♪Guide Me Home
オスカルが、ガウンの前を合わせながら、玄関ホールを通り抜けると、
途中でジャックが待ち構えていた。
すかさず、オスカルが、声を掛ける。
「馬を三頭、二頭に鞍をつけて、一頭にはわたしのベッドの下の荷物を積んでくれ!」
「かしこまりました。
一頭はオスカルさまのシロノワール、
もう一頭はアンドレのキタサンブラックですね。」
オスカルは、親指を立ててOKサインを出した。
階段をのぼりながら、アニェスとマルゴにも指図する。
3分後、衛兵隊の軍服を纏ったオスカルが、
鏡の前で最後のチェックをしていると、
戸口にジャルジェ夫人が現れた。
「愛する人の元に行くのですね?」
「母上、・・・・・・申し訳ございません。わたしは・・・」
「いいのですよ。我が子の幸せを願うのが親です。
幸せにおなりなさい。
そして、これを、・・・・・・・・・」
夫人がそっとオスカルの手に、ズシリと重いものを渡した。
手を開くと、・・・見事なエメラルドをあしらったネックレスと耳飾りだった。
「母上、・・・これからは・・・母上たちにも必要なのではありませんか?」
「ほほほほ・・・私たちの分は他にも沢山あります。
これは、愛する人にも内緒にしなさい。
女には、殿方にも内緒の、いざという時の貯えが必要なのですよ。
それから、こちらは・・・・・・・・・」
今度はポケットから、少し小ぶりな重さのものをオスカルに渡した。
サファイアのネックレスと耳飾りであった
「こちらは・・・生まれてくる赤ちゃんの為に使いなさい」
オスカルは、目をみはって母親を見た。
「母上!ご存じだったのですか?」
「ほほほほ・・・親を舐めてはいけません!
さあ!お行きなさい!幸せに向かって!」
こうしてオスカルは、馬上の人となった。
キタサンブラックにはジャックが乗っている。
もう一頭の馬は荷物が乗りきらないからと、荷馬車を引いている。
オスカルは、のけぞった!
(え゛!なんでこんなに荷物があるんだ!?)
*************************
「おれは、不経済も、貫通罪も、凶暴罪も犯してないぞ!」
アンドレが、憮然として、訴えた。
「・・・だから、知恵のない平民は困るのですよ。
不敬罪に姦通罪、共謀罪です・・・分かりましたか?」
「ますます、分からん!そのどれにもおれは、当てはまらないぞ!」
「では、一つ一つ説明してあげましょうかね・・・。
全く、オスカル嬢の従僕だからもう少し、知恵があるのかと思っていましたが、
・・・やはり平民には変わりはないのですね」
「うるさい!ジェローデル!説明なんか無駄だ!おれをここから出せ!」
「そんなにわめいても、ここは地下牢、外に声は聞こえませんし、
誰も助けには来られません。
きみは・・・全くもって、貴族である私に敬意を表していませんね?
敬意を表す以前に私の妻であるオスカル嬢とベッドを共にしている。
従って、不敬罪と姦通罪となります。
そして、きみの下町にあるバーに集っているメンバー、
これで説明はつきますね。
共謀罪です・・・。
間もなく君の店を捜索している部下から証拠の品が届くでしょう」
「うるさい!おまえらも手を放せ!」
「少し騒がしいようですね。大人しくなってもらいましょうか。
きみたち、少し痛めつけて御上げなさい!」
二人の近衛兵が両手を掴んだまま、大男がアンドレを殴りだした。
ぼかっ!ぼこっ!ぼかっ!ぼこっ!
ぼかっ!ぼこっ!ぼかっ!ぼこっ!
ぼかっ!ぼこっ!ぼかっ!ぼこっ!
アンドレがよれよれになると・・・ジェローデルが寄ってきて
「おお!イイ男が・・・顔を傷つけるな、と言い忘れました。失礼したな、
わあ!!!」
その途端、ジェローデルは
・・・星を見た・・・
アンドレが自由になっている足で、蹴り上げたのだ!
ジェローデルは両ひざをつき、股間を押さえて声も出せずにうずくまっている。
事態が分かった大男が、ジェローデルの背中を叩き始めた。
ようやく、落ち着き始めると、
「きさま!子どもが出来なくなったら、どうしてくれるのだ!」
「ふん!知るか!猫の交配でもしていろ!」
「まだわからないのか!その『猫ちゃんの交配』をする為に、私には屋敷と財産が必要なのですよ。その為にも、オスカル嬢は私の妻になってもらって、子どもを生んでいただかなければならいのです。まあ、もう既に彼女のお腹には私の子が宿っているかもしれませんが・・・」
一瞬、アンドレは、愕然としたが自信たっぷりに、
「どーせ、その時、きさまは、意識が無かっただろう?ふん!」
「な、ななななななんだと~~~~!不敬罪はほんのおまけでしたけど。
貴族に対する礼儀を知らないようですね。教えて差し上げましょう。
この男を、外に連れ出せ!
鞭打ちだ!準備しろ!」
*************************
その頃、近衛隊の門前でオスカルは、門番である兵士たちともめていた。
「だから・・・ジェローデルが男を連れてきただろう!
一刻も早く、その男を開放しろ!」
「さあ、今日は、・・・今日もジェローデル少佐はいつも通りに出仕されましたが・・・」
「そんなはずはない!男を!・・・それもとびきりイイ男を連れてきたはずだ!
わたしが知っている近衛兵は居ないのか!」
門番もその後ろを通り過ぎる兵士たちも、オスカルが近衛隊時代に知った人物は全く見られなかった。
その時、練兵場の方から鞭のしなる音と、鞭が当たる音が聞こえた。
オスカルは門番の制止を振り切って、練兵場へと走った。
そこには、上半身裸で両手を繋がれたアンドレが居た。
少し離れた所には血走った眼をしたジェローデル・・・。
鞭が振り下ろされる。
アンドレの背中に非情に当たるが、アンドレは声一つ上げない。
それがまた、ジェローデルを激情させるようだった。
もう一度と、ジェローデルが振りかぶった時・・・、
「やめろ~~~~~!アンドレ!」
オスカルが、アンドレ目掛けて走り出した。
すかさず、
「オスカル!来るな~~~~!」
アンドレが一瞬横を向いた所に鞭が当たった・・・。
アンドレの左顔面から血が飛び散る!
思いがけない、オスカルの出現と、思いがけない所への鞭の行方に小心者のジェローデルは、がくがくと震えだした。
オスカルは、アンドレの側に行き腕の戒めを解いてアンドレを抱きかかえると、銃を手にしてジェローデルに標準を合わせた!
「おちつけ、オスカル!!
武官はどんなときでも
感情で行動するものじゃない!!」
「いやだ!わたしは、もう、武官ではない!」
ズガーーーン!!
「ふん!手心を加えてやった・・・その位で済んだことを感謝しろ!」
オスカルが呟いた。
初めての銃創にジェローデルは、泡を吹いて震えている。
オスカルは、身近にいる兵士に、アンドレを、衛兵隊の衛生室に運ぶよう指図した。
*************************
幾日か過ぎて、アンドレが仰向けになれるようになった頃、二人は世話になった衛兵隊の兵舎を後にする事となった。兵士たちはオスカルが、アンドレと一緒になるという喜びと共に、衛兵隊隊長を辞めてしまう悲しさで、泣いたり笑ったり、どうしていいのか分からない状態で呆然としていた。
ただ一人、ソワソン少尉だけが、
「隊長!これから先、どんな人が隊長として来ようとも・・・、
貴女だけが私の本当の隊長です!(‘◇’)ゞ」
ときっぱりと言った。
オスカルは、
「ディアンヌに・・・済まなかったな、彼女のお相手は・・・」
「ああ!あれは、冗談です。アンドレの奴が余りにかわいそうで、隊長をからかってしまいました。ディアンヌはまだ、こどもです・・・ご心配なく・・・」
ソワソン少尉はニヤリと笑った。
アンドレがキタサンブラックに乗り、オスカルはシロノワールにまたがった。
荷馬車を見て、今度はアンドレがのけぞった!が、何も言わず。
「オスカル!家に帰ろう!!」とだけ言った。
オスカルが、頷いた。
アンドレの左目は二度とオスカルを見る事は出来なかった。
また、左の頬に走る傷はまだ、生々しかったが、ショットバーアンドレのマスターに威厳を与えていた。
その晩、衛兵隊の面々は、祝い酒と失恋酒を、しこたま飲んだのは言うまでもない!
BGM Jesus To Child
By George Michael
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