Doing All Right

オスカルの、フランス衛兵隊デビューは、朝から晴れ渡った気持ちのいい日だった。

新しい軍服に身を包み、サーベルを下げ、銃を身に着け鏡に向かってみた。近衛の赤い軍服よりこちらの方がしっくりくると感じた。

それから・・・急がせて作らせた、オスカルのひざ下の長さに合わせた剣を軍靴に、そっと忍ばせる。・・・そして、右の足にはエーベルバッハ少佐の44マグナムではなく、(オスカルは、マグナムを果たして両手で撃てるのだろうか?)ルパン三世から奪ったワルサーP38をこれまた忍ばせる。・・・忍ばせた剣をシュッと抜いてみる。・・・丁度いい具合であった。・・・銃を試してみる。・・・こちらも手にしっくりとする。・・・

歩いてみる・・・違和感なし!・・・上々だと満足した時、・・・レヴェが扉を開けて、元気よく走り寄って来た。

「ママン、・・・カッコイイ!今度は青い軍服なんだね!」
「ああ、そうだよ。似合っているか?」
「うん!ママンは何を着てもステキだよ!」
「ありがとう!レヴェ!行って来るぞ!しっかり、勉強して待っているのだぞ!」

レヴェに見送られて、オスカルは馬上の人となった。後ろにはしっかりとジャックが付いていた。衛兵隊はアンドレの報告書通り、いや、それ以上だった。
まず、新任の閲兵式をすっぽかした。
漸く引きずり出し何とか終える。

夜は新任祝賀のパーティーだった。
アンドレが寄こしてくれた、かなりの部分が欠けている原作「ベルサイユのばら5巻」に、彼らが『パンと焼き肉』を食べるらしい、と理解したオスカルは、焼き肉パーティーを催すこととした。

屋敷から最上級のワインを運び、炭と網、七輪を用意し、隊員達が食べたこともないだろうと、特上カルビ、特上塩タン、特上ハラミ、特上黒毛和牛、特上赤身、特上ラム、特上ホルモンなどなどの肉、そして新鮮な野菜をたっぷりと用意した。

さて、パーティータイムだ!オスカルは、ワクワクと隊員達がやって来るのを待った。果たして、彼らは酒が飲めると、喜んでやってきたが、・・・見慣れぬその風景に一瞬退いた。・・・しかし、オスカルが手本を見せると、ガッツいて食べ始めた。そして、高級なワインを物ともせず、がぶ飲みし始めた。

一人がオスカルに酌をしてくれた。・・・すると、次々と隊員達がオスカルに酌をしに来た。オスカルは、嬉しくなって、今まではした事がなかったが、自分でもワインボトルを持って隊員たちの間を回って酌をした。オスカルは、酌をしながら片手にグラスを持ちグビグビ飲んでいる。

隊員たちは、いつオスカルの酔いが回り、潰れるか楽しみにしていた。しかし、酒の弱い隊員から次々とダウンしていったが、オスカルは、シレっとしていた。食べ物が無くなり、酒もなくなった頃、全ての隊員は床か、テーブルに突っ伏しており、残ったのは、酒を飲まなかったジャックとやたらに酒が強いオスカルだけだった。

オスカルは、隊員たちとの親睦が先ずは上手くいった、と喜び、初日を終えた。

しかし、翌日オスカルが出勤すると、厨房の責任者から苦情が来ていた。曰く、食堂・娯楽室の匂いが消えない!テーブル、椅子、床、天井に飛び散った油を誰が掃除するのか!?また、隊員たちからは、上等な肉とワインの味を知ってしまった為、普段の食事が出来なくなってしまった!と、苦情が来た。

そこでオスカルは、食堂の方には『まるっと新築そっくりさん』と言う、お掃除専門業者を頼んだ。そして、隊員には自分も皆と同じ食事を取るということで納得させた。

それからも、毎日毎日、色々と困難にぶつかった。ぶつかったが、オスカルは、避けずにありったけの力で対処していった。泣きたくなる事も度々あった。
しかし、オスカルを優しく包んで泣かしてくれる胸は無かった。

その代わり、オスカルがどんなに遅く帰宅しても。待っていてくれる小さな手があった。レヴェは、その夜もサンタクロースがプレゼントしてくれた『プラレール きかんしゃトーマス』で遊びながら、オスカルの部屋にいた。

「ママン、おかえりなさい!」この声を聴くと、オスカルの疲労はぶっ飛んだ。

「レヴェ!待っててくれたのか!?今日は何をして過ごしたのだ?」
「う~んとね~、お勉強と、剣の稽古をしたよ」
「そうか、今日の剣の先生は誰だったのだ?」
「今日はね~アナキン・スカイウォーカー先生」
アナキン先生
「そうか!アナキン先生の攻める剣は素晴らしいな!」
「でも、僕はヨーダ先生の方が好きだな~アンドレに似ている」
ヨーダ

レヴェの剣が、守りを好むのをオスカルも知っていた。知っていたのでアナキン・スカイウォーカーを剣の先生に指名したのだが、臨時で来たヨーダの方をレヴェはすっかり気に入ってしまったらしい。

「今日はね、アナキン先生が、ライトセーバーを見せてくれたよ。ジェダイの騎士になると使えるんだって、・・・ジェダイの騎士はフォースも使えるんだよ!」
「そうか、でも、おまえはジェダイの騎士ではなく、近衛の騎士になるのだからな!そのつもりで励めよ!」

「うん!ママン・・・」

「そろそろ、『うん!』ではなく、『はい』と答えるのだな。
それと『ママン』ではなく『母上』だ!」

「うん!ママン!」

オスカルは、頭を抱えた。
レヴェは6歳になった今でも甘えん坊で、夜中にオスカルのベッドにもぐりこんでくることもしばしばであった。

一方のヴィーは乳離れが早かったが、乳母の好みにうるさく、始め年配のベテランの女性を頼んだら気に入らないようで、若い顔の整った女性でやっと落ち着いた。それだけでなく、屋敷のかわいいと思われる侍女達の後を追いかけ、嬉しそうにしている。

誰に似たとはオスカルは、言いたくなかったが、ついつい、二人を比べて、レヴェと一緒にいる時間が長くなってしまうのである。

その夜も二人は、ショコラを飲みながら楽しそうに語りあっていた。レヴェは勉強が好きらしく、家庭教師のオビワン・ケノービがしてくれた話を、面白そうに話してくれた。
そんな話をしながらもオスカルはレヴェが、夜が遅くなったから、このままオスカルのベッドに潜り込もうと企んでいるのを、見逃さなかった。

しかし、冬の夜は寒く、レヴェは温かく、しかも懐かしい幼馴染みの親友の匂いがしたので、オスカルは、レヴェを無理に子ども部屋に追い返そうとはしなかった。

そうして、夜は屋敷でレヴェと過ごしたり、おひとり様でワインを傾けたりまったりと過ごし、昼間は丁々発止の闘いを続けていた。

しかし、この衛兵隊への転属は、オスカルに新しいフランスの一面を見せた。オスカルは、知らなかった。・・・知ろうともしなかった。・・・こんなにも打ちひしがれた人たちがいる事を、・・・貴族でありながら平民と同じ、またはそれ以下の暮らしをしている人々がいる事を、・・・

元々世情に疎かったわけではない。・・・ただ、今まで、知る機会がなかっただけである。・・・知ったが最後、調べ始めた。・・・その為に自分で何が出来るか考え出した。

レヴェがオスカルのベッドに潜り込んでこなくなる頃、オスカルは、隊員たちの心を掴んだ。オスカルの軍靴に銃や剣を忍ばせる必要は無くなり、昼食は隊員たちと一緒に食堂で取るようになり、勤務が終わると、どこからともなく隊員達がオスカルを誘って食堂で飲み会が始まる。

この頃ではオスカルも高価なワインではなく、西洋しょーちゅーを、するめやチーカマ、エイヒレなどを肴に一緒に飲んだ。しかし、どこから見てもエレガントであった。ジャックも自分を失わない程度に飲めるようになった。酒が足りなくなるとオスカルは小銭を隊員に渡し近所の酒屋に走らせた。

決して10リーブル金貨のような大金は渡さない。

以前、パリで出会った、少女に10リーブル金貨を与えたところ、「こんな大金を持って店に行ってもお釣りをくれる所なんて、あたし達は行かないから、使えないし、盗んだかと思われるわ!もっと、小銭を恵んで下さい!」と文句を言われた記憶が、鮮明に残っていたからである。

今ではオスカルは、隊員たちの収入を知り、その中からパリに住む家族の為に、家賃をどの位払い、食費がどのくらい掛かり、兵士たちの手元に残る金がどんなものかも知っていた。そして、その金額の価値も初めて知った。

恥ずかしいことながら、オスカルは今まで『お金』というものを使ったことが無かった。欲しいものはアンドレに告げれば、数日後に好みの物を商人が持って現れる。その中から気に入ったものを選んでいただけであった。好みの物が無ければオーダーメイドで手に入った。

その物が一体、値段がどうなのかなんて考える必要もなかった。街を歩いて欲しい物があれば、やはりアンドレに告げれば、ジャルジェ家の支払いで何時の間にか済んでいた。そして今も、自身の着ている、この軍服が果たして兵士たちの収入の何か月分か、それとも何年分なのかも知らなかった。

隊員たちを知れば知るほどオスカルは、フランスの今の体制に疑問を持つようになった。しかし、自分は帯剣貴族の一員であり、自分はともかく、子どものジャルジェ家の相続権を取り戻す義務がある事は、忘れていなかった。

そんなオスカルではあるが、心の片隅で小さな蒼い炎が芽生え始めたのを感じていた。それは、オスカルに永遠の愛を誓った男への想いだったが、彼の想いに応えれば自分の現在立っている場所が、不安定なものに変わってしまう。と言う恐れを知って封印するだけの冷静さはまだあった。つきあげる熱いものもなかった・・・。

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By Katy Perry
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