Crazy Little Thing Called Love


客間に通された、フェルゼン伯爵が待っていると、程なくして、子どもの声とオスカルとみられる優しい母親の声が、聞こえてきた。4年前はあんなに少年ぽかったのに、人は変われば変わるものだな、とフェルゼン伯爵は思った。

扉が勢い良く開いた。・・・
こういうところは変わっていないな。・・・とフェルゼン伯爵は微笑んだ。

「おちゃくひゃま。・・・おちゃくひゃま。・・・」
「ちがうよ、レヴェ、『おきゃくさま』だ。・・・」
と、言いながら、オスカルは来客を見た。

目が細められ、・・・直ぐに満面の笑みに変った。

「フェルゼン!・・・フェルゼンではないか、・・・
すっかり見ちがえた!
すぐにはわからなかったほどだ」

「オスカル、近衛隊の連隊長になったそうだな
おまえのことは、わがスウェーデンでも、うわさが聞かれるほどだ
おそろしく腕の立つ、子持ちの女隊長が、
近衛隊を指揮している。・・・とな」

「子持ちか、・・・あの時は済まなかったな、フェルゼン。・・・」
「いや、構わない。・・・それより、・・・勤務にも子連れだそうだが、・・・

そんなに、可愛いものなのか?・・・」
「ふふふふ、・・・持ってみなければわからないな!この愛しさは、・・・
レヴェーヴァ・カデュウという、よろしくな!

ところで、おまえもどうだ?そろそろ、子どもを持たないか?」
「ああ、実はこんど、フランスに戻ってきたのは、
父上のいいつけで、結婚相手をさがすためだ」

「そうか!それは良かった!
フェルゼン・・・是非、人柄が良くて、教養があって、美人で、・・・」
「おいおい!人の縁談に首を突っ込むのか?」

「いや、おまえの子ども・・・女の子が生まれたら、レヴェの嫁に欲しいと思ってな!」

お茶を持って入って来ていた、アンドレが、そこで口を開いた。
「おくさまが、ランチをご一緒にとおっしゃっておりますが、・・・」
オスカルは、頓着せず、相変わらずレヴェをあやしている。

そんなオスカルを見て、フェルゼンは、
「久しぶりだ、ご馳走になっていこう!」と、応えた。

ランチの間、オスカルは相変わらず、レヴェを抱っこして、皿のものを食べさせたり、母親らしさを見せていた。一方、フェルゼンは、ジャルジェ夫人が同席しているにもかかわらず、オスカルに秋波を送り出した。

オスカルの事となると、目ざといアンドレは嫌な予感がしてきたが、オスカルが全く感じていないので、少しはホッとした。

しかし、以前フランス滞在中も数々の浮名を流していたフェルゼンである、フェルゼンをオスカルの側に近づけない事、オスカルの目が、・・・心が、・・・フェルゼンを見ないように心がけることを誓った。

その後も、ランチに、ディナーにとフェルゼンは、社交辞令で誘われたのに、せっせとやって来るようになった。

ランチタイムは、オスカルは、ほとんどレヴェを伴っているので安心だが、問題はディナーの後である。二人で酒を酌み交わす時間になると、アンドレにレヴェを頼み二人きりになってしまう。

事情を知っているジャックが、レヴェを見ていてくれると、給仕をするふりをして二人が居る部屋に入って話を聞いているのだが、・・・面白くない、・・・フェルゼンは、あからさまにオスカルを口説き、・・・初心なオスカルも、満更でもない様子である。

そして、フェルゼンが、フランスに戻って来て、数日後、今度はヴェルサイユ宮殿で、アントワネットさま主催のフェルゼン歓迎の晩餐会が開かれた。勿論、オスカルも出席した。アンドレも席に就けない貴族たちに混ざって、立って様子を見ていた。

まず、アントワネットさまがフェルゼンに熱のこもった視線を送る。するとフェルゼンも同じような熱い視線を送り、・・・しばらくするとフェルゼンは、反対側に座っているオスカルに微笑みかける。・・・オスカルもグラスを上げて応えた。

アンドレは面白くなかった。実に面白くなかった。自分もフェルゼンのようにオスカルに愛をささやきたかった。幼なじみで親友ではなく、一人の男として、オスカルの前に立ちたかった。

アンドレがそんな事を考えながら、三人から目を離している間に晩餐会はほとんど宴会になり、席を離れる人も出てきた。

オスカルは、・・・と探すと、席にいなかった。フェルゼンも!・・・。
どうやら広間にはいないようである。
アンドレは慌てて庭園へと出ていった。

庭園とは言っても広大である。まして、奥の方に行ったら明かりもほとんどない。

そんなところをいつの間にか、オスカルとフェルゼンは、肩を寄せて歩いていた。
ふと、木々が無い開けた所に出た。

オスカルは、夜空を見上げて、
「フェルゼン、星がきれいだ!」と、なにげなく呟いた。
オスカルが、見上げていた星空が、突然フェルゼンのドアップに変わったと思ったら、唇が重なってきた。オスカルも今度は、逃げなかった。・・・・・・

どのくらい時間が、過ぎたのだろうか、・・・オスカルが気付くと、身に何も付けておらず、フェルゼンの上着をまとって、フェルゼンの裸の胸に抱かれていた。

下は芝生である。オスカルが動いたので、フェルゼンも目を覚ました。
オスカルは嫣然と微笑んだ。フェルゼンも慌てて微笑んだ。

その時、遠くの方から人がやって来る気配を感じた。
「オスカル!服を着ろ!人が来る!」
「分かった!」

身支度を整えると、フェルゼンが、
「別々に行った方が良いな!オスカル!おまえが、先に行け」

オスカルは、うなずくと、一歩フェルゼンの方に寄り口づけをせがんだ。
すかさず、フェルゼンが、優しく口づけるとオスカルは、嬉しそうに背中を見せて去っていった。


アンドレが、あちこち見渡していると、庭園の奥からルンルンと、オスカルが、軽い足取りで、出てきた。

そして、丁度良い間合いを図ったように、フェルゼンも現れた。
こちらは、首を傾げ、傾げ、しながら。・・・

アンドレは、
ものすご~~~~~~~~~~~~く、嫌な気分がした。

すると、フェルゼンの元に、アントワネットさまが走り寄って、
これまた、二人で暗闇に消えていった。

オスカルが、二人分のワインを持って、アンドレのところにやって来た。
「ほら!アンドレ!飲んでるか?そんな難しい顔をして、どうした?」
「おまえこそ!どこに行っていた?!探したぞ!」
「いや、ちょっと、・・・フェルゼンと、・・・」
と、言ったきり、はにかんで、赤くなってうつむいてしまった。

純情な、オスカルの様子を見て
アンドレは、
先ほどのすご~~~~~~~~~~~~く、嫌な気分が、
無限大に最悪な気分になった。

・・・オスカルが、・・・恋に落ちた。・・・淡い恋だった。
・・・でも、・・・オスカル、おまえにフェルゼンは、ちょっと役不足だ。・・・
おまえにはもっと、激しい恋がふさわしい!・・・

フェルゼンは一見、いい男だ、人当たりもいい。・・・だけど、・・・たらしだ!
ほかの女が、どう遊ばれようと関心ない、が・・・おれのオスカルが、遊び相手なら許さない!・・・いや、遊びだろうと、本気だろうと、おれのオスカルに、手を出す奴は、許さない!・・・許したくないが、・・・

おれにはどうすることもできない。・・・無力だ!・・・情けないほどに、無力だ!・・・

一方、フェルゼンは忙しかった。昼間は、アントワネットさまと、庭園を散策するのだが、護衛に、オスカルがピッタリ付いてくる。アントワネットさまに微笑みながら、隙を見て後ろにいるオスカルにも微笑む。そして、更なる隙を見つけては、アントワネットさまを木陰に連れ込んで口づけをかわす。

夜は舞踏会に行き、アントワネットさまと踊り、舞踏会へ出席しない夜は、ジャルジェ家のディナーに勝手に、お呼ばれして、オスカルのベッドに潜り込む。
お泊りになる事も、珍しくない。

そんなある朝、アンドレがフェルゼン家の馬車と、オスカルの馬車を縦列駐車させ、オスカルとレヴェを待っていると、フェルゼンが出てきた。

そして、アンドレを見つけると、その腕を取って隅に連れていった。
「アンドレ!ちょっと聞きたいことがある!
レヴェはおまえの子どもだと聞いた。
そこでだが、・・・ちょっと、・・・聞きにくいことなんだが、・・・」

おれは、不愉快になった。レヴェの事は、オスカルと二人の秘密だと約束したのに、この男に喋ったのか?・・・
女は口が軽いと言うが・・・オスカルに限って、そんな事は無いと、信じていたのに、・・・
そんなにも、この男にメロメロなのか?・・・

目の前のフェルゼンは、中々要点を言わない。

「何でしょうか?フェルゼン伯爵?」
おれは、イラっとしながら、一応丁寧に聞いた。

「・・・おまえ、・・・オスカルと、・・・その、・・・
はっきりと聞くが!アンドレ!おまえオスカルと○○した時、・・・
普通だったか!?」

「・・・え゛!?・・・」
「つまり、・・・意識は、・・・あったか?!」

おれは、フェルゼンが、何を言っているのか、合点が言った。

けれども、しらを切って、このたらしに答えてやった。
「どういう意味でしょうか?」・・・と。

すると、フェルゼンは、「・・・そうか、・・・」と、頭をひねりながら、自分の馬車に乗り込み去っていった。

おれは、確信した。フェルゼンも、あの時記憶が。ぶっ飛んでいるのだ。
オスカル!おまえは、一体なんなのだ!

オスカルが、レヴェと手をつないでやって来て、馬車に乗り込んだ。
すると、聞いてきた。
「アンドレ!わたしは、・・・月のものが、来なくなって、どの位になるか?」
「・・・え゛?・・・」


BGM Born This Way
By Lady Ga Ga

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