オスカルは、国王陛下、アントワネットさまに、跪いた。
そして、面倒くさい、美辞麗句を述べようとした。
気付いた国王陛下が、止めた。

「その様な、堅苦しい挨拶は,無用じゃ。
それよりも、ここの所、こちらの…」
そう言って、国王は、以前呼び出された時にも見た、忌々しい、法律の書かれた分厚い書物に手を置いた。

オスカルの、歓喜がぶっ飛んだ。そして、不安がやって来た。
そんなオスカルなど、お構いなしで国王は、続けた。
「オスカル。おまえ達の将来を案じて、ここの所、私が、定めた法が、間違っていないか、最近調べていたのだ。

これまでの、月誕生日は、正しかった。
だが…」
ここで、国王は、手元の【法律】らしき書物に乗せていた手を離した。

そして、付箋を貼ってあるページを開いた。
オスカルは、無言で、心の中で指を組み祈りながら、ここには居ないアンドレに、助けを求めた。

  ******************

その頃、アンドレは、ジャルパパと並び、広大に広がる景色を見ながら、領地の説明を受けていた。ジャルパパが、今日は、この辺までにしよう。そう言って話を終えた。

アンドレは、以前から疑問に思っていた事を、口に出そうか迷っていた。だが、このような時ではないと、もう聞く機会もないので、思い切って聞く事にした。

「旦那さま、ぶしつけながら、お聞きしたい事があるのですが…」
すると、ジャルパパは、あまり持っていない威厳を見せて、
「ふむ。話してみろ」とだけ、言った。

アンドレは、
「ここ暫く、執事さんについて、ジャルジェ家の事務方の勉強をさせて頂きました。

そこで、気付きましたので、勝手に調べさせて頂きました。
ジャルジェ家では、旦那さまとオスカルが、軍務に就かれていらっしゃいます。ですから、お2人に王室から、棒給が、入っていらっしゃるはずです。

ですが、全て旦那さまだけの、収入になっています。。
オスカルの収入はありませんでした。

そして、オスカルが、購入した物品の、支払いも全て旦那さま名義です。
勿論、奥さまも旦那さま名義ですが、こちらには、納得できます。

しかし、オスカルの方は、どう考えても、合点がいかないのですが?
どうなっているのでしょうか?」

ジャルパパは、アンドレは、何を言っているのか?
こいつは、もしかしたら、バカなのかもしれない。

そう思いながら、言った。
「女は、財産を持つ権利が無い」
それだけ言うと、腕を組み、無い威厳を見せながら、行ってしまった。

  ******************

一方、宮廷では、
「オスカル。心を落ち着けて聞くが良い」
国王は、厳かに言った。
オスカルの鼓動が速くなってきた。

「今になって、気づいたのだが…」by国王
ドキッ! byオスカル

「なに、基本的な事なのだが…」by国王
ドキドキッ! byオスカル。
何でもいいから、早く結論から言ってくれ!byオスカル

「ジャルジェ家は、お家断絶だ。レニエの代で。
オスカル、そなたは、後継者となる事が出来ない。以上」

オスカルが、願っていた通り、国王は結論を言った。
が、意味がわからなかった。

オスカルが、キョトンとしていると、アントワネットが、国王に、
「あなた、きちんと、分かるように説明して差し上げないと、
オスカルは、理解していないようですわ」

オスカルは、大きく頷いた。
すると、今度は、困ったように国王が、口を開いた。

「先代のルイ15世がこのフランスを統治している時代に、
私もオスカルも生まれたな?」
オスカルは、何を今更、そう思いながらも、黙って聞いた。

「その時、ジャルジェ家には、男子が生まれないので、オスカルを男として育てる。そして、末には、将軍となりジャルジェ家を継ぐ。そういう約束が出来ていた。

だがな、オスカル。
例え、男として育てられようとも、所詮、そなたは、【女】。
相続権が無いのだ。

しかも、相続権はおろか、財産を持つ権利もない。
王妃お抱えの、ルジェ・ルブランも、収入は、夫のものになっている」

オスカルは、首を傾げた。自分は、収入があるはずだ。毎月だか、毎年だか、受け取っているはずだ。…給料明細は、貰っていないが…馬・武器・軍服から、身の回りの物。

そして、あの探しに探したアンドレへの誕生日プレゼントも、買った。
サインも何もしていないが…。

オスカルは、黙ったまま考え込んだ。
国王が、さらに続けた。
「オスカル。其方の年俸・年金、諸々を考えているのだろう?
あれらは、全てジャルジェ将軍名義で、ジャルジェ家に支払われている。

つまり、もし其方が、アンドレと結婚したならば、グランディエ家として…うーむ、ここが難しい。兎に角、新しい貴族として、家を興さなければならない。

それには、並大抵の努力ではできまい。其方たちの何代か先にならねば、ジャルジェ家の様な大貴族に、なるかもわからない」

そうなのか…でも、そうだ!アンドレをジャルジェ家に婿養子に迎えれば良いのだ。ジェローデルの時も、そうだったではないか!

オスカルは、顔を上げると、ニコニコと話した。
国王は、相変わらず厳しい面持ちで、重々しく、首を振った。

「それも、考えたのだが、このフランスでは、直系の者にしか、家督は譲れないことになっている」

オスカルは、自分が【街のおばさん】の仲間入りをする事を想像した。
とても無理な事だった。

だが、そこで国王陛下は、急に親しげになった。
「何事にも、例外の、摩訶不思議な法が有るのは、存じているな?」
オスカルは、キョトンとしたが、国王の言葉を反芻すると、ニコニコとしだした。

「まあ、待て。事は、簡単ではないのだ。
まず、アンドレが、どうしたらジャルジェ家を、
継ぐ事が出来るかを考えよう」

  *************

その頃アンドレは、アラスで『女には、財産を持つ権利が無い』この言葉には、まだ、何か他の意味があるのでは無いかと、考えていた。

  *************

「先程も言ったとおり、オスカル、其方は、女だから、家督相続が、出来ない。そして、アンドレが婿養子に入っても、ジャルジェ家の直系ではないから、ジャルジェ家の当主となる事は出来ない。此処までは、いいかな?」

念を押すように、オスカルの眼を見ながら言った。
オスカルは、だから、どうしろって言うんだ!わたしとアンドレに、手を取り合って、今度は、ロジャーと反対にイギリスへでも、行けと言うのか!ふん!

「そこでだ、オスカル、其方は、このまま軍人としての人生を全うしたい。
そう、ジャルジェ将軍から聞いているが、本当か?」

国王の話は、コロコロと変わる。オスカルの人並外れて優秀な頭脳も、急回転した。そして、オスカルの、気持ちまでも、コロコロと変えられた。ついていくのに、疲れてきた。が、そんな事を言っている場合では、なかった。

当たり前のことだろう!オスカルは、キリッとした声で、Oui 答えた。

「では、其方はそのまま、男として生きる!軍務に励み、家督を継ぐ」
此処で、オスカルの頰がゆるんだ。

しかし、国王の次の言葉で、その顔は、いままで、アンドレにさえ、見せた事のない、表情に変わった。

「それでな、アンドレにドレスを着せて、女として一生を過ごしてもらうのじゃ。それで、ジャルジェ家は、安泰だ」

「なぁに!アンドレが、ラ・トゥールかロドリゲ夫妻の養女になって、そこから、ジャルジェ家に嫁げばいい。私から、国中にVアラートを発すればいいだけだ。どうだ?

結婚式には、ヴェルサイユ宮殿にある教会を使っても良い。

其方は、ジャルジェ家の長男であり、将来は、将軍となって、ジャルジェ家を盛り立てる。一方で、アンドレは、ジャルジェ家に嫁いできた嫁。奥向きの勤めを果たし、ジャルジェ夫人と呼ばれるのじゃ!」
国王が、嬉しそうに言った。

オスカルの、超高性能の、急回転していた脳みそが、反転しだした。
自分の未来像は、それで問題は、無かった。
だが、アンドレにドレス……?

自分は、一度だけドレスを着た。
だが、剣を持ち、銃を担げども、中身は、女だった。
それにあの時は、フェルゼンに恋をしていた。

アンドレに無理矢理ドレスを着せてみた。

そこでオスカルは、気づいてしまった。
わたしは、アンドレから『愛している』とは、聞いたが、『結婚しよう』とは、言われていない。

オスカルは、青ざめた。
アンドレのドレス姿より、ショックだった。

  *************

領地に滞在中のアンドレは、手の中のブランデーが入ったグラスを揺らしながら、微かにしか見えない目で、一点を見つめていた。

  ****************

「まあ!つまらない!もう、終わりですの?
私も、何か知恵を授けようと、思いましたのに…」

オスカルは、黙って、考えていたが、その様な提案をされては、ますます、アンドレからのプロポーズが、遠くなりそうだ。そう思った。

だが、それを言うわけには、いかない。
何故なら、いつのまにか、2人の周りの人間たちは、2人が結婚すると信じていた。それに、オスカル自身も…。

それに、オスカル自身も、アンドレと生涯を共にすると思っていた。
しかし、アンドレからは、将来の話しを聞いたことがない。

コレが、オスカルの致命傷だ。

すると、アントワネットが、
「最近の宮廷は、楽しい話題に飢えているのです。
珍妙な、ジャルジェ夫妻が、舞踏会に出席すれば、盛り上がるわ」

国王も、満更でもない様子で、
「あゝ、そうだな。
アンドレもドレスを着れば、とびきりの美女になるだろう。
そうすれば、男どもから、ダンスの誘いが、耐える事ないだろう!」

オスカルは、しばし、結婚問題から離れて、ドレス姿のアンドレと共に、歩く姿を想像した。想像できなかった。

「陛下、アンドレにドレスを着せる事は、わたしには、出来ません。
何か他の、案がないのでしょうか?」

オスカルが、ドレスを着ろ!と言えば、アンドレは、自尊心も男の分別も、誇りも、尊厳も手放して、着るだろう。
しかし、オスカルの護衛だけは、手放さずに…。

オスカルが、アンドレを男として接してもアンドレには、屈辱だろう。わたしだって、そうだ。女であって、軍服を着て、男と肩を並べているのだ。女扱いされるのは、頭にくる。だが、それは、わたしの力が足りないだけだ。

だから、オスカルは、アンドレにドレスを着ろ!とは、言えない。

国王が、またまた、ニコニコと、
「では、これはどうだ?
ジャルジェ家を、遡ること7代前…」

オスカルは、我が家はそんなに長く続いているのか。
少しだけ、胸を張ってみた。

そう言うことに、してくれ!
国王は、ニヤッとした。
そして、続けた。

「そこの、長男が家督を継いだ。だが、よう逝してしまったのだ。そこで、未だ幼い、亡くなった長男の息子を、主人にしようと、誰もが考えたのだ。

しかし、日陰者だった次男は、どうしても、ジャルジェ家の当主になりたかった。それで、その幼児を追い出してしまった。

そして、代々ジャルジェ家は、安泰に続いて、今のレニエが、当主となった。

そこでだ!その幼な子は、密かに乳母に育てられ、家を起こし、子を成し、子孫が繁栄していった。その、末裔が、アンドレなのだ。

そこで、アンドレをレニエの養子として迎え、ジャルジェ家の直系とする」
国王は、口を閉じ、オスカルを見て、どうだろうか?と、微笑んだ。

すると、今度は、アントワネットが、口を挟んだ。
「いい考えですけど…ねぇ!貴方」
国王陛下に、とびきりのお願い笑顔を見せながら、

「それでは、オスカルとアンドレは、兄妹になってしまいますわ。これでは、宮廷はもとより、教会では、受け入れることは出来ないですわ。それに、陛下名誉の傷つけてしまいますわ」

オスカルは、何をうまくいっている話を、アントワネットさまは、茶々を入れたがるんだ。ムッとした。

国王は、う〜む!と、言いながら、考えこんでしまった。
そして、くだんの書物をめくり始めた。

オスカルは、もう、どうでも良くなってきた。
アンドレと、手を取り合って、何処かに逃げよう。
宮廷も貴族の位も、どうでも良くなった。

が、軍人として、生きる道だけは、捨てられなかった。

幼い頃からずっと、将軍になる事だけを、夢見て励んできたのだ。
アンドレだって、オスカルの夢を叶える為に、いつも、支えてくれていた。

そして、軍人として、生きるオスカルを、愛してくれたのだ。
もし、オスカルが、市井の、おばちゃんになってしまったら…オスカルの妄想は、そこで止まった。

何故なら、書物をめくる国王の手が止まり、あるページを指先で文字を確認するように、読んでいた。

「おお!有った!」
国王が満面の笑みで、オスカルを見た。
オスカルは、はやる心で、国王の口が開くのを待った。

「血縁関係を薄める為には、もう一年間離れて暮らさねばならない」
希望を見つけたオスカルは、再び絶望のどん底に落ちた。
もう、アンドレが助けてくれようと、這い出す事は出来そうも無かった。

国王が、告げた。
「オスカル。
今、示した2案がある。

オスカルが男として暮らし、アンドレが女として暮らす。
もう一つは、
もう1年延ばして、このまま、月誕生日だけ会う。
だが、その後には、輝かしい将来が待っているぞ」

オスカルは、国王が、どちらを選ぶのか、待った。

だが、国王は、
「どちらを選ぶのかは、オスカル、そなたに任せよう。
一か月間、時間を与えよう。
ゆっくりと、考えるがいい」

そう言うと、国王は寝所に行ってしまった。
いつの間にか、王妃もいない。

オスカルは、呆然と、ゴージャスな部屋で、ゴージャスな髪を指先でもてあそびながら、大の字に寝転がった。

その頃、遠い領地では、アンドレが、これまでの経験、執事との会話から、答えを見つけ出し、ブランデーが入ったグラスを、真剣な眼差しで見つめていた。

  つづく

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