The Millionaire Waltz

1780年夏、フェルゼン伯爵は、遂に、ヴェルサイユに帰ってきた。

戦争には、参加しなかったが、心の整理をしてきた。
つもり、である。

朝早く、自邸に着くと、直ぐに身体のホコリを落とし、身なりを整えると、宮廷へと向かった。独りで、・・・勿論、アントワネットに会うため、である。

門前で馬を預け、回廊へと向かった。
心はルンルンである。

何と声を掛けようか。
心に響く愛のささやきは、・・・と、考えていると、・・・

前方から、あまり会いたくない、女性の姿が見えた。オスカル・フランソワである。・・・柱の陰に、隠れてしまおうか、・・・とキョロキョロしていると、・・・・・

向こうから、気が付いて、声を掛けてきてしまった。

「フェルゼン(はあと)帰って来たのか!」
「ああ、オスカル・・・元気だったか?」と、フェルゼンは、すれ違いざまに素っ気なく握手をして、通り過ぎて、小走りに行ってしまった。

こういう時だけは、方向音痴には、ならないらしい。
本能で動いているか、嗅覚が、異常に優れているのかもしれない。

オスカルは、・・・フェルゼンが触れた手を、じっと見つめ、しばらく、呆然としていた。
フェルゼンが、・・・フェルゼンが、かえってきた・・・!!生きてかえってきてくれた!・・・!嬉しい!だけど、・・・抱きしめて、くれなかったな?・・・・・・たった一言か?・・・・・・子どもの事は聞かないのか?・・・・・・もう1歳と10ヶ月だぞ!・・・・・・どこにそんなに急いで行くのだ?・・・・・・

オスカルは、フェルゼンが、向かった方向を見つめた。
・・・ん?・・・
プチ・トリアノン?・・・プチ・トリアノン!

オスカルは、一度も訪れたことのない、プチ・トリアノンの方へと、フェルゼンを追いかけて走っていった。

なんて、足の速い男なんだ!なかなか、姿が見えない!
フェルゼンに、追いつけないまま、オスカルは、プチ・トリアノンに着いてしまった。

ここは、招待された者しか入れない。
言ってみれば、アントワネットの聖地。
見つかったら、大変なことになる。
オスカルは、息を殺し、そっと建物の周辺を巡ってみる。

いた~~~~~~!!!

音楽室と見られる、ハープのある部屋で、事もあろうか、フェルゼンが、・・・わたしのフェルゼンが、・・・アントワネットさまと、抱き合っている。

オスカルは、衝撃を受けた。・・・
わたしには、そんな抱擁を、してくれなかった。ぞ、・・・
あ~~~~~~!まだ、ハグしている。・・・
あ~~~~~~!アントワネットさまが、フェルゼンの首に手を回して、・・・
何を、話しているのだろう?・・・

なんか、涙が出てきた。・・・

あ!誰か来る。・・・逃げなければ、・・・

オスカルは、顔を涙で、ぐしゃぐしゃにしながら、・・・うつむいて歩いていた。・・・
涙が止まらない。・・・フェルゼンが、・・・フェルゼンが、・・・
わたしよりも、アントワネットさまを?・・・

ぐしゅぐしゅ、・・・ポロポロ。・・・
え~ん、え~ん、・・・ぐしゅぐしゅ、・・・ポロポロ。・・・
え~ん、え~ん、・・・ぐしゅぐしゅ、・・・ポロポロ。・・・
え~ん、え~ん、・・・ぐしゅぐしゅ、・・・ポロポロ。・・・

え~ん、え~ん、・・・メ~エ・・・モ~ウ・・・
え~ん、え~ん、・・・メ~エ・・・モ~ウ・・・
え~ん、え~ん、・・・メ~エ・・・モ~ウ・・・

・・・え~ん、え~ん、・・・え゛?・・・コケコッコー・・・

ええええええ?????・・・

オスカルは、突然、我に返った!

顔を上げて、周りを見渡してみる。・・・

のどかな田園風景が、広がっている。
ヤギ・牛・ニワトリ・・・農夫の姿も見られた。
農家らしき家もある。
子供たちが羊を追いかけている。

な、・・・なんだ!・・・ここは?・・・
わっ・・・わたしは、泣きながら、アラスまで、来てしまったのか?・・・
何処までも、何処までものどかだった・・・
悲しいうえに、心細くなってきてしまった。・・・

こっちが、失恋しそうで、泣いているのに、・・・また、涙が溢れてきた。・・・

新たな涙が。溢れ出て流れようとした時・・・
そこに、懐かしくホッとする声が、聞こえてきた。

「お~い!オスカル~」
「アンドレ!」
「大丈夫か?こんな所まで来て・・・」

「良かった、おまえが、追いついてくれて・・・
泣きながら歩いていたら、アラスまで、来てしまったようだ。」
涙の跡をつけたまま、オスカルは、微笑んだ。

「何言っているんだ!ここは、プチ・トリアノンの中のアモーだ!」
「え゛!?アモー?」

「ああ、おまえは、知らないんだな。
アントワネットさまが、農家遊びをする為に作らせた、本物そっくりの、作りものの里村なんだ」
「ええええええ!!!アントワネットさまは、こんなものまで、作られたのか?」
「ああ、そうだよ」

「ペザントルックが、それで流行ったのか!?」
「そこは、知っているのだな?」
「税金泥棒!!!」オスカルが、叫んだ!
「ははは・・・世間では、そう言われているよ」

「オスカル!おまえ!涙と土煙で、ぐしゃぐしゃだぞ、・・・
それじゃあ、いい女が、台無しだ!」
アンドレが、優しくオスカルの顔を、拭いてくれた。
「わたしは、・・・いい女か?」
「ああ!世界で一番、いい女だ!」

オスカルは、周りをぐるっと、見渡してみる。
そして、先ほどの、フェルゼンと、アントワネットさまを思い出す。・・・
そんな様子を、アンドレは、黙って見つめていた。・・・

しばら、く何かを考えて、・・・突然、アンドレを見据えると、

「アンドレ!屋敷に帰るぞ!」有無を言わさぬ、何かを決意した様子だった。
「わかった!」

アンドレがこたえると、オスカルは、アンドレが来た方向に向かって、歩き始めようとした。

「待った!オスカル、そっちじゃない、こっちの方が、近道だ」
「随分と込み入っているのだなぁ・・・」
二人は庭園を抜けて、近衛隊の兵舎に、向かった。
司令官室で遊んでいる、レヴェとヴィーを拾い上げると、屋敷へと向かった。



屋敷に着くと、オスカルは、アンドレの義理の伯母である、マルゴと、いとこのアニェスを部屋に、呼び寄せた。アンドレは、廊下で子どもたちの相手をしながら、その様子を訝しげに見ていた。

その内にオスカルの部屋から、普段というか、今まで聞いたことのない会話が、聞こえてきた。

「ローブは、どちらのほうが、いいでしょうねえ」
「ア・ラ・フランセーズになさいますか?
それとも、こちらのオダリスク風?」
「どちらでもいい!・・・女らしく、セクシーに見える方にしてくれ

宝石は、なるべく豪華なものを、・・・指輪も、大きな石のものだ!・・・」
その内、最近では、第一線から身を引いていた、ばあやも部屋に入っていった。
オスカルが、生まれて初めてドレスを着る、というので、半分隠居の身であったのであるが、喜んで出てきたのである。

「ああ、そこの青いドレスにしてくれ!イヤ!それではない!もっと、胸が開いて、肩が開いた、・・・そっちのシフォンの濃い青のドレスだ!」

「お嬢さま、こんなドレスを、嫁入り前のお嬢さまが、お召しになってはいけません!
はしたないでございます」
「ふん!嫁入り前だが、二人の子持ちだ!構わない!」

「髪もダメだ!もっと上げて、うなじが、見えるようにしてくれ!
男は、うなじに弱いと聞く!」

「アンドレ~ママン・・・何しているの?」レヴェが、チョロQで遊びながら、聞いてきた。
「おれにもわからないよ~」オスカルの奴、・・・勝負を賭ける気か、・・・

ようやく、オスカルの部屋の扉が開いた。

豪華で、セクシーなドレスを身に着け、豪華な宝石をありったけ着けた。
豪華な女性が現れた。

「ママン!キレイ~」レヴェが、駆け寄る。
「レヴェ!・・・キレイか?ありがとう」

「す・・・すばらしくきれいだ。・・・だが、・・・しかし、・・・」
アンドレは、言って、オスカルの周りを、ぐるっと、一周すると。

「これと、これと、それも。・・・それから、・・・これも、こっちのも、・・・要らないな。・・・」
と言って、手際よく首飾り、ブレスレットなどの宝飾品を、外してしまう。
オスカルは、呆気に取られて、されるままに、なっていた。

「指輪も、ダイヤ一つで、十分だ。・・・」
オスカルが、ほとんどの指にしていた、指輪を外してしまった。

「それから、この髪も、・・・」
しっかりとアップ、にしていた髪をほどくと、器用にふんわりと、持ち上げると、ハーフアップに、してしまった。

「これで、世界一の美女の、出来上がりだ!
この方が、おまえの美しさを、際立たせる。・・・

指輪もその位の方が、サファイヤの瞳を、魅惑的に見せてくれる。・・・」
アンドレの言葉にオスカルは絶大なる自信を得た。
周りにいた侍女達も、あまりの美しさに、ため息をついた。

「さあ!その姿で勝負してこい!」
アンドレが、ウインクして、親指を立てた。

オスカルは、得意の口角を上げて、ニヤリと笑いながら、玄関へと、いつもの通り外股に、歩いていき、馬車の人となった。

BGM Show Must Go On
By QUEEN
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