Scandal

ヴェルサイユに春がやってきた。

風が心地よい、穏やかな晴れの日。
オスカルは、フェルゼンとヴェルサイユの街で、ランチを共にし、散策を楽しんでいた。

いわゆる、デートである。もちろん、オスカルは男装であるが、
お互い気にせず、腕を組んで、見つめあいながら歩いていた。

フェルゼンは、前もってデートコースを、計画していた。・・・方向音痴だったから。・・・である。
計画したのは、もちろんフェルゼンの『じい』。まさか地図を持ってデートに望むわけにもいかず、前日、頭にルートを叩き込んだ。

お陰で、ランチまでは、良かった。
散策しながら、覗く店は、一般女性が好むような所ではなく、銃砲店・剣やナイフを扱う店がほとんどだった。

オスカルは、普段はお抱えの店の主が、好みのものを屋敷に持参してくるものを、見ていただけなので、店にズラリと並んでいるのを、見るのが楽しかった。

短剣を扱う店では、いつも扱いやすさ重視の上に、貴族らしさ、と言うことで、宝飾品が少し付いているものが多かったが、ここでは、とてもシンプルな使いやすそうなものが、オスカルの興味を引いた。

シュッと鞘から抜いてみる。いい感じである。しかし、オスカルの手には、少し大きかった。見回してみると、同じデザインで、ひと回り小ぶりのものがあった。そちらも手に取る。シュッ!満足げである。

フェルゼンが、良かったらプレゼントしよう!と言ってくれた。
頷いたオスカルは、嬉しそうに、先ほどの大きいのと両方とも、欲しいとねだった。

「そちらのは、お前の手には、大きいだろう?それに何故、2本もいるんだ?」
「一本は、わたしのだ!もう一つは、・・・アンドレにお土産だ。・・・」

フェルゼンは、何故、従僕に、お土産を買ってやるのか、不思議に思ったが、オスカルだから。・・・と納得した。

オスカルは、今日の喜びを、アンドレと分かち合いたくて、・・・アンドレの分も求めた。

それからも、オスカルは、あちらの店、こちらの店と、楽しそうに覗いては、嬉しそうに武器を、手に入れていく。それも全て、アンドレの分も手に入れる。フェルゼンも、頓着せずに、喜んでプレゼントしてくれる。

女性の買い物に付き合って、こんなに楽なことは、初めてだった。
レースや、リボンやら、ドレスの買い物の付き合いは、疲れる。

そんなゆるみが、フェルゼンにあったのだろう・・・
二人は段々と、フェルゼンの頭の中にある地図から、外れた方に行ってしまった。

さらに、オスカルは、路地の奥にあった、おもちゃの店に入っていった。
カタログでは、分からない、楽し気なおもちゃが、所狭しと並んでいる。

オスカルは、レヴェの年頃に合う物と、もう少ししたら使うだろう物を、全て手に取り、自分で試して楽しそうに吟味している。

子供には興味のないフェルゼンは、うんざりしてきた。それに、今でもオスカルの居間は、レヴェのおもちゃで、溢れかえっている。ようやく、オスカルが自分では、必要最小限・・・フェルゼンから見たら、山のように大量のおもちゃを決め、ジャルジェ家へと、届けるよう指示をした。

すると、オスカルが、
「フェルゼン、喉が渇いた。・・・カフェに行こう!」と、言い出した。


店の外に出て、フェルゼンは、真っ青になった。
どこにいるのか、分からないのである。
ここはどこ?わたしは誰?状態である。

周りを見渡してみると、幸い目の前に、こじゃれたカフェがあった。
フェルゼンは、・・・内心ホッとして、・・・オスカルをカフェへとエスコートした。
店内に入ってみると、客層も上流階級の者が多く、一見落ち着いている。

ギャルソンが来て、二人を見ると、店内はざわついていますから、
落ち着いたテラスへ。・・・と案内した。
暖かい日だったので外が気持ちよかった。


ところが、このカフェの選択が悪かった。
一見、落ち着いているのは、噂の二人が入ってきたので、客たちが、一斉におしゃべりを止めて見つめたから、である。・・・

そう、ここは、噂好きの者たちが集まるので、有名なカフェだったのである。

通されたテラスの席も、この店で一番店中から、見ることのできる席であった。
つまり、・・・ギャルソンも、訳知りなのである。

オスカルは、楽しそうにチョコレートケーキと、コーヒーを、フェルゼンは、ビールを注文した。
客たちは、またざわついた。・・・
酒好きのオスカルが、・・・と。・・・

一方、フェルゼンは、待たせてある、フェルゼン家の馬車まで、どうやって帰っていいのか、考え込んでしまった。

そんな彼を見て、オスカルは、
「どうした?フェルゼン、何か心配事か?」と、聞いてきた。
焦ったフェルゼンは、つい、・・・
「いや、スウェーデンの父から、結婚相手は、まだ決まらないか?と催促がうるさくて、・・・」
と、答えてしまった。

オスカルは、ぱあっと顔を輝かせて、
「フェルゼン、わたしと結婚しないか?わたしなら、フリーだ!」

「え゛・・・」逆プロポーズであった。

「だから、わたしなら、今まではジャルジェ家を、継がなければならなかったが、
今では、レヴェがいる。
スウェーデンに行く事に、何の差しさわりもないぞ!

それにこんなに、・・・愛し合っているし、・・・(真っ赤)・・・趣味も話も楽しいし、・・・
良い夫婦になって、楽しく暮らせると思うぞ!」


フェルゼンは、呆然としてしまった。彼も、オスカルとの、結婚を考えた事はある。しかしながら、オスカルは一見落ち着いていて、冷静に見えるが、実はかなり独占欲が強い。・・・愛人など、持っている事を知られたら、銃口を向けられてしまう。フェルゼンは、女好きを直すつもりは、なかった。

そんな事を、考えていると・・・
オスカルが、また、嬉しそうに、照れくさそうに話を続けてきた。・・・
「・・・それに、どうやら、おまえの子を身ごもったようだ。・・・」
と、言って、愛しそうに腹をさすった。・・・

カフェの中が、し~~~~~~~~んとした。

そして、客たちは、目を見かわして、頷いた。
今日一番の、大スクープを、手に入れた人々は、早速、触れ回りたくなり、うずうずしだした。


フェルゼンは、・・・兎に角、一生の事なので、少し考えさせてくれ。・・・とか、なんとか言って、純情な、オスカルを、はぐらかした。

カフェを出ると、右手に行こうとするフェルゼンを、オスカルが、見事に誘導して、フェルゼン家の馬車まで導いた。馬車に乗り込み、フェルゼンはやっとホッとした。

一方、カフェの客たちは、直ちに蜘蛛の子を散らすように、飛び出し、
ギャルソンのポケットの中は、いつもよりかなり多めのチップで、膨らんでいた。

「今夜は、どう過ごすのだ?」オスカルが聞いてきた。
「ああ、○○侯爵家の舞踏会に、行く予定だ。
おまえは、どうするのだ?オスカル?」

「うん、舞踏会は、あまり好きではないし、・・・
酒も飲めないから、・・・今夜は、子供と一緒に過ごそうと思う」
馬車は、ジャルジェ家へと、それぞれの思惑を乗せて、向かっていった。

屋敷に戻ると、オスカルは楽しそうにレヴェの居る居間へと、真っ直ぐに向かった。
思っていた通り、アンドレが、おもちゃの箱を開けて、レヴェが嬉しそうに受け取っている。
オスカルは、その光景を見るだけで、幸せになった。

それに、昼間は愛する男性と、デートして逆プロポーズも、してきたし、
お腹には、その愛する人の子が育っている。

オスカルの未来は、バラ色に輝いていた。

戸口に立つオスカルに気付いて、アンドレが声をかけた。・・・
「おかえり~オスカル!デートはどうだったか?」
と、ホントは、聞きたくないけど、一応聞いてみた。

すると、オスカルは、幸せいっぱいの笑顔で、今日あったことを全て、逐一漏らさず、アンドレに話し始めた。

オスカルとしては、幼いころからの習慣。・・・つまり、・・・ほんの少しでも、お互いに離れていた時間の出来事を、報告しあっていた頃と同じで、・・・自分が、楽しい時間を過ごしたことは、アンドレにとっても、楽しいことに違いない!と、思っていた。

アンドレの気持ちを考えると、残酷であるが、・・・ランチを食べた事、それから銃砲店に行ったこと。・・・おまえにもお土産があるぞ!・・・フェルゼンが、買ってくれたものなど欲しくない!・・・おもちゃ屋に寄って、・・・

アンドレは、「ふん、ふん・・・」と、あまり面白くなさそうな、返事をしていたが、オスカルは、全く意に介せず、・・・アンドレが、包みを開け、それを、オスカルが受け取って、それからレヴェに渡す。という作業を、繰り返しながら話していた。

「・・・で、喉が渇いたから、そばのカフェに入って、・・・」
と、オスカルが言った時、
アンドレが始めて関心を寄せた。

「何処のカフェだって?」

「だから、・・・おもちゃ屋の向かいの、こじゃれた、テラスがある。・・・」
アンドレが、もう少し詳しく、内装だの、ギャルソンの制服を聞いた。・・・

オスカルは、・・・フェルゼンしか見えていなかったから、記憶が曖昧だったが、・・・それだけでも十分だった。

アンドレは、真っ青になった。
よりによって、あのカフェに入るなんて!・・・
フェルゼン伯爵!・・・あなたは、一体、何をしているのですか!?・・・

アンドレの包みを開ける手は、止まっている。・・・
更に、アンドレは、カフェでの様子を聞き始めた。

うわの空で聞いていた、アンドレが、やっと興味を持ってくれた嬉しさに、オスカルは、喜んで、一言一句漏らさず、話し始めた。

そして、妊娠を告げた時の話になると、オスカルが、いつも、お腹の子どもの事を話す時の癖である、・・・お腹を愛おしそうにさわる。・・・をした。

今度はもう、アンドレは、床に頭を打ち付けたくなる位の、衝撃を受けた。

明日には、・・・いや、今夜中に、・・・いや、もう、噂はヴェルサイユ中に、広まっているだろう。・・・今宵の舞踏会、・・・アントワネットさまが、ご出席なさらないのが、幸いだ。・・・と、アンドレはホッとした、が、・・・予定とは変わるもの、なのである事を、アンドレは忘れていた。・・・

レヴェが、一向に開かれない、次の戦利品を待って、
「おもちゃ、・・・ママン、・・・アンドレ、・・・おもちゃ!・・・」と、せがむ。

話に夢中になっていた、オスカルとアンドレが、レヴェと部屋を、見渡してみると、・・・
いつの間にか部屋中、ソファの上も、テーブルの上も、おもちゃだらけに、なっていた。
足の踏み場もない、とは、この事である。


そこへ、晩餐の時間を告げに、ばあやが入ってきた。
部屋中に広がった、おもちゃを見て、
「まあ!お嬢さま!子どもにモノをあげすぎると、
集中力がなくなったり、飽きっぽくなる。と、
仰っていたのは、どなたでしたっけ!?」と、悲鳴を上げた。


BGM One Fine Day
By Sting
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