♪In Only Seven Days
ジャルジェ道場では、オスカルを除いては、平和に季節の移ろいに身を任せていた。
ただ、腕の立つもの、我こそは道場主の美しく強いひとり娘を嫁にしよう!という武者たちは稽古に一層励んでいた。
11月になり、気象庁が、木枯らし一号が吹いたと発表した。
朝晩の冷え込みが厳しくなってきた。
それでも、幼なじみで親友の二人は、早朝の修行を怠る事なく続けていた。
それぞれの思いを胸に秘めて・・・・・、
そんな中でも小春日和の気持ちの良い日。
オスカルはイライラと昼過ぎには来ると言っていた、腕試しの武者を待っていた。
もう、かなり日も高くなり、あとはもう落ちていくのを待つばかりの時間になっていた。
今日の、(´~`)モグモグタイムはアンドレが、焼き芋屋のおっちゃんに、丁度3時に道場に来るように頼んでくれたので、ホカホカの焼き芋を、アンドレが入れてくれる美味しいお茶と一緒にたべるのを楽しみにしていたのである。
いつもは、来訪者が来てから、父と一緒に道場の一段上の上座に座るのだが、少しでも時間を短縮するべく、オスカルは道場に向かい自分の位置についた。見渡すと殆どの門弟も集まって、己の場所に陣取って、やはり、イライラと待っていた。
「すみません~道に迷って・・・・・ぜいぜい・・・・・ぜいぜい・・・・・」
汗だくになって、端正な顔をした男が、息を切らして入ってきた。
道場主のレニエも、自室で待ちくたびれていたのか、すぐに現れた。
「北の国から藩の、フェルゼンと申します。
遅れましたこと、心からお詫び申し上げます。」
「確か、・・・・・隣りの藩に昨夜は宿を取って、
朝には出立するので、昼過ぎには到着との、連絡があったが・・・・・」
と、レニエは不満をあらわにした。
すると、『北の国から藩』のフェルゼンは、悪びれもせず、言った。
「はい!朝食後直ぐに出立しましたが、・・・・・道を間違えて、反対側の町に入ってしまい。・・・・・慌てて戻り。・・・・・それから直ぐにこちらの町に入ったのですが、
・・・・・それから、道を間違えて。・・・・・自分が何処にいるのか分からなくなってしまい。・・・・・道行く人に尋ねたのですが、・・・・・それでもなお、明後日の方向に行ってしまい。
・・・・・ついには、焼き芋屋の老人がこちらに向かうというので、
一緒に参った次第であります。(*’▽’)」
オスカルは、思わず顔に手を当てた(あちゃ~)この様なオトコ、大丈夫なのであろうか?人生の長い道さえも迷うのでないか?・・・・・と、思いつつ、悪びれもせず、爽やかに言ってのける、太っ腹さに、感嘆もした。
レニエが口を開いた。
「ふ~む、むむ・・・・・まあ、取り敢えず、腕前を見せてもらおうか、
ウォーミングアップは、・・・・・もう、済んでいるようだな。
うっかり八兵衛!・・・・・・相手をしてみろ!」
道場では、中堅どころと、言ったうっかり八兵衛を指名した。
しかし、八兵衛はあっけなく、敗れてしまった。
では、・・・・・と、熊五郎が立ち上がった。
これは、いい勝負であったが、接戦の上フェルゼンが勝った。
「次は?・・・・・・・・・・」とレニエが門弟たちを見渡していると、
「わたしが、お相手をお願いしたい!」
言った本人も、ビックリしたようだが、道場中がビックリした。
オスカルが、竹刀を持って立ち上がっていたのである。
考えるより先に行動に出たようである。
「よし!では、はじめ!」
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
中々勝負がつかない。・・・・・二人共真剣である。
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!・・・・・オスカルが、思いっ切り打ち込んできた。
「そこまでっ!」
レニエが叫んだ。
オスカルの美しい唇から、ほう~っと安どの息が漏れた。
2人の目と目が合い、お互いの間に何かが行きかった。
道場の末席に控えるアンドレは、相変わらず、ポーカーフェイスであったが、
心の内では言い知れぬ不安が広がっていた。
「フェルゼン、・・・・・道を歩くのは不案内なようだが、剣の筋はなかなかのようだな。
して、これからどうするのだ?聞くところによると、
諸国を漫遊して腕を磨いているようだが、・・・・・」
先ほどとは、打って変わって、道場主のレニエが声を掛けた。
「はい!まだ、行ったことのない国もありますので、
年末の試合まで、周りながら腕を磨いて戻ってきたいと思います。」
レニエとフェルゼンの会話が続く、・・・・・
「そうか、・・・しかし、急ぐ旅でもないようだ。
しばらく、ここに滞在して、それから出かけたら如何か?
諸国の話も聞きたいしな!」
結局、フェルゼンは道場主の客として、一週間滞在する事になった。
その夜は、囲炉裏を囲んでレニエ、フェルゼン、オスカルが、酒を酌み交わしていた。
粗方、諸国の話を聞くとレニエは自室に引き上げていった。
オスカルは、己の藩から出た事が無かったので、フェルゼンの話に夢中になって、相槌を打ち、質問をし、・・・・・2人宴会は終わるという事を知らなかった。
特に、温暖な気候のこの地で生まれたオスカルにとって、フェルゼンの故郷である、『北の国から藩』の話はとても興味深かった。
フェルゼンは、最初の出会いが、・・・・・道に迷って、遅れるという。・・・・・悪かったが、話してみると、誠実で実直、知識も豊富で礼儀正しい、酒をいくら飲んでも乱れる事もなく、アンドレ以外にこんなに夢中になって話せる相手がいたのかと、オスカルは、嬉しくなってしまった。
一週間、オスカルは日課の超早朝の修行をアンドレとして、
道場に帰ると、フェルゼンと稽古に励み、
夜は、また、フェルゼンと酒を酌み交わしながら、語り合った。
あっという間の一週間だった。
フェルゼンが旅立つ早朝、オスカルは、アンドレと共に町はずれまで送っていった。
勿論、無事、次の町に行けるようにである。
町はずれに着くと、
「この一本道を行けば、間違いなく隣町に行ける。」
「オスカル・・・・・有意義な一週間だった。
また、年末に会おう!」
と、言っていつの間にか現れた、『じい』を共に去っていった。
「試合が、待ち遠しいだろう?」アンドレが、やや皮肉を込めて言った。
「ああ、だが、彼は戻ってこないだろう」
と、オスカルは、確信を込めて答えた。
「何故だ?かなり気も合っていたようだが、・・・・・」
アンドレは、少し拍子抜けしたような、ホッとしたような面持ちになった。
「彼は・・・・・彼の運命の相手は、わたしではない!
さあ!走るぞ!」
と、言うと、胴着を脱ぎだした。
アンドレが驚いて見ていると、胴着の下に忍者ハットリくんの衣装を着ていた。袂に入れていた頭巾を被った。そして、脱いだものを忍者ハットリくんと同じ色の風呂敷にくるむと、背中に斜めにかけた。
顔を上げると、ニヤリと口角を上げて笑い、アンドレに木刀を渡し、
「行くぞ!アンドレ!用意はいいか!」と、言って走り出した。
バラ色の忍者ハットリくんが、走り出すとアンドレの周りにバラの残り香が立ち込めた。
それを思いっきり吸い込むと、アンドレも後を追って走り出した。
清々しい朝だった。
------後日談------
年末の試合に、フェルゼンは、オスカルの予想通り現れなかった。
噂によると、訪ねていった『とある藩』の藩主にお目通りをした際、傍らに控えていた奥方に一目ぼれをし、コネを使って『とある藩』に仕官してしまったようである。
そして、人目を忍んで、奥方と逢引きしているようであった。
その後、どうなったかは、しばらくしてからオスカルの元へ届いた手紙で知る事になるが、その話は、ず~~~~~っと、のちの話である。(ホンマかいな?)
BGM The Power Of Good-By
By Madonna
ジャルジェ道場では、オスカルを除いては、平和に季節の移ろいに身を任せていた。
ただ、腕の立つもの、我こそは道場主の美しく強いひとり娘を嫁にしよう!という武者たちは稽古に一層励んでいた。
11月になり、気象庁が、木枯らし一号が吹いたと発表した。
朝晩の冷え込みが厳しくなってきた。
それでも、幼なじみで親友の二人は、早朝の修行を怠る事なく続けていた。
それぞれの思いを胸に秘めて・・・・・、
そんな中でも小春日和の気持ちの良い日。
オスカルはイライラと昼過ぎには来ると言っていた、腕試しの武者を待っていた。
もう、かなり日も高くなり、あとはもう落ちていくのを待つばかりの時間になっていた。
今日の、(´~`)モグモグタイムはアンドレが、焼き芋屋のおっちゃんに、丁度3時に道場に来るように頼んでくれたので、ホカホカの焼き芋を、アンドレが入れてくれる美味しいお茶と一緒にたべるのを楽しみにしていたのである。
いつもは、来訪者が来てから、父と一緒に道場の一段上の上座に座るのだが、少しでも時間を短縮するべく、オスカルは道場に向かい自分の位置についた。見渡すと殆どの門弟も集まって、己の場所に陣取って、やはり、イライラと待っていた。
「すみません~道に迷って・・・・・ぜいぜい・・・・・ぜいぜい・・・・・」
汗だくになって、端正な顔をした男が、息を切らして入ってきた。
道場主のレニエも、自室で待ちくたびれていたのか、すぐに現れた。
「北の国から藩の、フェルゼンと申します。
遅れましたこと、心からお詫び申し上げます。」
「確か、・・・・・隣りの藩に昨夜は宿を取って、
朝には出立するので、昼過ぎには到着との、連絡があったが・・・・・」
と、レニエは不満をあらわにした。
すると、『北の国から藩』のフェルゼンは、悪びれもせず、言った。
「はい!朝食後直ぐに出立しましたが、・・・・・道を間違えて、反対側の町に入ってしまい。・・・・・慌てて戻り。・・・・・それから直ぐにこちらの町に入ったのですが、
・・・・・それから、道を間違えて。・・・・・自分が何処にいるのか分からなくなってしまい。・・・・・道行く人に尋ねたのですが、・・・・・それでもなお、明後日の方向に行ってしまい。
・・・・・ついには、焼き芋屋の老人がこちらに向かうというので、
一緒に参った次第であります。(*’▽’)」
オスカルは、思わず顔に手を当てた(あちゃ~)この様なオトコ、大丈夫なのであろうか?人生の長い道さえも迷うのでないか?・・・・・と、思いつつ、悪びれもせず、爽やかに言ってのける、太っ腹さに、感嘆もした。
レニエが口を開いた。
「ふ~む、むむ・・・・・まあ、取り敢えず、腕前を見せてもらおうか、
ウォーミングアップは、・・・・・もう、済んでいるようだな。
うっかり八兵衛!・・・・・・相手をしてみろ!」
道場では、中堅どころと、言ったうっかり八兵衛を指名した。
しかし、八兵衛はあっけなく、敗れてしまった。
では、・・・・・と、熊五郎が立ち上がった。
これは、いい勝負であったが、接戦の上フェルゼンが勝った。
「次は?・・・・・・・・・・」とレニエが門弟たちを見渡していると、
「わたしが、お相手をお願いしたい!」
言った本人も、ビックリしたようだが、道場中がビックリした。
オスカルが、竹刀を持って立ち上がっていたのである。
考えるより先に行動に出たようである。
「よし!では、はじめ!」
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
中々勝負がつかない。・・・・・二人共真剣である。
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!やあ!とう! えい!やあ!とう!
えい!・・・・・オスカルが、思いっ切り打ち込んできた。
「そこまでっ!」
レニエが叫んだ。
オスカルの美しい唇から、ほう~っと安どの息が漏れた。
2人の目と目が合い、お互いの間に何かが行きかった。
道場の末席に控えるアンドレは、相変わらず、ポーカーフェイスであったが、
心の内では言い知れぬ不安が広がっていた。
「フェルゼン、・・・・・道を歩くのは不案内なようだが、剣の筋はなかなかのようだな。
して、これからどうするのだ?聞くところによると、
諸国を漫遊して腕を磨いているようだが、・・・・・」
先ほどとは、打って変わって、道場主のレニエが声を掛けた。
「はい!まだ、行ったことのない国もありますので、
年末の試合まで、周りながら腕を磨いて戻ってきたいと思います。」
レニエとフェルゼンの会話が続く、・・・・・
「そうか、・・・しかし、急ぐ旅でもないようだ。
しばらく、ここに滞在して、それから出かけたら如何か?
諸国の話も聞きたいしな!」
結局、フェルゼンは道場主の客として、一週間滞在する事になった。
その夜は、囲炉裏を囲んでレニエ、フェルゼン、オスカルが、酒を酌み交わしていた。
粗方、諸国の話を聞くとレニエは自室に引き上げていった。
オスカルは、己の藩から出た事が無かったので、フェルゼンの話に夢中になって、相槌を打ち、質問をし、・・・・・2人宴会は終わるという事を知らなかった。
特に、温暖な気候のこの地で生まれたオスカルにとって、フェルゼンの故郷である、『北の国から藩』の話はとても興味深かった。
フェルゼンは、最初の出会いが、・・・・・道に迷って、遅れるという。・・・・・悪かったが、話してみると、誠実で実直、知識も豊富で礼儀正しい、酒をいくら飲んでも乱れる事もなく、アンドレ以外にこんなに夢中になって話せる相手がいたのかと、オスカルは、嬉しくなってしまった。
一週間、オスカルは日課の超早朝の修行をアンドレとして、
道場に帰ると、フェルゼンと稽古に励み、
夜は、また、フェルゼンと酒を酌み交わしながら、語り合った。
あっという間の一週間だった。
フェルゼンが旅立つ早朝、オスカルは、アンドレと共に町はずれまで送っていった。
勿論、無事、次の町に行けるようにである。
町はずれに着くと、
「この一本道を行けば、間違いなく隣町に行ける。」
「オスカル・・・・・有意義な一週間だった。
また、年末に会おう!」
と、言っていつの間にか現れた、『じい』を共に去っていった。
「試合が、待ち遠しいだろう?」アンドレが、やや皮肉を込めて言った。
「ああ、だが、彼は戻ってこないだろう」
と、オスカルは、確信を込めて答えた。
「何故だ?かなり気も合っていたようだが、・・・・・」
アンドレは、少し拍子抜けしたような、ホッとしたような面持ちになった。
「彼は・・・・・彼の運命の相手は、わたしではない!
さあ!走るぞ!」
と、言うと、胴着を脱ぎだした。
アンドレが驚いて見ていると、胴着の下に忍者ハットリくんの衣装を着ていた。袂に入れていた頭巾を被った。そして、脱いだものを忍者ハットリくんと同じ色の風呂敷にくるむと、背中に斜めにかけた。
顔を上げると、ニヤリと口角を上げて笑い、アンドレに木刀を渡し、
「行くぞ!アンドレ!用意はいいか!」と、言って走り出した。
バラ色の忍者ハットリくんが、走り出すとアンドレの周りにバラの残り香が立ち込めた。
それを思いっきり吸い込むと、アンドレも後を追って走り出した。
清々しい朝だった。
------後日談------
年末の試合に、フェルゼンは、オスカルの予想通り現れなかった。
噂によると、訪ねていった『とある藩』の藩主にお目通りをした際、傍らに控えていた奥方に一目ぼれをし、コネを使って『とある藩』に仕官してしまったようである。
そして、人目を忍んで、奥方と逢引きしているようであった。
その後、どうなったかは、しばらくしてからオスカルの元へ届いた手紙で知る事になるが、その話は、ず~~~~~っと、のちの話である。(ホンマかいな?)
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