オスカルは、考え出した。
腕組をした。
天井を仰いでみた。

2人の侍女は、この様な時は、声を掛けずにいる事が、女主人への気遣いだった。
なので、そっと見守りながら、彼女らの作業に没頭した。

オスカルは、思った。
以前あの、アンドレが暴走し、気まずい時でも、2人で出かけ、小さな店なら、全ての酒を呑み倒す事もあった。

オスカルは、ふと、アンドレは、自分がいない時、何をしているのか?疑問にぶち当たった。
そうだった。あの、アンドレの誕生日にも、彼の欲しい物、彼が好きな色…何も分からなかった。

月誕生日と月誕生日の間、アンドレは、どう過ごしているのだろうか?
オスカルは、不安になって来た。

オスカルと、出歩けない今、どうしているのだろう。
もしかしたら、アンドレは、夜遊びしているのだろうか?

そして、あの、灯台に出入りしていた時の、アンドレの爆睡ぶりを、思い出した。
(アンドレは、オスカルが、出入りするので、単に、演技をしていただけなのだが…)

アンドレへの疑問を持ち始めたオスカルには、分からなかった。
そして、毎夜出かけるので、あの様に疲れて爆睡しているのだと、思った。

オスカルは、アンドレが以前から、24時間フルで、仕事をしていた事をすっかり忘れていた。
…疑惑に、取り付かれていたから…。

まず、分からないのは、【手厚いもてなし】だ。
これを、知らなければならない。

ふと、侍女たちを見、己の姿を見ると、もう、夜着を着ていた。
あまりにも、考えに没頭していたので、気付かなかった。
侍女たちが、テキパキと仕事をこなすのを、見事だと思った。
彼女たちは、部屋を出て行こうとしていた。

だけれども、今は、そんな感心している場合ではない!
オスカルは、即座に判断した。
今、今夜、この時、任務を完遂させなければならない。

フォンダンでは、ダメだ。
ショーからなら、聞き出せる。

そう判断すると、オスカルは、少し手伝ってほしい事がある。
一人だけでいい。
ショー、お願いできるか?

そう聞くと、ショーは、飛び上がって喜び、フォンダンを追い出してしまった。
オスカル、第一次作戦終了!

オスカルは、ショーを寝室の小さなテーブルにある椅子に座らせた。
そして、自らグラスと、酒を持ってきて、言った。

「先程からの話しで、分からない事がある。
教えてくれ。

勿論、おまえが、話した事は、誰にも言わない。
おまえも、ガトーとフォンダン、それから、使用人仲間にも、話さないと、誓ってくれるか?」

いつになく真剣な眼差しで言われ、ショーは、緊張しながらも、OUIと返事をして、頷いた。
しかし、オスカルは、知らなかった。
このお喋りで、天然のショーが、黙ってなどいられない事を…。

まず、オスカルは、先程からの、なぞ解きを始めた。
「不味くて、安いけれど、【手厚いもてなしをする店】って、なんだ?
おまえは、行った事があるのか?」

ショーは、女主人の顔を、まじまじと見た。
え゛…知らないのか?そんな、基本的な事を…。
それならば、この私が、とことんオスカルさまに教えて差し上げなければ…。

ショーは、なんでもご存じのはずのオスカルの知識と、自分たち平民の知識とごちゃ混ぜにしていた。

そして、女主人自ら注いでくれた酒を一口飲み、話し出した。

「あんな所は、女は、行きません。
お酒は、不味いけれど、始めは、強いのが出るそうです。
それで一気に、男達を酔わせ、懐を緩めさせるそうです。」

そこで、オスカルが、話を遮った。
「なぜ、懐を緩めさせるのだ?安い店なんだろう?」

ショーは、俄然やる気を出した。
「酒は、酔うために必要ですが、料理になんて誰も手を出さないようです。
寄ってくるオンナ達の為に、お金を使うのです」

オスカルは、思った。
そうか!女達にチップをあげるのだな。
だが、チップは帰る時に渡すものだが…。
また、オスカルの思考が止まった。

「オンナ達は、こ~~~んなに、胸が大きくて、その胸を露わにして…」
ショーは、そう言いながら、自分の胸の前に、バスケットボール位の胸を作り、胸の露わさを示した。

ショーは、元々酒は強かった。
それに、オスカルの部屋で呑む、極上の酒はたまらなく美味しい。
次から次へと呑み、その分、舌も饒舌になった。

「男たちは、その胸の間に、お金を入れるのです。
そして、その金額に応じて、オトコは、オンナを膝の上に座らせる。
胸の谷間に顔を入れさせる。なんでもお金次第だそうですよ」

また、オスカルが、口を挟んだ。
「その、オトコとオンナは、知り合いなのか?」

今度は、ショーは、ポカ~~~ンと、口を開けた。
そしてまた、使命感に燃えた。

この女主人は、お嬢さまで、それなのに、軍人として男どもに指図をする。
それに、最近では、荒くれ男どもを、束ねていると聞く。
男の生態を、知らないで、どうやって生きてきたのだろう!

アンドレが、護衛に付けない今は、知っておかなければ、大変な事になる!
ショーは、決心した。

「知り合いな訳ないです。その夜、その夜、気に入ったオンナ1人の時もあります。
給料日後なんて、あちらこちらのオンナに手を出すんですって!
両手に花!って、お聞きになった事、ありますでしょう?

ジャルジェ家に務めていれば、給料全部オンナに使ったって、住む所も、食べるのにも、着る物にも不自由しないです。
その後は、黙々と働いているんですって!

リュッサンが、そうみたいですよ!
気に入ったオンナに、大金を渡して、2階に消えるんですって!」

またまた、オスカルには、分からなくなった。
自分が今いる所は、2階だ。
そこに、何があるって言うのだ?

ショーは、女主人が再び、分からなそうにしていたのを、見た。
ショーもあまり知らなかったが、話をモリモリにして言った。

誰も聞いていないのに、ショーは、小声で、オスカルに告げた。
「なんでも、2階は、個室と大部屋があって、大金を出せば個室に通されるそうです」

オスカルは、友人たちを通す、こぢんまりとした客間を思い浮かべた。
そして、商品を持ってくる、少々広い部屋を思った。

そうだった。金は払わないけれど、親しいものは、客間に通す。
商人たちは、広間に通し、商品を並ばせる。こんな感じなのか…。

オスカルが、ガッテンしたと思い、ショーは、続けた。
「そうなんです。個室には、ベッドがひとつ。広間には所狭しと、ベッドが並んでいて…」

ここでまた、オスカルは、自分の認識が違っていた事に気付いた。
大部屋は、衛兵隊の隊士たちの、宿舎か…。
そして、個室は、わたしが、夜勤明けに仮眠する部屋なのだな。
オスカルは、ここまでは理解したぞ。だから、ショーに、ニッコリとした。

「…で、ですね。そこでまた、渡したお金での待遇が違うらしいんです。
だけど、そこから先は…よく知らないし…だけど、ベッドに入る事だけは、確かです…聞いた話だけど…」

ショーは、一気にしゃべったが、あまりにも、目の前に座る女主人の目が、純粋なので、…ショー自身は気づかなかったが、これ以上話しては、いけないと、漠然と思った。

一方で、オスカルは、チンプンカンプンだった。
胸の間に、金を入れる。
膝の上に座ってくれる。
胸の谷間に、顔を埋めさせてくれる。
(ベッドに入る…は、すっかり忘れていた。
オスカルの超パソコン並みの、記憶力が、反応しなかった)

兎に角、ショーには、分かった。
ありがとう。もう下がっていい。
遅くまで悪かった。
そう言って、ひとりになった。

ショーの話した事の分かる部分を、…殆ど分からなかったが、思い返した。

胸の間に、金を入れる。
わたしの胸に、間なんて無いし、金を入れたら、落ちてしまう。

膝の上に座る。
これなら分かる。

何度も、アンドレの膝には座った。
口付けをする、アンドレの傷ついた左目に、手を当て、やはり口付けた。
それから、頬を引っ張った。
馬の状態を見るように、唇をめくって、歯の点検もした。

アンドレも、わたしに口付けをくれた。
そして、頬にも、目にも、額にもあちこちに、口付けしてくれた。
あ~~~幸せだ!

え゛…それを、誰だか知らない、その夜、会ったオンナと、するのか?
オトコどもは…。

アンドレも、するのか?
アンドレの膝は、わたし専用だぞ!

それから、胸の谷間に、顔を埋める。って言っていたな。
オスカルは、自分の胸があるだろう処を見た。
夜着がストンと、落ちて、そこから、膝の方へと流れていた。

そう言えば、アンドレが言っていたな。
おまえ、ホントに胸が、ささやかだな~。

こうしていると、どっちが前だか、背中だか、分からなくなりそうだ。
取り敢えず、肩甲骨が無い方が、前だな。

でも、この小さな胸のお陰で、軍服を着ていて、様になるのだな。
良かったなぁ!おばあちゃんみたいに、ボインじゃなくて!

オスカルは、酒を呑もうと上げた手を、おろした。

もしかしたら、もしかしなくても…。
アンドレは、胸の大きなオンナが、好きなのかもしれない。
オスカルの頭は、その1点に囚われてしまった。

だから、こうして、会えない間は、胸の大きなオンナ、
大きければいいのだから、
顔なんてどうでもいいのだ。
性格もどうでもいいのだ。

好みの大きさのオンナの胸に、
金を入れて、顔を埋めているんだ!

2階の事は、良くわからなかった。
ショーにも、よく分からないようだ。

わたしは、アンドレのあの広くて、熱い胸が好きなんだ。
そして、アンドレの匂いも好きなのだ。
他の男の胸になんか、顔を埋めたくも無い!

アンドレの胸も、わたしだけのモノだ。
そして、わたしが、アンドレの胸に抱かれる時、わたしを抱きしめてくれる逞しい腕も、わたしだけのモノだ。

オトコには、胸がないからそう思うのか?
でも、腹が出たオトコもいる。
もし、アンドレが、中年になって、腹が出ても、やはりアンドレでなければイヤだ!

オスカルは、ほんの少しだけ、オトコの生態が分かった。
そして、まさか、わたしのアンドレも、同じなのか?…と、思った。

だけれども、ご領地の視察から帰ってから、一度も顔を見せず、夜も出歩いているアンドレに、不信感を募らせた。

そしてそれは、顔を合わせず、話をする事も出来ずにいたので、オスカルの不信感は、どんどん膨らみ、現実のものとなっていった。

しかし、アンドレは、屋敷の中にいた。
自室で、ロジェの報告書を、何度も読み返していた。
オスカルに聞けば、多分、ロジェの思い違いだという事が、分かっただろう。

だが、アンドレも、この情報しかないので、妄想に取り付かれていた。
そして、あの夜のロジャーの態度。
若いのに、ベビーフェイスなのに、堂々としていた。

本当に、ここに書いてある行動をしていたのか?
だが、潔癖なオスカルだ。まさかとも思った。

でも、もしかしたら、純情で、オトコに免疫のない、彼女の事だ。
自分の不在中に、毎日顔を合わせる【女殺しのロジャー】に、
よろめいてしまったのか?

けれども、アンドレが、最も時間を掛けたのは、ご領地の視察に関する、誰に見せる訳でもない報告書だった。
誕生日にオスカルがプレゼントしてくれたペンで…。

   ****************

10月24日

その夜、オスカルの帰宅は、遅かった。
侍女達は、待ちわびていた。
アンドレに一か月ぶりに会える日なのに、どちらにいらしたのですか?

今夜は、とびきり…勿論、そのままでも、お綺麗ですが、お風呂に入って、お着替えをされて、アンドレをお待ちくださいませ。

そう言って、オスカルの身だしなみを整えた。
当の、オスカルは、あまり乗り気でもないようだが、侍女たちに、知られるのも憚られるので、やりたいようにさせていた。

すると、フォンダンが、オスカルの口の高さに、鼻を寄せた。
「失礼ですが、オスカルさま。お口が、臭います。
ああ、決して、オスカルさまの、お口のお手入れが、悪いという訳ではなく…。

お酒の匂いが、プンプンします」

アンドレと女主人であるオスカルの、ここの所の、不自然な様子を知っているガトーは、どうしようかと、悩んだ。
取り敢えず、モンダミンで、ブクブクしてもらった。

ダメだった。
マウスウオッシュを、シュッとした。

ダメだった。
なぜなら、口が匂うのではないから。
胃の中から、アルコールが、匂ってくるのだ。

オスカルは、構わない。
1人にしてくれ。
そう言って、侍女たちを下がらせた。

1人になると、時計を見た。

  つづく

間違えた!
FAT BOTTOMED GIRLS.
にすれば良かった。
けど、どう話をもっていけばいいの?
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