The Night Comes Down

おれの心を後ろに残したまま、季節が変わっていく。

ジェルメーヌは、ベルナール達と共に現れる事もあるし、独りでふらりとやって来ることもあった。そして、店が終わるのを待って二階へと上がる事も、また、勝手に二階へ上がって待っている事もあった。

兎に角、気まぐれだった。
おれも拒む理由もないが、何となく気分が乗らない日は彼女も察するのか、スッと居なくなる。

彼女が来るようになって、変わったことがある。今までは、日々の暮らしに追われ先延ばしにしていた事を始めた。

まず、2階の住居から手を付け始めた。店の方は客商売と言うことで、しっかりと暖炉などが完備していたが、2階は暖房設備もなく寒くていられない。おれ独りなら何とか過ごせたが・・・そこで、暖炉を作ることにした。

暖炉の火をつけるのは今まで、日常的にやってきた。が、作るのは初めてだった。どの様な構造になっているのかも理解していなかったので、1階の暖炉を見ながら適当に作ってみた。幸い納屋にレンガが転がっていて、材料には困らないはずだったが、さすがに屋根まで煙突を伸ばすほどは無かった。

暖炉が終わると丁度、床もレンガの残骸だらけだったので、床磨きを始めた。すると、いつ掃除したのか分からないほど、埃と汚れだったようで、きれいな木目が現れた。

ジェルメーヌが来て、「素敵じゃないの!」と言ったが、決して彼女の為にやっているのではない。
いつ来ると知れない、金色の髪の持ち主を思って、おれは動いている。

明日、彼女が来ても困らないよう。今日、突然来てもビックリしないよう。おれは、おれとオスカルと子供たちの為に、住むところを整え始めた。

2階にはオスカルが困らないように、トイレとシャワー室も付け、素人ながらどうにか排水設備も完備した。勿論、排水設備とは言っても、単に外壁に穴を開け、路地に排水が流れ出るよう配管しただけだが、オスカルが快適に過ごせればそれで良い。

次は・・・ベッドだった。おれ一人で寝るには十分な広さだったし、硬さだったが、・・・彼女が寝るには硬すぎる。それに二人で寝るには狭すぎた。

おれは、寝具用品を扱う店に行ってしばし悩んだ。・・・オスカルは独りでキングサイズのベッドを使っている。しかし、そんな大きなベッドだと彼女とベッドを一緒にした時、広すぎてお互い離れてしまう。

かと言って、セミダブルなんかにしたら、オスカルは文句を言わないが狭いと感じるだろう。おれとしては、セミダブルでいつもくっついて休みたいのだが、・・・

散々通って、散々悩んで、おれは、女性は月の物があるからそんな時は離れたいだろうし、オスカルは子どもが生まれると一緒に寝たがるので、ダブルベッドに決めた。

いよいよ搬入の日、おれは、朝早くからワクワク待っていた。店の入り口から難なく搬入し、いざ2階へと上げようとした時、・・・階段で閊えてしまった。・・・青くなったおれはあちこち試してみて、階段周りの床・天井が木造であることが分かった。床や天井を剥がしどうにかしてベッドを入れる事が出来た。

おれは、満足だった。一歩オスカルが近づいた気がした。

おれが身の回りの改装に熱中し始めると、ジェルメーヌはニコニコと楽しそうに見ている。が、決して意見は挟まない。この作業が、『おれとオスカル』だけの為の物だとわかっている様だった。必要以上におれの領域に踏み込まない彼女のやり方は心地よかった。


だが、ある時、「私の方からばかりこっちに来るのは、・・・やっぱり女として、・・・だから・・・たまには、貴方の方から私の方に来て!」おれはビックリして・・・冗談じゃない!公爵家に忍び込むなんて、出来ない・・・と断った。

すると彼女は、「そうだったわね。貴方には言っていなかったわね。わたしは・・・お屋敷の方には住んでいないのよ。・・・あちらは風紀が悪いからって、同じ敷地内の別宅に住んでいるのよ。」独りなのか?・・・と、聞くと「使用人はいるけどね」

「お休みはいつなの?」おれは笑いながら、・・・敬虔なカトリック教徒だから、日曜だ・・・と、答えると、「じゃあ!丁度いいわ。今度の日曜日。9時に来て!ちょっとしたパーティーがあるの!小ざっぱりした服で来てね」と言って消えてしまった。

日曜日、『小ざっぱりした服』と言っても、おれはジャルジェ家を出てきた時着てきた、お仕着せしか持っていなかったので、それを着ることにした。・・・が、手を通した途端、慣れない違和感があった。毎日、畑を耕したり、酒瓶を運んだりして、それまでと違ったところにしっかりと筋肉が、付いてしまったようだ。

これしか持っていないからしょうがないかと、動いてみたら、彼方此方、突っ張って動きにくい事この上ない。これだけ動きにくいという事は、かなり見た目も悪いに違いない・・・。

その時初めて、おれはこの家に『ちゃんとした鏡』が無い事に気が付いた。オスカルの為にドレッサーも用意しなければ・・・と、思った。

男勝りで容姿など気にしてないように見せているが、・・・オスカルは、毎朝しっかりと鏡の前で全身チェックをして出かけるし、外出先でもガラスに映る自分の姿をチェックしているのを、おれは知っている。

今週の課題は、ドレッサー探しと決めた!

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広大な公爵邸・・・ボーフォール公爵の敷地の片隅に、ジェルメーヌのいっていた通り、別邸があった。別邸と言ってもやはり公爵家、大きさが違う。

彼女が言うには、公爵の男遊び、そして夫人の女遊びと男遊びが派手らしい。一時期、お屋敷の方に一緒に住んでいたが、誰だかわからない、男や女に変な誘いを受ける事が多くて別邸に移ったらしい。


指定の時刻に扉をノックすると、執事らしい男が現れ、直ぐにジェルメーヌが出てきた。そして、おれのジャケットを見ると、・・・こちらに着替えて!・・・と、おれのジャケットを取り上げて、かなり上質なそれと交換してしまった。

おれは、不思議な顔をしていたらしい。彼女は、・・・一応、貴族の集まりってことになっているから、・・・踏み込まれたら、困るでしょ?・・・と、意味不明の事を言っていたが、パーティー会場となっている広間に入って、その訳が分かった。

おれの店で顔なじみの、活動家たちが、普段は着る事もない、上等な上着を着て、ピカピカに輝いたグラスを持っている。だが、彼らの下の方を見ると、ズボンは膝が出ている位はましな方、穴の開いているのやら、裾のほつれているのを着ている。足元はボロボロの靴が多い。

これじゃ、変装にならないんじゃないか?と尋ねると、・・・そうしたら、椅子に座って、足元をテーブルクロスの中に入れれば大丈夫よ~・・・と、いつもの通りクスクスと笑った。

では、男ばかりで女がいないのは、少し妙なパーティーではないか?と尋ねようとしたら、凄く派手な女の一団が入って来た。・・・ジェルメーヌは「何時ものように、適当にやってね!」と声を掛けると、年かさの女が「まかせなさい!」と答えていた。

彼女達は男たちに目もくれず、普段は口にすることもないだろう料理の並べてあるテーブルに突進し、食べて、飲んで、おしゃべりを始めた。如何やら、何処かの娼館の女たちを丸ごと雇ったようだ。

よく見ると、よく見なくても彼女達は、大きな胸をあらわにしたドレスを今日はフィシューで隠し、慣れない薄化粧らしきものを施していた。男たちも慣れているようで、女たちをそっちのけで議論に夢中だったが、一見、やや珍妙だが、普通のパーティーに見えた。

BGM Girlfriend
By Avril Lavigne
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