日が昇るとともに、ホテルの朝食ルームに入った2人は、窓際の燦燦と光が注ぐテーブルに決めた。
アンドレは、そのままプレートを取り、ビュッフェコーナーを一回りして見ていく。当然、オスカルも、ついて来ていると、思っていた。なんと言っても、この2日間は、アンドレペースで、動くのだから。
一方のオスカルは、席に座りウエイターが来るのを待った。
アンドレは、今日は、思いっきり動くからと、ボリューム満点の料理をプレートに、山のように載せ、片手に搾りたてのオレンジジュースを持つと、テーブルに戻った。
すると、オスカルが姿勢を正して、座っていた。
アンドレの目が、テンになった。
オスカルも、アンドレが、普段、オスカルが朝食では、食べないものを皿に載せているのを見て、目がテンになった。
それに、ここは、ホテルなのにどうしてアンドレは、給仕の真似などしているのか・・・オスカルには、理解できなかった。
理解できないから、またまた、聞くことにした。
従って、アンドレは、オスカルを案内しながら、再びビュッフェコーナーを回ることになった。
朝食を、腹の中に押し込むと、2人はベルばランドへと向かった。
アンドレは、入場券を購入する為に、オスカルのポシェットから財布を取り出し、また、オスカルに持ってもらった。
ベルばランドのチケットは、全てパスポートなので、乗り放題だ!
オスカルも、アンドレも、朝一番に到着したと思っていたが、もう既に人が溢れ、絶叫マシンからは、歓声が上がっていた。
超スピードで、動く絶叫マシンを見て、オスカルは、最初にあれに乗ろうと、アンドレを誘った。アンドレは、きっと、オスカルがしがみ付いてくるだろうと思い、快く承諾した。
しかし、オスカルは、最初から最後まで両手を高々と上げ、初めての体験を、楽しんでいた。一方の、邪な計画を練っていたアンドレは、腰を抜かしていた。
そして、オスカルは、言った。また、帰る時も、もう一度乗ろうな!と。
アンドレは、青くなった。
それからも、あれに乗ろう、あそこを覗いてみよう!オスカルは、今まで、体験したことのない世界を、楽しんでいた。そんなオスカルを見て、アンドレは、ホッとすると同時に
ベルばランドに来て良かったと思った。
しかし、通り過ぎるカップルの、男が、オスカルのすらりと伸びた生足を、羨望の目でチラチラと見ていくのに、少々、服の選択を間違えたかな?と、思ってしまった。でも、自分の彼女が、注目を浴びている事に、嬉しさも覚えた。
アンドレ!お腹が空いてきたな〜
そうだなぁ、おまえ、ピッツァとハンバーガーどっちを食べたい?
え゛?両方とも、食べたことも、見たことも無いんだが…うーん、国旗が、似ているから、ピッツァにしよう!
オッケー!おれ、ちょっと、トイレに行ってくるから、先に行ってて席取りしておいてくれ
おい!席取りって、なんだ?
ん?あゝ、混雑しているから、先に行って席を確保してくれ、って意味だよ。
ここを、真っ直ぐ行った、右側のようだ。
じゃあな!しばしの別れだ!
オスカルは、左右に飲食店・土産物店が並ぶ通りを、キョロキョロしながら歩いて行った。オスカルにとっては、珍しい店ばかりだったが、どのような、店なのかさっぱり分からなかった。
しかし、何処まで行っても、ピッツァと言う文字のある店が見つからない。
もっと、向こうかなぁ!どんどんどんどん、軍人歩きをして、前進する。
一方で、スッキリしたアンドレは、ピッツァ店を目指して歩いて行った。
愛しいオスカルが待っていると思うと、気持ちが焦る。
看板を見上げて歩いていくと、『マルゲリータ』が、あった。
おう!ここか、随分と、チャチな店名だな。まあ、イイや。
オスカルを探さねば、アンドレは、ルンルン気分だ。
アンドレが、店に入っていくと、
おひとりさま、ですか?・・・どの飲食店でも聞かれる、気持ちの入っていない声がした。
「イヤ、先に1人来ているはずだ」
アンドレは、スラリとしたオスカルの足と、金色に輝く髪に縁どられたキリリとした顔が、今日は、ほんの少しだけ、童心に帰っているオスカルに会える喜びに、震えながら、店内を覗いた。
では、どうぞお入りください。
店員が、マニュアル通り告げた。
アンドレは、店内をキョロキョロした。
目立つはずだ!あんなに、美人で華がある女だ。
だが、いない。
アンドレは、焦り始めた。
店員に聞いてみる。
この世界で、1番の美女が入ってこなかったか?
店員は呆れた顔で、ご覧になってもお分かりの通り、お独りで、いらしていらっしゃる女性は見当たりませんが・・・。
そう言いながら、店員は、殆どの男がそう言いながら、自分の恋人を探してくる。だけど、実際見ると、大したことが無いのが、相場だ・・・アンドレの事も、そう思った。
店員の言う通りだった。オスカルの様な美女が、いないのは・・・。
あ!ッとアンドレは、気がついた。看板に『ピッツァ』と書いていない。オスカルには、『マルゲリータ』が、ピッツァの店とは、分からなかったに違いない。
では、何処に行ったのだ。
LINEしてみよう。
あ〜〜!しまった!スマホは、オスカルのポシェットの中だ。
一方で、ピッツァの看板を探して歩いていくオスカルは、真っ直ぐだった通りが、いつの間にかカーブしているのに、気がつかなかった。
どんどん、飲食店街から、離れていく。それでもオスカルは、アンドレが言った事を信じて、その通りを、歩き続けた。
右側を見ながら・・・。
オスカルの辞書には、後退する、という文字は無かった。
オスカルは、モンテクレール城に、着いてしまった。
そこで、やっといつの間にか、通り過ぎてしまった事に気づいた。
元に戻ろうと振り返ったが、モンテクレール城を中心に、四方八方に道が広がっていて、何処から来たのか、分からなくなってしまった。
取り敢えず、アンドレにLINEしようと、ポシェットを開けた。スマホが2個入っていた。アンドレのスマホを、持てて嬉しい…なんて思えない。オスカルは、珍しく、青くなった。
ヴェルサイユなら、目隠しをされて、何処かに放り出されても、直ぐに何処にいるかわかる。だが、此処は、未知の領域だ。
スマホはあるが、呼び出しのアナウンスは、この時代まだ、なかった。
兎に角、歩くしかない。オスカルもアンドレも、そう思った。
だが、2人が適当に探し出すと、大変な事になるのを、普段は冷静な2人なのに、通常と違う世界に来て、通常ではなくなってしまった。
オスカルは、昨日行ったブティックの、スケボーを持ってくれば良かったと思った。
アンドレは、オスカルにスマホを預けたのを後悔した。
スマホがあれば、オスカルの写真で、看板を作り、探し出す事ができる。
あんなに美人なのだ、すれ違った誰かが、気付くはずだ。
オスカルもアンドレも、目眩がしてきた。こんな事なら、万が一、迷子になった時の、待ち合わせ場所を決めておくのだった。しかし、いつも一緒にいた。離れた事は無い。だから、そのような事は必要ないと思っていた。
あちこち歩いて、今度は、アンドレが、モンテクレール城に着いた。この城によじ登れば、ベルばランド中が見渡せるはずだ。頭に血がのぼっているアンドレは、思った。
アンドレは、登る人などいない、城壁を登り始めた。が、直ぐに、厳重注意を食らい、事務所に連行された。
アンドレは、ブイエ将軍の様にふんぞり返った男の前に無理やり座らせられた。座りながらも、オスカルを思った。
こんな事をしている場合ではないのに、早くオスカルを探さねば、心細い思いをしているだろう。
アンドレは、懸命にはやる気持ちを抑え、いつもの素直な大人の振りをして、ブイエ将軍もどきの、説教を右の耳から左の耳へとして、とっとと釈放された。
釈放されるとともに、アンドレは、真っ青な顔をして、園内を散策する人々と、反対方向に走り出した。
この方が、オスカルを見つけやすいと判断した。だが、人混みを、反対方向に走るので、ぶつかることは、多々あるし、怒鳴られることもあった。
でも、そんな事に、構っていられない。この様な、オスカル向けでは無い所に、オスカルを連れてきた、己を責めるまでになった。
何時ものように、お貴族様向けの、休暇にしておけばよかった・・・。
一方のお嬢さまは、かなり余裕だった。
通りすがりのカップルの様子を見て、アンドレに会ったら、あの様にして歩いてみよう!
オスカルが、見たカップルは、手をつないでいた。
オスカルは、アンドレと恋人同士になってから、手をつないで歩いた事がなかった。そのカップルは、とても幸せそうだった。
空高く上がる、モンテクレール夫人の、風船を持って歩くカップルもいた。
彼らは、一つしか持っていない。
その後に、何個持っているのか、分からないカップルが、通り過ぎる。モンテクレール夫人、テオ、カロリーヌ、ル・ルー、レジャンス様式の猟銃、そして、リオネルの絵柄の風船があるようだ。
オスカルは、アンドレにもっと、沢山買ってもらって、2人で空を飛んだら面白いだろうな~などと考えていた。
その時、オスカルの頭の上から、馬車の音が聞こえた。
え゛!なんで?馬車の音が上から聞こえるのか?見上げると、連結馬車が走っていた。
どうやら、園内を一周しているようだ。それに、途中で乗り降りも出来るらしい。これなら、アンドレを探すことが出来るだろう。
オスカルは、迷わずに乗り込んだ。勿論、貴族用の豪華な馬車だ。
駅舎から、連結馬車が、発車した。オスカルは、先頭に馬が居ないのに、驚いた。それに、自分が乗っている馬車の、前も後ろも、馬車だった。
少し落ち着くと、先ずは、前後の馬車、それから己の乗っている馬車の中を、見まわして、指差し確認した。ここの所は、生粋の軍人である。
それから、ゆっくりと、外を見始めた。幸せそうな人々が相変わらず歩いている。それを見ていて、(やっと、ここで・・・。)寂しくなった。
通り過ぎる、男を見ていく・・・アンドレ程、イイ男はいないな!
(だから!オスカルさま!そこではないでしょ!)
窓から見える、大人は、女性のグループは、大勢いたが、男性だけのグループは、少なかった。それ以外に、カップル、子ども連れの者たち、男1人で歩いているのは・・・いない。
では!一人で歩いている、イイオトコを見つければ、それがアンドレだ!オスカルの、標的が決まった。そうなると、敵を探す、軍人オスカルの、目が光った。
オスカルの目には、女性は勿論、女性連れのオトコも、全く目に入らなかった。そこに、遥か彼方から、キョロキョロとしながら、速足で歩いて来る、イイオトコを見つけた。
アンドレだ!オスカルの胸が躍った。
馬車の中から、名を呼んでみる。
まだ、アンドレは、遠い。
日ごろ、軍の指揮を執るため、良く通る声を持つ、オスカルの声は、届かない。
アンドレは、オスカルの乗る馬車に向かっている。
すれ違う前に、呼び止めなければ、また、見失ってしまう。
オスカルは、馬車の扉を開けようとしたが、中からは開けられない。
それならば、窓を開けようとしたが、こちらもダメだ。
ふと、オスカルのブロンドの髪がなびくのを感じた。
オスカルが、見上げると、通風口が、あった。
オスカルは、そこから這い出て、馬車の上乗った。
腰に手を当て、弁慶の立ち往生の如く立つ。
アンドレの名を叫ぶ。
アンドレは、雑踏の中にいたが、オスカルの声だけは、聞き逃す事は無い。お互い目と目を合わせると、オスカルは、馬車から飛び降りた。
見事に、アンドレに着肩(着地ではない!)し、肩車された格好になった。
オスカルは、ご機嫌だった。馬車から眺めていた時、子供が父親に肩車されているのを見て、ワクワクしていた。
しかし、上背のある、アンドレの肩に、オスカルが乗っているのである。
その巨大さは、人目を引いた。(そんな事は、気にしない2人だった)
アンドレは、オスカルを降ろそうとするが、オスカルが応じない。
オスカルには、逆らえないアンドレは、そのまましばらく、歩いて行った。
アンドレが、しっかりと前を向けよ!
キョロキョロするなよ!
ぶつかるぞ!
そう言った途端、オスカルは、木の枝にデコをぶつけた。
オスカルは、この位、平気だ!このまま、歩こう!そう言ったが、アンドレに無理やり降ろされ、ベンチに座らせられた。
すると、初めの、目的が浮上してきた。
「おなかが減った・・・」オスカルが、ポツリと言った。
「ピッツァ・・・食べるか?」アンドレが、最初の目的を聞いた。
「懲り懲りだ。
あ!あの、子供が食べている三角のを食べてみたい!」
オスカルは、興味津々に言った。
だが、アンドレに、アレがピッツアだと、言われてしまった。
でも、子供が、美味しそうに食べているので、そちらに向かった。
ピッツァの店で、席へと案内する店員が、アンドレがまた来たので、うんざりした。しかし、連れの女性が、紛れもなく、フランス一の美女だったので、特等席に案内したのは、言うまでもない。
こうして、2人はアトラクションの殆どを体験し、夜には、花火が見える、レストランのテラスに座り、ディナーを堪能し、花火に酔いしれ、ついでに、お互いの唇にも、酔いしれた。
そして、辻馬車いっぱいに風船を積み込んで、楽しい思い出とともに、ヴェルサイユにある、ジャルジェ家に帰った。
オスカルとアンドレは、また、来月会う約束をして、それぞれの部屋へと、別れた。
つづく
<おまけ>
ベルばランドの、アトラクションの一部を紹介
暴走するアントワネットが、乗っている馬
→人形が乗った馬に男がぶつかると走り出す。その馬を追って、人形を助ける
と賞品を貰える。
回る舞踏会
→紳士と淑女が支える、ティーカップに乗って、クルクル回る。
毒入りワイン
→ワイングラスが5個並んでいる。4個はトマトジュースだが、一つだけ、タバスコ。
アントワネットの退屈な日々
→外観が魅力的なアトラクション。だけど、入ったら座るだけ。
兵士の反乱
→中に入ると、12人の兵士に銃を向けら、後ろの入口は締められる。
一人と戦って勝たなければ出てこられない。
イッツア・軍服ワールド
→船に乗って、世界中の軍服を着た人形が見られる。
ド・ギランドの蒸気船
→ゲイじゃないと乗れない。男のカップルはあまり来ないので、殆ど開店休業
黒い騎士とシャンデリア
→シャンデリアに乗って揺られ、窓を割って、出口に向かう。
ここがパレ・ロワイヤルか・・・。
→服の端をちぎられる。
ヴェルサイユは、今日は大変な人ですこと
→一言でも言い間違えたら、大変な事になる。
ときどき暗くなる目
→歩いて回るが、ときどき目が見えなくなり、かすむこともある、とにかく、
勘で進む。
鍛冶屋体験
→ひたすら、トンテンカンテンする。
熱気球の試し乗り冒険
→成功する時もあるが、時たま、落ちる場合もあり。
ヤマアラシの大合唱
→大勢のヤマアラシが、大合唱。入場者は退屈で寝てしまう。
首飾りの恐怖
→首飾りを身に着けると、首を絞められる
ドーバー海峡の海賊
→英国女王お墨付き海賊の攻撃、をかいくぐって、ドーバー海峡を渡る。
ヴァレンヌの往復
→行きは、快適だが、段々と雲行きが怪しくなって、復路は散々な目に合う。
黒衣の伯爵夫人のモンテクレール城
→トイレが何処かわからない
カロリーヌ嬢の運命
→トイレに行こうとしたら、イケメンに出合う。
しかし、声を掛けると、大変な事になる。
リオネルとデート
→女性限定、だれも出口から出てこない。
ル・ルーとピクニック
→あらゆる所から降って来る栓抜きを、よけながら進む。
ケツの青いガキ
→天井からたくさん、ケツの青い人形がぶら下がっている。ぶつかると、ケツが青くなるので、よけながら歩く。
愛している。だから・・・だから・・・
→『だから・・・』の後を考える、コーナー。
ここまで、お読みくださりありがとうございました。
お粗末様でした。
アンドレは、そのままプレートを取り、ビュッフェコーナーを一回りして見ていく。当然、オスカルも、ついて来ていると、思っていた。なんと言っても、この2日間は、アンドレペースで、動くのだから。
一方のオスカルは、席に座りウエイターが来るのを待った。
アンドレは、今日は、思いっきり動くからと、ボリューム満点の料理をプレートに、山のように載せ、片手に搾りたてのオレンジジュースを持つと、テーブルに戻った。
すると、オスカルが姿勢を正して、座っていた。
アンドレの目が、テンになった。
オスカルも、アンドレが、普段、オスカルが朝食では、食べないものを皿に載せているのを見て、目がテンになった。
それに、ここは、ホテルなのにどうしてアンドレは、給仕の真似などしているのか・・・オスカルには、理解できなかった。
理解できないから、またまた、聞くことにした。
従って、アンドレは、オスカルを案内しながら、再びビュッフェコーナーを回ることになった。
朝食を、腹の中に押し込むと、2人はベルばランドへと向かった。
アンドレは、入場券を購入する為に、オスカルのポシェットから財布を取り出し、また、オスカルに持ってもらった。
ベルばランドのチケットは、全てパスポートなので、乗り放題だ!
オスカルも、アンドレも、朝一番に到着したと思っていたが、もう既に人が溢れ、絶叫マシンからは、歓声が上がっていた。
超スピードで、動く絶叫マシンを見て、オスカルは、最初にあれに乗ろうと、アンドレを誘った。アンドレは、きっと、オスカルがしがみ付いてくるだろうと思い、快く承諾した。
しかし、オスカルは、最初から最後まで両手を高々と上げ、初めての体験を、楽しんでいた。一方の、邪な計画を練っていたアンドレは、腰を抜かしていた。
そして、オスカルは、言った。また、帰る時も、もう一度乗ろうな!と。
アンドレは、青くなった。
それからも、あれに乗ろう、あそこを覗いてみよう!オスカルは、今まで、体験したことのない世界を、楽しんでいた。そんなオスカルを見て、アンドレは、ホッとすると同時に
ベルばランドに来て良かったと思った。
しかし、通り過ぎるカップルの、男が、オスカルのすらりと伸びた生足を、羨望の目でチラチラと見ていくのに、少々、服の選択を間違えたかな?と、思ってしまった。でも、自分の彼女が、注目を浴びている事に、嬉しさも覚えた。
アンドレ!お腹が空いてきたな〜
そうだなぁ、おまえ、ピッツァとハンバーガーどっちを食べたい?
え゛?両方とも、食べたことも、見たことも無いんだが…うーん、国旗が、似ているから、ピッツァにしよう!
オッケー!おれ、ちょっと、トイレに行ってくるから、先に行ってて席取りしておいてくれ
おい!席取りって、なんだ?
ん?あゝ、混雑しているから、先に行って席を確保してくれ、って意味だよ。
ここを、真っ直ぐ行った、右側のようだ。
じゃあな!しばしの別れだ!
オスカルは、左右に飲食店・土産物店が並ぶ通りを、キョロキョロしながら歩いて行った。オスカルにとっては、珍しい店ばかりだったが、どのような、店なのかさっぱり分からなかった。
しかし、何処まで行っても、ピッツァと言う文字のある店が見つからない。
もっと、向こうかなぁ!どんどんどんどん、軍人歩きをして、前進する。
一方で、スッキリしたアンドレは、ピッツァ店を目指して歩いて行った。
愛しいオスカルが待っていると思うと、気持ちが焦る。
看板を見上げて歩いていくと、『マルゲリータ』が、あった。
おう!ここか、随分と、チャチな店名だな。まあ、イイや。
オスカルを探さねば、アンドレは、ルンルン気分だ。
アンドレが、店に入っていくと、
おひとりさま、ですか?・・・どの飲食店でも聞かれる、気持ちの入っていない声がした。
「イヤ、先に1人来ているはずだ」
アンドレは、スラリとしたオスカルの足と、金色に輝く髪に縁どられたキリリとした顔が、今日は、ほんの少しだけ、童心に帰っているオスカルに会える喜びに、震えながら、店内を覗いた。
では、どうぞお入りください。
店員が、マニュアル通り告げた。
アンドレは、店内をキョロキョロした。
目立つはずだ!あんなに、美人で華がある女だ。
だが、いない。
アンドレは、焦り始めた。
店員に聞いてみる。
この世界で、1番の美女が入ってこなかったか?
店員は呆れた顔で、ご覧になってもお分かりの通り、お独りで、いらしていらっしゃる女性は見当たりませんが・・・。
そう言いながら、店員は、殆どの男がそう言いながら、自分の恋人を探してくる。だけど、実際見ると、大したことが無いのが、相場だ・・・アンドレの事も、そう思った。
店員の言う通りだった。オスカルの様な美女が、いないのは・・・。
あ!ッとアンドレは、気がついた。看板に『ピッツァ』と書いていない。オスカルには、『マルゲリータ』が、ピッツァの店とは、分からなかったに違いない。
では、何処に行ったのだ。
LINEしてみよう。
あ〜〜!しまった!スマホは、オスカルのポシェットの中だ。
一方で、ピッツァの看板を探して歩いていくオスカルは、真っ直ぐだった通りが、いつの間にかカーブしているのに、気がつかなかった。
どんどん、飲食店街から、離れていく。それでもオスカルは、アンドレが言った事を信じて、その通りを、歩き続けた。
右側を見ながら・・・。
オスカルの辞書には、後退する、という文字は無かった。
オスカルは、モンテクレール城に、着いてしまった。
そこで、やっといつの間にか、通り過ぎてしまった事に気づいた。
元に戻ろうと振り返ったが、モンテクレール城を中心に、四方八方に道が広がっていて、何処から来たのか、分からなくなってしまった。
取り敢えず、アンドレにLINEしようと、ポシェットを開けた。スマホが2個入っていた。アンドレのスマホを、持てて嬉しい…なんて思えない。オスカルは、珍しく、青くなった。
ヴェルサイユなら、目隠しをされて、何処かに放り出されても、直ぐに何処にいるかわかる。だが、此処は、未知の領域だ。
スマホはあるが、呼び出しのアナウンスは、この時代まだ、なかった。
兎に角、歩くしかない。オスカルもアンドレも、そう思った。
だが、2人が適当に探し出すと、大変な事になるのを、普段は冷静な2人なのに、通常と違う世界に来て、通常ではなくなってしまった。
オスカルは、昨日行ったブティックの、スケボーを持ってくれば良かったと思った。
アンドレは、オスカルにスマホを預けたのを後悔した。
スマホがあれば、オスカルの写真で、看板を作り、探し出す事ができる。
あんなに美人なのだ、すれ違った誰かが、気付くはずだ。
オスカルもアンドレも、目眩がしてきた。こんな事なら、万が一、迷子になった時の、待ち合わせ場所を決めておくのだった。しかし、いつも一緒にいた。離れた事は無い。だから、そのような事は必要ないと思っていた。
あちこち歩いて、今度は、アンドレが、モンテクレール城に着いた。この城によじ登れば、ベルばランド中が見渡せるはずだ。頭に血がのぼっているアンドレは、思った。
アンドレは、登る人などいない、城壁を登り始めた。が、直ぐに、厳重注意を食らい、事務所に連行された。
アンドレは、ブイエ将軍の様にふんぞり返った男の前に無理やり座らせられた。座りながらも、オスカルを思った。
こんな事をしている場合ではないのに、早くオスカルを探さねば、心細い思いをしているだろう。
アンドレは、懸命にはやる気持ちを抑え、いつもの素直な大人の振りをして、ブイエ将軍もどきの、説教を右の耳から左の耳へとして、とっとと釈放された。
釈放されるとともに、アンドレは、真っ青な顔をして、園内を散策する人々と、反対方向に走り出した。
この方が、オスカルを見つけやすいと判断した。だが、人混みを、反対方向に走るので、ぶつかることは、多々あるし、怒鳴られることもあった。
でも、そんな事に、構っていられない。この様な、オスカル向けでは無い所に、オスカルを連れてきた、己を責めるまでになった。
何時ものように、お貴族様向けの、休暇にしておけばよかった・・・。
一方のお嬢さまは、かなり余裕だった。
通りすがりのカップルの様子を見て、アンドレに会ったら、あの様にして歩いてみよう!
オスカルが、見たカップルは、手をつないでいた。
オスカルは、アンドレと恋人同士になってから、手をつないで歩いた事がなかった。そのカップルは、とても幸せそうだった。
空高く上がる、モンテクレール夫人の、風船を持って歩くカップルもいた。
彼らは、一つしか持っていない。
その後に、何個持っているのか、分からないカップルが、通り過ぎる。モンテクレール夫人、テオ、カロリーヌ、ル・ルー、レジャンス様式の猟銃、そして、リオネルの絵柄の風船があるようだ。
オスカルは、アンドレにもっと、沢山買ってもらって、2人で空を飛んだら面白いだろうな~などと考えていた。
その時、オスカルの頭の上から、馬車の音が聞こえた。
え゛!なんで?馬車の音が上から聞こえるのか?見上げると、連結馬車が走っていた。
どうやら、園内を一周しているようだ。それに、途中で乗り降りも出来るらしい。これなら、アンドレを探すことが出来るだろう。
オスカルは、迷わずに乗り込んだ。勿論、貴族用の豪華な馬車だ。
駅舎から、連結馬車が、発車した。オスカルは、先頭に馬が居ないのに、驚いた。それに、自分が乗っている馬車の、前も後ろも、馬車だった。
少し落ち着くと、先ずは、前後の馬車、それから己の乗っている馬車の中を、見まわして、指差し確認した。ここの所は、生粋の軍人である。
それから、ゆっくりと、外を見始めた。幸せそうな人々が相変わらず歩いている。それを見ていて、(やっと、ここで・・・。)寂しくなった。
通り過ぎる、男を見ていく・・・アンドレ程、イイ男はいないな!
(だから!オスカルさま!そこではないでしょ!)
窓から見える、大人は、女性のグループは、大勢いたが、男性だけのグループは、少なかった。それ以外に、カップル、子ども連れの者たち、男1人で歩いているのは・・・いない。
では!一人で歩いている、イイオトコを見つければ、それがアンドレだ!オスカルの、標的が決まった。そうなると、敵を探す、軍人オスカルの、目が光った。
オスカルの目には、女性は勿論、女性連れのオトコも、全く目に入らなかった。そこに、遥か彼方から、キョロキョロとしながら、速足で歩いて来る、イイオトコを見つけた。
アンドレだ!オスカルの胸が躍った。
馬車の中から、名を呼んでみる。
まだ、アンドレは、遠い。
日ごろ、軍の指揮を執るため、良く通る声を持つ、オスカルの声は、届かない。
アンドレは、オスカルの乗る馬車に向かっている。
すれ違う前に、呼び止めなければ、また、見失ってしまう。
オスカルは、馬車の扉を開けようとしたが、中からは開けられない。
それならば、窓を開けようとしたが、こちらもダメだ。
ふと、オスカルのブロンドの髪がなびくのを感じた。
オスカルが、見上げると、通風口が、あった。
オスカルは、そこから這い出て、馬車の上乗った。
腰に手を当て、弁慶の立ち往生の如く立つ。
アンドレの名を叫ぶ。
アンドレは、雑踏の中にいたが、オスカルの声だけは、聞き逃す事は無い。お互い目と目を合わせると、オスカルは、馬車から飛び降りた。
見事に、アンドレに着肩(着地ではない!)し、肩車された格好になった。
オスカルは、ご機嫌だった。馬車から眺めていた時、子供が父親に肩車されているのを見て、ワクワクしていた。
しかし、上背のある、アンドレの肩に、オスカルが乗っているのである。
その巨大さは、人目を引いた。(そんな事は、気にしない2人だった)
アンドレは、オスカルを降ろそうとするが、オスカルが応じない。
オスカルには、逆らえないアンドレは、そのまましばらく、歩いて行った。
アンドレが、しっかりと前を向けよ!
キョロキョロするなよ!
ぶつかるぞ!
そう言った途端、オスカルは、木の枝にデコをぶつけた。
オスカルは、この位、平気だ!このまま、歩こう!そう言ったが、アンドレに無理やり降ろされ、ベンチに座らせられた。
すると、初めの、目的が浮上してきた。
「おなかが減った・・・」オスカルが、ポツリと言った。
「ピッツァ・・・食べるか?」アンドレが、最初の目的を聞いた。
「懲り懲りだ。
あ!あの、子供が食べている三角のを食べてみたい!」
オスカルは、興味津々に言った。
だが、アンドレに、アレがピッツアだと、言われてしまった。
でも、子供が、美味しそうに食べているので、そちらに向かった。
ピッツァの店で、席へと案内する店員が、アンドレがまた来たので、うんざりした。しかし、連れの女性が、紛れもなく、フランス一の美女だったので、特等席に案内したのは、言うまでもない。
こうして、2人はアトラクションの殆どを体験し、夜には、花火が見える、レストランのテラスに座り、ディナーを堪能し、花火に酔いしれ、ついでに、お互いの唇にも、酔いしれた。
そして、辻馬車いっぱいに風船を積み込んで、楽しい思い出とともに、ヴェルサイユにある、ジャルジェ家に帰った。
オスカルとアンドレは、また、来月会う約束をして、それぞれの部屋へと、別れた。
つづく
<おまけ>
ベルばランドの、アトラクションの一部を紹介
暴走するアントワネットが、乗っている馬
→人形が乗った馬に男がぶつかると走り出す。その馬を追って、人形を助ける
と賞品を貰える。
回る舞踏会
→紳士と淑女が支える、ティーカップに乗って、クルクル回る。
毒入りワイン
→ワイングラスが5個並んでいる。4個はトマトジュースだが、一つだけ、タバスコ。
アントワネットの退屈な日々
→外観が魅力的なアトラクション。だけど、入ったら座るだけ。
兵士の反乱
→中に入ると、12人の兵士に銃を向けら、後ろの入口は締められる。
一人と戦って勝たなければ出てこられない。
イッツア・軍服ワールド
→船に乗って、世界中の軍服を着た人形が見られる。
ド・ギランドの蒸気船
→ゲイじゃないと乗れない。男のカップルはあまり来ないので、殆ど開店休業
黒い騎士とシャンデリア
→シャンデリアに乗って揺られ、窓を割って、出口に向かう。
ここがパレ・ロワイヤルか・・・。
→服の端をちぎられる。
ヴェルサイユは、今日は大変な人ですこと
→一言でも言い間違えたら、大変な事になる。
ときどき暗くなる目
→歩いて回るが、ときどき目が見えなくなり、かすむこともある、とにかく、
勘で進む。
鍛冶屋体験
→ひたすら、トンテンカンテンする。
熱気球の試し乗り冒険
→成功する時もあるが、時たま、落ちる場合もあり。
ヤマアラシの大合唱
→大勢のヤマアラシが、大合唱。入場者は退屈で寝てしまう。
首飾りの恐怖
→首飾りを身に着けると、首を絞められる
ドーバー海峡の海賊
→英国女王お墨付き海賊の攻撃、をかいくぐって、ドーバー海峡を渡る。
ヴァレンヌの往復
→行きは、快適だが、段々と雲行きが怪しくなって、復路は散々な目に合う。
黒衣の伯爵夫人のモンテクレール城
→トイレが何処かわからない
カロリーヌ嬢の運命
→トイレに行こうとしたら、イケメンに出合う。
しかし、声を掛けると、大変な事になる。
リオネルとデート
→女性限定、だれも出口から出てこない。
ル・ルーとピクニック
→あらゆる所から降って来る栓抜きを、よけながら進む。
ケツの青いガキ
→天井からたくさん、ケツの青い人形がぶら下がっている。ぶつかると、ケツが青くなるので、よけながら歩く。
愛している。だから・・・だから・・・
→『だから・・・』の後を考える、コーナー。
ここまで、お読みくださりありがとうございました。
お粗末様でした。
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