♪Dragon Attack

その日の朝は、アンドレは、珍しく空色。わたしは、ミントグリーンのコスプレで修行に出かけた。いつものように夜明け前に出かけて、みんなが起きてくる前に帰ってきた。

だから、わたしたちがコスプレして仲良く修行しているのは、道場の誰も知らなかった。

午後からはいつものように、門弟たちに稽古をつけていた。
そろそろ、アンドレが、おやつを持ってくる時間になるな!と思っていたら、皆、示し合わせたかのようにぞろぞろと、外に出て行く・・・・・。

一体、何がどうしたのか?
わたしも付いて行く事にした。

井戸の周りにみんな集まっている。
アンドレとジャン、フランソワが、井戸に垂らした縄を引き揚げる・・・・・。
・・・・・!・・・・・スイカが現れた!

そうか!この暑さ、スイカでも食べて涼を取ろうというのだろう!
しかし、見渡しても、まな板どころか、包丁も見えない。
それに、わざわざ外に出る事もないだろう。
不思議に思って見ていると、スイカがゴザの上に置かれた。

アンドレが、正確に大股で10歩測って線を引いた。
一体、何が始まるのだろう・・・・・?

「おお!一番は誰だ!?」
「最初に割ってしまったら、面白くないぞ!」
「でも・・・・・やはり、レディファーストじゃないか!」

訳の分からない会話が弾んでいる。
アンドレが、
「よ~し!オスカルからだ!」
と、わたしを呼んで、木刀を渡してくれた。

どうしたらいいのか分からないわたしは、アンドレの顔を見た。
直ぐに察してくれたアンドレは、
「オスカル!これから、あのスイカに向かってまっすぐの此処に立つ、
そして、歩いて行ってこの木刀でスイカを割るのだ!」

え゛!何を簡単な事を言っているのだ、アンドレ?
そんなのこの道場の者なら、イヤ、子どもだってできるじゃないか!
わたしは、再びアンドレの顔を見た。
すると、アンドレはニヤリと笑って・・・・・、

「その前に、手拭いで目隠しをする。
そうしたら、おまえをグルグル回して、もう一度、スイカの真正面に立たせるから。
真っ直ぐ歩いて、スイカを割るんだ!

ああ、立つ前に、スイカまでおまえの足で何歩あるか、確かめるのを忘れるなよ!」

なんだ!やっぱり、簡単な事じゃないか~
予め、何歩で行きつくか、測って、
単に目隠しして、
ぐるぐる回って、
歩けばいいだけじゃないか!

わたしは、アンドレに言われた通りに、歩数を数えて、スイカの真正面に立った。
「いいか?オスカル?目隠しするぞ!」
アンドレは、遠慮なく目隠しをギュッとすると、
わたしをグルグル回し始めた。

3-4回、回されただろうか・・・・・。
すると、アンドレが、
「よ~し!ここが、真っ直ぐの位置だ!外すなよ!」
と、言ってわたしから離れた。

え゛!?え゛!?え゛!?え゛!?
ちょっと待て、・・・・・目が回って・・・・・足が出ない・・・・・!
一歩だそうとすると、絶対に曲がっている方へと行ってしまう。

外野から
「オスカルさん!もっと右ですって!」
「左に行きすぎです!」
「もっと、前に出ないと・・・・・」

しっかり誘導してくれる。
しかし、それが的を得ているのか、はなはだ信じがたい。

アンドレの声がした。
「オスカル!自分の信じた方へ行け!」
そうだ!わたしの見立てではこの辺りで振り下ろせば、スイカに当たるはず。

わたしは、歩を止め、木刀を構えた。
相変わらず、外野はギャーギャーうるさい!

「エイ!」
木刀を持つ手がしびれた。
スイカではなく、地面に思いっ切り叩きつけたようだ。

「オスカル!目隠しを取ってみろ!」
アンドレの楽しそうな、声が後ろの方から聞こえた。
目隠しを取ると・・・・・、

ガーン!!!!
全然、明後日の方向に・・・・・しかもスイカのかなり手前、
・・・・・と言う事は、外野の声はかなり正確だったのか・・・・・。

振り向くとアンドレが笑っていた。
「初めてなら、こんなものだな!」
どこまでも、アンドレは優しい。

次はジャンだ!
覚束ない足取りで、スイカまで半分の距離で木刀を振るった。
外野からは、笑い声!

いいなぁ!こういうのって、・・・・・

フランソワの番になった。
アンドレは、フランソワを右に3回転すると、今度は左に3回転して、
立っているだけで、クラクラしているフランソワを送り出した。

右に歩いたかと思うと、左に向かい、
酔っ払っているんではないかと、思ってしまう程だ。
「もう、ダメだ~~~~」
と、フランソワはやけくそで木刀を振り下ろした。

次はアンドレだ!
わたしは、レディファーストで一番にやらせてもらったが、
男たちは、剣の腕が上手いのが先にやってしまって、万が一当たってしまったら、このゲームが終わってしまうので、へたっぴいな三人組から順番が回ってきている。

しかし、このわたしでも、あんなにヨレヨレしたんだ。
命中する奴はいるのだろうか?

アンドレが、歩数を測り、目隠しをされて、グルグル回された。
「よし!行け!」と言われて、一歩を踏み出した。

!!!!!!!!!!
正確に真っ直ぐ、アンドレの歩幅で足が上がった。
と、思ったら、たぶんそれは、わたしだけに分かったのだろうが、
挙げた足をアンドレは、わざと、ぐらつかせ、脇に置いた。

そのままゆっくりと、3歩進んだ・・・・・始めに測った距離の2歩分だった。
しかし、あいつはそのままじゃマズイと感じたのだろう。
歩幅を短くし、方向も蛇行し、

その上、ご丁寧に、外野席へと突っ込んでいった。
呆れた奴だ!
しかし、その演技力は褒めてやろう!
アカデミー賞ものだ!

その後、段々と上位の者に移っていった。
ゴザに到達するもの。
スイカの縁をかすめる者。

遂に、スイカがパッカーンと割れた。
あとは、アンドレが、大きな手で割いてくれる。
「ほら!オスカル、食べろ!うまいぞ!」

アンドレが、くれたスイカは武骨で、
どこから食べていいのか分からない形をしていたが、
いつもの、包丁できちんと切られたのより、美味しかった。

スイカを食べていると、アンドレが、
「オスカル、スイカはまだあるぞ!リベンジするか?」
と、声をかけてきた。
ああ!もちろんだ!今度こそ、バッサリと割って見せよう!
見ていろよ!アンドレ!

BGM ÷ (DIVIDE)
By Ed Sheeran
今回の、BGMは、
ノリで、アルバムタイトルの『÷』を付けてしまったので、
YouTubeは、無しです~
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