男が2人、オスカル達が暮らす、アパルトマンの門に立って、中を覗いていた。
「こんな所に、いる訳がない」
「だが、徹底的に捜査しろとの、命令だ」

男2人は、憲兵だった。
国王一家が、姿を消してから、かなりたった今でも、捜索を続けている。

「とにかく、入ってみよう」
「ただの、庶民の家じゃないか・・・」1人が、面倒くさそうに言った。
彼は、このつまらない捜索にほとほと嫌気がさしていた。

使命感に燃えるもう1人が、
「おい、全ての家に、馬車庫が、あるぞ!
結構、裕福なところみたいだぞ!」

ある家の、馬車庫に近寄って行った。
しかし、馬車は長い間使われておらず、あちらこちらにホコリがたまっていた。

使命感に燃えるのが、一軒一軒調べていった。
遂に、グランディエ家の馬車庫にたどり着いた。

「デカい馬車だな!」かったるい男も、驚いた。
後ろに廻ってみた。車輪が、錆びついていた。
しかも、外れかけている物もあった。
(陛下のお遊びだった)

そこに、アンドレが帰って来た。
憲兵の制服を見ると、少し緊張したが、得意のポーカーフェイスに変身した。

「どうなさったのですか?此処は、わたしの家ですが・・・。
この馬車に何か、問題でもあるのでしょうか?」

熱心なのが、威丈高に聞いた。
「どうして、この様な大きな馬車が、有るのだ?
何に使うのだ?」

アンドレは、至って平静に、
「こちらに、越してくるときに使いました。
アラスからでしたので、荷物が多かったのです。

その後、処分しようとしたのですが、
大きすぎて、どうしたらいいのか、困っているのです。

どうしたらいいのでしょうか?」
反対に、尋ねてみた。

「工業用廃棄物として、出せばいいのではないか?」
「ああ、それも考えましたが、これを、持っていく、馬車をこの中に入れるほど、この中は、広くないのです。それに、賃料が半端ではなく、我が家では、そのような余裕が無くて、このままになっています」

「それもそうだな・・・。」熱心なのも、同意した。そして、アンドレを上から下まで見た。幸い、アンドレは、今日もハローワークに行っていたので、ラフな服装だった。

「解体しては、どうだ?」どうでもいいのが、一応口を挟んだ。
「どうやって、解体するのですか?
鍛冶屋に持っていく事も出来ません。
もしかして、鍛冶屋に来てもらう事が出来るのでしょうか?」
アンドレは、至極真面目に聞いた。
(陛下の解体が遅々として進んでいないのを、感謝した。)

熱心なのが、
「鍛冶屋は、それなりの道具が無ければ、仕事にならん。
出張作業は無理だな」

その時、アンドレは後ろの玄関ドアが開く気配を感じた。
オスカルが出て来ようとしたのを、後ろに回していた手で、入っていろと、合図した。
2人の憲兵は、全く気付いていなかった。

「まあ、錆びてボロボロになるのを待つんだな。
邪魔したな」熱心なのが、そう告げると、次の家へと向かった。

アンドレは玄関に入り、しばらくしてから、ふ~~~っと、息を吐いた。
「さすが、だな。あれだけの、事をスラスラ言えるとは・・・。」
ドア越しに聞いていたオスカルが、感心して言う。

着替えてくる・・・。アンドレは、消えた。
その間に、オスカルは今夜のメニューの食材を冷蔵庫から出した。

アンドレは、戻って来ると、冷蔵庫から缶ビールを出した。
プシュッと音を立てて開けて、プハーッとすると、やっと一息ついた様だった。

テーブルの上に、どっさりと乗っている、食料を見てアンドレが言った。
「相変わらず、すごい量だな!これ全部、この家の者の、胃袋に入るのだな?」
「当たり前だ!9人分だ。陛下がものすごく召し上がるのだ。最近わたしは、一日中料理している気がする。わたしにも、プハーッさせてくれ!」

「そうか・・・。手伝うよ。で、フランソワは、何を食べるのだ?」

「あゝ、助かる。今日は、ハンバーグと里芋の煮っ転がし、ほうれん草のお浸しにサラダだ。フランソワは、柔らかいものならもう食べられる」

オスカルが、アンドレに指示した。
「冷凍庫のタッパーに入っている玉ねぎのみじん切りを炒めてくれ!
玉ねぎは、そこの中華鍋で炒めるのだが、少しずつでないと、痛い目にあうからな!」

「了解!
ん?なんで、わかれて入ってるんだ?」

「その時々の量に合わせて、使えるし、ある程度の量にしておかないと、使いづらいのだ」

しかし、アンドレは面倒くさかったので、中華鍋にオリーブオイルをタップリと入れると、全部入れてしまった。
すると・・・。

「わー!
玉ねぎのハッシュドポテトに、なってしまった!おい!オスカルどうしたらいいんだ?」
「バカ!だから言っただろう!無事なのを救済しろ!焦げたのは、おまえのに使ってやる」

「ふう!ところで、前から聞きたかったんだが、金はどうしているんだ?
おれは、無職だし、それまでも、おれの給料だけではやっていけていたはずがない」

オスカルは、いつか聞かれるだろうと、思っていた。しかし、まだ、アンドレに告げる事は出来なかった。夫婦間で、内緒事を持ちたくなかったが、この場合は仕方がなかった。それで・・・。

「ある所から、送られてくる。名前は『M.B』または『J.B』とだけ、書いてある。」
それだけ告げた。それでは、アンドレが納得するとは思えなかったけど・・・。

「相手は、2人か・・・。信用できるのか?」
「信用するしかない。それに、2人は、情報を共有しているようで、これまでのやり取りも全て覚えている。それでも、始めは、眉唾物だったが、今ではかなりの確率で、信用している」


「まさか、郵便屋さんが現金書留で持って来て、グランディエって長ったらしい、判子を押すんじゃ無いだろうな?」

「あ!それ良いな〜そうなんだ!」
「ふざけるな!」
「伝書鳩が、持ってくるんだ」
「良い加減にしないと、玉ねぎを綺麗な目にこすりつけてやるぞ!」

「分かった、分かった。
レヴェだ。あいつが、毎月持ってくる。手紙と一緒に・・・」

「レヴェも関わっているのか・・・。
おまえは、本名なのか?」
「まさか、『OA』と、名乗っている」

「なんだそれ?
ふーん。で、フランス語なのか?
届いた手紙は、如何しているのだ?」

「フランス語で書いて、フランス語でくる。
但し、途中で、レヴェが言語を変えている可能性もある。パワーアップしたそうだ。手紙は全て燃やしている」

「え゛・・・だから、寝室の暖炉の火がチロチロと、燃えているのか?
暑くて眠れないんだぞ!
で、フランス語か・・・フランス語圏って事か・・・?」

「悪かった。今夜から氷枕を用意する。(暖炉の火を消すつもりはなかった)
フランス語だからと言って、フランス語圏って事はないぞ!
わたしだって、何か国語も出来る。」

「ふん!それから、陛下達の、着るもの、その他諸々は、如何しているのだ?
やはり、レヴェか?」

「あゝ、それは、クロネコヤマトの宅急便だ。
なんて言ったら・・・あ!怒っている?」

「当たり前だ!」

「金を持ってくる合間に、やって来る。手紙がある時もあれば、なにもない時もある。
急ぎの返事が必要な時は待たせて書いている」

「ヴィーは?」

「最近は見かけないのだ。
何かしていると思うのだが・・・レヴェに聞いても、話してくれない」

「ジャルジェ准将の、作戦か・・・。まあいい、おれは一兵卒として、行動する」
アンドレは、昔からのオスカルの言葉を信じ、待つ事にした。

アンドレは、今度は玉ねぎを少しずつ炒めながら聞いた。
「それと、この山の様な食材。どうやって手に入れているのだ?こんなに買って怪しまれないか?」

「そうなのだ。今日も肉屋で、合挽きを、2キロ買ったのに、なにも言われなかった。」
「野菜は?こんなに、いくらおまえでも、持てないだろう?」

「生協を使っている」
「それで、あの業務用の、冷蔵庫と冷凍庫が、必要なのか・・・。」

「そうなんだ。それに、そんなに買っても、全く怪しまれない。不思議なんだ。お陰で、食料は、調達出来ているが、わたしは、朝から晩まで、料理に追われてる。子ども達の勉強も見ないと怪しまれるから、やっている。だから贅沢を言えば、プライベートな時間が欲しい」

アンドレが、炒め終わった玉ねぎを、ボールに移しながら言った。
「ふん!プライベートな時間も、これからの作戦を練っているんだろう?」
「ばれたか?

あ!その炒めた、玉ねぎ。粗熱を取りたいから、冷凍庫に入れちまってくれ!」
「え゛・・・こんなに熱いの入れたら、壊れてしまわないか?」
「いいんだ!そんなに長く、使わないから・・・。」
「そう言う事か・・・。」

アンドレは、ハローワークに提出した書類を回収しようかと、思った。
まあ、一応提出しただけで、本当は、情報集めにパリ市内をウロウロしている。
多分、オスカルは気づいているんだろうな・・・と、アンドレは思っていた。

「明日から少し早く帰って来て、料理を、手伝おうか?
少しは、知識がある。但し、金にならない程度にな!」

「助かるが、おまえには、就活がある。疲れているのに・・・。」
オスカルも、アンドレがパリを探索している事を、知っていたが、黙っていた。
軍にいる時も、アンドレが密かに動いてくれて、かなりの情報を集めていたのを知っていた。
「お互い様さ!それに、こうして、話もできる。良い事じゃないか?」

2人の唇が、そっと触れ合った。

つづく



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