オスカルが、名付けた『アリエノールのお色直しのドレス』の箱を残して、荷物を運び終わった。
フランソワ達は、隊に戻ると消えてしまった。

この下宿屋では、ランチの提供が無いので、みんなでカフェに行く事にした。アランも、アラスでの話を聞きたいと・・・オスカルといられる・・・と喜んで、ご一緒する事にした。

オスカルは、アランも行くと聞いて、是非、おまえの一生分の片思いの話を聞かせてくれ!と肩を抱いた。

それを聞いた途端、アランは逃げるように、やはり隊で食べる。大声で叫んでとんずらした。

オスカルは、変なヤツ。そう思うと同時に、ケツが青いと、そんなにも、深刻に想うのかと、驚いた。それでは、今度2人で呑みながら、ゆっくり聞いてやろう、そう決意した。

ル・プロコープに行ってみようかと、話も出た。しかし、子ども連れで、着いたばかりで疲れているようなので、近くのレ・デュ・ムーランに行く事にした。

子ども達は、一人前を平らげる事が出来ないので、アンドレ一家が、2人分。ジェルメーヌが一人分。計、3プレート、ランチをたのもうとした。

プチ・アンドレが、ぼく一人分食べられる。と言い出したので、一人分では、足りないアンドレが引き受ける事にして、4プレートオーダーした。

注文を取りに来た、ムッシューが、デザートに『アメリのクレームブリュレ』は、如何ですか?こちらにいらっしゃるお客様は、皆さんこれが目当てでいらっしゃるようです。

商売上手だった。アラスで、ろくなものを食べていなかった、大人3人は、勿論とオーダーに加えた。

クレームブリュレを食べ終わると、ジェルメーヌが、立ち上がった。
「さて、私は、そろそろ行動に移すわ」

オスカルは、今日でなくてもいいじゃないかと、思い聞いた。
「どうするのだ?」
「それを探す為に、街に出るのよ」
意気揚々とジェルメーヌは、出て行った。

我々は、どうするのだ?
どちらともなく、言った。

おれは、明日から仕事探しだ。
しばらく、山谷に行ってみようと思っている。

オスカルは、クレームブリュレの表面を軽く叩いていたのを、ボコンと思いっ切り叩いてしまって、夫を睨んだ。
「山谷・・・日雇い労働者が、集まるところか?
なんでまた、おまえなら、何処にでも、正規雇用で入れるだろう。

それに、そんな急いで働く必要ないじゃないか。
金ならたんまりと、持っているだろう?」
何でそんな事を、夫が言うのか分からなかった。

アンドレは、頭をかきかき、
「金を使う習慣が、ないのだ。
だから、金が貯まった。
それに、自分で稼いで、妻子を養いたい。

それにな。
おれは、お屋敷の仕事を器用になんでもこなしてきた。
だが、どれも、極めていない。
つまり、金になる程、即戦力はないんだ。

だから、しばらく色々な仕事をして、世間の相場というものを知りたい。
その上で、おれに合った仕事で、それなりの賃金を払うところで働く」

その後、アンドレは、道路工事・ルーブルの警備員・バトー・パリジャンの船長・凱旋門のチケット売り場・メトロの清掃員・エッフェル塔のエレベーターボーイと数々の仕事をこなしていった。

そして、カフェのムッシュー・・・これがやはり、一番合っていたが、賃金が安く、チップは入るものの、その日によってまちまちなので、安定した収入にはなりそうもなかった。

その後行ったのが、ロンシャン競馬場の警備員だった。これも良かったが、通勤するのに遠すぎるのと、ナイターがある為、オスカルに反対された。

ある日、プレシ工務店に行く事になった。
工務店と言えば聞こえがいいが、蓋を開ければ、大工であり、石工だった。

これが、数日続けた時、棟梁からヘッドハンティングされた。
オスカルも、アンドレがアニばらで、大工の息子と偽っていたから、大賛成だった。

だが、アンドレに与えられた仕事は、経理兼、見積もり兼、図面作成兼、そして、現場監理だった。現場監理以外は、事務所での仕事だった。

自分に向いていると、アンドレは、喜んだ。ついでに、事務所がモンパルナスなのも、良かった。上品なので・・・。

しかし、アランの下宿からは、遠かった。
こうして、アンドレの就活は終わった。

一方のオスカルは、

わたしは、しばらく、子供達を連れて、パリの街を歩こうと思う。何度も来ているが、ショセダンタンとオペラ座しか知らない。それも、馬車だから、何処にあるのかも分かっていない。

それを聞いたアンドレは、首をかしげて、聞いた。
「それだけではないだろう?」

やられたか・・・と、最近のオスカルとしては珍しく真面目に答えた。
「お見通しか・・・。
売家か貸家がないか、探そうと思っている」

意外な答えが返って来て、アンドレはクレームブリュレを味わいもせずに飲み込んで、むせた。
「あの下宿屋じゃダメか?
なんで家に住まなければならないのだ?
アランの下宿屋で、いいじゃないか?」

すると、オスカルは、今度は、恋人の顔に戻って、拗ねてみせた。
「だって、あそこでは、子どもが見ているから、口づけはおろか、ハグも出来ない」
熱い瞳で見つめられて、アンドレはクレームブリュレどころではなくなっていた。

「そんな事、ここはジャポンではない、ヨーロッパだ。
口づけもハグも、通りの真ん中でだって出来るさ。何を、言ってるんだ!」

アンドレの言葉に、アンドレ以上に焦ったのはオスカルだった。
え゛・・・ジャポンでは、そうだったのか・・・。マジで忘れかけている。
まだ、ジャポンに居た。という記憶があるだけ、マシなのか・・・。

オスカルの中では、ジャポンでの記憶がますます薄れてきていた。

だが、そんな事で怯んでいるオスカルではなかった。
「わたし達2人ならイイ。だが、子供達には良い環境とは、思えない。

第一食事があれでは、栄養失調になってしまう。
今でも、細くて、小さい。
それに、子ども達には、友達も必要だ。ここでは、そのチャンスがなさそうだ。

家が決まるまでは、三食カフェか、レストランで、過ごす予定だ。
夜は、おまえと時間が合えば一緒に食べたいな」

准将の顔から、母親の顔になって、これまた父親である夫に訴えた。

すると、今度は恋人の顔に変わった。
目まぐるしく変わる、オスカルの表情にアンドレは、目が回りそうだった。

「だって・・・ご無沙汰だって、言っていたじゃないか・・・」と、小さな声で言う。
その言葉に、アンドレは、クラクラになって、間違えてアリエノールのクレームブリュレの表面をぶっ叩いてしまった。

アリエノールは、表面を、トントンとするのが、習わしなのを知らなかったので、何事も起こらなかった

「パパ、眠いよ~~~」
長い道のりを馬車に揺られて、その上、この一年間食べた事が無かったほどのランチをして、アリエノールは、眠れる森の美女になっていた。

兄として、頑張っていたプチ・アンドレも、ウトウトしている。
オスカルとアンドレは、カフェを後に、モンマルトルの丘を昇って行った。

  *******************

翌日から、オスカルは2人の子どもを連れて、パリ散策を楽しんだ。
アランに頼んでおいた、パリ観光マップを手に、旅行者向けのポイントを歩いた。

先ずは、近場のサクレクール寺院、トラムに乗って、アリエノールは、大はしゃぎだった。通りに出て、今夜は、ムーランルージュ、アンドレと過ごそうか・・・そう思ったが、お子さま入場禁止だった。

では、クレージーホースは、もっとダメか・・・。
ちょいと、がっかりしたオスカルであった。

足を延ばして、モンパルナスにも行ってみた。
懐かしい、陸軍士官学校があった。
あの頃の教官は・・・。いないだろうな。時代が変わっている。

シャン・ドュ・マルス公園では、プチ・アンドレもアリエノールも、走り回っていた。アラスでも、広い緑は広がっていたが、畑ばかりで入る事は出来なかった。この日、オスカルはピクニックをしようと、ブーランジェリーでバスケットいっぱい買ってきていた。

芝生の上で食べるランチ、何もかも初めての子ども達は、いつもよりずっと食欲があって、オスカルを喜ばせた。ただ、オスカルには、ここにアンドレがいてくれたらもっと、楽しい時間を過ごせたと思った。

プチ・アンドレは、サンドイッチを咥えたまま、エッフェル塔をスケッチしだした。鉄の骨組みをキッチリと描いていく。オスカルが、感心して、着色はしないのか?キャンバスもアラスから、持って来ただろう?不思議に思い聞いた。

すると、プチ・アンドレは、母さん、もうすぐ引っ越すのだろう。絵具が乾かないうちに、荷造りされたら大変な事になる。今は、スケッチだけだ・・・。至極生意気な事を言って、オスカルを驚かせた。

もともと、絵画には造詣の深くないオスカルは、頷くしかなかった。

ランチが済むと、目の前にそびえ立つエッフェル塔を、征服だ。
プチ・アンドレもアリエノールも後ろにひっくり返るほど、見上げて、早く昇ろうとオスカルを急かした。

また、三人ともおのぼりさんだったので、次は凱旋門だ!
階段で昇ろう!プチ・アンドレが、言い出し、先頭を切って昇って行った。が、オスカルの予想通り、アリエノールが、挫折した。

オスカルは、サン・ドニにも行った。ルイ・ジョゼフ殿下が、確か埋葬されているはずである。不思議な事に、アリエノールも怖がらずに、ついてきた。持って来た花を手向け、祈りをささげる母親を、2人の子どもは静かに見守っていた。

1-2週間も歩き回ると、パリの殆どを征服した。
しかし、オスカルの目的地には、達していなかった。

ある夜、3人が寝静まったのを確認するとオスカルは、廊下に出た。
そして、オスカルにしては珍しく静かな声でささやいた。
「レヴェ、ヴィー・・・いるんだろう?
頼みがあるのだが・・・。」

すると、子どもの声がした。
「ママン・・・大丈夫、今作っているよ。
明日の朝には、ママンの枕元に置いておくから、安心して!」
レヴェだった。

しかし、オスカルは、
「それでは、アンドレに見つかってしまう。
他に方法はないのか?」

今度は、もっと幼い声が聞こえてきた。
「ぼくたちの事、みくびってない?
それはね、ママンにしか見えないから、
絶対にだれにも見つからないから心配しないで!

アリエノールちゃんにも、プチ・アンドレにも、見えないんだよ。
でもね、アンジュちゃんは、気が付くかもしれない・・・けど、おしゃべり出来ないから、大丈夫だと思う。

じゃあ、ぼく達、仕事にかかるから、安心して寝てね!」
ヴィーが、少し大人びた雰囲気で言った。
廊下が、シーンと静まり返った。
オスカルは、満足してベッドに戻った。

翌日、オスカルは、シャンゼリゼ大通りを真っ直ぐに歩いた。時折、アリエノールが、店に寄り、男の子向けの雑貨屋さんがあると、プチ・アンドレが、走り寄って行った。
ランチは、奮発して、ラデュレで取った。

先日上った、凱旋門まで行くと、通りを渡って反対側の道を歩き出した。子ども達は、今度は、モノ・プリに寄って、隅から隅まで丹念に物色した。

シャンゼリゼ大通りの賑わいが無くなってきた辺りで、オスカルは左に曲がった。
マティニヨン通りである。
それまで、ニコニコしていた、オスカルの顔が引き締まって来た。
しばらく行くと、瀟洒な建物があった。

すると、アリエノールが、ママン、アンジュちゃんが、頭がクルクル回る~って言ってるの。ここは、イヤヨ。オスカルは、成程な。そう言いながら、先を急いだ。

オスカルは、もう地図を見ていなかった。この辺りは、もうパリ市内を外れていて、地図には載っていなかった。他の者が見たら、おのぼりさんが、迷いながら散策しているように見えた。

だが、オスカルは、左の手のひらの中に昨夜レヴェとヴィーに頼んだものを、そっと握りしめていた。

右に左へと、レヴェとヴィー製作のガラスの球体に導かれるまま、巨大な建物の前に来た。

オスカルが、見上げた。するとまた、アリエノールが、ママン、アンジュちゃんが、寒いって言っているの。ここは、イヤヨ。オスカルは、フッと笑って、その場を去った。

それから今度は、球体が反応しないので、パリ市外を適当に歩いた。確か、アランがパリ市内を外れると、相場が安い、と言っていたな。そう思い、あちらこちらと歩き回った。オスカルは、住むための、売家、若しくは、貸家を探していた。

お人形を大切そうに抱いて、スキップしていたアリエノールが、急に止まって振り向いた。
「ママン!ここ、お花がキレイよ~入ってもいい?」

プチ・アンドレも、ほ~~っと眺めていた。
オスカルの手の中の、ガラス玉もホワンと温かくなっている。

オスカルは、子ども達に中に入って、遊んでいろ!
声を掛けると、建物の周囲を歩き始めた。

どうやら、中庭のある共同住宅のようだった。端から端まで歩いて、今度は建物を背に、周囲を眺めた。何かを納得すると、子ども達のいる中庭に入って行った。

円を描くように、石畳になっている。幅からして、馬車が通る為の様だ。という事は、中流階級の者の、アパートメントか・・・。
オスカルは、これまで、パリを歩き回った経験から判断した。

馬車用の道の内側は、色とりどりの花が植えられていて、この時期はもう、すすきの季節となっていた。
また、それぞれの家の前は、芝生になっていた。

その芝生を使ってそれぞれのアパートメントの横に、馬車庫に馬車と馬を入れるようになっているようだ。
オスカルは、これを見て又、頷いた。

さらに奥に行ってみた。
そこに、『貸室』の看板を見つけた。
ここを見てみよう。

オスカルが、促すと、プチ・アンドレが、走り出した。するとまた、アリエノールが、アンジュちゃんが、『怖い』って言ってるの・・・。ここには、アリエノールちゃん、入らない。と、また言い出した。
オスカルの、手の中のガラス玉も冷たく感じられた。

「プチ、ここは、止めておこう。
もう少し行ってみよう!」
声を掛けた。

すると、プチ・アンドレが、頬を膨らませて、
「なんで、父さんも母さんも、最近ぼくの事、『プチ』って、呼ぶのさ!
ちゃんと、『アンドレ』って呼んでって言ったじゃないか!」

オスカルが、笑いながら反論した。
「だって、『プチ・アンドレ』なんて、長くて呼びにくい。
おまえは、小さいから、『プチ』で、十分だ!」

すると、アリエノールも頷いて、
「うん、うん、プチ兄ちゃんが呼びやすいよ!」

プチことプチ・アンドレは、
「ねえ、父さんは、いつから『アンドレ』って呼ばれていたの?」
もっともらしい問いをしてきた。

「アンドレは、おまえくらいの時から、ヴェルサイユに一人で来ていたから、始めから『アンドレ』だ。他には、アンドレはいなかったからな」
オスカルの答えに、プチは、そんなのズルイや!
口を尖らせてしまった。

しばらく行くと、コーナーに先ほどの貸家より、かなりみすぼらしく、朽ち果てた部屋があった。やはり、芝生に『貸家』の看板が立っていた。

掌のガラス玉がホワンと温かかった。オスカルは、入ってみようか?
声を掛けると、先ほどまで、ふてくされていたプチが、率先して、ドアに向かって走り寄った。

プチが、ドアを開けようとノブに手をかけた途端、ドアが音を立てて、倒れた。
辺りに、もの凄いホコリと共に、砂ぼこりも舞った。
たまらず、プチが戻って来た。

オスカル一行は、しばらく、ホコリと砂ぼこりが納まるのを待った。

やがて、室内が見えてきた。
オスカルから先に入って行く。
床がきしむ。

床板が、腐っているかもしれないぞ!気を付け・・・。言った瞬間!

バキバキっと、オスカルが体重を掛けた、床板に穴が開いた。と、共に、オスカルの右足が、見えなくなった。素人だったら、骨折していただろう。だが、日頃から鍛えてあるオスカル、見事なドュミ・プリエで、着地した。

ふう!と、這いだそうとして、オスカルは手をかけようとした。その前に、床板が大丈夫かを確かめ、プチと同じくらいの身長から、178センチの身長に戻った。

3人とも、一歩先の床板を、叩きながら歩いた。

玄関を入ると、キッチンだったような、名残があった。
奥は、リビングだ。かなり広く、正面に大きな掃き出し窓があった。

オスカルが、慎重に歩いて行く。その、オスカルが歩いた所を、寸分たがわず、プチとアリエノールが付いて行った。しかし、プチはともかく、アリエノールには、オスカルの歩幅は、かなりきつくて、途中二歩ほど、慎重に歩かざるを得なかった。

リビングの裏にも、庭があった。こちらには芝が無く、両隣を見ると、それぞれ趣味を生かした、木々、花々で、彩られていた。

するとまた、オスカルの手の中で、ガラス玉が、熱くなった。オスカルは、そっと掌を開いて、見た。真っ赤になっている。ふふふ・・・オスカルは、何かを決めた。

2階へと昇る階段がある。これもかなり朽ちている。
オスカルは、2人の子どもに、階段の板が割れたら、大変だ。
下で待っていろ!
そう声を掛け、真ん中は、板が薄くなっているかもしれないので、端を一歩一歩行った。

2階は、寝室として使われていたようだ。壁に手をかけようとして、オスカルは手を引っ込めた。壁が、斜めっていた。

これだけ、ボロければ、我が家に合った間取りに変更できるな。
アンドレに任せるか・・・。

廊下の端まで行くと、不思議な棒が立てかけてあった。
天井を見ると、棒の先を引っ掛ける金具があった。

オスカルは、引っ掛けるとそっと、引っ張ってみた。
梯子の様な階段が現れた。

すると、この家は、2階建てのように見えて、3階建てなのか・・・。
オスカルは、また、何かを考え始めた。

この奇妙な階段は、これまで登って来た階段よりも、さらに、危険なようだった。
慎重に昇って行った。

3階は広い空間になっていた。
窓は有るものの、外壁が高く、外が見えない。
という事は、外からも見えない。

オスカルは考えた。もしかしたら、ここの住民は、革命前、それなりの生活をしてきた富裕層なのではないだろうか。そして、いまもそれなりの貯えを持っている。

しかし、それみよがしの、豪邸に住んだら、革命派に狙われる。だが、昔の暮らしは、捨てられない。
そこで、以前よりは、やや狭いが二階建てに見える三階建てを、3フロアを悠々と使っている。

オスカル達が、一階に降りてきて、もう一度眺めていると外から男の声がした。

「なんですか?あなた達は、勝手に入られては、困ります!
これは、商売品なのですから!

あ~あ!玄関ドアをこわしてしまったな!
弁償してもらわなければ、ならない!
私の事務所に来てください!」
もの凄い剣幕だ。

オスカルは、これがアンドレから聞いていた不動産屋というものなのだろうか?
もの凄い剣幕にもひるまず、オスカルは、丁寧な物腰で、
「失礼ですが、この物件を扱っていらっしゃる、不動産屋さんですか?」

男は、あれほどの剣幕で怒鳴ったのに、全く動じない男のように背の高い夫人に驚いた。
それで、素直に、はい!そうでございます。こちらも、丁寧になってしまった。

「それは良かった。
実は、この物件について、話がしたい。
彼方の事務所とやらに、連れて行ってくれ」

オスカルが、頼むと、不動産屋と名乗る男は、では、着いてきてください。と、先を歩き始めたが。後ろから、ボコっと大きな音がして、振り返った。

オスカルが、『貸家』の看板を、片手で、ズボッと引き抜いて、肩に担いでいた。

つづく

PS: シャンゼリゼ通りのラデュレの左にある道を入って行くと、SSのページにある、
レストラン、アンドレが、あります。
bonjour!って入って行くと、ムッシューが、japoneと聞いてきます。
ouiって答えたら、日本語のメニューを出してくれました。
その下に、フランス語が書いてあって、指を差すだけで、注文できてホッ。
美味しかったです~

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