
「何でもよい!馬車の支度と身支度だ」
「無理ですだ、旦那さま、どちらもモンブランだで・・・」

「・・・ではよい!独りでやる。・・・執事のクレマンを呼んでくれ!」
「それも無理だで、クレマンさんもモンブランだで・・・」

将軍はぶちぶち言いながら独りで支度を始めた。・・・どこに服が入っているのか見当がつかない。・・・何とか、シャツと靴下、キュロット、アビ・ア・ラ・フランセーズ、クラバットに靴を探し出した。

鏡を見て身に着けていくが、・・・どうもクラバットがうまく結べない。・・・左右同じにならないのである。・・・恐れ多くも国王陛下の御前に出るのである。失礼があってはいけない。・・・何度かやり直して、どうにか見られるようになった。・・・全身を鏡に映してみる・・・!

靴下の色が左右違っているような気がする・・・!靴も微妙だが左右の飾りが違っている・・・!また、ぶちぶち言いながら靴下と靴を探す。・・・ブチ切れるのと、泣きたくなるのを行ったり来たりしながら、ようやく身支度が整うと、馬小屋に行った。

こちらは流石に生粋の軍人である、手早く馬に鞍をつけ馬上の人となった。

門まで快適に馬を走らせ、「開門!開門!」と叫んだ。
「し~~~~~~~ん」また、マミーが現れた。

「無理ですだ、旦那さま。門番のヴィクトールさんもモンブランだで・・・」
馬から降り門に近づくと将軍は、門の暗証番号を押し始めた。・・・でたらめに、・・・兎に角分からないので、自分の誕生日を入力してみたが、ダメだった。・・・父親の誕生日を入力したがダメだった。・・・祖父の誕生日を入力しようとしたが、・・・知らなかった・・・。

諦めて再び馬上の人となると、門を飛び越えようとしたが、・・・高すぎた。・・・元々障害物を得意としてはいなかった。・・・左右の塀も高い。・・・どこか塀の低くなっている所はないかと塀に沿って馬を進めてみた・・・。

ずんずんずんずん、進んで行く、・・・屋敷を超えて、・・・庭園の奥へと入って来た。・・・高い樹が多くなってきた。・・・このまま行けば外に出られるかもしれない!・・・明るい期待で進んでいくと、・・・小川に出た。・・・これなら渡れる!・・・と、思ったら、その先は崖だった。・・・今度は小川に沿って進んでみる・・・。

こどもの遊び声が聞こえる。・・・どうやら離れの裏手に来てしまったらしい。・・・ばあやの曾孫たちが遊んでいる様だ。

レヴェの姿も見える。あの輝いている金髪は、・・・オスカル!オスカルまで裸足になって、ヴィーと一緒に水遊びをしていた。・・・あ!オスカルが滑って尻もちをついた!・・・それでも笑っている。・・・あれでは、どちらが子どもか、分からないではないか・・・。将軍は頭を振り振りそっと屋敷の方へと戻った。

慣れない事をしたので喉が渇いた・・・。
呼び鈴を鳴らして、飲み物を持ってこさせようとしたが、相変わらず、
し~~~~~~~ん、としている。

また、マミーが出て来て
「無理ですだ、旦那さま、それもモンブランだで・・・」将軍はがっくり来た・・・。
「ふん!わしはもう寝る!その前に食事をする!仕度させろ!」
「それも無理ですだ、旦那さま、料理長もモンブランだで・・・」

マミーは容赦なく
「おら、スカーレットさまのお世話があるだで、タラに帰るだ」
と言いながら後姿を見せた。
「わかった!わかった!みんなを戻せ!
オスカルは・・・取り敢えず、居候だ!近衛に復帰次第、勘当を解く!」

  **************************

オスカルと夫人はそっと、親指を立てて笑った。
そして、ぞろぞろと離れから、ジャルジェ家の人間4人と、
何人いるのか分からないモンブラン家の大移動が終わった。


BGM I’m Going Slightly Mad
By Queen
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