Killer Queen

8月の夜はなかなか暗くならない。

それを良いことに子どもたち、・・・レヴェとヴィー・・・は、子供部屋で大好きなアンドレとチョロQで遊んでいる。

一方、アンドレは威勢よくオスカルを送り出したものの複雑な心境に陥っていた・・・

オスカルがフェルゼンに拒まれたら・・・オスカルを悲しませる結果になってしまう。・・・だが・・・おれは、それを望んでいるのかもしれない・・・

万が一、フェルゼンがオスカルを受け入れたら、・・・いや、フェルゼンではオスカルは幸せになれない・・・やはり、オスカルを幸せにするのは、このおれだ!・・・しかしながらオスカルはおれを男だとは認めていない・・・相変わらず、幼馴染みの親友だ。・・・

アンドレがぐるぐると、想いを巡らせていると、晩餐の時間だ、とジャックが告げに来た。

子供たちを食堂に連れていくとアンドレは、そっと屋敷を抜け出した。

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「・・・ですから、今日は来客があるので、主は出てこられないのです」
「少しでいい、ホールでもいいからフェルゼンに会いたいのだ」
「申し訳ございません。ジャルジェ大佐、今宵は高貴なお方が・・・」

フェルゼン伯爵家のじいのこの言葉にオスカルは思わずカッとなり、じいを押しのけて、勝手知ったる奥へと入っていった。

一方、その屋敷の奥まった、しかし、そんなに広くはないが贅を尽くした部屋では、『ロマンス』をアレクセイとユリウスが奏でていた。が、この2人この曲しか合奏できないので繰り返し奏で続ける。また、クラウスは時折りバイオリンの演奏をやめユリウスの背後に回ったかと思うと目隠しをし、・・・しばし、見つめ合う。という妙な寸劇があり・・・これがまた最近のヴェルサイユでは何故か、流行しているのである。

フェルゼンは、だらしのない位に目じりを下げて、目の前に座る高貴な女性を見つめながら食事を楽しんでいた。

すると、おもむろにフェルゼンの耳に雑音が聞こえてきた。
こちらには誰も寄せ付けないよう、言い渡してあるのに、・・・

耳をダンボにしてみると、・・・一人はじい・・・もう一人は・・・アルトの声!・・・オスカル!?・・・

「少し、失礼致します。」フェルゼンは丁寧に頭を下げ、席を立った。
廊下に出てみる。
向こうから濃い青いドレスを着たオスカルが速足で向かってくる・・・。

こちらに来られてはまずい!・・・
フェルゼンはオスカルの方へ駆け寄った。
お互いにブレーキが効かず、至近距離で向かい合った。

フェルゼンはオスカルの美しさに目を見張った。
オスカルは・・・フェルゼンの目の中にそれを見た。
先ずは一勝!心の中でガッツポーズ!

「フェルゼン、話がしたいのだが・・・」と、フェルゼンのジレに手をかけながら、
「おお・・・どうした?オスカル!今宵はとても美しいが・・・」と、オスカルの手を取り、・・・
「う~ん・・・ここでは・・・」思いっ切り駄々っ子の様に、・・・
「ああ、そうだな・・・」手に口づけをしながら、・・・

「何が、そうなのですの?」
突然、フェルゼンの背後から高びーな声が、聞こえた。
ずいっ!と、アントワネットが二人の間に割って入った。
BGMは(青きドナウの岸辺に~生まれた一粒のた~ね~)である。

アントワネットが青いドレスの女を見て、・・・いつも男装のオスカルだと気づいた。
そして、ほとんど装飾品らしい装飾をしていないのに、美しいオスカルに驚いた。
アントワネットが一瞬ひるんだ隙に、オスカルが口を開いた。

「アントワネットさま、今は国王陛下とお子さまと晩餐の時間ではございませんか?」
「ほほほほ・・・今宵はフェルゼンの帰国を祝うために、こちらに来ましたの」
「オスカル、あなたこそ呼ばれてもいないのに・・・どうなさったの?」

「アントワネットさま、わたしがオスカルと話をしますから・・・」

「あら~貴方は駄目よ、フェルゼン。物事をうやむやにしてしまうから・・・」
「ね~え、貴方はアメリカからわたくしの元へ帰って来てくださったのよねぇ!?
その事をここにいる、ドレスを着慣れていらっしゃらない、お嬢さんにお伝えして頂戴な!」

「・・・う・・・あの・・・」

「フェルゼン、おまえはわたしと、わたしたちの子どもの所へ帰って来てくれたのだよな!?」
「ほほほほ・・・貴女の子ども?
誰が父親か分からないじゃないの!」
「フェルゼンが知っています」

「・・・う・・・あの・・・」

「ほ~ら、フェルゼンが困っているわ。
第一、貴女、結婚もしていないじゃないの!
オスカル、貴女ご存じないのですか?
非嫡出子の子どもは相続権が、ないことを・・・」
「で・ですから・・・これから結婚します!なっ!フェルゼン!」

「・・・う・・・あの・・・」

アントワネットが、思いっ切りフェルゼンの足をピンヒールで踏みつけた。

「わ・・・わたしは・・・誰とも結婚・・・し・・・しましぇん~・・・」

オスカルは・・・よろめきそうになった・・・。
それでも、・・・子どもを・・・相続権を・・・守らなければと、・・・

「しかし、アントワネットさま、ルイ15世陛下と父とのお約束ではわたくしが、19歳になるまでに子どもを持てば次の相続権を・・・とのことでしたが・・・」

「あら~それは、先代との事でしょう~今はわたくしの夫、ルイ16世の時代よ。そんなお話は、昔のお話。知らないわ!」
「では、アントワネットさま、あなたはルイ16世という夫のある身で、フェルゼンと浮気をしようとしていらっしゃるのですか?」

「まあ!オスカル!貴女は、普通に女として育たなかったから、ご存じないのね!」
と、扇でオスカルの肩をポンっと、しながらアントワネットは続けた。

「いいこと!女はね結婚して、初めて一人前として認められるのよ!夫の後ろ盾を得て社交界にデビューして、夫の後ろ盾を得て・・・恋をしたり・・・浮気をしたり・・・自由に動き回る事が出来るようになるのよ!こんなに基本的なことも知らないのね!?」

「・・・ぐ!・・・」

「ほほほほ・・・貴女はどうやら、順番を間違えてしまったようね。
結婚もしないで、出産して・・・恋をして・・・」

「しかしながら、・・・間違いなく、二人の子どもはジャルジェ家の跡取りです!」

フェルゼンはすっかり、二人の女の膨らんだスカートの間に挟まって、縮こまってしまっている。

「わたくしは、認めませんわ。わたくしの言葉はそのまま国王陛下のお言葉!
よくお聞きなさい!オスカル!
二人の子どもの跡継ぎは勿論、女である貴女の相続権も認めません。

それから・・・あなたが宮廷をウロウロしていると、わたくしとフェルゼンの恋の邪魔になりますから、ヴェルサイユへの出仕は今後一切禁じます。

そして、近衛連隊長の職を解き、近衛隊からの除隊を命じます。
次の赴任先は追って沙汰します。
自邸にて謹慎を申し付けます!
ほほほほほ・・・・・!」

オスカルは・・・目の前が真っ暗になった・・・。
今まで自分の力で築いてきたものが、ガラガラと、崩れていく音を聞いた。

「退役を命じないだけ、有難く思いなさい!
さあ!フェルゼン、お食事の続きをしましょう。

今夜は、こちらに泊まってもよろしい、との陛下のお許しをいただいています。
これからは、わたくしが貴方の子どもを生んで差し上げるわ。ほほほほ・・・」

オスカルは、・・・手のひらで口を・・・顔を覆い・・・よろよろと後ずさった。

もう、自力では立っていられない、と思ったその瞬間・・・
力強い手が、オスカルを支え、温かく、広いものに包まれた・・・。

オスカルには、誰だかわからなかったが、肩に手を回して支えてくれ、・・・懐かしい匂いがして、・・・ここなら安心。・・・ここなら傷ついた心が落ち着く。・・・と、思うと、今まで張っていた気持ちもすっかりと預ける事が出来た。

どこをどう歩いて来たのか、どうやって帰ってきたのかも分からなかったが、オスカルは、安心できる胸の中に包まれて、・・・気が付いたら自室で侍女達に囲まれていた。ドレスを脱がされ・・・髪を解かれ・・・化粧を落とされ・・・夜着になっていた。

そして、階下ではアンドレが、今夜のオスカルに合う飲み物は・・・と、思案していた。

女はこんな時は、甘くてホッとするものを好むのだろうが・・・女一般と考えてはダメだ。・・・オスカルの場合だ!・・・『ワインだ!』とアンドレは、ワイン倉庫に入っていった。

ずらっと並ぶ、ワインの棚の中から、慎重に見ていく・・・今夜は・・・いつもよりもしっかりとした、飲みごたえのある・・・生きていることを思い出させる。・・・きっとオスカルの今夜の気分に合い、明日への生きる力を生み出すだろう、一本を見つけると、そのワインに見合ったワイングラスを選んだ。

侍女達がオスカルの部屋を去るのを待って、・・・オスカルの部屋へと向かう階段を上った。


BGM Do Ya Think I’m sexy?
By Rod Stewart
もしくは         
God save the QUEEN
なんちゃって・・・
(ブライアンがバッキンガム宮殿の屋上で演奏しています。かっちょイイです!)
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