A Kind of Magic


そっと屋敷に着くとオスカルは、黙ったまま足早に部屋へと向かった.
アンドレも続く。
オスカルは部屋に入ると扉を閉めず、立ち尽くしアンドレが入ってくるのを待った。

パタンと、アンドレが扉を閉めると始めてオスカルは振り向き、そのままアンドレの胸の中で泣き出した。アンドレはそっとオスカルの背中に手を回した。

どのくらい時間が過ぎただろうか、少しずつ少しずつオスカルの感情が落ち着いてきた。
「どうしても・・・ダメだった・・・」
「うん・・・うん・・・分かっている・・・おまえは・・・おまえには・・・酷な事だ・・・」
「でも・・・でも、わたしは・・・わたしはジャルジェ家の後を継ぐために・・・」
そこまで言うとまた、オスカルはすすり泣き始めた。

アンドレはオスカルの運命を呪った。
「アンドレ・・・アンドレ・・・わたしは・・・」
オスカルがそっと顔をあげると、唇にアンドレの唇が重なってきた。
優しい口づけ。傷ついたオスカルをそっとそっと癒す口づけ。
オスカルもそれをわかって、逃げなかった。

一方でアンドレの心はものすごい勢いで葛藤していた。
本当はもっともっと烈しく、胸の内をぶちまけたいような口づけをしたかった。
でも、彼女を傷つけるようなことはアンドレには、・・・まして今夜は出来なかった。

出来なかったから、そっと触れるだけの子どものような口づけをしていた。

しかし、アンドレのオスカルへの激情は堰を切って流れ始めだした。・・・口づけが激しくなり、・・・背中に回していた手が動き始めると、・・・・・・

アンドレの意識は突然、真っ白に消えてしまった。・・・・・・・・・

   ***************************

どのくらい時間が過ぎたのだろうか・・・ふとアンドレは目を覚ました。
そして!!!自分の胸の中で自分の腕を枕にして、
愛しい女性が何も身に着けず眠っているのを見た!!!!!!!

周囲を見渡してみる、見たことのない、
・・・イヤ、内側からは見たことのない、・・・
オスカルのベッドの周りにある天蓋が見えた。
内側から見るのは初めてだ。アンドレのとは違う大きなベッド。

恐る恐る自分の身体を見てみる。
!!!!!!!!!!!
アンドレは声にならない声をあげる。
「わ~~~~~~~~~~!!!!」何も着ていない。
つまり二人共裸である。

アンドレが動いたので、オスカルが眠たそうに目を開けた。
オスカルはアンドレと目が合うと一瞬微笑んだ
・・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・・・次の瞬間!

「わ~~~~~~~~~~」と叫んで、布団を引っ張ってベッドの端に飛び起きた。

つられて、アンドレも反対側の端に飛んだが、
オスカルが布団を引っ張ったので身を隠す物がない!

慌てて布団を引っ張るとオスカルが
「引っ張るな!見えてしまう!!!」
「おれが丸見えだ!!!」
「では、もう少しそばに寄れ!許可する!!」
と、言った。
アンドレがどうにか下半身が隠れるくらいに(ギリギリの腰布状態である)寄った。


二人の目が再び合う。
「な、な、な、何でおまえがここにいる?」
「わ、わ、わ、わ、分からない!
も、も、も、申し訳ない!オスカル!
ほ、ほ、ほ、本当に何も覚えていないんだ!」

「ほ~お、覚えていないだと?
わたしのベッドに裸でいて、何も覚えていないのか?おまえは?!」

「ほ、ほ、本当なんだ。と、と、と、途中までは覚えている!が、・・・」
「ふ~ん、では覚えていることを話してみろ!」
「や、や、屋敷に戻って、・・・おまえの部屋で、おまえがおれの胸で泣いて、・・・口づけした。・・・そこまでは覚えている。そこから先は真っ白になって、・・・気が付いたのが、・・・今だ」


「ふむ。わたしの記憶と間違いないな!・・・だが、・・・
では、何故わたしたちは裸で・・・
(ここでオスカルは頬を赤らめ)抱き合ってベッドにいたのだ?」

「し、知りたいのは、おれの方だ!オスカル!信じてくれ!決して!決して、妙なことはしていないと、・・・多分、・・・思う。」
アンドレは、最後の方は消え入りそうな声で、告げた。

「くくく、・・・なぜそこで、小さな声になるのだ?!ん?
ふふふふ・・・多分おまえの言うように、何も無かったのだろう。
このような状態で、居たのは不可解だが、・・・

そろそろ、使用人達が起きだす時間だろう。
アンドレ、部屋に戻れ!
それともわたしを起こしに来るばあやと会いたいか?ん?」

「冗談じゃない!おばあちゃんに見つかったら殺されてしまう!」
「ふふふふ・・・話はまたあとだ!」
「分かった。・・・
悪いが服を着るから、少しの間向こうを向いていてくれ!」


オスカルが、布団を胸に当てたまま向こうを向いた。・・・
途端!アンドレは言ったことに後悔と言うか、失敗というか、反省した。・・・

向こうを向けば自然、背中が見えるのであるが、無防備なオスカルは背中を隠していない。真っ白な背中、それに続く細いウエストとヒップがアンドレの目に飛び込んできた。

見とれてしまった。
声にならなかった。
見てしまったことを告げれば、また、大変なことになるだろうと、
アンドレは自分の服を集めて身に付け、そそくさとオスカルの寝室を後にした。

アンドレが出ていくと、オスカルはそっとベッドヘッドに寄りかかった。枕を抱いてもう一度昨夜のことを考え直してみる。フェルゼンの屋敷に行く前にアンドレと少し酒を飲んだが酔うという程ではない。酒を飲んで酔っていたら、酔った勢いでフェルゼンとベッドインしていただろう。それが出来ないで、フェルゼンの部屋を飛び出し、アンドレと帰ってきた。

そして、自分の不甲斐なさと、ジャルジェ家の後継者たる自分の役割を果たせなかった自責の念からと、女であることを呪って・・・アンドレの胸で泣いた。アンドレが優しく抱きしめて、口づけをしてくれた。ああ!わたしには優しい幼なじみがいて良かったなぁ!・・・と、思った途端、頭の中が真っ白になった。そして、・・・

あ~~~~~~~~~~~~~~思い出せない!
オスカル・フランソワ!
どうしたのだ!

頭をかきむしる!

ただでさえくせ毛で、特に寝起きはもの凄いことになるというのに、・・・
今朝は前代未聞!
ロベール司教が大天使ミカエルから三度目の告知を受けた時以上だった。

   ***************************

朝になり、ばあやがそっとオスカルの寝室に入って来た。

確か昨晩は孫のアンドレと飲みに出かけたはずである。

見渡すと案の定、脱ぎ散らかした服が散らかっている。このお嬢さまはお飲みになると、裸でお休みになる癖がおありのようだ。マント、ブラウス、コルセット、キュロット・・・と順番に拾っていくとベッドにたどり着いた。

あれまあ!今日のお嬢さまはあどけない顔で座ってなさる。・・・

こんなお嬢さまに子どもを産め、なんて、誰が決めたんだろうね!幸い、旦那さまはすっかり忘れてしまいなすったようで、殿方をお連れになることもしないし、結婚を進めることもしないのが幸いだけど、・・・お嬢さまは気になされているようで、・・・時たま、憂さ晴らしにアンドレ相手にお酒を飲むようだ。・・・

昨晩もたんと召し上がったに違いない。
ご機嫌はいかがなものだろうか?


ばあやがオスカルを起こそうと、顔を覗き込むと、パチッとオスカルが目を開けた。
「ああ!ばあや、おはよう!」ばあやは飛び上がって驚いた。

「起きていたぞ!少し考え事をしていてウトウトしていた」
「まあ!朝からどんな考え事でしょう~穏やかなお顔をしてらっしゃいましたが、・・・」
「そうだな、う~ん、楽しい事ではないが、・・・不愉快ではない。・・・」

オスカルは起き上がり、ばあやに着替えを手伝わせた。
手伝わせながら
「今日は至急済ませねばならない仕事がある故、朝食は要らないから直ぐに出かける。馬車の支度をするようアンドレに伝えてくれ。」と言った。

続いてジャックの妻のアニェスとアニェスの姑のマルゴがオスカルの爆発した髪と顔の手入れに入って来た。最近稀にみる爆発状態ね。と侍女達は目で会話をする。
オスカルは黙ったまま何事かを考えているように黙ったままされるがままにしていた。

  ***************************

一方、よろよろと自室へと戻ったアンドレは、慣れた自分のベッドに座りやっとホッとした。

そして、もう一度考えてみる。
オスカルが、・・・18歳のうちに後継者を出産しなければならない運命の、・・・オスカルがフェルゼン伯爵のDNAをと望み、おれはその橋渡しをした。フェルゼン伯爵は快く承諾してくれ、昨夜めでたく(おれにとっては目出度くないが、・・・)ベッドインの予定だった。

が・・・控えの間に通された途端、オスカルの足音が聞こえた。伯爵の元から逃げてきたようだ。無理もない、そんな子どもを設けるためだけに、オスカルが、男に身を任せることは出来ない。長年付き合ってきたおれにはわかる。泣き場所を探しているオスカルを連れてジャルジェ家まで帰ってきた。

オスカルの部屋に入って、やっとオスカルはおれの胸の中で泣いた。

・・・おれは、・・・おれは、・・・自分の気持ちを抑えながら耐えた。・・・耐えた。・・・けど、・・・口づけをしているうちに、耐えられなくなってきた。・・・でも、・・・そこで、記憶はなくなってしまった。気が付いたら、オスカルが腕の中にいた。・・・お互い裸で、・・・

おれだって女とは遊んだことは、・・・ないとは言わない。・・・しかし、昨夜オスカルとしてしまったのだろうか?・・・意識がなくても○○出来るものなのか?いや、その前にオスカルが抵抗しそうなものだ!

アンドレは、頭をかきむしった。
こちらも、かなりのくせ毛で、毎朝リボンでまとめるのに苦労しているのだ。・・・今朝は大爆発である。そろそろ、朝の仕事に付かなければならない。

こんがらかった髪と頭の中を抱えて、のろのろと洗濯したてのお仕着せを身に着け、髪を整えて仕事へと向かった。

オスカルが降りていくとアンドレが手際よく支度を整えて待ち構えていた。
馬車に乗ると早速オスカルが口を開いた。
「あれから、記憶をたどってみたのだが、・・・
おまえの言ったこと以外、思い出せん!
おまえの方はどうだ?」

アンドレは、目の前の真っ白な美しい顔を見つめると、・・・今朝のオスカルの美しい背中を思い出してしまい、・・・慌てて打ち消す。あれはそっと思い出そうと心の宝物箱の奥の方へしまった。

アンドレは、出来るだけ神妙な顔をして
「さっき、話した通りだ、あれ以上は思い出せない。
オスカル!覚えていないが、・・・もう一度言う。・・・
おれは、・・・多分、・・・絶対何もしていないと思う。・・・」

「おまえの言うことは信じるぞ!
わたしも、何も無かったと信じている。
多分、・・・星がきれいだったせいだな!・・・
この話はもう止めよう!


今日も一日忙しいぞ!
それから、アンドレ、フェルゼン伯爵に昨夜の詫びを入れておいてくれ。
もう二度とお願いすることは無いとな!ふふふ・・・」
「ああ、分かった。

・・・で、どうするのだ?あの~その~~~~」

「歯切れが悪いぞ、アンドレ、ふふ・・・
う~ん、どうしたものかな。
しかし、何で女は、・・・子どもを身ごもるのに男の手を借りなければならないのだ!?」

「・・・へ!?」

「だって、考えてみろ、アンドレ!出産する時は独りだろう?
だったら作るのも独りでいいじゃないか!
大体女は、男の手を借り過ぎる。周りを見渡しても男に依存して生きている女ばかりだ!

・・・そうか!アンドレ!わたしは男として生きているな!?
それでも、身体は女だ。
男と女の要素を持って生きているわたしなら、独りでも子どもが出来るかもしれない!」

「え゛!」
「今から、念じてみる!おまえも念じてくれ!」

と言って、オスカルは目を閉じてしまった。本当はあれからずっと起きていたので、眠くて寝てしまったのである。

お陰でアンドレは、難解な運命を持った愛しい人の顔をゆっくりと見つめる事ができた。
馬車はゆっくりとヴェルサイユの門の中に、幼なじみで親友の二人を乗せて吸い込まれていった。今日も寒いけど天気は良さそうである。

夜にはまた、きれいな星が瞬くのだろう。

BGM I can’t stop thinking about you
By Sting
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