LET ME LIVE


その後、年末までドタバタとした日が続いた。
4時間ごとのお乳、その合間のおむつ交換、オスカルもおれも、慣れない事に振り回されている。

おばあちゃんが、手伝うから少しはお嬢さまを、休ませるよう助言するが、
オスカルは、出来る限り自分でやる。と言って聞かない。

見ていると、以前は、寝つきが悪かったようだが、今は用が終わると、ことりと寝てしまい、子どもが泣き始める前に、予感がするのか、スッと起きる。母親というものは、こういうものなのか、と感心してしまう。

おれといえば、レヴェーヴァが泣くと、隣の部屋から泡食って飛び出してきて、お乳だとすごすごと戻り、おむつの交換に立会い、汚れたおむつを持ってすごすごと部屋に戻る。・・・

本来ならば、・・・父親ならば、・・・妻の隣に寝て、妻の苦労を労り、新しく生まれた命を喜び合い。・・・もともと、愛し合って出来た子どもではないにせよ、・・・おれがもし、『貴族』の男だったら、・・・もっと何かが、変わっていたのではないかと、この頃考えてしまう。

おれには、オスカルのベッドの端に座る権利もない。唯一、許されているのは、ベッドの横に置かれた椅子に座る事だけだ。所詮、おれは、『幼なじみで親友』と言う立場から、全く変わらない。

そんな、こんなで、年末を過ごし、新年になり、職場復帰となった。

オスカルは、レヴェーヴァを抱いて馬車に乗り込み、続いておれとジャックが、乗り込んだ。
司令官室で、おれがレヴェーヴァを見守り、泣き始めたら、ジャックがオスカルを探し出して、知らせに行く、と言う段取りだ。

その為、ジャックには12月初めから、宮廷作法、会話、宮殿のオスカルが行きそうな所の図面を叩き込んだ。ジャックは、カチンコチンに緊張して、泣きそうな顔をしている。

アントワネットさまは、オスカルが産休の間に、何かお考えになったのか、新年のご挨拶の間終始にこやかで、子育てに支障のないよう、任務を軽減するよう、夜の外出の同行は無用。とその代わり、ジェローデルを副官として付けます。と仰って下さった。

アントワネットさまも、世継ぎの誕生を待たれて、プレッシャーになっていらっしゃるようだ。ただ、オスカルのように年齢制限を設けられていない分、まだ、気軽と言うか、それ故にお辛いのか?・・・女心はおれにはわからない。

それよりも、副官の『ジェローデル』と言うのがすっご~~~~~く気に食わない。
何故だかわからないが、いけ好かない!
前世かなんかで、何かがあったのかもしれない!
ジェローデルなんてすかした名前ではなく、『わかめ』が似合っている。

アントワネットさまのお陰で、オスカルの任務は、かなり軽減された。
とはいえ、走り回っているのには、変わりないし、責任感が強いオスカルの事。あちらこちらに顔を出している。

職場復帰すると、直ぐにふっくらしていた体型は、元のスリムな軍人に戻った。
いや、細くなるとともに、以前では少年のようだったのに、メリハリが出てきて、軍服を来ていてもかなり、・・・かなり、・・・である。

また、ジャックはレヴェーヴァが泣き出すと、部屋を飛び出すが、これまた母親の予感なのか、ジャック目掛けてオスカルが、走って来るらしい。

赤ん坊の成長と言うのは目まぐるしい、毎日違っているような気がする。毎日成長するから、毎日が新鮮で戦場だ。おれの憂鬱も、吹っ飛んでしまう。首が座ってくると、キョロキョロと周りを見渡すようになる。

すると、寝返りをうちはじめ、ベビーベッドから落ちないか、ひやひやさせられる。
今度は、這い這いし始めた。オスカルが、好きなように司令官室の中を動き回らせろ!と、笑いながら言う。

その頃になると、離乳食が進みお乳の時間も間が開いて、オスカルの負担も軽減されてきた。夜もゆっくり休んでいるようだ。

這い這いしているうちは、良かった。
床に物さえ置かなければ、何事も無事だった。

ところが、ある日、立ち上がり始めた・・・オスカルも、旦那さまも、奥さまも、おばあちゃんも大喜びだった。
しかし、それから、おれの苦難は始まった。

司令官室を歩き回り始めると、手に届く範囲のもの全てを投げていく!
重要書類も、・・・
ある時は、オスカルに煎れた熱々のコーヒーが載った紙を、ひっぱったのには、二人して慌てた。

そんな時、オスカルはレヴェ、・・・最近は二人共レヴェと呼ぶようになった。・・・を抱き上げ『めっ!』としかり、お尻をたたく真似をするが、・・・

おれには、この、子どもを『叱る!』という行為も、許されていない。
力をつけたい!強くなりたい!・・・
オスカルの後ろに、控えるのではなく、隣に立ちたい、と願う。

そんなおれの悩みなど知らずに、オスカルは軍務と母親をよくやっていると思う。
昼間は、走り回りレヴェの相手をする暇もないが、屋敷に帰るとたちまち母親の顔になり遊んでやっている。

ある日『ひよこクラブ』のカタログを持って来て、
「アンドレ!これをレヴェに与えてみようと思うのだが、・・・」と言い出した。

見てみると、歩き出した子供用の手押し車で、
装飾に銃だの機関銃や戦車が(そんな物この時代にあるのか!?)付いていて動かすと物騒な音がするらしい。・・・

おれは、カタログをパラパラと見て、カラフルな木製の動かすと、『カタカタ』と、音がする方が、かわいらしくていいのではないかと言ってみた。
オスカルは、・・・しばらく見比べて、・・・
「では、両方買って、レヴェに選ばせよう」ということになった。

おれは、急いで『ひよこクラブ』の店に行き、両方とも抱えて、帰ってきた。

オスカルは、どちらを選ぶか、興味津々である。
おれまで、ワクワクしてきた。

レヴェは、始め、おれのを動かしてみて、にっこりと笑った。
オスカルが、面白くなさそうな顔をする。

少しすると、オスカルのを動かしだした。
ドキューン!バキューン!
と音がすると、「おっ!?」
と、びっくりした顔をして前を見る。自分でも音をまねして、歩き回っている。
オスカルは、嬉しそうだ。

結局、レヴェはどちらも気に入ったようで、気分に合わせて使い分けている。
そんな様子を見て、父親譲りの気の使い方と、おれは喜んだ。

歩き出すと、オスカルは、司令官室の床がフローリングで、転んだら怪我をするのではないかと心配しだした。

「アンドレ!絨毯を敷いてみないか?」
「そうだな。・・・だけど、・・・おまえの部屋の様な、ふさふさのでは、かえって足を取られる。
それに、手押し車を押せなくなる」
「そうか。・・・そこまでは、考えなかった。さすが、わたしのアンドレだ。
業者にサンプルを持って来させてくれ」

そして、オスカルは、レヴェが寝ると持ち帰った書類と格闘している。
それも目の端でレヴェの様子を見ながら。・・・
休みの日は、ほとんど一日中、レヴェと一緒だ。
抱っこして、庭園を散策したり、分かりもしないだろう本を読んで聞かせたり・・・

ある時は余りにも部屋が静かなので、そっと入ったら、レヴェを胸の上にうつ伏せに寝かせて、うたた寝していた。

後で聞いたら「こうすると良く眠るのだ」と言っている。
夜もそうなのか?と、聞いたらほとんどこうやって寝ている。・・・との事。
おれだったら寝返りを打って、落としてしまうだろうな。・・・やっぱり母親はすごい!

気になるのは、子どもが生まれてから、ぐっとオスカルの読書量が、減ったことだ。
それまでは、休みの日は、おれと剣の稽古をするか、書斎に閉じこもり、日がな一日調べ物をしたり、最近の情勢などを研究したり、していたが、最近はかなり遠ざかってしまっている。

反面、おれの方が、社会情勢だの、王室の財政状況だの、パリの様子などを調べることが多くなってきた。

また、オスカルは、ママ友の会にも出席し始めたが、
レヴェを連れて帰る馬車の中、
「どうも、フランス語で会話しているらしいが、フランス語の意味が分からない!」
と、意味の分からない事を言う。

次の会に、おれも出席すると、・・・なるほど、・・・
ご婦人方のおしゃべりの内容は、最近のトレンドのドレス・宝石、そして、亭主の悪口と自慢、使用人の悪口と自慢、そして子どもの自慢。
オスカルの興味が無い話ばかりであった。

オスカルも、レヴェが同じ年頃の子どもと遊べるよう、数回出席したが、耐えられなくなったようで、以降行かなくなった。

卒乳すると、レヴェは子供部屋、おれは、それに隣接する部屋に引っ越した。

レヴェが、3歳になると、オスカルは、子供用のおもちゃの剣を与えた。
それを握って、レヴェは立って、オスカルは床に座って、剣の練習を開始した。
レヴェは、なにがなんだか、わからないが、母親と遊んでもらっているのが嬉しいらしく、すっかり、このおもちゃの剣を気に入ってしまった。

司令官室でも、オスカルが顔を見せると剣を欲しがる。おれも、たまに相手をするが、中々筋がいいような気がする。・・・
やはり、オスカルの子どもだ!

この頃になると、ジャックが夜の子守を変わってくれて、おれも、禁欲生活から解放された。馴染みのバーに行き、酒を飲み、時には女と遊んで帰ってくる。愛しい女が、隣の部屋で寝ているのに、耐えねばならなかった、あの日々は辛かった(爆)。

そんなある日、朝早くから、玄関先でレヴェと剣で遊んでいたら、見慣れない馬車が入ってきた・・・

「よう!アンドレ!その子がうわさのオスカルの子どもか!?」
馬車から顔を出して、微笑むのは、一層磨きのかかった貴族の男。・・・
フェルゼン伯爵だ。

おれはレヴェに、
「オスカルに、お客様ですよ。と、伝えておいで、・・・」と、頼んだ。
レヴェは、
「ママン、おちゃくしゃま。・・・おちゃくひゃま。・・・」
と、言いながら2階に上がっていった。

おれは、馬車を誘導し、フェルゼン伯爵を客間へと案内した。


BGM WHO NEEDS YOU
By John Deacon

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